※やや猥談

「そういやお前んとこのちんちくりん、妙なヤツらに人気あるよなァ」
 男性教師陣の宅飲みに呼ばれた義勇は、宇髄の言葉に眉を顰めた。何も答えない義勇の代わりに、杏寿郎が「そうなのか?」と首を傾げる。
「冨岡が嫌われているから、あの子も遠巻きにされているように見えたが」
「…………」
「そりゃ表立ってはな。あのちんちくりんが影で何て呼ばれてるか、知ってんのか?」
「む、陰口か?」
「『美脚の女神様』って派手に崇められてんぞ」
「……はァ?」
「女神とは、大層な二つ名だな!」
 宇髄がけらけらと笑いながら口にしたのあだ名に反応を示したのは、それまで黙って酒を煽っていた実弥である。ちびちびと酒を口に含み続ける義勇とギロリと剣呑な目付きで見上げてくる実弥を面白そうに見遣って、宇髄は話を続けた。
「あのちんちくりん、水泳部だろ。美脚様を拝むためだけに見学に行ってる野郎もいるってもっぱらの噂だぜ」
「不埒な生徒もいるものだな!」
 煉獄が相槌を打った横で、義勇が酒の空き缶を握り潰した。バキ、と明らかに尋常ではない握力が発揮された音が響く。
「……の脚が綺麗なのは当たり前だろう」
「おい、冨岡もう酔ったのか」
 据わった目で口を開いた義勇に、宇髄が茶々を入れる。面白いからこのまま続けさせようと、その手にある酒を取り上げることはしなかった。
「何のために俺があれを隠してきたと……の脚の美しさを表すのに、美脚なんて言葉では足りない」
「確かに、の脚は良い! 健康的なハリツヤがある」
「わかったようなこと言ってんじゃねェぞ煉獄……」
 宇髄の隣からも、ゴキャッと物騒な音が鳴る。スチール缶を片手で握り潰した実弥は、血走った目で杏寿郎と義勇を睨んだ。
「このムッツリが過剰に隠しすぎてるせいで、カルトじみた馬鹿どもの集団ができてんだよォ」
「そういやあったな、ファンクラブ」
「なんと」
「ガチの教祖も絡んでるらしいぞ」
「よもや……」
 些か引いた様子でビールの缶を握った杏寿郎をよそに、実弥の口からはぶつぶつと呪詛のように義勇への不満が溢れていく。
「……普段はタイツの上に芋くせェ短パン……それもこいつのお下がり……体育では年中通して長ズボン、私服は九割がこいつのジャージ……」
 まだ中身の入っている缶を、宇髄がそっと実弥から遠ざけた。煉獄も、散らばりやすそうなつまみを実弥の周りから離していく。
「年に一回の水泳大会でしか、あいつの脚を合法的に映した写真は出回らねェんだぞ!! どれだけレート上がってっと思ってんだァ!?」
「買ってんのかよ」
「よもや」
 一応不埒な見学者によって盗撮写真も出回っているが、と宇髄が指摘すると「盗撮なんざクソに決まってんだろォ」と実弥が唸る。それにうんうんと頷いている義勇を見て、「何なんだこいつら」と宇髄はぼやいた。一度自作の服のモデルを頼んだことがあるから合法的かつ健全なの生足写真を持っていることなど、到底言い出す気にもならなかった。
「何だと」
「おい、その写真寄越せ」
「人の思考読むんじゃねぇよ」
 途端に詰め寄ってきた義勇と実弥にドン引きしながらも、宇髄はさっさとスマホを取り出しての写真をふたりに送る。杏寿郎が宇髄の画面を見て「愛らしいな!」と裏表のない笑みを浮かべたのに対し、義勇と実弥は自分のスマホの画面をじっと注視したまま動かなくなる。わりと気持ち悪いな、と正直な感想を宇髄は抱いた。
「お前ら脚派だったか?」
「脚派じゃない。の脚派だ」
「胸派だろうが尻派だろうがあいつの脚見たら脚派になるんだよォ」
「うむ、二人ともしたたかに酔っているな!」
 そこまでか、と思うものの確かにの脚は宇髄をして唸らせるものがある。その脚線美が芸術的だと思ったから、モデルを頼んだ経緯もあるのだし。それはともかくこの二人、酔いが覚めた後に自分の言動を思い返したらどうなるのだろうか。翌日の二人の反応を楽しみに、宇髄はまた酒のプルタブを引いたのだった。
 
200131
BACK