「昔、が髪と目の色を変えようとしたことがあるんですよね」
「そうなんですか?」
「俺と同じ色にしようとして失敗して、なぜかオーエンと同じ色になっていました。すぐに戻させましたけど」
 さもありなん、と賢者はその時のの姿を想像する。紺の髪と赤の目自体、が母親から贈られた呪いだ。その容姿は長らくに罪の意識を抱かせていたし、魔法使いが顔や性別を変えることは珍しくない。元々狂気じみた魔法で上書きされてしまった部分だからうまく変えられなかったのだろうかと、賢者なりに失敗の原因を分析する。そこで元の色ではなくミスラと同じ色にしようとするあたり、幼気で健気なの慕情が垣間見えて微笑ましかった。
「オーエンと同じ色は嫌だったんですか?」
までオーエンみたいになったら、面倒くさいじゃないですか。オーエンのような人はオーエンだけで足りてますよ」
「まあそれは、確かに……」

 そんな会話をミスラが思い返したのは、が珍しくどこか拗ねた様子だからである。さっき、賢者に尋ねられてミスラの紋章の現れた場所を教えたところだった。賢者に見せようとして断られたため、外しかけたベルトを戻して。部屋に戻ってきたあと、隣で黙って会話を聞いていたがどこか不満げな様子でいるのに気付いた。不機嫌の理由を尋ねようとして、一見関係なさそうに思える会話をなぜか思い出したのだ。「ああ、」と突然納得したように声を上げたミスラに、は驚いた様子で後ずさる。ひとまず逃げないようにその腕を掴んで、ミスラはひょいっとを抱き上げた。
「紋章のことで、拗ねてるんですか」
「!」
「あなた、俺と『同じ』じゃないと落ち込むじゃないですか」
 どうしてわかったのだろうと言いたげな表情に、むしろわからないはずがないだろうと思う。は未だに、ミスラがに無関心だった頃の感覚が抜けきらないようで。は言葉を発さない分表情や雰囲気がわかりやすいし、魔の二歳児だったときからずっとを見ていたのはミスラだ。がミスラと『同じ』であることを好むことも、同じではないところを見つけると落ち込むことも、ミスラは知っている。血の繋がっていないミスラと「家族」としての共通点を欲しがっていた頃の名残なのだろうが、原因だの経緯だのはミスラにとってどうでもいい部分だった。は賢者の魔法使いではないから、ミスラとは『違う』。ミスラが有している紋章を、は持たない。相変わらずの落ち込むことはミスラには理解できなかったが、『同じ』がいいなら望むようにしてやろうと思う。抱きかかえたをぽすりとベッドに下ろして奪うようにスカートを脱がせると、珍しく声を上げてが狼狽えた。
「み、ミスラ……!?」
「『同じ』にしてやりますから、大人しくしていてください」
 そう告げると、戸惑いながらも途端に大人しくなる。がミスラに従順なのはこの十数年当たり前のことだったが、ミスラがそれに疑問を持ったことはない。今は一応恋仲じみた関係に落ち着いているのだから、尚更のことだった。
「っ、」
「……左脚の、付け根の上……この辺りだったかな」
 白い脚を掴んで覆い被さり、下腹部に顔を近付ける。鼠蹊部に指が触れると、はビクッと体を跳ねさせた。日に焼けたことのない肌は、青ざめて見えるほど白い。この肌が見た目に反して温かくて、そしてミスラの与える熱で赤く色付くことも今は知っていた。肌を晒している緊張のせいか、しっとりと汗ばんでいく脚。動けないように押さえつけて、ミスラは自分の紋章が浮かんでいるのと同じ場所に噛み付いた。
「いッ……、」
「痛かったですか?」
 堪えきれなかったように漏れた呻き声に、強く噛みすぎただろうかとミスラは自分のつけた噛み痕を見下ろす。それほど強く噛んだつもりはなかったが、白い肌にはくっきりと歯型がついて赤く鬱血している。どうやらの肌は、自分が思っているよりずっと柔いようだ。噛むより吸う方が良かっただろうかと、再び口をつけて今度は唇で食むようにして吸い上げる。ビクッと大きくの体が震えたが、痛がってはいないようだったので繰り返し口づけた。赤い痕が幾つも咲いて、そのたびにが息を呑んで体を強ばらせる。れろ、と舌を這わせると、僅かに血の味がした。どうやら噛み痕から少し血が滲んでしまっているらしい。獣が傷を舐めて治すように、ミスラは自分のつけた噛み痕に舌を這わせる。大きく口を開けて、べろりと傷全体を舐め上げて。舌先で丁寧に痕をなぞっていくと、ぴちゃぴちゃと唾液が水音を立てる。脚の付け根を舐めて、吸って、やわやわと甘噛みして。の腰が反射的に逃げようと動くから、腕を回してがっしりと抱え込む。骨の浮くそこにうまく痕をつけるのは難しくて、満足が行くまで何度もぢゅっと音を立てて吸い上げては労わるように舌でなぞった。柔らかな肌が、赤く色付いていく。ちゃんと痕がついているのかよくわからないな、と確認するために顔を上げると、見下ろしたの姿にどくりと心臓が跳ねた。
「なんて顔してるんですか、」
「だ、って、ミスラ……」
 ぽろぽろと生理的な涙を零して、耳まで真っ赤になって。精巧な氷細工のような瞳が、ゆらゆらと溶けそうに揺れている。の表情は情事の最中にミスラを呼ぶときの顔そのもので、それを必死に隠そうと腕で顔を覆っていた。ただ、の欲しがるものを与えてやろうと思っただけだったが。肌を食むという行為は確かに、情事と結び付く生々しさがある。今更そんなことに気付いたミスラを、泣きそうな顔では見上げていた。
「なんで、噛んだり……」
「……別に、月に選ばれたいわけじゃないでしょう」
 はミスラに所有されていたいだけだ。同じ紋章を魔法で描いてやってもよかったが、の肌にその模様が浮かぶのは何となく気に食わない。ミスラのものだと示す証があれば満足するだろうと思って手っ取り早く噛んだが、この子どもには刺激が強かったようで。おそるおそる噛み痕を指で撫ぜたが、頭を上げて自らの下腹部を見下ろす。ミスラの紋章と同じ場所でくっきりと存在を主張する痕を見て、ぱちりと目を瞬いて。泣きそうだったその顔が、ふにゃりと柔らかく緩んだ。
「…………」
 アルシム、と呟けたのはなけなしの理性だ。を抱えて、北の住処に戻って。しばらく戻っていなかったせいで部屋の空気が少し澱んでいたが、そんなことはどうでもよかった。突然見慣れた部屋に戻って来てぱちぱちと瞬きをしているを、冷たいシーツの上に押し倒す。無言でもくもくとの服を脱がせていくミスラに、混乱するが手を伸ばすけれど。その手を掴んで、ぱくりと指先を口内に咥える。ぢゅ、と吸い付いて舐めしゃぶりながら、脱がせるのも面倒になって片手でブラウスを剥ぎ取った。
「ミ、ミスラ、」
「……ムラッとしました」
「え、あ、えっと、はい……」
「魔法舎でするとうるさいのがいるので、戻ってきました」
「は、はい」
「とりあえず抱かれてください」
 ミスラの言葉にが「はい」と頷く前に、開いた唇に自らの唇を重ねる。くぐもった息を呑み込んで、小さな舌を絡めとった。ミスラの大きな手がの顎を掴むと、ほとんど身動きなどできなくなる。がっちりと顎を掴まれたまま、のそれより大きい舌が口内をにゅるりと犯した。ミスラの赤い髪が、さらりとの顔をくすぐる。顔を掴む手の親指での口をこじ開けて、小さな口をいっぱいに開かせた。
、舌を出して」
「ふぁ、……んッ、」
 親指と人差し指で摘んで引きずり出した舌を、べろりと舐める。くちゅくちゅと指先で舌を嬲っては、あやすように舌を絡ませて。放した舌が口の中に逃げ込むと、追うように深く口付けてじゅるじゅると吸い上げた。
「ん、ぅ」
 の手が、きゅっとミスラのシャツを掴む。縋るようなその手が、どれだけ皺を作ろうと構わなかった。息も絶え絶えになりながら、それでもミスラに応えようと舌を伸ばす。健気で可愛い、と評するべきなのだろうが、もっと欲しいと縋る。北の魔法使いの例に漏れず、ミスラもも誰かと奪い合うけだものだ。に奪わせるものなど何一つ無いが、それでも与えてやってもいいものはある。
「……いいですよ、あげます」
「……?」
「俺と『同じ』を、あげますよ」
 下腹部を、押さえつけて。大きな手のひらが、ガッと腰を掴んで噛み痕を覆う。痕を付けられた肌が焼けるように熱くなる感覚があって、はぎゅっと目を閉じた。熱くなったのは一瞬だったが、ミスラの手がそこから離れたあともまだ熱を持っているように感じて。
「一生とは言いませんが……まあ、当分は消えないようにしました」
「あ……」
「機嫌は直りましたか」
「は、はい……ありがとう、ございます……ミスラ」
 突然噛まれたりなし崩しに押し倒されたりで、正直小さな不機嫌などとっくに飛んで行ってしまっていたが。のために『同じ』を与えてくれたミスラに、顔が熱くなる。もじもじと照れて縮こまるを組み敷いて、ミスラは柔い肩に噛み付いた。この子どもは、情事の空気を読むということができない。無邪気に無垢に、この状況で呑気にミスラに与えられたものに幼い笑顔を見せて。今自分が欲に晒されているというのに、ぽやぽやと笑っている。噛み付けば心底驚いたように少し怯えるのだから、そういう空気だったのに何を驚いているのかと可笑しくなった。
「奪うのをやめたつもりは、ありませんけど」
「えっ、あ……」
 骨ばってゴツゴツとした部分の多いミスラの体とは違って、の体はあちこちが柔らかい。ふわふわとして柔らかい乳房に顔を埋め、はぐはぐと肌を甘噛みする。に噛み痕をつけるのは、悪くない気分になる。自分はミスラの所有物だと、全身で訴えるようなの弱さは好きだ。北では唾棄される弱さだが、この弱さだけは悪くない。特別なものがお前だけのものだと言われて、気分を良くする子どもにも似ていた。適当に上着とベストを脱ぎ捨てて、に覆い被さる。首に噛み付き、鎖骨や胸にも顔を寄せ噛み痕を残していった。花が散るように、白い肌に所有印が広がっていく。愛だの恋だのといった感情は未だによくわからないし、そういうものをに抱いているとは思っていない。ただ、執着をしている自覚だけはあった。「これ」は、ミスラのものだと。それは不変で永劫のことだという意識は、確かにあった。
「……ッ、ふ」
 つつ、と舌先が臍から下腹部をなぞっていく。肌を舐められるくすぐったさと、捕食されている緊張。小さく声を堪えて口を抑えるにはお構いなしに、更に下へと顔を近付けて。膝裏を押し上げるようにして脚をぐいっと開かせると、小さな体は大袈裟なほど震えた。の反応のひとつひとつに、むらっと下半身に熱の集まる感覚を覚える。北の魔法使いのくせにどうしてこうも嗜虐心を煽ることばかり上手いのかと思うが、それが好みであることには違いなかった。
「あ、もう濡れてますね」
 くち、と下着をなぞると水音がする。見えはしないが、きっとミスラの言葉に顔を真っ赤にして手で覆っているのだろう。感じやすいのは別に悪くない。慣らす手間がかからない分、面倒がなくていいと思うのだが。はしたないと言われているようで、羞恥を感じるらしい。恥ずかしいと思うくせにミスラの言葉で更に濡らしているのだから、いやらしいことに変わりはないと思うのだが。こういうのはフィガロが好きそうだな、と思うと急に面白くなくなって眉間に皺が寄る。不意に覚えた苛立ちに、下着を脱がせる手付きが少し乱暴になった。どこもかしこも小さい体はミスラを受け入れる場所も小さいから、泣かないようにいつもそれなりに丁寧に慣らしてやるのだが。慣らすためというよりはただ欲をぶつけるように、ソコに指をねじ込んだ。まだ十分にほぐれていないソコは、ぎゅうっと許しを乞うようにミスラの指を締め付ける。骨ばった長い指は一本だけでもにとっては大きいようで、ぐっと堪えるように体が強ばった。本当に、は弱い。そういう弱さを見せられると、少しは優しくしてやらなければならない気になる。なぜ苛立ったのかもわからないまま、不機嫌をどうにか収めて。指を咥えている入り口に、舌を這わせてやる。ぬるりと生暖かいものが膣口をなぞっていく感覚に、の脚がびくびくと震える。膝裏を掴んだ手からそれが伝わって、少しだけ愉快な気持ちになった。
「みすら、っ……あ、」
 縋るような、乞うているような。泣きの入った声は、獲物をいたぶるようなミスラの指や舌に怯えている。本当に、弱くて愚かな子どもだ。簡単にねじ伏せて好きなように欲をぶつけてやることだってできるのに、一応優しくしてやっていることを未だに理解していないらしい。いっそ思うように組み敷いてやろうかと思うものの、どうにもそういう気にはならなかった。虐めてやろうという気はあるが、痛めつけたり酷くしてやろうとは思わない。それを大切だというのなら、はミスラにとって大切なものなのかもしれなかった。にはまだ苦しいらしい指を引き抜いて、舌を潜り込ませる。ちゅぐちゅぐと厭らしい音を立てながら浅いところを嬲り、舌に唾液を絡ませて奥まで突き立てて。ぴちゃぴちゃ、ずるずると愛液と唾液が混ざり合って啜り上げられるはしたない音が響く。ナカの収縮するさまが舌に直に伝わって、ふっと息を吹き込むと電流が走ったかのように膣内が痙攣した。イったのか、と思いながら割れ目の上に指を伸ばす。そこでヒクヒクと震えているであろう小さな肉粒に指を押し付けると、高い声がの喉から漏れた。
「ひっ、ア、……ッ、まだっ……!」
「何が『まだ』なんですか」
「ぁ、まだ、イって……」
「へぇ」
 ぴちゃぴちゃと膣内を荒らしながらくぐもった声で問うと、身悶えしながらがミスラの指から逃げるように腰を引かせる。過剰な快楽を怖がるの体は達したばかりでろくに力も入っていないから、脚を掴んでいる手に力を込めればなけなしの抵抗も呆気なく止んだ。何を逃げようとしているのだと、仕置きの意味も兼ねてぐっと強く陰核を押し潰す。指で挟んでくにくにと捏ね回したり、こすこすと中指の腹で撫で付けたり。好き放題そこを弄り回している間、は虐められている小鳥のようにひんひんと意味をなさない泣き声を上げ続ける。呪いを吐く魔女といえど、壊れたように喘ぎ続けていれば言霊もへったくれもあるまい。いつものように声を抑えることすら考えられないらしいの様子に、悪い気はしなかった。ミスラはの声が嫌いではない。多少隣でうるさくされてもいいと思うくらいには、その柔らかな声音を気に入っている。がうっかり吐いた呪いなど効くわけもないのに遠慮をするのが理解できないし、ミスラが構わないと言っているものを勝手に我慢するは気に食わない。そんなだから、思う存分鳴かせてやろうと虐められても文句は言えないだろう。勝手に黙り込むが悪い。ミスラへの気遣いは、ミスラの強さへの侮辱だ。
「ミスラ、ッん、……っ、ミス、ラ……」
 溶けるように緩んで柔くなった肉襞の感触を味わうように舌でなぞり、つうっと糸を引きながら口を離す。顔を上げれば、すっかり熱に浮かされた顔のと目が合う。大人しくミスラの名前だけを呼んで縋るは、どうにも可愛らしく思えた。
「……まあ、いいか」
「……?」
 ひとり勝手に納得した様子のミスラに、ぼんやりとした顔でが首を傾げる。それに構うことなくカチャカチャとベルトを外したミスラは、ふと思いついての手を取った。
「触っておきますか、『これ』」
「あ……」
 躊躇ったのは一瞬で、はすぐにこくこくと頷いた。ミスラが指したのは、自身の左脚の付け根に刻まれた紋章だ。花のような形を象る黒い線に、の手を触れさせてやる。おずおずと遠慮がちに、細い指がその線をなぞっていく。少しだけ擽ったかったが、振り払おうとは思わなかった。どうせ脱ぐのだからと今回の発端になったそれに触れさせる気になったのは、ただの思いつきだ。それでもは満足そうだから、強欲なくせに手軽な子どもだと思う。手持ち無沙汰なミスラは、代わりにに刻んだ噛み痕に触れた。同じと言うには込められた意味が違いすぎていたが、ミスラの指がそこをなぞっていく感覚にはくすぐったそうに無邪気に笑う。だからどうしてこの空気の中でそうもあどけない表情ができるのだと、そう思ってしまえばムラっと欲が湧いた。
「わっ……」
「もうちょっと、色気のある声を出したらどうなんですか」
 ミスラの紋章をなぞっていた指を掴んで、ぐっと下腹部に腰を押し付ける。ただ驚いているだけのに、少しだけ呆れた。たまに妙に色めいた顔を見せるくせに、どうしても女というより子どもじみている。ぐりぐりとソコにあてがった熱を押し付けると、ようやく今どういうところなのか理解したようで。どうもこうもただミスラに似て育っただけなのだが、自分はマイペースに振舞っても他人のマイペースは許さないのがミスラである。それでも結局、あてがわれた熱に赤くなって目を潤ませるの反応で満足しているのだが。
「んっ、う、」
「……は、狭いな……」
 ぐにゅぐにゅと、蠢くように縋り付いてくる肉襞を押し開いて腰を進める。体格差のせいで簡単に抜けてしまいそうになるから、体を密着させての腰にぐっと腕を回す。尻を掴んで押し付けるように力を入れても、あれだけ怖がりなは怯えていなくて。どうせ肌がくっついていることが嬉しくて、少し強引な抱かれ方をしていることに頭が回っていないのだろう。案外馬鹿で、どうでもいいようなことで喜んで、そのくせ変なところで拗ねたり我慢する。けれど「馬鹿だな」と呟いた声は、まるで睦言のように粘ついた甘ったるさを含んでいた。未だに赤子のようにどこかほの甘い匂いのするの肌は、柔くて弱い。ミスラが掴む手に少し力を入れれば、可哀想なほど簡単に赤くなってしまう。理解し難いと、女という存在について思っていた。それは子どもというものについても同じだ。女である上に子どもであるなど、ミスラにとっていちばん意味のわからないものであるはずなのに。こうして肌を重ねて、その柔らかさを貪って。その温度を、多少なりとも失い難く思っている。
「ふぁ、あ、ああ、」
「……っ、」
 奥まで先端を擦り付けると、猫の仔のような声を上げては喉を反らした。ぎゅうぎゅうと縋るようにナカを締め付けられて、ミスラも喉奥で呻き声を漏らす。ミスラの好きなように拓いた体は、すっかりミスラの好みに合わせた容になっていた。子宮口をぎゅむぎゅむと押し潰されることに、膣内を強く収縮させて歓ぶほど感じている。浅いところを優しく擦ってやるようなことは、数えるほどしかしてやった覚えがない。ただ本能的に奥を突き上げるミスラの行為に合わせて、この躰は作り変わっていったらしかった。そういうところがいじらしく、淫らで。トントンと奥を叩くと、気持ちよさそうに甘い声を上げる。怖がって逃げようとしていたくせに、理性が薄れると甘えて縋り付いて。もっと欲しいとでも言いたげに、濡れた粘膜が絡み付いてくる。腕の中にを閉じ込めるように抱きすくめると、柔らかな乳房がミスラの硬い胸板で潰れた。ドクドクと、日頃雪の妖精に喩えられているとは思えないほど生々しく激しい鼓動の音が伝わってくる。ミスラはを妖精だなどと思ったことはない。作りのいい顔をして、柔らかくて、よく泣いてよく笑う、なぜか自分に懐いている子ども。そして、愛も知らないくせに献身と強欲という相反した本質を持つ女。ちっぽけな命をミスラに預けた、幼く脆い魔女だった。
「ミスラ、あっ、ふぁ……あつい、」
「……あなたの方が、熱いんです、けど……」
 どろどろに濡れたそこで溶けるように繋がっていると、どちらの熱かなどわからなくなる。ミスラもも、互いに好きだとか愛してるだとかは言ったことがない。そんなことを口にするのは、この先一生ないだろう。いつかという石を食らう日が来ても、その後も、世界が終わっても。ただミスラはの温度を貪り、時々気まぐれに与えて生きていく。不確かな形を、愛に定義する必要を感じなかった。
「……子ども、できるんですかね」
 どろりと、熱が溢れる。濡れたソコを更にぐちょぐちょとかき混ぜながら、ミスラはの耳を食んで囁いた。
「くれるって、いいました……」
「まあ、そうですけど」
 が欲しいというから、始まった関係だ。別に構わないと思ったから、続いている。それを終わらせるのは、ここに命が宿ったときなのだろうか。ミスラが始めて、ミスラが続けている関係を終わらせるのがになるであろうことは何となく承服し難い。不安げにミスラを見上げたには、言わないことだが。「できるといいですね」とまるで他人事のように呟いて、ミスラはの腹を撫でる。そこに仕掛けた「おまじない」の理由も、脚に与えたしるしと同じ。つまるところ、ただの気まぐれだ。いつかその呪いの存在を教えてやったら、は泣くのだろうか。ミスラを憎むだろうか。そんなもの、弱いが悪い。無知で愚かな魔女の腕を引いて、ミスラは再びその熱を貪り始めたのだった。
 
200704
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