どぼん、と突然水中に落とされた。
ついさっきまでミチルたちと遊んでいたはずのは軽いパニックを起こしながらも、本能的に水面に顔を出そうとする。思ったよりもそこは浅く、空気を肺に取り込むと同時に足も底についた。いやに薬草くさいぬるいお湯と、ぺたりと肌に張り付く服以外の感触。ぱちぱちと目を瞬いて状況を把握しようとしたに、のっそりと影がかかる。
「ミスラ……?」
「もっとちゃんと浸かってくれませんか」
「わぷ……ッ!?」
ぐいっと頭を押さえられ、尻餅をつく。自分がいるのが浴槽だと気付いたが、もしかして殺されているのだろうか。それならば抵抗する理由もないが、わざわざ水死させる手間をかけるとも思えなくて。目を白黒とさせるのほぼ全身が浴槽に浸かったのを確認すると、ミスラは手元の袋をの頭上でひっくり返した。
「……!?」
くさい。とても薬草くさい。ばさばさと落ちてきたのは、大量のハーブだった。ひとつひとつはいい香りなのだろうが、いかんせん量と種類が多すぎる。ミスラの行動が理解できないのはいつものことではあるが、これは本気でどういうことかわからない。ぽかんとした顔で思考停止しているの頭に、容赦なく浴びせられるハーブの山。虐待のような光景を見つけて悲鳴を上げたのは、双子を連れてを探しに来たリケだった。
「!?」
「これ、ミスラや!」
「何をしておるのじゃ!」
「何って……」
ずぶ濡れで薬草まみれのを、慌てて浴槽に駆け寄ったリケが助け起こそうとする。けれど、ミスラが魔法を使ったのか、見えない壁に阻まれて。
「弱者を虐げるだけではなく、助ける邪魔までするなんて……!?」
「『でぃーぶい』じゃぞ、ミスラ!」
「『有責カウンターフルスロットル』じゃぞ!」
「はあ、でぃーぶい」
小さい三人にわらわらと詰め寄られ、ミスラは面倒そうに眉を寄せる。わけもわからずぽかんとしていたが身を起こそうとすると、「学習能力がないんですか?」と再びミスラに頭を押さえられた。
「匂いがつくまで、そこから出ないでください」
「におい……?」
曰く、ルチルたちにもらったハーブ入りの抱き枕を見ていて思い付いたのだとか。安眠効果のあるハーブと、一等お気に入りの抱きまくらである。からハーブの匂いがすれば、相乗効果で効き目が増すのではないかと考えたらしかった。
「を裂いて、中にハーブを詰めるわけにもいかないですし」
「それで薬草風呂に突き落とすというのも、どうかと思うがのう……」
「だいたい、どうしてお風呂なのですか」
「なんかこう……煮込む感じですかね。匂いが染み込むかなって」
「香り袋でも持たせればよかろう?」
「それは考えつかなかったです。じゃあ、そうします」
ざばりと浴槽に躊躇いなく脚を突っ込んだミスラは、呆然としているをひょいっと抱き上げる。濡れ鼠のを躊躇うことなく抱えたミスラは、そのままぼたぼたと雫を落としながら浴室を出ていこうとして。
「せめて乾かしてやったらどうなんじゃ!?」
「風邪をひいてしまうじゃろう!」
双子に叱られて、面倒そうに魔法で乾かしてやっていたのだった。
200809