「……彼岸花か」
 姉が持ち帰ってきた花器を見て、エンカクは意外そうに呟いた。相変わらず弟に怯えているがおどおどと話すには、マトイマルの主催する生け花教室での作品らしい。姉が好む花は淡い色彩の柔らかい雰囲気のものが多かったから、どこか不吉な空気さえ纏う紅い花を選んだのは意外だったが。
「その……再会っていう花言葉もあるから、お祝いだって……マトイマルさんが」
 弟と再会したへの祝いだと、あの鬼はにこやかに純粋な善意でに彼岸花を渡したらしい。裏表のなさすぎるマトイマルも大概だが、それを馬鹿正直にエンカクに話すも似たり寄ったりだ。エンカクを恐れているがなぜ似たような戦闘狂である彼女と親しいのか不思議だったが、駆け引きの得意でないという共通点があるから思惑を疑わず安心して付き合っていられる相手なのだろう。少なくともマトイマルは、嫌だと泣くを戦地のど真ん中に引き摺って返り血を浴びせることはない。
「は、」
 再会の祝いとやらを改めて見下ろして、乾いた笑いが漏れる。姉にとっては、祝いどころか呪いだろうに。今更失言に気付いたように青くなっただが、どうせ「エンカクが」嫌な思いをしているのではないかと妙な勘違いをしているはずだ。エンカクにしてみれば「が」喜ぶ気もないのに祝いだのを曖昧な笑顔で受け取ってきたであろうことが可笑しいだけだ。姉との関係を他人がどう思おうが、エンカクには関係ない。
「……彼岸花、嫌いだった……?」
 考えた末の言葉がこれなのだから、本当に笑ってしまう。馬鹿げた質問には答えず、活けられた彼岸花の首に爪を立て、ポキリと折って姉の髪に挿した。
「似合うじゃないか」
 もっとも、一等美しい花は目の前の女の首だが。困惑し、折られてしまった花を見下ろして悲しそうに目を伏せる姉の紺の髪には紅い花がよく映えた。姉を殺すときは、きっと刀で綺麗に首を落としてやるのがいい。埋もれるほどの彼岸花を添えて、綺麗に活けてやろう。どこか機嫌の良さそうな様子を見せる弟に、その内心も知らずは安堵した顔をする。か細い蜘蛛の糸の上を歩んでいることも知らず、彼岸花が好きなのだろうかと呑気な勘違いをしていたのだった。
 
201213
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