ハロウィンのときも思ったけれど、とは隣にいる弟を見上げて思う。ああ見えてエンカクは、案外こういった季節のイベントへの付き合いが良いのだろうか。ハロウィンにに飴をくれたときのエンカクは着替えに行く途中だったらしく、その後上半身裸に包帯を巻いてシーツを被ったお化けの仮装で現れた弟には現実を受け入れる能力が処理落ちして固まってしまったものだ。おまけに、子どもたちにお菓子を全て配ってしまったはエンカクに差し出せるお菓子がなくて。皆からもらった菓子を分けようとしても「そういうことじゃない」と弟は納得せず。結果としてはシーツの中に引っ張りこまれ、かなり際どい場所に噛み跡を残されたものだった。恥ずかしい記憶が呼び起こされて赤くなる頬を押さえつつ、は子どもたちに配るプレゼントの残りの量を確認する。エンカクは子どもたちに笑顔を振りまいたりはしないものの、一応を手伝ってプレゼントを配ってはくれている。サンタの衣装を二人に渡そうとしたドクターに冷ややかな笑みを浴びせたことを除けば、弟はいたってクリスマスのイベントに協力的だった。
「……あの、エンカク」
 子どもたちの波がひと段落ついたのを見計らって、はとある包みを取り出す。どうしたと問うように視線を向けてきた弟に、その包みを押し付けるようにして渡した。
「選び直さなくていいと言っただろうに」
「違うの、こっちは……その、クリスマスだから」
 二つ目の贈り物だということを察して首を傾げたエンカクから、視線を逸らしてぽそりと告げる。昨日誕生日だったエクシアが「この時期の生まれは誕生日とクリスマスのプレゼントを一緒くたにされる思い出があるんだよ」と笑っていたのを聞いて、二つ贈ってもいいのではないかと思ったけれど。耳を赤く染めた気恥しそうな姉の様子に、エンカクは何を今更と訝しんだ。
「……マフラーか?」
「えっと、趣味に合わなかったら……捨ててくれても」
 姉が成人した弟に自分の趣味で選んだ服飾品を送るのはハードルが高い、とこの姉は零していたらしい。それでこうして気まずげにしているのかと、エンカクはひとり納得した。白い、柔らかな生地のマフラー。シンプルなそれは、きっと思考も嗜好も理解できない弟に贈ることを考えて散々迷った結果なのだろう。敷居が高いと言いながらも結局選んでいたのかと思うも、刀の手入れ道具はきっとこれを渡すか葛藤した結果の第二候補だったのだろう。黙ってにマフラーを差し出すと、何を勘違いしたのかはおずおずとエンカクを見上げて。
「あ……要らない?」
「巻いてくれるんだろう? 『姉さん』」
「……揶揄うときばかりそう呼ぶの、やめてほしいかな……」
「何のことだかわからんな」
 最近はさすがにエンカクが揶揄の意図で「姉さん」と呼んでいることをわかってきたらしく、少し不満げな様子を見せながらもマフラーを受け取って腕を伸ばす。やりやすいように少し屈むと、どこか安堵したような表情が怯えの中に見て取れた。エンカクがから贈られるものを拒むはずもないだろうに、どうしてこうも姉は卑屈で臆病なのか。首元を包み込んだ温もりとは対照的に、肌を掠めた手はひんやりとしていた。炎のアーツを宿しているくせに、姉は冷え性だ。エンカクの傍にいるときはだいたい緊張しているのもあるだろうが、どちらにせよその手はずいぶんと冷えている。手袋でも用意してやった方が良かったかと、エンカクは身長差に少し手間取っているのポケットに小箱を滑らせた。それに気付くことなくマフラーを巻き終えたが身を離すのを、黙って見下ろす。視線に含むものがあることを見て取ったのか若干怯えて様子を窺ってくるが、ポケットの贈り物に気付いたときどんな反応をするのか楽しみでならなかった。
「いい夜じゃないか」
「……うん、おめでとう。エンカク」
 改めての祝いを口にして、が淡い微笑みを見せる。エンカクのことを恐れてはいても嫌いにはなれない愚かな卑怯者の笑みは、ぎこちないものではあってもやはり綺麗だった。
 
201225
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