「なあ、お前の姉ちゃんすげえ美人だな!」
「…………」
何をしに来たのか、ドクターの執務室にやって来て彼との会話を楽しんでいたキアーベ。秘書業務の当番で執務室を訪れたエンカクを見るなり、ぱっと顔を上げて言い放った。に関わる話題は何が琴線に触れるかわからないため大抵のオペレーターが避けているところだが、さすがはキアーベと言うべきなのか。アオスタが見ていたらまた「寿命を縮める」とため息を吐くのだろうと、ドクターは無言でそっぽを向いたエンカクに視線を移して思った。エンカクはキアーベを完全に無視した形になったが、ある意味もっとも穏便な対応である。だが、そこで無視された事実を気にも留めないのがキアーベで。
「それにすげえ良い人でさ、『端末を改造してくれたお礼に』って購買部の商品券くれたんだぜ! アオスタは『正気ですか』とか失礼なこと言ってたけど、笑って許してくれたしよ」
「……えっ、キアーベ、の端末改造したの?」
魔改造と名高い彼の改造を受けてお礼までするなど、確かにそれは思わず正気を疑ってしまうかもしれない。思わず口を挟んでしまったドクターに、キアーベは何が悪いのかわかっていなさそうな憎めない笑顔を浮かべる。そして何か心当たりがあるのか、それまでキアーベを無視していたエンカクがゆっくりと振り返った。
「……あの馬鹿げた仕掛けを作ったのはお前か」
「馬鹿げたって何だよ? は喜んでたぜ?」
「キアーベ、何したの……?」
「五層のパズルになってるセキュリティシステムを外装として取り付けたんだよ。間違えると爆発するぜ」
「なんで爆発させちゃうの!?」
「その方が緊張感があっていいだろ?」
頭を抱えたドクターと、腕を組んで冷ややかにキアーベを睨みつけているエンカク。なるほどそれは確かに、馬鹿げている。アオスタの言葉は的確だったわけで、むしろはなぜそんなものに笑って礼を言ったのだろうか。もしや日頃の気苦労でおかしくなってしまったのかと、ドクターもなかなかに失礼なことを考えた。
「おかげであいつの端末が爆発した」
「え? 、渡したときはちゃんと爆発させずに開けてたけどな」
「俺が開けた」
「……なんでお前が開けてんだ?」
妙な方向に転がった話と、当然のキアーベの疑問。要はエンカクがいつものようにの端末を勝手に触ろうとして開け損ね、キアーベの施した仕掛けにより端末諸共爆発したということである。キアーベ様様かもしれないと、ドクターは手のひらを綺麗に返した。
「爆発したんなら、二代目作ってやらないとなー」
止めるべきか、止めないべきか。それより先に止めるべきはこの場での乱闘であると、不穏な気配を発するエンカクを確保したドクターだった。
210115