「顔……でしょうか……?」
「あ、そうなんだ」
とても既視感のある返答に、ドクターは温い笑顔を浮かべて頷いた。はそもそも弟のことを怖がっているから、少しだけ問いは変わって「エンカクの好きなところってある?」と聞いてみたのだけれど。うんうんと難しい顔をして唸っていたが捻り出した答えは、奇しくも弟と同じものだった。
「やっぱり、から見てもかっこいい?」
「はい……みんなが言うほど、私と似てるとは思ってなくて」
鏡合わせのように造りは共通しているけれど、鏡の向こうだからこそ何もかもが遠い反対側で。強い意志を宿した瞳も、鋭く硬質な雰囲気を纏う面差しも、とはまるで似ていない。炎の中から生まれた一振の刀のような美しさは、には決して持ち得ないものだ。欲しいと焦がれることはないけれど、その鋭利な輝きに見惚れる。命を奪う鋼の美しさは、恐ろしくも目を惹かれるものだ。
「かっこいいなって、思います。明日にはいなくなってしまいそうなところが……こわい、ですけど……」
ぱっと燃えて消えてしまいそうなあの烈しい炎は、のような弱い生き物の掌にあっていいものではない。戦いの中で鍛え抜かれた体躯も、皮肉げな笑みを浮かべる精悍な貌も、刀を握る骨ばった大きな手も、花を見て慈しむように笑むことのある薄い唇も。何もかもが灰となって風の中に消えても、あの弟は後悔などしないのだ。にはそれが理解できなくて、怖い。そう言って困ったように笑うを見て、似ているとドクターは思う。互いに互いのことを理解できなくて、けれどその理解できないところをこそ美しいと思っていて。それを何と言い表したら良いものかわからずに「顔が好き」という言葉に纏めてしまうところに、血の繋がりを感じた。
「何だか、仲の良さそうな姉弟だと思うけどなあ」
ドクターの言葉には、曖昧な笑顔だけが返ってきた。仲が悪いわけではないけれど、弟から離れたいとしては受け入れ難い言葉なのだろう。なるほど確かにこれは、『惚れた側の負け』である。
「エンカクがのどこを好きか、知ってる?」
「……顔、じゃないですか……?」
性格や内面が好かれるようには思えないからと、は首を傾げる。自分のことを客観視できるのは場合によっては損かもしれないと、的確にある意味残酷な事実を言い当てたを見てドクターは微妙な気持ちにさせられたのだった。
210117