「エンカク、いたい……」
「痛い?」
ぐすぐすと泣きながらそんなことを言われては、いくら半ば犯すように抱いているとはいえ手が止まるものだ。噛んだり抓ったりと愛撫としての軽い痛みを与えることはあれど、仕置でもないのに快楽に繋がらない苦痛をもたらすのは本意ではない。ずちゅずちゅと擦れ合う結合部は十分すぎるほどに潤っているから、挿入そのものが苦痛というわけではないだろう。何が痛いのかと問うと、子どものようにぐずりながら「腰……」とは濡れた目でエンカクを見上げた。
「ぶつかって、痛いの……」
「……ああ、」
確かに、の腰は折れそうなほど薄い。エンカクの硬い肉のついた体では緩衝材になどならず、正常位だと打ち付けるたびに骨がぶつかり合って痛いのだろう。適当に枕を間に挟んでやりながら、馬鹿な女だと思う。問われるまま、正直に何が痛いのか素直に話したりして。そもそもにとっては本意ではない行為なのだから、エンカクに理解して改善してもらう必要などないのだ。ただ痛い痛いと煩く泣いていれば、エンカクも萎えて抱く気も失せるかもしれないだろうに。そんなことも思いつかないのは、やはり男を知らないからだろう。微笑みだけで男を転がせるような容姿をしておいて、中身は何も知らない生娘同然だ。女としての自分の価値をわかっていないから、我儘に振り回せるはずの相手に許しを乞うてわざわざ自身を値下げする。自分の武器もその使い方も理解していない姉を愚かだと思い、呆れはするのだ。こんなふうに自分の弱みを晒け出して相手に全てを委ねてしまう女を、本来エンカクはどうとでもできてしまうはずなのに。隠されてもいない弱みにつけ込み、悪質な要求だとて呑ませることができる。無知が過ぎるこの姉は、「可哀想」では済まされない。知ろうとしないことは怠惰で、その対価を払うのは当然のこと。そういう世界で生きてきたはずのエンカクが、に対してはその無知につけ込んで食い散らかすことができない。精々、揶揄って遊ぶ程度だ。それでも「ひどい」とこの姉はぽろぽろと泣くのだから、まったく温室育ちにも程があろうと毒気を抜かれてしまうものだが。
「ん、」
痛みを紛らわせてやろうと、顎を掴んで口付ける。柔らかい唇を啄んで、薄く開いた隙間から舌を捩じ込んで。小さな赤い舌を引きずり出して絡め合わせていると、ほっそりした手が必死にエンカクの肩を叩く。今にも泣きそうな顔のを見下ろして舌を離してやると、「息、できない……」と弱々しく抗議された。
「手間のかかるやつだ」
ハッと鼻で笑いながらも、再開したキスには時折息継ぎの間を与えてやる。自分で呼吸もできないが悪いとは思うが、酸欠まで追い込んでやろうという気にもならないのは確かで。自分が遠慮しているのかと可笑しくなるが、手加減してやっているのは確かなのだろう。自分のような生き物が好き勝手に抱いては早々に潰れてしまう、か弱い存在だ。弱さというものに振り回されているのが滑稽でもあり、愉快でもある。なるほど本人に自覚はなくとも、女ではなく弱さを盾にしているらしい。防衛本能か、エンカクも結局には惚れた弱みがあることを薄らとでも自覚しているのか。「振り回されてやっているのはこちらだ」という傲慢な被害者意識を抱えつつも、自分が「姉」に対しては「弟」でしかないことを実感させられる。それでも敢えて弱々しい声を無視して苦痛を強いる気にもなれないのだから、まったく情とは厄介なものだった。
210415