「梟谷来ないって、どういうこと」
私の部屋のドアをノックすることもせずに開けるなり、据わった目で言い放った京ちゃん。
いつかはばれると思っていたけれど、こんなに早くにやってくるなんて。きっとお母さんが口を滑らせたに違いない。あれだけ京ちゃんには言わないでってお願いしたのに。それに幼馴染とはいえこうも簡単に年頃の娘の部屋に男の子を通すなんて。後で抗議しておかなくては。
なんてことを考えている間にも、京ちゃんはじとっとした目でこちらを睨みつけてくる。
ちゃんと話すまで京ちゃんは納得してくれないだろう。十数年の付き合いだ、それくらいは知っている。
「どうもこうも、私京ちゃんと同じ高校行くだなんて一言もいってないよ」
「ずっと一緒にいるって言ったけど」
「……それ、子供のころの話だよね? 懐かしいけど」
返された言葉の意味が一瞬わからずに、そんなこといつ言ったかな、と記憶を巡らせれば出てきたのは幼稚園の頃の指切りだった。
「約束は約束でしょ。針千本飲ます?」
「怖いこと言わないでよ」
「じゃあ梟谷来るよね?」
当然のように再び尋ねてくる京ちゃんに、なんで京ちゃんはこんなに私の進学先にこだわるんだろう、と疑問が浮かぶ。
「あのね京ちゃん、針千本なんて飲めないけど、その約束は守れないよ。京ちゃんはバレーしたいから梟谷に行くんでしょ、私もやりたいことがあるから今の志望校選んだんだよ」
「は俺と一緒にいたくないの」
「そういうわけじゃないけど……そもそも私たち、ただの幼馴染だよ? 恋人だってしたいこと曲げてまで高校一緒にするとは限らないのに」
「俺のこと好きじゃないの」
「だからそういう話じゃないんだってば。京ちゃんだって、梟谷諦めてまで私と高校一緒にしようとは思わないでしょう、」
「思うよ」
なんだか京ちゃんは男の子なのに面倒くさい彼女みたいなことばっかり言うなあ、と思いながら口にした言葉は驚くほどあっさりと否定された。
「えっ、」
「思うけど、俺はに選んでほしい。いつも俺はに合わせてきたよ、が好きだから。今度はが俺を選んで。俺のこと好きなんでしょ」
「京ちゃん、言ってることがよく、」
わからないよ、言いかけた言葉は詰め寄ってきた京ちゃんに唇を塞がれて消えていった。
あれ、今、私のくちびる、塞いでるのって。
気付いた時には、京ちゃんはもう自分のそれを私から離していた、けど。
「なっ、なな、何すんの、京ちゃん」
「――俺は、ずっとのこと好きだったよ。が俺といつも一緒にいると女友達できないって泣くから学校ではあんまり近づかなかったし、やりたいことがあるって言うからバレー部にも試合観戦にも誘わなかった。が恋愛とか考えてないって言ってたから、俺はずっと幼馴染の優しい京ちゃんでいたよ。でもさ、。俺はに友達なんかできなくてもいいから俺と一緒にいてほしかったし、マネージャーとして俺のこと支えてくれたらいいのにって思ってたし試合も見に来てほしかった」
淡々と、しゃべっている京ちゃんの言葉が半分も理解できない。
「ねえ、。俺にの気持ちをちょうだい。もう幼馴染は飽きたよ」
「わ、たし、京ちゃんのこと」
「好きなんでしょ、、俺のこと好きなんでしょ。俺はもうずっと待ってあげたよね」
「そういう意味で、好きなわけじゃないよ」
「そんなのおかしいよ。だって俺はこんなにのこと好きなのに。俺がのこと『そういう』意味で好きなんだから、も同じように俺のこと好きになってくれるべきだ」
「京ちゃ、」
「は俺が好きなんだよ。だから俺に証拠をちょうだい」
ぐらぐらと、視界が回る、京ちゃんが、にっこり笑って言った。
「俺に、くれるよね?」
150604