気に入らない、と思う。本当に、気に入らない。
「あなたの墓に相応しい場所だわ」
そう言いながらも、心底からの嫌悪に顔を歪めながらも、天使はノートンを迎えに来た。
黄金の石窟での落盤事故。ゲーム中だったサバイバー及びハンターの救出作業。正直、彼女が来るとは思っていなかった。少なくとも、自分の元には。
「動かないで。骨が折れてる」
もうすぐダイアー医師が来るからと、はハンターの怪力でノートンの脚を潰していた岩を軽々と持ち上げた。その手にあるのは、彼女の能力である「顧客名簿」だ。そのスキルを使って、はノートンを助けに来たらしかった。
「手元に爆弾があったらな」
あの時みたいに。そう呟いたのは、積極的に彼女に嫌味を言ってやろうとか、そういうつもりではなかった。ただただ、本心がぽろりとこぼれ落ちた。
「君と同じ墓に入れるのに」
馬鹿ね、と間髪入れずに冷たい言葉が返ってくる。私の墓はもうあるのよ、とどこか夢見心地さえ滲ませる声。彼女が誰を思い描いているか、想像に難くない。気に入らない。本当に気に入らない。お高くとまっているくせに、恋を初めて知った少女のような顔をして。おぞましい化け物のくせに、人間のノートンよりよほど人間らしくて。何度汚してやっても、彼女は綺麗だ。
(ああ、でも)
この手に爆弾があっても、ノートンはそれに火をつけられないだろう。と同じ暗い石の墓に入る未来を想像して、悪くはないと思うのだけれど。
(火薬の匂いは、似合わない)
あの陰気な納棺師に、間接的に影響されてしまったのだろうか。彼女の眠る場所にあんな匂いは相応しくないと、そんな馬鹿げたことを考えた。
201028
雪冠さんとノトガブに感謝を込めて。