※岩泉妹

 
「夢? 全国大会優勝に決まってんだろ」
 そう、疑うことも無く強い瞳で語った兄が夢やぶれて挫折に泣く姿は、とても悲しく、切なく、愛おしいものでした。
 強豪のエースを背負い、夢を信じてひたむきに励む兄を、私は敬愛しています。尊崇しています。その姿は勇ましく力強く、慕わしいものでした。それでも私は、兄が背中を丸めて歯を食いしばりボロボロと涙を流す姿に、どうしようもない愛おしさを覚えたのです。
「兄さん、兄さんの夢は何ですか」
「頂上獲ることに決まってんだろ」
 あの敗北の後でも、私に対しては何事も無かったかのように夢を断言する兄さんの姿は、やはり美しいものでした。けれど私は駄目な妹です。あの何よりも愛おしい兄の姿を、また見たいと、そう願ってしまうのでした。
 
160528
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