「三爪痕を見つけたら、絶対に私に教えてね」
「はいはい」
「絶対だよ、本当に絶対だよ、ハセヲ」
「…………」
 能天気な少女より、楽観的な少年より、は最もハセヲを閉口させている。どこで聞いたのか、ハセヲが三爪痕を追っているという話を聞きつけて、こうしてハセヲに三爪痕の情報の共有を迫ってくるのだ。に助けられた部分も数多くあるが、恋愛じみた執念すら感じさせるの態度に呆れているのも事実だ。
「……お前、なんであいつを探してるんだよ」
 そういえばがあれを探す理由も知らなかったと、ハセヲはの目を久しぶりにまともに見て口を開く。バーチャルの瞳を瞬かせて、はにぱっと笑って答えた。
「三爪痕に殺して欲しいの」
「……おまえ、」
 それがどういう意味か、知ってるのかよ。そう言いかけたハセヲの胸中を見透かしたかのように、は頷く。
「私、『ここ』が大好き。この世界が死ぬほど好き。この電子の海に魂を埋めたいの。私は三爪痕に殺されて、ここで永遠に眠りたい」
「…………、」
「だから絶対に、私が殺されるまではあの人を殺さないでね、ハセヲ」
 にっこり笑うの表情に、ハセヲは初めて心惹かれるものを感じた。
「……俺が殺してやるのに」
「ハセヲにPKされても、意味が無いもの」
 あっさり首を振って踵を返すの背に、ハセヲは決意した。絶対に、の希望が叶うより早くに三爪痕を消してやろうと。
 
160528
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