「……夢を、見るんだ」
「え?」
「どこか、暗くて寒い山の奥で、ずっと待ってる」
「……レッド?」
「俺より強い誰かを、俺を倒してくれる誰かを、俺の……」
「レッド、」
手のひらで、ぼうっと鈍く輝く赤を覆う。
「それは夢だよ、レッド」
手のひらの下にある肌は、ひどく冷たい。
「もう寝よう、レッド。明日はきっと、そんな寂しい夢は見ないから」
「……俺は、寂しいのかな」
ぼんやりと呟いたレッドの手が、大切な何かが在ったはずのそこを確かめるようにベルトの上で空を切る。
「……そう、レッドはきっと、寂しいんだよ」
シロガネ山の奥の奥。彼の遺体から離れずにそこで凍り付くことを選んだポケモンたち。忘れ物を思い出してしまったら、名残り雪は溶けてしまう。温度の無い体を抱き締めて、私はレッドにおやすみなさいと呟いた。
160718