※卒業ネタ

 体育館の、張り詰めた空気を震わせるパッヘルベルのカノン。古くなったストーブの出す軋んだ音をも呑み込んで、美しい旋律が響く。
 西谷先輩が、卒業証書を受け取った。
(似合わないよ)
 おろした髪も、きっちりとホックまで閉められた学ランも、袖から覗く糊の効いたYシャツも。
美しいのにただ切ない、カノンの音色も。
 あっという間に式は終わり、退場していく西谷先輩と視線が交わる。
ニカッと笑った西谷先輩。私はうまく笑えていただろうか。
ああ、やっぱり似合わない。追想の歌。
 
150616
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