君は可愛い人だね、思ったことを素直に口にすれば目の前の白い頬が真っ赤に染まる。ぱたぱたと手を振って照れ隠しをするのがなお愛らしい。
「雲、」
 恥ずかしいよ、はにかんで笑う愛しい人の細い手首を掴んで抱き寄せる。抱え込んだ頭のその耳元で、溢れるままに思いを言葉に紡げば耳まで赤く染まった。
「やっぱり、君は可愛い人だね」
 きゅう、と沸騰して目を回してしまった少女を抱き締める。まだ足りないのに、そう思いながら雲はまた愛を紡ぐためにその唇を開いた。
 ***
 果たして、雲があの日愛を告げた少女の名は何だったか。今となってはもう思い出せない幸福が、霞のように浮かんでは消える。自身の名のように漂って消えてしまえたら彼女の元へと辿り着けるだろうか?  詮無いことを考えても、今の雲は暴君の駒だ。剣を握り直せば、笑顔の残滓まで振り払ってしまった気がした。
 
150820
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