※ディセンダー 「カイルのお母さんはね、」

 が俯いて言う、その手の中には彼女の体格に不釣り合いな大きな剣。一つだけでも異様なのに、はそれを両手に持って軽々と振り回すのだ。
「昔、英雄と呼ばれていた人なんだって。世界を救うために戦って、仲間の人と結婚して、カイルを生んで……」
、」
「私も……全部が終わったら、そういうふうに、幸せなお嫁さんを目指したり、普通の女の子みたいに生きたり、したかったなあ……」
「……すればいいじゃないか、君は何にだってなれる、生きているんだから」
 普段のとは違う、どこか悟ったような表情のにフレンは焦って言葉を募らせるが、はふっと優しく綺麗に微笑んだ。
 それはまるで、
「できないよ」
「っ、」
「私は戦いが終わったら要らなくなっちゃうんだよ。全部が終わったら、世界樹の中に帰らなきゃいけないんだよ。戦うために生まれてきて、戦いが終わったらどこにもいなくなって……みんながお母さんになっておばあちゃんになって、子供が生まれて孫が生まれても、私は……ずっと『このまま』」
 諦めたような、そんな笑顔で。
(ならずっと、戦いが終わらなければいい)
 君がいなくなってしまうのなら。
けれど誰よりも人の、全ての生命の安寧を願っている彼女に、そんなことが言えるわけがなくて。
フレンはただ、唇を強く噛み締めた。
 
151022
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