※夢主≒カムイ(♀)
※リョウマと夢主の結婚前提でのシノノメ夢
※つまりは近親夢
俺は、未だにあのうつくしい人から生まれたのだという実感を、持てずにいる。
秘境という、時の流れの違う場所で育ち、あの人の背丈も(もしかしたら年齢さえも)越してしまっていることも理由の一つだろう。俺はあの人を守れるほどに強く、大きくなった。あの人は俺が物心ついた時からずっと変わらない。変わらずに、うつくしいままだ。少女のような潔癖さと優しさと、王妃のような気高さと高潔さを併せ持つ、俺たちの総大将。哀しみと愛しみを背負って進むあの綺麗な人を、父さんは一体どうやって汚したんだろう。
「母さん、」
「シノノメ……?」
ほら、押し倒した体はこんなに小さい。
「母さん、俺、カンナが羨ましいんだ」
どうして俺に竜の因子は出なかったんだろう。半竜半人である俺の母さんの血は、弟であるカンナにくっきりと現れていた。母さんとよく似た目元、純粋で気高い性情、そして何より竜の血。どうして俺には無いんだろう。どうして俺は、この髪の色の他に母さんと繋がるものを持たないんだろう。他は全て、父さんのものばかり。
「父さんのせいなんだ」
父さんが母さんを好きになったから。俺が父さんに似たから。父さんが俺を母さんに生ませたから。だから悪いんだ。
「俺、母さんの子に生まれたくなかった」
「……っ、」
「そしたら、俺は母さんのこと愛して良かったんだろ」
そうしたら、俺はこの綺麗な人を穢さずにすんだのに。俺が生まれなかったら、母さんは父さんに穢されなかったかもって、そんな、馬鹿みたいな理屈をこねて。
このうつくしいひとを、人に貶めた父さんが恨めしかった。このうつくしいひとから、全てを受け継いだ弟が恨めしかった。このうつくしいひとが、俺の母さんであることが恨めしかった。
「どうして俺は、」
うつくしいあなたを愛してしまったんだろう。白い髪に赤い瞳。尖った耳。その全てが、俺にもあったなら、俺はこんなに苦しまなくて良かったんだろうか。
「母さん、愛してるんだ」
「私も、シノノメを愛していますよ……?」
違う、そうじゃない。母さんのそれは、俺の欲しい答えじゃない。押さえ付けて唇を重ねれば、ようやく母さんは俺の意図がわかったようで暴れだした。
「シノノメ、だめです、離れて、」
「何が駄目なんだ? 親子だから? 父さんと母さんも、血が繋がっていないとはいえ兄妹だったのに」
「っ、」
真っ赤な瞳が、俺の言葉に傷付いて揺れる。ああ、ようやく穢せた。傷付いた母さんを見て、思ったのはそんな酷いことだった。
160302