さんが、死んだらしい。
 事故だったのだそうだ。あっけないほどの、突然過ぎる死。クラスの女子は泣いているし、男子の多くも暗い顔をしている。ひそひそ声で話すことを強いられているような空気に染まるつもりもなかったけれど、俺はただぼうっとしていた。だってさんは、
 きっと誰も彼も、三日も経てばさんの死を忘れて笑い出す。一ヶ月経てばさんの顔や声さえあやふやになってしまうやつだっているだろう。悪くない、それはきっと悪いことではない。俺だってきっと、いつかはさんの顔も声も、この感情まで忘れてしまうに違いないのだ。
 さんの机に生けられた、菊の花。その瑞々しい緑に手を伸ばし、ぽきりと首を折り取った。
 
160416
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