落ちていく、堕ちていく。いつだって蒼く澄み渡っていた空など、今となっては見る影もない。呼吸すらままならないほどに風は吹き荒び、濁った暗雲を湛えて薄闇が景色を飲み込んでいた。
 自前の翼は風に揉まれ、既に根元から折れている。もし翼が無事だったとして、常軌を逸した強風の中では飛べなどしないし、もしできたとしてもそれは最早無意味だった。
 蒼空(せかい)は滅んでしまった。誰もが気付けないうちに朽ち果ててしまった。──いや、朽ち逝く運命に気付いていたひとは、きっとたくさんいただろう。恐らく、ジークフリートもその一人だった。すぐに帰ると微笑んで、の元を離れて。そうして二度と帰ることはなかった。
 あの時に引き止めていれば、なんてたらればは無意味だとわかっている。遅かれ早かれ滅ぶなら、どうしたって別れは訪れただろう。そうだとしてもは、ジークフリートの所在、どころか安否すらわからぬまま消えていきたくなどなかった。
 の身体は風に弄ばれる。次々に浮かぶ後悔に、ああこれが走馬灯というものか、と朦朧とする思考の中思う。
 悔いることならいくらでもある。その中でも一際大きな悔恨には、いつだって今は亡き伴侶の姿が付き纏う。
 ランスロットは、幸せに生きろと言ってくれた。心身共に健やかに成長し、充実した人生を送り、そうして年老いた時に迎えに来ると約束してくれた。
 だけれど、は思うのだ。ランスロットに胸を張って幸せだったと言えるほど、幸せに生きられたのか。心身共に健やかであれたのか。たったそれだけのことが、にはわからなかった。
(……ああ、でも。そんなこと、考えても無意味かもしれない)
 愛した騎士たちの守ったフェードラッヘは、が守ってきたもの。しかし今となっては、もしかすると守っていると思っていただけかもしれないなんて思うのだ。その証拠に、今もこうして何もできずに堕ちていっている。
 嗚呼、なんと無力なことだろう。こんなことでは、ランスロットは迎えに来てなどくれないだろう。ランスロットにも、ジークフリートにもヴェインにもパーシヴァルにも、フェードラッヘの民にも申し訳が立たない。
「ごめん、なさい……」
 涙が一筋、黒く煤けて汚れた頬に伝う。方向の感覚などとうに失くしながらも、上へ向かって手を伸ばす。しかしその手は何も掴むことなく、落ちた涙と共に全て空の底へと吸い込まれた。
 
181028
尊みとしんどみが過ぎて涙が止まらないです……当サイトの夢主で夢小説を書いてもらえる日が来るとは夢にも思わず……!!本当にありがとうございます!!一生大切にします!!
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