BL エルヴィン・スミス 12 R-12
利き腕に怪我をするとこんなにも日常生活が不自由になるのか
討伐には出られないから今は内務だけをやっている
左手で文字を書くのが思った以上に大変で、それを察してか他の分隊長が請け負ってくれて自分に回ってくる書類はそんなに多くはないが
着替えは時間は掛かるが自分で出来る
任務には出ないから私服を着ているけれど
それでも、袖を通せないから右側は肩に羽織っているだけだが
大変なのは入浴でどうしても手助けが必要だった
固定するギプスを濡らさないようにするのが大変で
手が届かない背中とか、手伝ってもらわなければ出来ない事が多かった
それでも、出来るだけ自分でやるようにしているが
は短くなった髪をタオルで拭くと、頬に落ちた水滴を拭った
まだ夕刻前だが寝衣を着てベッドに座る
窓の外を見ると、先ほど髪を切った時に集まった見学人は既に解散していた
人が髪を切るのが珍しい、という訳ではなく団長と分隊長だから集まったのだろう
中には自分たちの関係を聞いて今更になって見に来た者もいるだろうが――
そう思いながら行き来する人を眺め、見知った顔を見つけるとさっと部屋を出た
腕を通せない右側の寝衣が靡くのを押さえながら階下へと下り、玄関へと向かう
扉を開けて外に出ると丁度前を通り過ぎようとした相手が足を止めた

「お、
「オルオ」
「顔色、戻ったな」
「あぁ……なんか、お前に世話かけっぱなしだな」
「今まで助けられたんだ。気にすんな」
「……まとめて返すからな。お前の討伐数、増やしてやる。補佐するから項を削げよ」
「あぁ。その怪我、さっさと治せよ」
「そうだな」

左手で右手を摩り、強く感じる痛みに僅かに眉を寄せる
するとふわりと頭に何かが触れて視線を上げた
オルオの手が髪に触れていて、撫でるように下ろされる

「切ったのか」
「あぁ、エルヴィンが切ってくれた」
「……そうか。お前……」
「ん?」
「団長も、大事な人になったか」
「あ……あぁ、そう、だな」
「死ぬなよ。もう、あんなは見たくねぇから」
「ははっ、そうだな。あれはさすがに痛かった」

そう言うと彼の手が頭の上でぽんぽんと上下に動いてから離された

「風邪ひくぞ」
「おう……お前、これから兵長とデートか?」
「っ……ま、まぁ……ただの買い出しだが」
「愛されてるな」
「恥ずかしいからやめてくれ」

頬を赤くして、ふいと顔を背けるオルオ
そんな親友を見てはふっと笑い、彼の背を押して送り出した
オルオが向かう方角から小柄な人影が現れるのを見て踵を返す
玄関を入り、正面の階段を上がって
廊下を進み自分の執務室兼寝室の扉を開ける
すると自分の風呂の介助をし、そのまま入浴をしていたエルヴィンが窓辺に立っているのが見えた
彼にはまだ仕事がある為に普段通りに制服を着ている
洗われた髪は整髪料を使っていないようで下がっていた

「エルヴィン」
「……
「風が、冷たくなってきましたが……」
「そうだな」

そう言葉を返しながらも彼は窓を閉めようとはしない
まあ別に少し寒いかなと感じる程度だから大丈夫だが
そう思いながらベッドに入ろうとしたところで、背後から抱きすくめられた
右腕を圧迫しないよう、そちら側は脇腹の辺りから腕を差し込まれて――
首筋にエルヴィンの唇が触れ、寝衣がずれて露になる項の辺りの皮膚を吸われる

「っ……あの、今は無理で……」
「……あぁ」

そう言いながらも、彼の手は腹部を撫でたり、それよりも下を探ろうとしたり
思わずその手を掴むとエルヴィンの腕の中でくるりと回り体を彼の方に向けた

「エルヴィン、せめてもう少し痛みがひくまで――っ」

見上げた彼の顔になんだか怒りのような感情が見える
何か不機嫌になるような事でもあったのだろうか
兵站拠点の設置は計画通りに進行し、局地的に集まった巨人も討伐は成功したと聞いている
それなのに――
どうしたのかと思っているとエルヴィンの両手がこちらの首に触れた
親指が首の前に、人差し指から小指までが後ろへと回る
そのまま喉の前で交差する親指に徐々に力が籠められた
他の指にも力が入り、同時に上へと持ち上げられて
踵を浮かせるようにつま先で体を支え、はエルヴィンの目を見つめた
原因を、探らなければ
何を考えているのか分からない団長だが、何に対して機嫌を損ねたか
考えて、考えて――

「……オルオは、親友です。十二歳の時から、今まで、ずっと側に。兵站拠点の設営の時と、昨日、あいつには助けられて」
「……」
「俺にとって大事な、男ですが――!」

そこまで声に出したところで指に一層力が込められた
禄に呼吸も出来ないくらいに
左手でエルヴィンの手首を掴み、苦しさに眉を寄せた
でも、言葉で伝えなければ彼は納得しないだろう
普段は冷静なのに、自分の事になると面倒な男だ
はそう思い、エルヴィンの手首から顔へと手を移動させた
相変わらず感情が顔に出ない彼
硝子玉のような目を見ながら手の平でエルヴィンの頬に触れる
酸素の供給を止められ、視界が白む中でふとこのまま死ねばどうなるのかと考えた
調査兵団の分隊長が痴情の縺れで扼殺なんて――
ああ、なんて恥晒しだ
そんな死因だけは回避しようと肺に残る僅かな空気で言葉を発する

「俺、が……あ、い、するの……エル……ヴィ……だ、け……」

友人と少し触れ合っただけで本気で首を絞めてくるとは
なんてサディストだ
こんな男に、愛なんて言葉を告げる自分も大概だが
と、思ったところで手の力が弱まり、上へ持ち上げる力からも解放された

「!、ケホッ、ゴホッ……」

途端に通りが良くなる空気に咽てしまう
彼の手が首から話されて背後のベッドに半ば倒れるようにして座り込んだ
何度も咳き込み、呼吸を繰り返して――時間を掛けて息を整えると乱れた髪をかき上げる
少し前屈していた体を起こすと顔を上げてエルヴィンを見上げた
彼はどこかぼんやりとした目で自身の両手を見つめている
今、自分がやった事が信じられない、とでも言いたそうな表情を見ながらは声を掛けた

「エルヴィン。オルオは……良い奴です。こんな俺の友達になってくれた……同じ年の兄弟のような、そんな奴です」
「そうか」
「……見ていたんですね。俺とあいつが……話をしているのを」
「……」
「髪を切ったことを言われていただけです。あと、早く怪我を治せと。俺は……一途だと思いますので、エルヴィン以外は愛せません」

そう言うとエルヴィンが目を閉じて、再び自分を見る
やっと怒りが静まったのが分かり、は先ほどよりも強く痛み始めた右腕を押さえるように左手で触れた

「……すまない。俺はお前に対して……異常に独占欲が……」
「そうですね。異常ですが……悪くはないです」

この顔に感情を殆ど表さない男があんな怒りを見せるなんて
自分が特別なのだと感じられて、存外嬉しいものだった

(嬉しい、か……俺は、マゾなのか……)

どちらかと言えば、エルヴィンと同じサディストだと思うのだが
そう思いながらまだ不安定な呼吸を整え、前に立つ彼の体に左手を触れる
鳩尾から腹部に触れると固い腹筋の感触がした
そこから更に下へと手を滑らせて腰に巻く布の下に手を入れる

「っ、
「はい?」
「何を……」
「……偶には、良いかと。この体では抱かれることは出来ませんので」

言いながら手探りでファスナーを掴むと下へと下げた
嫉妬をさせたお詫びに、という訳ではないが溜め込み過ぎるのも毒だろう
体はまだ無理だから、使える手と口でしてやろう――今までにやった事はないから上手くはないだろうが
そう思い視線を床へ向けたまま、下着越しにそれに触れて握るように指を折る

「……うわ……」
「?……」
「こんなの、よく俺の中に……通りで痛いと思った」

直に目にしているが、触れてみるとやはり大きさに驚いてしまった
しかも、まだ臨戦態勢ではないのに
通常でコレかよと思いながら下着に手を差し入れて引っ張り出した
エルヴィンが僅かに背を丸めるのを見ながら顔を寄せて舌で、それに触れて――

ッ……あ」

なんて色っぽい声を出すんだ
視線だけを上げて見れば、布に半分覆われる視界にすごく切なそうな彼の顔が見えた
この表情を見られるのは自分だけか
オルオも、兵長のこんな顔を見たりしているのだろうか
なんて、そんな事を考えながら口を開けて口内でそれを愛撫する
とはいえ、自分の鋭い犬歯が触れないように注意しなければならないが
こんな場所に傷をつけては医者に見せられないだろう
とにかく、歯を立てないように――と思ったのだがやはりこれは弄ると大きさを変えるもので
なんてデカさだと思いながら舌で先を舐め、とてもじゃないが入りきらないから残りの部分は手で触れて
そんな事をしているとエルヴィンが腰の布を押さえるベルトを外した
慣れている筈の手が何度か滑ったのは自分のせいだろうか
布が外されると視界が明るくなり、彼の手が髪を梳くように触れる

……目は、こちらへ」
「……ん」

目を合わせながら、というのは恥ずかしいが――でもエルヴィンの顔を見るのは良いか
そう思い、視線を上に向けると辛そうな表情が見える
ああ、我慢をしているのか
こちらとしては顎が疲れるから早々に出して欲しいのだが
そう思いながら、舌で触れて、指で扱いて
やり方は、知っている
団長が自分に対してやった事だから
顎が疲れてきた――と思っていると頭を掴まれ、ぐっと抑えられた
あ、と思ったのとほぼ同時に口内にどろりとした熱いものが広がって

「っ……」

味わいたくはないものだと思いながらも飲み下す
エルヴィンが自分のを飲んだ時には信じられなかったが、彼のならば飲めるなと思ってしまった
これが他の男のものであれば――恐らくはこうなる前に削いでいるだろう
そう考え、エルヴィンの手の力が弱まるのを待って口を離すと手の甲で口元を拭った
今まで、一度も口に含んだ事のない味だったと思っていると団長が服装を整え、ふうと息をはく

「……上手くは、なかったでしょう」
「人にさせたのは初めてだが……上手い方、だと思う」
「はは……そうですか」

そう言葉を返し、首に掛けたままのタオルで手を拭っているとベルトを締め直したエルヴィンがベッドに左手を突くようにして身を屈めた
右手が肩に触れて、そのまま力を加えられゆっくりと後ろへ倒される
古びたベッドの枠が微かに軋んだ音を立てた
近い距離で見合わせた薄い青い瞳を見つめ、自然と目を閉じる
一呼吸おいて唇が重ねられて、左手で彼の頭に触れると濡れたままの髪が指に絡んだ
角度を変えて、何度かキスを繰り返して――耳に入った音には目を開ける

「エルヴィン」
「……?」
「分隊長です。部屋に来ます」
「どっちだ」
「メガネ」
「ハンジか」

言いながら彼が体を起こし、乱れた髪を整えた
自分も起き上がり、ずれた寝衣を正して――というところでノックの音が聞こえ、返事をする前に扉が開かれる

ー、こっちにエルヴィンがいるって……あぁ、いたいた」
「どうした、ハンジ」
「これ、目を通して欲しくてね」

そう言い、複数枚の書類をヒラつかせながら入って来た
エルヴィンに手渡すとベッドに座っているこちらへと体を向ける

「怪我はどう?」
「上限を超えて薬を飲んでも痛ぇ」
「飲み過ぎは駄目だよ。それだけ折ってれば痛みは――ん?」

言葉の途中でハンジが何か見つけたように目を瞬いた
腰を屈めてこちらの首の辺りをじいと見て、ちらっとエルヴィンへと視線を向ける

「あぁ……あの、ね、
「ん?」
「その、首……隠れるような、何か着けた方が良いと思うよ」
「首……」
「指の跡が、残ってるから、さ」
「あぁ……いつもの服が着られれば良いが……」

あれだけ締められれば跡も残るか
ペトラに堅苦しいと言われる襟の高い黒い服
あれを着ることが出来れば良いのだが、ギプスが取れない内は袖に腕が通らなかった
ゆったりとした作りの寝衣ですらちゃんと着られないのだから
首に手を触れ、どうしたものかと考える
いっその事、オルオのようにスカーフでも巻いていようか
だが寝衣にスカーフだなんて可笑しいだろうと考え直す
でも何も良い考えは浮かばず――

「……はぁ……」
「エルヴィンは君のことが大好きなんだよ」
「……知ってる」
「ふふっ、仲良くね。じゃ、私は戻るよ。エルヴィン、それの話は明日で良いから」
「分かった」

ハンジが手をヒラヒラさせて部屋を出て行き、扉が閉まるとエルヴィンが隣に腰を下ろす
ちらりと書類に視線を向けるが、薬のせいか目がぼやけて読む事が出来なかった
瞼を閉じて擦り、また読もうとして目を細めて
そんな自分に気付いた彼がこちらに顔を向ける

「目がおかしいのか?」
「はい……ぼやけて、読めません」
「薬を飲み過ぎるからだ。胃が痛むのもそのせいだぞ」
「……明日は定量を守ります」
「そうしてくれ。耐えられないのならば睡眠薬を。手配をしておく」

そう言い、書類をサイドテーブルに置いてこちらの体に手を触れた
ベッドへと寝かされて、体に毛布を掛けられる
その隣にエルヴィンが横になり、彼の為に増やした枕に頭を乗せた
じっと見つめられて、なんだが恥ずかしいような、そうでもないような
ぼんやりとその薄青の瞳を見ているとエルヴィンの手が頬に触れた

「少しでも良いから寝てくれ。痛みで眠れないのは分かるが」
「……はい」

腕は痛いし、薬を飲み過ぎて胃も痛い
それでも、エルヴィンがそう言うのなら
はそう思い、眠気は全く感じないが大人しく目を閉じた