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作品ID:565
こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約3187文字 読了時間約2分 原稿用紙約4枚
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 批評希望 / 初級者 / R-15 /
駆ける男
作品紹介
男は駆ける。暗い路地裏を。誰かに追われながら。
星がまたたく空の下、誰かが息を切らせて走る。白い吐息が大気に溶け、薄く伸ばされて見えなくなる。
「ハッ……ハッ……ジョーダンじゃ……ねえっての……」
切れ切れのそんな声が発された直後、何発かの銃声が鳴り響いた。
「ぐああ!!」
弾丸が肉を抉る音。そして誰かが盛大にこける音。
『ンハハハハハハハハ!!諦めて宝石を渡せ!!そうすれば生かして帰してやろう!!』
メガホンから放出された声が、煉瓦造りの谷間に反響する。
「っざっけんじゃねえよ!!こりゃ元々俺のクライアントが……」
言いかけた声は、続きの言葉を呑み込み、代わりにずりずりと地面を這う音を鳴らす。
『ンッハハハハハハハハ!!見よ!!ゴミの山の陰に隠れる様などやはり“鼠”そのままよ!!』
高笑いがメガホンから放たれる。
「うるっせえ!!数に頼んで来やがって、今の時代に古くせえぞ!!」
『ンハハハハハハ!!太古より数こそ力なのだ!!貴様こそ、鼠は鼠らしく徒党を組んだ連中など居らんのか!?先ほどから張り合いのないことよ!!』
「……!!」
言われた声は、返事の代わりに歯を食いしばり、ハンドガンをリロードする音を鳴らした。
◆
怪盗『鼠』。いつからそう呼ばれるようになったのか、それは俺にも分からない。
ただ、そう呼ばれる前までは、探偵としてまともな仕事をしていたのだ。
事務所で所長に世話をされ、所長の娘さんや奥さんとの関係も良好。
……所長と出会う前は、それこそまともな仕事はしてなかったのだが。
『その口は喋る為ではなく、気持ちを伝える為にあるのだ』だとさ。所長に捕まって、ヤバイ仕事の言い訳してたらそう言われた。カッコイイよな?
まぁ、あのムキムキの所長に根性を叩き直され(物理)、まともな仕事の素晴らしさを知ってからはヤバイ仕事に手は出さなかったけど。
だがいつだって、まともに見える仕事にも、ヤバイモンは混じってる。
例えば……所長と一緒に調査した、工場での違法取引とか。麻薬の出元を抑えたり、とか。あ~あ、何が引き金だったんだろうな。
所長の事務所と、家。全部が爆破された。
そん時俺は、ちょうど買い物に出かけててな。所長の一家と仲良く鍋をつつこうってんで、魚とか白菜とか買いに行ってたんだ。
で、戻ってみたら……朝まであった建物が消えてるんだよ、丸々。びっくりしたっていうか、最初は道を間違えたのかと思ったね。
で、所長と奥さんは死んでた。瓦礫に敷かれて、爆風も食らってた。肉片だったよ。
娘さんはまだ生きてた。下半身が千切れてて、上半身は自分の部屋のあった場所からリビングまで飛んでたけど、でも生きてた。
で、言うんだよ、嬢ちゃんがよ、「よかった、生きてる、私」ってよ。分かるか?もう死ぬんだよ、シロウトの俺にも分かった。生きてられやしねぇ、なのに安心しきった顔でよ。
結局、その言葉を最期に、娘さんも死んだ。
所長の家を爆破したのは、『イモール工業』とかいう連中だった。
俺が元居た『そういう世界』では、結構名前の通ったグループだ。
俺は別にマンガの主人公じゃない。だから、ここで特殊な能力に目覚めて、復讐を誓ったりはしなかった。
ただ、生きる術を失った。生きる理由も失った。それだけだった。
そんな時、俺の元に依頼が舞い込んできた。生きるには絶好の機会だった。
だが生きる理由は無かった。……そんな時、俺は、所長の娘さんの言葉を思い出した。
なんであんなに安らかな顔で死ねたのか……俺は、知りたくなっちまった。
だから俺は、もう少しだけ生きることにした。
◆
『……出てこんな……』
サーチライトを浴びる裏路地を睨みつけながら、金髪の男性が呟く。
この男性こそ、イモール工業の幹部であり、実質のNo.1権力者である。
「おい、見てこい」
白いメガホンから口を離し、男性は両脇に立っている武装した黒スーツの集団に声を掛ける。
「「「「ハッ」」」
素早い応答と共に、集団の中から何人かが歩み出し、裏路地へ向かって行く。
と、ゴミの山の陰から黒い影が覗き、何発か銃声が響いた。
黒スーツの内何人かが倒れ伏す。だが残った黒スーツ達は少しの動揺も見せず、ズンズンと裏路地へ侵入していく。
そして、黒スーツ達も銃を構えた。筋骨隆々なその手に握られるのは、アサルトライフルである。
「!!」
ゴミの山から、黒い影が駆け出し、裏路地の奥へと逃げていく。
その背中を狙い、黒スーツ達は一斉射撃を開始。銃口から放たれる凶暴な吠え声が、夜の静寂を掻き乱す。
命中したのか、逃げていた黒い影が倒れ伏した。
『!!まて、殺すな!!』
それを見た金髪色白の社長が、慌ててメガホンで号令を掛ける。
黒スーツ達は射撃を取りやめ、銃口を上に向けた姿勢で止まる。
社長はメガホンを放り投げ、指を鳴らし、裏路地へと歩いていく。その後ろから、大量の黒スーツ達が社長の後を追う。
サーチライトが、社長と黒軍団を照らす。
そして、裏路地の奥、倒れている男も照らし出した。
「……よくもまぁこれだけ手間取らせてくれたものだ」
黒スーツ達に辺りを包囲させながら、社長が靴の爪先で倒れた男をつつく。
と、男の身体がピクリと動く。それを見た社長は、蹴って男を仰向けにした。
「……グゥッ……」
苦しげに唸る男は、銃弾が貫通したのか、汚い服の腹部に血がべったりと付いている。
「さ、て……宝石を取り戻すように依頼を受けたらしいな?」
同情の色など全く見せず、社長は男の腹を踏みつける。
「ぐぉあああ!!」
「さっさと宝石を渡せ。貴様は偽の依頼を受け、殺されに来ただけなのだ」
ここに来て、怪盗“鼠”の顔にようやく理解の色が浮かぶ。踊らされていただけだったのだ。
察した鼠は、諦めたように懐に手を突っ込み、ピンク色に輝く宝石を取り出す。苦労して盗み出した宝石も、今はくすんで見えた。
「ンハハハハハハハハ!!まさか数年前に潰した探偵事務所に、生き残りが居るとはな!!ンッハハハハハハハ!!」
高笑いする社長は、首を掻き切るジェスチャーをしようとし、固まった。
男が、自分の高級ブランドのズボンの裾を、汚い手で掴んでいるのだ。
「なんだ……?」
「質問が、あるんだ」
社長は、怒りと呆れと共に、尊敬の念すら感じた。この男の肝の太さ!全く自分の立場を理解していないのか、理解してわざとやっているのか。
そんな社長の逡巡の隙に、男は言葉を紡ぐ。
「アンタ……アンタは、誰かを殺して、後悔したことはあるか?」
「……後悔だと?下らん、そんな事の為に私のズボンを汚したのか」
「いいから、答えろ」
瞬間、社長の背筋が凍りつく。明らかに自分の方が優位に立っている。にも関わらず、仰向けの男の視線は、心臓を鷲掴みにしたような恐怖を与えてくる。
「……後悔など、してはおらぬ。私の道は支配者への道。そこに間違いなどない」
「……」
それを聞いた男の口元に、ニヒルな笑みが広がる。
「貴様ッ、何が可笑しい!?」
「……最期に、もう一つだけ……生きてるのが、嬉しいかい?」
男のその言葉に、社長は虚を突かれたように黙り込む。
社長が答えられないのを感じ、鼠は今度こそ、混じりけのない満面の笑みを浮かべた。
「アンタは俺とおんなじさ。言い訳する為にその口は付いてない」
言うと、男は懐の中、手榴弾のピンを抜いた。
「ハッ……ハッ……ジョーダンじゃ……ねえっての……」
切れ切れのそんな声が発された直後、何発かの銃声が鳴り響いた。
「ぐああ!!」
弾丸が肉を抉る音。そして誰かが盛大にこける音。
『ンハハハハハハハハ!!諦めて宝石を渡せ!!そうすれば生かして帰してやろう!!』
メガホンから放出された声が、煉瓦造りの谷間に反響する。
「っざっけんじゃねえよ!!こりゃ元々俺のクライアントが……」
言いかけた声は、続きの言葉を呑み込み、代わりにずりずりと地面を這う音を鳴らす。
『ンッハハハハハハハハ!!見よ!!ゴミの山の陰に隠れる様などやはり“鼠”そのままよ!!』
高笑いがメガホンから放たれる。
「うるっせえ!!数に頼んで来やがって、今の時代に古くせえぞ!!」
『ンハハハハハハ!!太古より数こそ力なのだ!!貴様こそ、鼠は鼠らしく徒党を組んだ連中など居らんのか!?先ほどから張り合いのないことよ!!』
「……!!」
言われた声は、返事の代わりに歯を食いしばり、ハンドガンをリロードする音を鳴らした。
◆
怪盗『鼠』。いつからそう呼ばれるようになったのか、それは俺にも分からない。
ただ、そう呼ばれる前までは、探偵としてまともな仕事をしていたのだ。
事務所で所長に世話をされ、所長の娘さんや奥さんとの関係も良好。
……所長と出会う前は、それこそまともな仕事はしてなかったのだが。
『その口は喋る為ではなく、気持ちを伝える為にあるのだ』だとさ。所長に捕まって、ヤバイ仕事の言い訳してたらそう言われた。カッコイイよな?
まぁ、あのムキムキの所長に根性を叩き直され(物理)、まともな仕事の素晴らしさを知ってからはヤバイ仕事に手は出さなかったけど。
だがいつだって、まともに見える仕事にも、ヤバイモンは混じってる。
例えば……所長と一緒に調査した、工場での違法取引とか。麻薬の出元を抑えたり、とか。あ~あ、何が引き金だったんだろうな。
所長の事務所と、家。全部が爆破された。
そん時俺は、ちょうど買い物に出かけててな。所長の一家と仲良く鍋をつつこうってんで、魚とか白菜とか買いに行ってたんだ。
で、戻ってみたら……朝まであった建物が消えてるんだよ、丸々。びっくりしたっていうか、最初は道を間違えたのかと思ったね。
で、所長と奥さんは死んでた。瓦礫に敷かれて、爆風も食らってた。肉片だったよ。
娘さんはまだ生きてた。下半身が千切れてて、上半身は自分の部屋のあった場所からリビングまで飛んでたけど、でも生きてた。
で、言うんだよ、嬢ちゃんがよ、「よかった、生きてる、私」ってよ。分かるか?もう死ぬんだよ、シロウトの俺にも分かった。生きてられやしねぇ、なのに安心しきった顔でよ。
結局、その言葉を最期に、娘さんも死んだ。
所長の家を爆破したのは、『イモール工業』とかいう連中だった。
俺が元居た『そういう世界』では、結構名前の通ったグループだ。
俺は別にマンガの主人公じゃない。だから、ここで特殊な能力に目覚めて、復讐を誓ったりはしなかった。
ただ、生きる術を失った。生きる理由も失った。それだけだった。
そんな時、俺の元に依頼が舞い込んできた。生きるには絶好の機会だった。
だが生きる理由は無かった。……そんな時、俺は、所長の娘さんの言葉を思い出した。
なんであんなに安らかな顔で死ねたのか……俺は、知りたくなっちまった。
だから俺は、もう少しだけ生きることにした。
◆
『……出てこんな……』
サーチライトを浴びる裏路地を睨みつけながら、金髪の男性が呟く。
この男性こそ、イモール工業の幹部であり、実質のNo.1権力者である。
「おい、見てこい」
白いメガホンから口を離し、男性は両脇に立っている武装した黒スーツの集団に声を掛ける。
「「「「ハッ」」」
素早い応答と共に、集団の中から何人かが歩み出し、裏路地へ向かって行く。
と、ゴミの山の陰から黒い影が覗き、何発か銃声が響いた。
黒スーツの内何人かが倒れ伏す。だが残った黒スーツ達は少しの動揺も見せず、ズンズンと裏路地へ侵入していく。
そして、黒スーツ達も銃を構えた。筋骨隆々なその手に握られるのは、アサルトライフルである。
「!!」
ゴミの山から、黒い影が駆け出し、裏路地の奥へと逃げていく。
その背中を狙い、黒スーツ達は一斉射撃を開始。銃口から放たれる凶暴な吠え声が、夜の静寂を掻き乱す。
命中したのか、逃げていた黒い影が倒れ伏した。
『!!まて、殺すな!!』
それを見た金髪色白の社長が、慌ててメガホンで号令を掛ける。
黒スーツ達は射撃を取りやめ、銃口を上に向けた姿勢で止まる。
社長はメガホンを放り投げ、指を鳴らし、裏路地へと歩いていく。その後ろから、大量の黒スーツ達が社長の後を追う。
サーチライトが、社長と黒軍団を照らす。
そして、裏路地の奥、倒れている男も照らし出した。
「……よくもまぁこれだけ手間取らせてくれたものだ」
黒スーツ達に辺りを包囲させながら、社長が靴の爪先で倒れた男をつつく。
と、男の身体がピクリと動く。それを見た社長は、蹴って男を仰向けにした。
「……グゥッ……」
苦しげに唸る男は、銃弾が貫通したのか、汚い服の腹部に血がべったりと付いている。
「さ、て……宝石を取り戻すように依頼を受けたらしいな?」
同情の色など全く見せず、社長は男の腹を踏みつける。
「ぐぉあああ!!」
「さっさと宝石を渡せ。貴様は偽の依頼を受け、殺されに来ただけなのだ」
ここに来て、怪盗“鼠”の顔にようやく理解の色が浮かぶ。踊らされていただけだったのだ。
察した鼠は、諦めたように懐に手を突っ込み、ピンク色に輝く宝石を取り出す。苦労して盗み出した宝石も、今はくすんで見えた。
「ンハハハハハハハハ!!まさか数年前に潰した探偵事務所に、生き残りが居るとはな!!ンッハハハハハハハ!!」
高笑いする社長は、首を掻き切るジェスチャーをしようとし、固まった。
男が、自分の高級ブランドのズボンの裾を、汚い手で掴んでいるのだ。
「なんだ……?」
「質問が、あるんだ」
社長は、怒りと呆れと共に、尊敬の念すら感じた。この男の肝の太さ!全く自分の立場を理解していないのか、理解してわざとやっているのか。
そんな社長の逡巡の隙に、男は言葉を紡ぐ。
「アンタ……アンタは、誰かを殺して、後悔したことはあるか?」
「……後悔だと?下らん、そんな事の為に私のズボンを汚したのか」
「いいから、答えろ」
瞬間、社長の背筋が凍りつく。明らかに自分の方が優位に立っている。にも関わらず、仰向けの男の視線は、心臓を鷲掴みにしたような恐怖を与えてくる。
「……後悔など、してはおらぬ。私の道は支配者への道。そこに間違いなどない」
「……」
それを聞いた男の口元に、ニヒルな笑みが広がる。
「貴様ッ、何が可笑しい!?」
「……最期に、もう一つだけ……生きてるのが、嬉しいかい?」
男のその言葉に、社長は虚を突かれたように黙り込む。
社長が答えられないのを感じ、鼠は今度こそ、混じりけのない満面の笑みを浮かべた。
「アンタは俺とおんなじさ。言い訳する為にその口は付いてない」
言うと、男は懐の中、手榴弾のピンを抜いた。
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