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作品ID:25
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約3520文字 読了時間約2分 原稿用紙約5枚
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夢(1)
作品紹介
サイトの運営を継続するか否かを悩んでいた頃の作品(?)。
2008/9/27に執筆。
2008/9/27に執筆。
「ここは、一体……?」
少年が気付くと、そこは白の世界だった。目に映るのは、どこまでも、どこまでも白の景色。目が見えなくなったのかとも思ったが、目を瞑れば、光は遮断され、黒の世界へと変化する。つまり、視力がなくなったのではなく、本当に、今自分がいる場所が真っ白なのだった。
足元に目をやる。そこで、自分が立っているのか、座っているのかさえも分からないことに気が付く。風どころか、大気の流れさえも感じられない。触覚がなくなったのかとも思ったが、腕をつねれば、痛みは確かにあった。
ここがどこなのか。何故こんなところにいるのか。いやそんなことよりも、そもそも自分が何者であったのかが思い出せない。
でも、それでもいいかと思った。不思議と不安もなかった。この真っ白な空間に身体を任せてずっといるのも、悪くないかと思った。
ここでは、時間さえも真っ白で、まったく進んでいないように思えた。先ほど意識が戻ったのも、どれくらい前のことだったのか。ほんの数秒前だった気もするし、もう数時間、いや、もう何年も経ったかのようにも思われた。
突然、自分以外の声が聞こえた。
「――ごめんね、フリード君」
若い男の、少し甲高い声だった。自分は、この声をどこかで聞いたことがある気がした。そしてこの声は、自分を、『フリード』と呼んだ。
「ええと、どなた、でしたっけ?」
自分は名前で呼ばれたのだから、少なくてもこの声の主は、自分のことを知っているのだろう。だから、名前を聞くなど失礼なことだとは思った。けれども、姿かたちも見えないこの白の空間では仕方がない。まだ頭の中もはっきりしないのに、手がかりになるのが声だけというのは、今の自分には難し過ぎた。
「遠藤、といえば、思い出してくれるだろうか」
自分が名前を思い出せなかったことを気にする様子もなく、声の主はそう言った。『遠藤』、その名前も聞き覚えがあった。
確かに自分は、その人を知っている。それも、かなり親しい間柄だった。でも、どうしても、いつ、どこで、どんな風に接していたのかが分からない。いや、そもそも、自分は一体誰なんだ。
「やっぱり、忘れてしまったんだね」
さすがに、その声には寂寥さがまじった。
「でも仕方がないんだ。これも、みんな、――僕のせいだから」
戸惑う少年の様子に気付いているのか分からなかったが、遠藤と名乗るその声は、独白するように話し始めた。
「あれは2005年の、2月の終わりごろ。僕は、ロンバルディア大公国という小説投稿サイトを作ったんだ。名前の由来は、イタリア北部の平原からとった。特に意味はなかったんだけどね。ただ、語呂がよかった」
遠藤は自嘲するように笑った。
「一日に何人かの訪問数だったけれども、それでも作品を投稿してくれる人がいて、僕はそれを読んで、感想や批評を書いていた。あの頃は、主観と客観がごちゃまぜで、『べき論』なんかを偉そうに振り回していたけれど、投稿者さんはみんな、自分の小説を読んでくれたことを感謝してくれていた。僕も、それが嬉しかった」
「でも、投稿作品が増えていって、全部読むのが大変になっていった」
「フリード君、記憶が!?」
遠藤は驚きの声をあげたが、それ以上に驚いたのは少年自身であった。何故自分はそんなことを知っているのか、その理由は思い出せない。けれども、この遠藤という男がいう、ロンバルディア大公国というサイトについては、少年はよく知っていた。
しばらくして、男は続けた。
「その通りだ、フリード君。そもそもその頃は、投稿作品をメールで受け取り、それをホームページ作成ソフトに打ち付けて、サーバーにアップロードして、と、すべて手作業で行っていた。その作業の煩わしさから僕は、自動で作品の投稿や、感想、批評をできるようなシステムの開発に取り組んだ。もともと、プログラミングは好きだったからね」
「でも、それがいけなかった。実際に小説を投稿できる、最低限の機能を満たしたシステムを作り終えても、貴方は、もっともっと多くの機能を取り入れたいと願った」
「ああ。WEBプログラミング言語のPerlをやり、PHPをやり、デザインを一括して変更できるCSSを知れば、今度はそれを取り入れたいと思い、次から次へと、たくさんのものに手を出していった」
「結局、原因不明のエラーでデータが消え始め、手に負えなくなった貴方は、……逃げ出した」
――思い出した。僕の名前はフリード。サイトの作成者であり管理者であった遠藤さんが、プロイセン王国のフリードリヒ二世の名前からとってつけてくれた。そして、小説の書き方講座で僕は、遠藤さんや公爵から作法を学んでいた。けれども遠藤さんは、システム開発の方に力を入れるようになり、僕に小説について教えてくれることがなくなっていった。ううん、遠藤さん自身も、小説と関わらなくなっていた。そして、例のシステムエラーで、たくさんの常連さんや、訪問者さんがいたのにも関わらず、姿をくらましたんだ。
「その通り、だ……」
長い沈黙が流れた。白の空間は、声がなければ、本当に静かだった。
(――そうか。ここは、遠藤さんの思考の中……)
フリードは得心した。ここは、このサイトの起源。すべてはここから始まり、消え去った。そして、今ここに自分がいるということは、おそらく――、
「また、やり直したい、と?」
「うん。でも、どういう形でかは分からない。システムを復旧させるのか、それとも昔のように手作業にするのか。もしくは、純粋な小説サイトとしてやっていくのか」
「それは、投稿サイトではなくする、ということですか?」
「原点に立ち戻って考えてみたいんだ。自分は本当は、何をしたいのかって。もともと僕は、小説を書きたかった。それが漸次、ネット小説を読むのが好きになっていった。そして、感想や批評をして、作者さんに喜んでもらうのが好きになった。システムの開発も、本当はそれを目指したものだったはずなんだ」
それはフリードにも、理にかなったことのように思われた。たくさんのことに手を出していき、結局何がしたいのかが分からなくなった。けれどもそれらはすべて、小説という起源を端にしている。遠藤がその本来の動機に立ち戻ろうとするのも、何ら不思議なことではない。
だがフリードは納得がいかなかった。遠藤のサイト運営のモチベーションが下がったのは、もちろんシステムエラーが一つの原因だろう。たくさんのことに手を出しすぎて、何をしたいのかが分からなくなったこともその一つだろう。しかし、それよりももっと大きな、根本的な問題があるとフリードは感じていた。
遠藤は、そんなフリードを見てつぶやいた。
「ああ、なるほど、そういうことか。――うん。やっぱり、今日、君と話せてよかったよ」
相変わらず姿は見えなかったが、フリードには、遠藤が立ち去ろうとしているのが分かった。
「遠藤さん! 待ってください! 貴方はまた、そうやっていなくなってしまうんですか!」
無意識に、声を荒げて叫んでいた。
「フリード君。僕は、もう、無責任に誰かを期待させるなんてことは、したくないんだよ……」
それきり、声はしなくなった。
白の世界に取り残されたフリードは、ゆっくりと目を閉じ、昔を思い出そうとした。光をさえぎる瞼は、黒の世界へといざない、いくつもの思い出をよみがえらせた。アクセス数がたった二桁なのに、キリ番を取ってもらって喜んでいたこと。初めてカウンターが1000人を超えた時のこと。相互リンクをして頂いたことなどなど。それらは、思い出すたびに、楽しかったり、嬉しかった思い出だと認識できた。けれどもそれらは、「楽しい」、「嬉しい」という感情のカテゴリーで包括されてしまうものに過ぎず、あの生き生きとした感覚を、再び味わうことはできなかった。当たり前のことではあるが、所詮はそれらは記憶であり、感情ではない。記憶は事実を呼び起こせるけれども、感情までよみがえらせることはできないのだ。
そして自分も、記憶としてだけ残り、やがてそれすらも消えてしまうのだろうか。
「でも、僕は――」
フリードは、再び目を開いた。
黒の世界は記憶の塊。けれども白の世界は、これから様々な色を塗っていける。黒も白も、どちらも何も無いように見える。けれども白は、始まりの色。だから僕は、ずっと見ていこうと思う。この、真っ白な世界を。
少年が気付くと、そこは白の世界だった。目に映るのは、どこまでも、どこまでも白の景色。目が見えなくなったのかとも思ったが、目を瞑れば、光は遮断され、黒の世界へと変化する。つまり、視力がなくなったのではなく、本当に、今自分がいる場所が真っ白なのだった。
足元に目をやる。そこで、自分が立っているのか、座っているのかさえも分からないことに気が付く。風どころか、大気の流れさえも感じられない。触覚がなくなったのかとも思ったが、腕をつねれば、痛みは確かにあった。
ここがどこなのか。何故こんなところにいるのか。いやそんなことよりも、そもそも自分が何者であったのかが思い出せない。
でも、それでもいいかと思った。不思議と不安もなかった。この真っ白な空間に身体を任せてずっといるのも、悪くないかと思った。
ここでは、時間さえも真っ白で、まったく進んでいないように思えた。先ほど意識が戻ったのも、どれくらい前のことだったのか。ほんの数秒前だった気もするし、もう数時間、いや、もう何年も経ったかのようにも思われた。
突然、自分以外の声が聞こえた。
「――ごめんね、フリード君」
若い男の、少し甲高い声だった。自分は、この声をどこかで聞いたことがある気がした。そしてこの声は、自分を、『フリード』と呼んだ。
「ええと、どなた、でしたっけ?」
自分は名前で呼ばれたのだから、少なくてもこの声の主は、自分のことを知っているのだろう。だから、名前を聞くなど失礼なことだとは思った。けれども、姿かたちも見えないこの白の空間では仕方がない。まだ頭の中もはっきりしないのに、手がかりになるのが声だけというのは、今の自分には難し過ぎた。
「遠藤、といえば、思い出してくれるだろうか」
自分が名前を思い出せなかったことを気にする様子もなく、声の主はそう言った。『遠藤』、その名前も聞き覚えがあった。
確かに自分は、その人を知っている。それも、かなり親しい間柄だった。でも、どうしても、いつ、どこで、どんな風に接していたのかが分からない。いや、そもそも、自分は一体誰なんだ。
「やっぱり、忘れてしまったんだね」
さすがに、その声には寂寥さがまじった。
「でも仕方がないんだ。これも、みんな、――僕のせいだから」
戸惑う少年の様子に気付いているのか分からなかったが、遠藤と名乗るその声は、独白するように話し始めた。
「あれは2005年の、2月の終わりごろ。僕は、ロンバルディア大公国という小説投稿サイトを作ったんだ。名前の由来は、イタリア北部の平原からとった。特に意味はなかったんだけどね。ただ、語呂がよかった」
遠藤は自嘲するように笑った。
「一日に何人かの訪問数だったけれども、それでも作品を投稿してくれる人がいて、僕はそれを読んで、感想や批評を書いていた。あの頃は、主観と客観がごちゃまぜで、『べき論』なんかを偉そうに振り回していたけれど、投稿者さんはみんな、自分の小説を読んでくれたことを感謝してくれていた。僕も、それが嬉しかった」
「でも、投稿作品が増えていって、全部読むのが大変になっていった」
「フリード君、記憶が!?」
遠藤は驚きの声をあげたが、それ以上に驚いたのは少年自身であった。何故自分はそんなことを知っているのか、その理由は思い出せない。けれども、この遠藤という男がいう、ロンバルディア大公国というサイトについては、少年はよく知っていた。
しばらくして、男は続けた。
「その通りだ、フリード君。そもそもその頃は、投稿作品をメールで受け取り、それをホームページ作成ソフトに打ち付けて、サーバーにアップロードして、と、すべて手作業で行っていた。その作業の煩わしさから僕は、自動で作品の投稿や、感想、批評をできるようなシステムの開発に取り組んだ。もともと、プログラミングは好きだったからね」
「でも、それがいけなかった。実際に小説を投稿できる、最低限の機能を満たしたシステムを作り終えても、貴方は、もっともっと多くの機能を取り入れたいと願った」
「ああ。WEBプログラミング言語のPerlをやり、PHPをやり、デザインを一括して変更できるCSSを知れば、今度はそれを取り入れたいと思い、次から次へと、たくさんのものに手を出していった」
「結局、原因不明のエラーでデータが消え始め、手に負えなくなった貴方は、……逃げ出した」
――思い出した。僕の名前はフリード。サイトの作成者であり管理者であった遠藤さんが、プロイセン王国のフリードリヒ二世の名前からとってつけてくれた。そして、小説の書き方講座で僕は、遠藤さんや公爵から作法を学んでいた。けれども遠藤さんは、システム開発の方に力を入れるようになり、僕に小説について教えてくれることがなくなっていった。ううん、遠藤さん自身も、小説と関わらなくなっていた。そして、例のシステムエラーで、たくさんの常連さんや、訪問者さんがいたのにも関わらず、姿をくらましたんだ。
「その通り、だ……」
長い沈黙が流れた。白の空間は、声がなければ、本当に静かだった。
(――そうか。ここは、遠藤さんの思考の中……)
フリードは得心した。ここは、このサイトの起源。すべてはここから始まり、消え去った。そして、今ここに自分がいるということは、おそらく――、
「また、やり直したい、と?」
「うん。でも、どういう形でかは分からない。システムを復旧させるのか、それとも昔のように手作業にするのか。もしくは、純粋な小説サイトとしてやっていくのか」
「それは、投稿サイトではなくする、ということですか?」
「原点に立ち戻って考えてみたいんだ。自分は本当は、何をしたいのかって。もともと僕は、小説を書きたかった。それが漸次、ネット小説を読むのが好きになっていった。そして、感想や批評をして、作者さんに喜んでもらうのが好きになった。システムの開発も、本当はそれを目指したものだったはずなんだ」
それはフリードにも、理にかなったことのように思われた。たくさんのことに手を出していき、結局何がしたいのかが分からなくなった。けれどもそれらはすべて、小説という起源を端にしている。遠藤がその本来の動機に立ち戻ろうとするのも、何ら不思議なことではない。
だがフリードは納得がいかなかった。遠藤のサイト運営のモチベーションが下がったのは、もちろんシステムエラーが一つの原因だろう。たくさんのことに手を出しすぎて、何をしたいのかが分からなくなったこともその一つだろう。しかし、それよりももっと大きな、根本的な問題があるとフリードは感じていた。
遠藤は、そんなフリードを見てつぶやいた。
「ああ、なるほど、そういうことか。――うん。やっぱり、今日、君と話せてよかったよ」
相変わらず姿は見えなかったが、フリードには、遠藤が立ち去ろうとしているのが分かった。
「遠藤さん! 待ってください! 貴方はまた、そうやっていなくなってしまうんですか!」
無意識に、声を荒げて叫んでいた。
「フリード君。僕は、もう、無責任に誰かを期待させるなんてことは、したくないんだよ……」
それきり、声はしなくなった。
白の世界に取り残されたフリードは、ゆっくりと目を閉じ、昔を思い出そうとした。光をさえぎる瞼は、黒の世界へといざない、いくつもの思い出をよみがえらせた。アクセス数がたった二桁なのに、キリ番を取ってもらって喜んでいたこと。初めてカウンターが1000人を超えた時のこと。相互リンクをして頂いたことなどなど。それらは、思い出すたびに、楽しかったり、嬉しかった思い出だと認識できた。けれどもそれらは、「楽しい」、「嬉しい」という感情のカテゴリーで包括されてしまうものに過ぎず、あの生き生きとした感覚を、再び味わうことはできなかった。当たり前のことではあるが、所詮はそれらは記憶であり、感情ではない。記憶は事実を呼び起こせるけれども、感情までよみがえらせることはできないのだ。
そして自分も、記憶としてだけ残り、やがてそれすらも消えてしまうのだろうか。
「でも、僕は――」
フリードは、再び目を開いた。
黒の世界は記憶の塊。けれども白の世界は、これから様々な色を塗っていける。黒も白も、どちらも何も無いように見える。けれども白は、始まりの色。だから僕は、ずっと見ていこうと思う。この、真っ白な世界を。
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