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作品ID:350
こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約5791文字 読了時間約3分 原稿用紙約8枚
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こちらの作品には、暴力的・グロテスクな表現・内容が含まれています。15歳以下の方、また苦手な方はお戻り下さい。
小説の属性:一般小説 / 未選択 / お気軽感想希望 / 初級者 / R-15 /
欠片の謳
作品紹介
分からないことは、分からない。なぜなら、誰も教えてくれないから。
今回は、Free Spaceさんの協力を経て、俺も一作書かせていただきました。
ある意味、合作のような形ですが、楽しんで貰えたら幸いです。
感想などは、Free Spaceさんのほうにお願いします。
ひとーつ。鮮血が迸る。ふたーつ。体に傷が幾重にも刻み込まれる。みーっつ。思いっきり殴り飛ばす。よーっつ。杭のように腕を体に差し込む。いーつつ。力を溜める。むーっつ。溜めた力を、内部から破裂される。ななーつ。爆ぜた体とハラワタをぶち撒ける。やーっつ。むあっ、と広がる生臭いにおい。ここのーつ。笑う。じゅーう。無邪気に、笑う。くすくす笑う。そして歌う。大好きな歌を歌う。
「………」
あはは…。と最初は笑うしかなかった。非現実過ぎる。何故、こんな狭い路地裏で、こんな夕刻に、こんな生臭い匂いが充満している? 四方は全部雑居ビル。囲まれたこの閉鎖空間で、一体何が行われていた? 無機質なコンクリートの上にぶち撒けられた内臓…?と思われるモノ。壁は血飛沫でデコレーションされ、最早死骸ではなく残骸としか言えないほどぐちゃぐちゃに破壊された何かが捨てられている。それを笑いながら、歌いながら見下げる10代前半の少女の姿。おかしい、何かもかもおかしい。
「ん? おにいさん、どちら様?」
「ひぃ!」
くるりと振り返るその少女の顔は、返り血が飛沫のように飛んでとてつもないことになっていた。少女は少年の顔を確認すると、にっこり笑った。血飛沫さえなければ、一目ぼれすらしそうなほど可愛らしい少女の無垢な笑顔。少女は手にしていた何かを、興味も無さそうに適当に投げ捨てた。
「ん? もしかして表、騒ぎとかなってるの?」
「……」
少年は腰を抜かし、必死に首を横に振りながらずるずると後退しようとする。が、足に力が入らない。少女はてくてくと少年に近付く。そのたびに、血の匂いがきつくなる。思わず顔をしかめる。少女はまた歌いだした。綺麗なソプラノだ。澄んだ声で小さく、歌いながら近付いてくる。
「おにいさん。あたしね、今とってもおなかすいてるの」
「…はっ?」
少年の前で、血塗れの少女は立ち止まり、しゃがむ。目線を同じになった少女は、ちょっと可愛かった。相変わらず、血生臭いし、血塗れだが。それでも、その姿に、自然と少年の視線は釘付けになった。少女はその視線に気付き、ん? と首を傾げた。その姿も、小鳥のようで可愛らしい。ボブカットに血塗れの蒼いジャケットに、蒼いフレアスカート。こちらも血塗れである。髪留めに雲をあしらったもののようだ。ただし、紅い。幼い顔立ちであり、返り血ですら顔の一部のように同化していた。
「おにいさん、お金持ってない? あたし、何か食べたいんだ」
「…金なら、あるけど」
幸い、あちらが会話を望んでいたことが吉とでた。少年は、足に力が入ることを確認した。よし、いつでも逃げられる。しかし。
「おにいさん、あたしから逃げようとしても無駄だよ。すぐに捕まえてあの人みたいになってもらうから」
考えを読んだようにそう言った。にっこり笑い、後ろの残骸を指差す。邪気をまったく感じさせないことが更に恐怖を加速させる。少年はこくこくと反射的に頷いた。
「あたしね、殺したくて殺してるわけじゃないんだよ? 本当だよ?」
ぷくっ、と頬を膨らませて不満そうに言う。これだけなら本当に愛らしい子だな、とふと少年は思った。だが現実に血がついている。それで少年は現実に戻った。
「な、何が言いたんだ…?」
「だから、おにいさん。まるであたしが喜んで殺してるみたいな目で見るから。違うんだよ? あたしは生きるために殺しているだけなんだよ」
…生きるために何かする。此処では当たり前の認識。此処はそういう島だ。生きるために人を騙し、生きるために他人を蹴落とし、生きるために誰かを裏切る。そんな世界だが、生きるために殺す、という認識はおかしい。いくら、常識がないこの場所でも。それは戦場の認識だ。
「そ、そんなこと」
「おにいさん、怯えてるでしょ。分かるよ、今まで何度もそう見られたから。そんな人たちはもうこの世にはいないけどね」
その一言で少年はまた竦み上がる。それは、目撃者を全て殺したというほかならない。殺される、俺は殺されるんだ――
「おにいさん、お金くれたら取り合えず生かしておいてあげるよ? まあ、手足引き千切るくらいはしちゃうけど」
少女は笑顔に戻って言う。やはり、その内容と笑顔に無邪気さが怖い。何でこの少女はこんなに笑っているのだろう?分からない、分からないがこのままでは殺されるのは時間の問題だ。少年は考える。今まで無いほど頭をフルに回転させ、生き残る術を見出す。そして答えをはじき出す。
「おにいさん、聞いてる?」
「…なあ。お前は、腹が減ってるんだよな?」
「ん? そーだよ。一昨日から何も食べてないもん」
「なら、俺がたらふく食わせてやる」
「本当!?」
提案に、思いのほか少女は目を輝かせた。よし、と少年は内心ガッツする。何とか、興味を引かせることに成功した。後は。
「好きなだけ食わせてやる。俺、一応バイトで飲食店で働いてた経験あるから。まずいもんは食わせないって約束する」
「うん! 分かった。じゃあ、おにいさんについていく。ごめんね、脅かしたりして。おにいさん、いい人っぽいから殺さない。守っちゃう!」
少女は嬉しそうに笑った。気のせいか、声も弾んでいる。その様子と血塗れの姿が凄まじい違和感を醸し出す。というかそんな簡単に人をいいのか、と少年は思うが、彼女はどうやら普通じゃなさそう。だから、簡単に信じてもどうとでもなるのだろう。最悪、殺せばいいだけだし。
「…取り合えず、ここから離れよう。警察が来たらキミもヤバいだろ?」
「へ? 警察? 大したことないって。さっさと殺しちゃえばいいんだもん」
「……」
やはり発想からして普通じゃない。こいつは、多分頭がおかしい。どういう環境で育てばこんな性格になるんだろう?
「って言っても殺したこと無いけどね」
「は?」
「最悪、殺せばいいっておもってるだけ。最低限しか、殺さないって決めてる。殺すの、別に好きじゃない」
少女はしれっと言う。その様子に、少年も唖然としてしまった。少女は血塗れの右手で、少年の手を掴む。びくりとしている間に、立ち上がらされる。
「早く行こうよ。どこで食べさせてくれるの? おにいさん、いい人だから、道中変なのに絡まれたら守ってあげる」
「あ、ああ…」
流石にこの見た目で表を歩くのはまずすぎる。少年は犯人の少女を連れてその場を足早にさっていった。
「むぐむぐっ」
「よく食うな…」
その後、時間も随分流れた。少年は自宅に帰っていた。少女は無論、連れてきた。近所の連中に見られたらまずいと思ったが、よく考えたらこんな貧乏層の暮らす家の近くに民家などない。山岳部に近いこの場所の周りは、山と畑。後は舗装されてない道路くらいと街灯くらいだ。。少年はそんな辺鄙な場所に、親戚の管理を任されたオンボロ平屋に一人で住んでいた。部屋だって多すぎて余っているし、一人暮らしには広すぎて掃除もめんどくさい。少年は落ち着いてきて、ようやく本題を切り出す。
「で、お前。何であんな場所で人なんぞ殺した?」
「お金、…むぐっ。奪うため」
少女はがつがつとカレーをがっつきながら答えた。血塗れの服は取り合えず洗濯させた。少女は思ったより家事等はこなせるらしい。今は少年のYシャツと幼少時の半ズボンをどこからか失敬して来て勝手に着ている。少年もこれに関しては裸でいろとも言えないので黙って了承した。
「金? また俗っぽいこと言うんだな」
「だから、説明。した。むぐぐっ。今まで、お金奪って。殺して。むぐっ。そうして生きてきた」
「……お前、両親は? そもそも名前は?」
「知らない。記憶にない。あたし、何でかここにいた。原因、知らない。名前は、眞由」
「まゆ?」
「そう。眞由」
「じゃあ眞由。年は?」
「15ぐらい」
「アバウトだな」
「自分についてはまったく知らない。ただ、外見的にそう判断した」
「あ、そ。じゃ、次だ」
少年は、眞由と名乗った少女につぎつぎ質問を出す。時々カレーを補充されがら、眞由もしっかり答えた。そうして、彼女についてかなり分かった。彼女はいつも金を奪うため、路地裏等で適当に人を襲い、現金を奪い、食物を購入。それを何年も続けていた。基本は野宿だの廃ビルだのに寝泊りしていたらしい。その割りに見た目が綺麗だったのは、殺したときに追い剥ぎしたから。そうしないと、生きていけなかったから。それしか知らなかったから。と彼女は言った。
「眞由。お前、人を殺すことに、躊躇い無いのか?」
「躊躇ってたら、自分が死んじゃう。だから、最初の頃は辛かった。でも、慣れた。そうする事が、当たり前になったら、何とも思わなくなった」
そう、眞由は言った。微塵の後悔もなく。
「……お前」
「おにいさん、名前教えて」
「あ?」
「名前。あたしは眞由。おにいさんは?」
「……粟生野拓也」
「あおの?」
「そう」
粟生野拓也。少年の名はこれだ。17歳、その辺にいる高校生。眞由と合ったのは、学校帰りに特売に間に合わせるために、裏道を通って近道するためだった。
「なあ、眞由?」
「何、拓也君」
「いきなり君呼びか…。まあいいや。お前、これからどうする?」
「別に? ご飯食べさせてもらったから、お洗濯終わったら、帰る」
「帰るって、どこに?」
「あたしに家はない。適当に過ごして、また誰か殺してお金を奪うだけ」
眞由はそう、何とも思わなさそうに言った。当たり前だとでも言うように。彼女は先程これしか生き方を知らないといった。だから続けていくのだろう。これからも。何の疑問も持たずに。
「お前、他の生き方をしたいと思わないのか?」
「思わない。知らないんだもん。他の生き方って」
眞由は、はっきり答えた。そこに迷いはない。
「……眞由、最後にいいか?」
「何、拓也君?」
「お前、幸せか?」
拓也が気になっていたこと。何故、こんな生活を続けていられるのだろう? もう少し、幸せになりたいとは思わないのか?
「…………さぁ? 分かんない。不幸なら、不幸だろうし。幸福なら、幸福だと思うよ? でも、あたしにはどっちか分かんない。何人も殺してきたせいで、そういう感覚もなくなっちゃった。拓也君。拓也君から見て、あたしって不幸? 幸福?」
「……凄い、不幸に見える」
「そっか。なら、不幸なんだね」
また、にっこりと眞由は屈託の無い笑顔で答えた。この少女は、幸せという感情が欠落している――――拓也はそう感じた。そして、同時に何かが湧き上がってきた。元来、拓也は無駄にお節介であり、拒絶されると半分ムキになって助けようとする性格である。それが災いした。
「なら、俺が教えてやるよ。幸せってやつを」
「え?」
眞由が首を傾げた。意味が分からなかったらしい。拓也自身、何を口走っているか理解していない。なのに口は勝手に動く。言葉を紡ぐ。
「眞由。しばらくお前ここにいろ。お前みたいな奴が街にいられたら俺は怖くて登校すら出来ない。だから、お前の身柄は拘束させてもらう」
「……? つまり、あたしにここにいろってこと?」
「ああ」
本来なら通報モノの話だが、相手は歩く物騒眞由である。確かに拓也の言うことも一理ある。彼女がこれ以上、間違った道を進む前に。ストップを掛ける意味でも。
「どうせ行く場所もないんだろ? だったら少しくらい匿ってやる。飯も好きなだけ食わせてやる。だから、これ以上、人を殺すな。生きる道は、殺して奪う以外だけじゃないんだ」
「……」
眞由は少し、思案顔になり。
「分かった」
と、最高の笑顔で答えた。
「あ、拓也君。おかえりー」
拓也が玄関の扉をがらがらとあけると、奥から眞由がぱたぱた走ってきた。相変わらずのその笑顔に、自然と拓也の顔をだらしなくゆるむ。眞由もそれにつられて更に笑顔になった。
「眞由、今日何が食べたい?」
「何でもいいよ? ほら、拓也君のご飯は何でも美味しいから」
「お褒めに預かり光栄です」
あれ以来、眞由はすっかりこの家が気に入ったらしい。一度は出て行ったが、一日したら戻ってきた。それ以降は、誰かを殺したり等、一切していない。そうするまえに、基本ここで食い寝るしているからだ。しかも、ちゃっかり親戚の連中とも仲がよくなっているから驚き。今では公認で半同棲のような形になっていた。普段、拓也が学校とバイト、眞由は家の掃除やらなにやら、その後同じ場所でバイトをするようになった。もう常識もしっかりしており、店の店長から彼女扱いされている。
「拓也君、明日どうしよっか?」
「何が?」
「何って。バイトだよー。あたし、店長がシフト勝手に入れちゃったから。出なきゃいけなんだよ」
「うっわめんどくさ。って俺もまさか」
「うん。はいってる」
「……あぁ。了解。じゃあ行こうか」
「そうだねー。また同伴出勤とか言われそー」
「眞由。店長の戯言に耳貸さなくていいぞ?」
「分かってる。じゃあ、ご飯食べよー」
「はいはい。少しは手伝えや」
「りょうかいー」
今日も、二人の幸せの時間は続く。『欠片』は、ようやく収まる場所を見つけられたのだから。
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