小説鍛錬室
小説投稿室へ運営方針(感想&評価について)
投稿室MENU | 小説一覧 |
住民票一覧 |
ログイン | 住民登録 |
作品ID:586
こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。
文字数約1102文字 読了時間約1分 原稿用紙約2枚
読了ボタン
button design:白銀さん Thanks!※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ブルー・ポイズン」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(209)・読中(5)・読止(0)・一般PV数(911)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし /
ブルー・ポイズン
作品紹介
青い、青い毒。
白い指先が、紫陽花の茎をナメクジが食事する様子のようにしてぬらりと這う。
愛を。
愛を望む女と、マロウブルーの住むティーカップ。
淀む空は、いつまでたっても泣き止まない。
悲しむことなんて何もないのに。
雨宿りの喫茶店でのお話。
白い指先が、紫陽花の茎をナメクジが食事する様子のようにしてぬらりと這う。
愛を。
愛を望む女と、マロウブルーの住むティーカップ。
淀む空は、いつまでたっても泣き止まない。
悲しむことなんて何もないのに。
雨宿りの喫茶店でのお話。
――カロンコロン。
外の天気とはあまり似つかわしくない爽やかなベルの音が響く。マスターはいらっしゃい、とだけ声をかけると、また手元に視線を落とした。カップを拭き続ける作業へと戻る。
店内は薄暗い。ファンが二つ天井で回っているだけで、照明らしい照明は何もついていない。店先で心細く灯っていたランタンの灯と、覆っている窓ガラスから落とされる弱弱しい光だけ。
紅茶を一つ頼むと、静かに窓際の席に腰を下ろす。
外の空気は、雨で湿っている。店先に並んだ紫陽花が、ボロボロと花びらを落として濡れそぼっていくのを眺める。
やがて濃い青色を湛えた紅茶が運ばれてくる。乾いたタオルを一緒に差し出してから、踵を返えして去っていく。
後ろ姿に形式的な礼を言い、手渡されたもので体を拭うことはせず、先にマロウブルーの青を愛でるように眺めてから口に含む。ソーサーにカップを下ろすと、避難がましい目で青の液体がこちらを睨んでいる。
外は水煙が立つくらい激しい雨が降っている。雨音が耳の鼓膜を揺らすと、目を閉じれば透明な水に飲まれている自分が瞼の裏に立っている。想像を止め、また外を眺める。
透明な瞳を灰色の空に向けて、何を思う。脇に飾られた花瓶には、腐った綿あめみたいな紫陽花が三本、切り落とされた首を晒されている。花瓶を指の腹で撫でる。少しずつ上に登っていき、紫陽花の首を這わせ、括られた輪ゴムに触れ、そして指を離す。
茎の触り心地が、ざらついた自分の表面を撫でているようで紫陽花を手折ろうとして力を込めた手を、自身で制す。
切り落とされた紫陽花の断面を、家族の姿と重ねる。滴る雨を血糊に変えて、さっきの情景の記憶と照らし合わせることを幾度も繰り返す。罪の意識を思い出そうと努力する。
冷たいマロウブルー。爽やかな輪切りのレモン。
クエン酸が鮮やかな青を犯し、それは水色にまで堕ちる。
非難の目は強くなる。
これは、人を殺す毒だ。
それを味わって飲むことで、緩やかな死を謳歌する。
「よく似てるのね。あなたたち」
手を伸ばして触れるだけで、死んだ紫陽花の花弁は容易く落ちる。
薄く笑んだ口元で、水色の液体を吸う。
そしてもう一度、硝子越しに煙る水槽を眺める。
「……この美しい毒で溺れて死んでしまいたい」
水槽の中を、赤や黒、紺や半透明らが踊っている。
カチャ、とカップがソーサーに腰を据えるころには、水色の汁は雫を残すだけになっている。
激しかった雨音が遠ざかっていく。水色の毒を余さず飲み乾すころには、店内に誰の姿も見えなくなる。
外の天気とはあまり似つかわしくない爽やかなベルの音が響く。マスターはいらっしゃい、とだけ声をかけると、また手元に視線を落とした。カップを拭き続ける作業へと戻る。
店内は薄暗い。ファンが二つ天井で回っているだけで、照明らしい照明は何もついていない。店先で心細く灯っていたランタンの灯と、覆っている窓ガラスから落とされる弱弱しい光だけ。
紅茶を一つ頼むと、静かに窓際の席に腰を下ろす。
外の空気は、雨で湿っている。店先に並んだ紫陽花が、ボロボロと花びらを落として濡れそぼっていくのを眺める。
やがて濃い青色を湛えた紅茶が運ばれてくる。乾いたタオルを一緒に差し出してから、踵を返えして去っていく。
後ろ姿に形式的な礼を言い、手渡されたもので体を拭うことはせず、先にマロウブルーの青を愛でるように眺めてから口に含む。ソーサーにカップを下ろすと、避難がましい目で青の液体がこちらを睨んでいる。
外は水煙が立つくらい激しい雨が降っている。雨音が耳の鼓膜を揺らすと、目を閉じれば透明な水に飲まれている自分が瞼の裏に立っている。想像を止め、また外を眺める。
透明な瞳を灰色の空に向けて、何を思う。脇に飾られた花瓶には、腐った綿あめみたいな紫陽花が三本、切り落とされた首を晒されている。花瓶を指の腹で撫でる。少しずつ上に登っていき、紫陽花の首を這わせ、括られた輪ゴムに触れ、そして指を離す。
茎の触り心地が、ざらついた自分の表面を撫でているようで紫陽花を手折ろうとして力を込めた手を、自身で制す。
切り落とされた紫陽花の断面を、家族の姿と重ねる。滴る雨を血糊に変えて、さっきの情景の記憶と照らし合わせることを幾度も繰り返す。罪の意識を思い出そうと努力する。
冷たいマロウブルー。爽やかな輪切りのレモン。
クエン酸が鮮やかな青を犯し、それは水色にまで堕ちる。
非難の目は強くなる。
これは、人を殺す毒だ。
それを味わって飲むことで、緩やかな死を謳歌する。
「よく似てるのね。あなたたち」
手を伸ばして触れるだけで、死んだ紫陽花の花弁は容易く落ちる。
薄く笑んだ口元で、水色の液体を吸う。
そしてもう一度、硝子越しに煙る水槽を眺める。
「……この美しい毒で溺れて死んでしまいたい」
水槽の中を、赤や黒、紺や半透明らが踊っている。
カチャ、とカップがソーサーに腰を据えるころには、水色の汁は雫を残すだけになっている。
激しかった雨音が遠ざかっていく。水色の毒を余さず飲み乾すころには、店内に誰の姿も見えなくなる。
後書き
未設定
|
読了ボタン
button design:白銀さん Thanks!読了:小説を読み終えた場合クリックしてください。
読中:小説を読んでいる途中の状態です。小説を開いた場合自動で設定されるため、誤って「読了」「読止」押してしまい、戻したい場合クリックしてください。
読止:小説を最後まで読むのを諦めた場合クリックしてください。
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。
自己評価
感想&批評
作品ID:586投稿室MENU | 小説一覧 |
住民票一覧 |
ログイン | 住民登録 |