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作品ID:588

こちらの作品は、「批評希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約5910文字 読了時間約3分 原稿用紙約8枚


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遠藤 敬之 


小説の属性:一般小説 / 未選択 / 批評希望 / 初級者 / 年齢制限なし /

惑星アルビス物語 続き

作品紹介




漁師たち

時にはW23を伴って、カルはゾーイの家を訪れるのだった。

「やあ、来たね」ゾーイは眩しい笑顔でカルを迎えた。丁度網を仕込んだ所らしく、漁の道具が砂浜に散らばっているのを片付けていたゾーイは、
「先に入ってくつろいでくれ、すぐ済むから」と言った。カルは家に入る前に井戸(これもまた初めて見るものだった)で水をくみ上げて手を洗い、井戸の脇の器に水を汲んで家に入った。こうして少しずつ、ゾーイが教えてくれることを実践しているカルであった。

水は厳重に水質を管理され、複雑なルートを経て家に常備されているものだとしか認識していなかったカルは、ゾーイから、恐らく他のアルビス人の殆どが知らないことをどんどん学んでいったのだ。

台所に水を置くと、カルはキールの準備をした。
傍らでカルの行動をつぶさに見ているW23は、カルが色々なことを覚え、カル自身の力で出来るようになるのが嬉しくて仕方ないようだ。
勿論カルの身の回りの世話を今までのようにあれこれしてくれているW23である。しかし、カル自身、今までの自分ならしようとさえ考えなかったことを出来るようになるのがただ嬉しかった。

「お待たせ」ゾーイが砂を払って家に入るとカルはキールを青いガラスのコップに入れてテーブルに置き、居心地の良い椅子に満足げな猫のように収まっていた。
「これじゃあどっちが家のあるじか分からないなあ」ゾーイが笑うとW23が
「どこにいらしてもカルさまがご主人でらっしゃいますから…」と澄まして答える。

まだ東にあるアムニスの朝の日差しは強めだが、キールの生るアナナスや竹の植えられたゾーイの家はむしろ涼しいくらいであった。

ゾーイはキールを飲むと言った。

「今日は漁師たちの話をしようか。俺たち漁師は、実は…「生き残りの子孫」と呼ばれているんだ。勿論、例のコールドスリープのさ。他のアルビス人と違うのはそれでだというのが、俺たちの間では定説になっている。もっともこういう話は」カルを見てウィンクをしゾーイはおどけたように言う、
「外部に漏らしたりはしないがね」
「もちろん、僕、何があっても誰にも言わないよ」自分を信じてほしいという気持ちを滲ませているカルの様子にゾーイは笑って、
「それは信じているさ。まあそれが代々、漁師たちの間で語り継がれてきた物語の一つなんだ。」

「一種の噂話みたいなものかな。でも俺たち漁師には「アムニスの日」の慣習も無いし、「知識」の身に着け方も他のアルビス人とはずいぶん違う。俺たちのことは一般に殆ど知られていない。カルはそのことをどう思うね?以前、伴侶は居ないのか、と俺に聞いただろう。この話と関係ある気がしないかい?」

カルは考えてみた。
「要するに…科学者たちは、コールドスリープで地球からやってきた人たちの子孫を特別に…なんていうんだろう…「見ている」っていうことかな」
ゾーイはうなずいた。
「俺たちが「500年前の人間の子孫」であるという事が、彼らには何か意味を持つらしいんだ。宇宙船で代替わりした人間と、俺たちとは何か違うのではないか。そう科学者たちは考えたんだろう。俺も同じ意見さ。俺たちは他のアルビス人とは何か違うと思う。それと、これは単なる戯言かもしれないが、もしかしたら、アルビスが「整いすぎた星」であることと関係付けられるとしたらどうだい。その謎を解いてみたいと思わないか?」

カルは目を輝かせながらゾーイの話に聞きいっていた。話が終わると彼は言った。

「僕、ゾーイと一緒にその謎を解いてみたいよ」
そんな訳で、ゾーイとカルは学びながら「調べること」を始めたのである。

カルは惑星アルビスの事を少しずつ知るにはどうすれば良いか考えた。
今まで気づかなかったのが不思議な位、外出している子供が少ないこのノットゥルノの別荘地の浜辺なら、誰かに邪魔されることなく調べられるとカルは考えた。

海に関しては、ゾーイはカルの「偉大な」教師であった…漁に関する知識と同時に海について、カルはゾーイから様々なことを教わった。
海は穏やかなアルビスの天候の中でも幾つかの変化があること、その顕著なものは沖合で主に見られること、渦潮や無人島のことなど、自宅で習うことの出来ない事柄を知ることが出来た。

「調査」自体には幾つかの制約がある。図書館で調べものをするにも履歴を残さずに資料を見ることは不可能なのだ。ゾーイ以外の誰かから話を聞くのもいけない。結局、自分の住む周辺の海と海岸を調べる位しか出来そうにもないな、とカルは苦笑した。

数か月にわたる「調査」の結果、波打ち際に生存する生き物の種類が余り多くないこと、そして海の状態がまるで人工であるかのように極端な変化を持たないのを知った。ゾーイから聞いた嵐の時の海の様子などは全く映像化も文書化もされていないのだ。「知られざる海の変化の差」にアルビスの謎がありそうな気がした。

海は広い。アルビスの約八割近くが海だ。この点は、古代地球の七割近くの海と大差ない。しかし地球の方は、海はもっと複雑なものだったらしい…
詳しくはゾーイでさえ知らないようだったから、カルに分からないのは無理も無かった。問題はアルビスの海である。

海に船を出すことは一般人には禁じられていた。
船を出すには、漁師で無い場合、「生産省」の許可が必要だったのである。カルは久しぶりに首都コハンの父を訪ねて、専攻学科である海洋生物学を進めるため、実際に海に出る必要があるという話をした。
一般人であっても、管理官とその家族には「融通」が利くのは事実である。

漁師が漁業に使う船は古い地球型のモーターで動く中くらいの漁船が主だった。その漁船を操縦士ごと借りれば船出は可能となる。

カルの父コッホは海洋局の友人に頼んで息子のために船を出す許可を取ってくれたので、カルは無事、海に出られることになった。

最初の船出はゾーイと共であったカルだが、船出を重ねるうち、ゾーイの友達である漁師とも交流し、様々な海洋調査を行えるようになった。徐々に船出の距離を伸ばして行き、数年のうちには大海洋にまで出るようにもなった。

陸地から大海洋まで六時間の距離であったが、そこから先には漁師たちでも滅多に出かけないのだ。海岸から大海洋までの海を、カルはつぶさに調べていった。海と海洋物と無人島を根気良く調査することで、カルはアルビスの海の真実に近づいていったのである。

打ち明け話

カルが海に出るようになって三年目のある日のこと。
朝食をしたためたカルが庭に出て海の見えるいつもの景色を眺めていると、W23がいつの間にか横に控えていた。13歳になったカルの腰の高さにも満たないW23だったが、その態度は昔と変わらず謙虚でそしてある種の威厳のようなものに満ちているようだった。

「お早う、W!」カルが挨拶すると、W23は恭しくお辞儀をして(回転する足で数歩下がって円形の頭を前に傾けただけだったが)こう告げた。

「カルさま、今日はどこにもお出かけにならないのでしょう?」カルが肯定するとW23は態度をやや改めた。
「実は、大事なお話があるのですが…」

カルは驚きと共にW23を見つめた。カルのため存在しているかのようなこのロボットは、カルに何かを「頼む」ことなど今まで一度もなかったからだ。
驚きの波がすぐに静まると、カルは自然にW23が本当に大事な話をするのだという確信を持った。そして答えた。
「それじゃあゾーイの家の方にでも散歩しようか」

いつものようにカルの左側にW23は寄り添い、主人の様子をうかがいながら快適であるかどうか気を配った。カルはいつもよりやや上の空であった。いつW23は話を切り出すつもりなのか気になったからだ。

道沿いの少し小高い丘のようになっている場所に、腰かけるのに最適な木の切り株があった。カルはそこに腰を下ろし、無言でW23が話をするのを促した。

W23はカルに打ち明けた。カルが使っていた学習用パーソナルコンピュータのプログラムの一部が、一般に出回っているものと少し違っていることを。話し終えると、カルの反応を待ちながらW23は黙っていた。

「そうだったのか、僕が今まで学んでいたのは…普通のプログラムじゃなかったんだね…」
「はい、カルさま。私は貴方なら…きっとこの星で何が起こっているのか調べて考え…問題を解決する道を探し出せると思ったのです。貴方ならきっと…」

カルはそう聞くと、確かにそうだったのだと納得がいった。学習を重ねるうち、みんなこのことをどう考えているんだろうとたびたび疑問を感じることがあったからである。くわえて学習の進み具合も、別荘で出会う他の子供たちより幾分進んでいるように思うこともあった。

「W、君は一体なにものなの?」

「カルさま、私は家事労働ロボットですが…ご存じのように私の頭脳はA.Iです。そして私のA.Iの中に、このプログラムを然るべき子供に学習させよ、という「使命」があるのです…今申し上げられるのはそれだけです…」

カルはうなずいた。

W23とそんなやり取りをしてからもカルの調査は今まで通り続いている。その記録はまとめて「紙」に残し、ゾーイが無人島の一つに隠していた。

もっと知識が欲しいこのごろのカルである。科学の勉強は基礎的なことしか習っていない。しかしこの国では科学の知識も、科学者一族がその知識の殆どを握っていたので、一般市民が持つ科学の知識はたかがしれていた。むろん彼ら科学者たちの知識は国のために役立てられてはいた。しかし一般人には科学は無用という理屈があっさりとまかり通っていたのである。

カルはたまにその点についての不満を口にすることがあった。ゾーイはそんなカルの焦りを軽くいなすように、こう言うのが常だった。
「大丈夫、これだけの資料があるんだ、いつかきっとこの資料を役立てられる日がくるさ」

そうゾーイに諭されると、気持ちばかり焦る自分が子供っぽく思えて恥じらいを感じるカルであった。

しかしこの日は違っていた。島に上陸してある貝を調べている時、温度と成長の関連性を決定付ける決め手に欠けていたのを、カルが少しボヤいていると、ゾーイは言った。

「そうさな、設備は無理だが…器具を使うことが出来るようになるかもしれない…」カルが驚いてゾーイを見やるとゾーイは続けた。

「もうそろそろ、カル、お前さんに教えても良いころだと思うんだが…」ゾーイがそれきり黙りこんでしまったのでカルは尋ねた。

「僕に言いにくいことなの?」

「そうだな…でも言わなければならないことだから、言うことにするよ」

そしてゾーイは話し始めたのだった。

出会った時、アムニスの日の話をしたのを覚えているかい?あれから三年か…。カルは随分と成長したな。身体も気持ちもだ。だから言うんだが…

まあ聞いてくれ。アルビス人の、大人に会ったことはあるかい?俺のような、20歳過ぎの大人たちにだ。あるって?そうだよな。カルの家族もここの別荘地の連中もだが…週末になれば大人が大勢いる。

首都ではどうだい?あそこには大人がたくさんいたろう。キールの管理に携わる大勢の人間。ビジュアルディスプレイでお目にかかる政治家や科学者や…国主もだろうが…他はどうだい?…漁師以外には居ないんじゃないか、そうだろう。

カル、アルビスには、子供と働き盛りの大人と年配者はいるが、公表されている人口分布図と実際の人口とにずれがあるんだ。
アルビスの大人たちは『歳を取らない』んだ。
カルは笑った。
「別荘地のお年寄りはどうなの?あの人たちは歳を取ったんじゃないの?」

「そうだな、あの人たちは、あれは…『人間ではない』んだよ。一定の時期が来るといつの間にか居なくなってどこかで顔だけすげ替えられて再び別荘に来て別人として暮らしてるんだ。分かるかい?

カル、大いに困惑する

カルは茫然としていた。
ゾーイの話に衝撃を受けたカルに、更なる「事実」が待っていた。

「カル。年配者たちはアンドロイドだ。「大人」はいわゆる中年という世代が殆どだ、政府の人間と科学者などを除くとな…それはなぜだと思う?」

カルは沈黙していた。別荘に居る自分たち子供…そして主にコハンにいる大人たち。そういえば、コハンでもゾーイ位の若者を見かけることは滅多に無い。初めて気づいたその事実にカルはショックを受けた…。

「二十歳になったら…アルビス人はどこかに行くということ…?そして…僕たちの親の世代のひとはそこそこいるのなら…それなら、四十代から…七十歳位までの人たちはいったい…」

カルは絶句してしまった。奇妙過ぎる現実。訳が分からない、おかしな話だ。でもいくら考えても答えなど出そうにない。

ゾーイはカルをいたわるように、しかしはっきりと言った。

「ゾーイ、君たちの親というのは…「本当の」親ではないんだ。管理者たちは子供を産まない。君たち子供の保護者である、というだけだ。キールの生産に携わる管理者以外のカイエス人は総人口の四割弱…その連中は、ただ、さまざまな労働をするためにだけ生まれそして死んでいくんだ。これも皮肉だが…世襲制と言えるだろうね。そして彼らに出来ない作業はロボットが補っているのは知っているだろう?」

「そんなのおかしいよ!」カルは思わず叫んだ。「僕は父さんと母さんの子供だ…生まれた時から今までのヴィジュアルデータだってちゃんとある。僕は…僕は人間だ…僕はアルビス人だよ。そうでしょう。本当の親ではないってどういうことなの?」

「カル、落ち着いて聞いてくれ。君の、君たちの『親』は、今のご両親ではないんだ。…五百年前から数百年かけて、科学者たちが作り上げた最高の遺伝子を持つ十二組の男女が君たちの親だ。…正確に言うと、その十二人の遺した遺伝子のいずれかが『君たちの親』なんだ…君たちはその遺伝子を受け継いでいるんだ」

茫然とするカルにゾーイはそれ以上は付け加えなかった。

後書き

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作者 nekobun
投稿日:2016/10/09 15:49:16
更新日:2016/10/09 21:03:49
『惑星アルビス物語 続き』の著作権は、すべて作者 nekobun様に属します。
HP『星空文庫

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