作品ID:103
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炎に従う〈はずの〉召喚獣
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
存在消滅。
前の話 | 目次 | 次の話 |
自分が生まれたときなど覚えているはずもない。
実際、自分は覚えていない。
ただ周りには空虚と暗闇しかなかったと覚えているだけで。
あたりが暗くなってどれぐらい経つだろう? 無意味に破壊と再生を繰り返す自分はもう止められないのか。自分を止めてくれる人は居ないのか。
自分の存在が消滅する。
消滅すると決めたはずなのに。その覚悟を抱いたはずなのに。
結局、自分は元々抱いていた覚悟を捨てきれない。
人を信じる覚悟を捨てきれない。
「フェクト。大丈夫。壊してもいいよ」
聞き覚えがある声を耳にし、暗くなった視界に光がさしたような気がした。
それは暗いのに慣れてしまった目にはまぶしすぎる光だった。
だけど。
〈どこか、心地よい〉
自分は促されるまま、好きなだけ破壊を繰り返した。
ただ、声をかけてくれた少女と少女の周りに居る人たちだけは傷つけずに。
眠りにつくと夢を見る。必ずだ。
今日の夢はとても心地悪かった。
「フェクト。いい? フェクトはこれからフェクトタクティスっていう名前を背負って生きていくの」
姉だ。姉が自分に問い掛ける。
声は自分の睡魔を誘い、自分の両手を固く握る姉の手は冷たく、自分に此処が現実だと知らしめる。
「私とフェクトは別なの」
やめて。言わないで。その先を知っている自分はそう切に願う。
「私に近づかないで」
裏切られる。家族である事を否定された悲しみ。寂しい。どうして? どうして姉までも自分のところから離れていく? 自分がもっと姉だけでも護れるだけ強くなれればいいのか?
去っていく姉の後姿を見ることも嫌になり、視線を下に向ける。
そして上へとあげる。
目を見張った。
其処には何にもなかった。
空があるはずの其処には何もなかった。
空虚と暗闇が支配する空を見上げ、自分は言った。
「もう見たくない」
こんな光景はもう見たくない。
起き上がる。横になっていたベッドが軋む。
周りを見る。首を左右、上下。誰も居ない事を確かめるとゆっくりとベッドから足を下ろす。カーペットに両足をつけれたことに安心して立ち上がる。
「良かった。まだ間に合った」
あの時、自分は暴走してしまった。召喚獣専門の医師に言わせてみれば「エネルギーの消費、もしくはストレス発散のため暴走した」らしい。
エネルギーの消費は召喚獣にとって致命的な問題だ。
召喚獣は無尽蔵にその力を使えるわけではない。
万能じゃない召喚獣。
それが全ての人間の根源である。
暴走した自分を抑えたのは、キュリスとオーティス、スカラ。
オーティスがその場に居たことに驚いたがスカラが居た事にはもっと驚いた。
ありえないことだった。
キュリスはともかくスカラはエネルギー面で自分に劣る。だがその集中力でスカラは自分に挑んだのだろう。
〈……スカラはもう、いいか〉
今まではスカラの能力を自分が伸ばしてきていた、そう思っていた。
違ったんだ。スカラは自分が教えてきたことを自分の力とし、能力を伸ばしてきた。
〈オーティスはまだ様子見だな〉
オーティスは動物と召喚獣を組み合わせた変異種である。変異種であるオーティスの力は全力を出したところは見たことがないが、少なくとも街ひとつ滅ぼしたところで収まるような力ではないだろう。
だがそれだけ強い力を制御する事は難しい。その制御をいとも簡単にこなすオーティスがもっと恐ろしい。
〈キュリス、か〉
実のところ。自分の悩みの種はキュリスという少女にあった。
別に彼女が自分に寄せる感情に気づかなかったわけではない。
ただ、気づきたくなかっただけだ。
もう大切な人はつくりたくはないから。
「はぁ。でもしょうがないか」
この身はキュリスに助けられた。勿論、オーティスにもスカラにも。
彼女たちに恩を返すのは当たり前の事である。
だから。
「ハツカ。御免。やっぱり俺、帰るよ」
自分はもう此処には居られない。
此処に居ればまた暴走したとき、皆が助けてくれると甘えてしまう。
そして、キュリスという存在に自分が吸い込まれてしまう。
「有難う」
窓を開ける。風がない空気は自分の心を表しているようで。
部屋に向かって言い放つ。
「まずは……スカラ。もう俺が居なくても大丈夫。スカラはこれからは一人で、いいや。たまにはキュリスたちに会えばいい。そしてそこで何かを知る。これが俺から出す最後の宿題」
スカラタクティス。天候を自在に操れる少女は自分よりも優れた集中力と命中力を持っていた。
「オーティス。オーティスはここに居てくれ。何かあったら困る。キュリスもスカラも。できることなら、此処にとどまり護って欲しい。それが俺にはできない。オーティスにしかできない」
オーティスタクティス。動物と召喚獣の変異種の彼女は自分よりも優れた攻撃力を持っていた。防御力に劣るその力は攻撃をもって補っている。
彼女にしかできないことを成してもらう。
「キュリス。もしかして俺は気づいていて、気づきたくなかっただけなのかもしれない。いいや。それだけだった。キュリスの想いに大して何かを抱くとかなかった。本当はダメだったのに」
俯く。だがすぐに顔を上げる。
自分にとある想いを抱いてくれているキュリスタクティス。
彼女はスカラもオーティスも他の召喚獣も纏めるリーダーとなれるはず。
「ネオ。また遊ぼうって約束、果たせないけれどこれだけは置いていく」
部屋に置かれた木製のテーブルの上に置かれた手紙。
ネオに宛てた手紙。
「楽しかった。だから俺は消える。これは俺の独断。もしかしたら皆は怒るかもしれない。ううん。怒るほうがもっともなんだ。だから俺は何も言わないで消える。此処での思い出をなくしたくないから」
窓に足をかける。
能力解放。モード、飛行。
俺は此処での思い出をなくしたくない。もしも俺が消えると皆に言えば、皆は断固拒否するだろう? だから、何も言わないで消える。思い出を壊したくないから。
「有難う」
そういい残し、窓にかけた足に力を入れる。外へと飛び立つ。
背中に生えたエネルギーの翼が羽ばたく。
炎エネルギーでできた翼が羽ばたくたび、火の粉が舞う。
一束の自分の髪が火の粉に触れ、燃えていた。
後、その火の粉は今まで自分の部屋だった場所に流れ込んでいく。
綺麗すぎた。
フェクトタクティスという存在が居た部屋が綺麗になくなっていた。
実際、自分は覚えていない。
ただ周りには空虚と暗闇しかなかったと覚えているだけで。
あたりが暗くなってどれぐらい経つだろう? 無意味に破壊と再生を繰り返す自分はもう止められないのか。自分を止めてくれる人は居ないのか。
自分の存在が消滅する。
消滅すると決めたはずなのに。その覚悟を抱いたはずなのに。
結局、自分は元々抱いていた覚悟を捨てきれない。
人を信じる覚悟を捨てきれない。
「フェクト。大丈夫。壊してもいいよ」
聞き覚えがある声を耳にし、暗くなった視界に光がさしたような気がした。
それは暗いのに慣れてしまった目にはまぶしすぎる光だった。
だけど。
〈どこか、心地よい〉
自分は促されるまま、好きなだけ破壊を繰り返した。
ただ、声をかけてくれた少女と少女の周りに居る人たちだけは傷つけずに。
眠りにつくと夢を見る。必ずだ。
今日の夢はとても心地悪かった。
「フェクト。いい? フェクトはこれからフェクトタクティスっていう名前を背負って生きていくの」
姉だ。姉が自分に問い掛ける。
声は自分の睡魔を誘い、自分の両手を固く握る姉の手は冷たく、自分に此処が現実だと知らしめる。
「私とフェクトは別なの」
やめて。言わないで。その先を知っている自分はそう切に願う。
「私に近づかないで」
裏切られる。家族である事を否定された悲しみ。寂しい。どうして? どうして姉までも自分のところから離れていく? 自分がもっと姉だけでも護れるだけ強くなれればいいのか?
去っていく姉の後姿を見ることも嫌になり、視線を下に向ける。
そして上へとあげる。
目を見張った。
其処には何にもなかった。
空があるはずの其処には何もなかった。
空虚と暗闇が支配する空を見上げ、自分は言った。
「もう見たくない」
こんな光景はもう見たくない。
起き上がる。横になっていたベッドが軋む。
周りを見る。首を左右、上下。誰も居ない事を確かめるとゆっくりとベッドから足を下ろす。カーペットに両足をつけれたことに安心して立ち上がる。
「良かった。まだ間に合った」
あの時、自分は暴走してしまった。召喚獣専門の医師に言わせてみれば「エネルギーの消費、もしくはストレス発散のため暴走した」らしい。
エネルギーの消費は召喚獣にとって致命的な問題だ。
召喚獣は無尽蔵にその力を使えるわけではない。
万能じゃない召喚獣。
それが全ての人間の根源である。
暴走した自分を抑えたのは、キュリスとオーティス、スカラ。
オーティスがその場に居たことに驚いたがスカラが居た事にはもっと驚いた。
ありえないことだった。
キュリスはともかくスカラはエネルギー面で自分に劣る。だがその集中力でスカラは自分に挑んだのだろう。
〈……スカラはもう、いいか〉
今まではスカラの能力を自分が伸ばしてきていた、そう思っていた。
違ったんだ。スカラは自分が教えてきたことを自分の力とし、能力を伸ばしてきた。
〈オーティスはまだ様子見だな〉
オーティスは動物と召喚獣を組み合わせた変異種である。変異種であるオーティスの力は全力を出したところは見たことがないが、少なくとも街ひとつ滅ぼしたところで収まるような力ではないだろう。
だがそれだけ強い力を制御する事は難しい。その制御をいとも簡単にこなすオーティスがもっと恐ろしい。
〈キュリス、か〉
実のところ。自分の悩みの種はキュリスという少女にあった。
別に彼女が自分に寄せる感情に気づかなかったわけではない。
ただ、気づきたくなかっただけだ。
もう大切な人はつくりたくはないから。
「はぁ。でもしょうがないか」
この身はキュリスに助けられた。勿論、オーティスにもスカラにも。
彼女たちに恩を返すのは当たり前の事である。
だから。
「ハツカ。御免。やっぱり俺、帰るよ」
自分はもう此処には居られない。
此処に居ればまた暴走したとき、皆が助けてくれると甘えてしまう。
そして、キュリスという存在に自分が吸い込まれてしまう。
「有難う」
窓を開ける。風がない空気は自分の心を表しているようで。
部屋に向かって言い放つ。
「まずは……スカラ。もう俺が居なくても大丈夫。スカラはこれからは一人で、いいや。たまにはキュリスたちに会えばいい。そしてそこで何かを知る。これが俺から出す最後の宿題」
スカラタクティス。天候を自在に操れる少女は自分よりも優れた集中力と命中力を持っていた。
「オーティス。オーティスはここに居てくれ。何かあったら困る。キュリスもスカラも。できることなら、此処にとどまり護って欲しい。それが俺にはできない。オーティスにしかできない」
オーティスタクティス。動物と召喚獣の変異種の彼女は自分よりも優れた攻撃力を持っていた。防御力に劣るその力は攻撃をもって補っている。
彼女にしかできないことを成してもらう。
「キュリス。もしかして俺は気づいていて、気づきたくなかっただけなのかもしれない。いいや。それだけだった。キュリスの想いに大して何かを抱くとかなかった。本当はダメだったのに」
俯く。だがすぐに顔を上げる。
自分にとある想いを抱いてくれているキュリスタクティス。
彼女はスカラもオーティスも他の召喚獣も纏めるリーダーとなれるはず。
「ネオ。また遊ぼうって約束、果たせないけれどこれだけは置いていく」
部屋に置かれた木製のテーブルの上に置かれた手紙。
ネオに宛てた手紙。
「楽しかった。だから俺は消える。これは俺の独断。もしかしたら皆は怒るかもしれない。ううん。怒るほうがもっともなんだ。だから俺は何も言わないで消える。此処での思い出をなくしたくないから」
窓に足をかける。
能力解放。モード、飛行。
俺は此処での思い出をなくしたくない。もしも俺が消えると皆に言えば、皆は断固拒否するだろう? だから、何も言わないで消える。思い出を壊したくないから。
「有難う」
そういい残し、窓にかけた足に力を入れる。外へと飛び立つ。
背中に生えたエネルギーの翼が羽ばたく。
炎エネルギーでできた翼が羽ばたくたび、火の粉が舞う。
一束の自分の髪が火の粉に触れ、燃えていた。
後、その火の粉は今まで自分の部屋だった場所に流れ込んでいく。
綺麗すぎた。
フェクトタクティスという存在が居た部屋が綺麗になくなっていた。
後書き
作者:フェクト |
投稿日:2010/01/04 18:42 更新日:2010/01/04 18:42 『炎に従う〈はずの〉召喚獣』の著作権は、すべて作者 フェクト様に属します。 |
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