作品ID:1296
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(67)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(364)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第一章「ベッカルト村」:第10話「元の世界のこと、この世界のこと」
前の話 | 目次 | 次の話 |
第10話「元の世界のこと、この世界のこと」
夕食を食べ終わるとこの世界ではすることが無い。
後は寝るだけなのだが、今日は昼まで寝ていたため、横になってもなかなか寝付けない。
こういう時はいろいろなことが頭に浮かんでくる。
今日でこの世界に来て四日。昨日までは怒涛の三日間だった。
初日は見知らぬ森を彷徨った挙句、見たこともない生き物と戦い、ようやく人間に出会えたが、言葉が通じない。そして、夜には訳の判らないスキルの設定なんてものもあった。
次の日はコミュニケーションがとれたと思ったら、いきなりけが人の治療。それも元の世界ならおとぎ話にしか出てこない魔法を使ってだ。
そして、三日目はお産の手伝い。産婦人科医でもなく、自分に子供もいない俺が医療技術の低いこの世界で出産に立ち会うとは思ってもみなかった。
元の世界でもこんなにハードな日々を過ごしたことはなかった。
元の世界の俺、高山大河は、関東の地方都市の出身で両親と兄(大海:ひろみ)、妹(大空:そら)の三人兄弟の真中の次男坊だった。
父親は中堅ゼネコンの技師でほとんど家にいなかったが、家庭が荒れることもなく、ごく平凡な家庭だったと思う。
大学も地方の三流大学の工学系学部で、就活戦線を無事潜り抜け、ようやく就職したばかりのごく普通の新入社員だった。
就活では嫌なことも色々あったが、大学生活はごく普通だったし、就職後もブラック企業ほどではないが、こき使われはした。だが、こんなに波乱万丈な日々を過ごしたことはない。
考える時間ができ、元の世界のことをつい考えてしまうが、もう元の世界に帰れないとこの世界の神様らしき存在に言われた気がしていた。
(家族はさぞ心配しているんだろうな)
今頃、警察に捜索願が出ていて事件になっているかもしれない。まあ、行方不明者は全国でかなりの数がいるから、事件にはなっていないかもしれないが、事故の線で山狩りなどをやっているかもしれない。
急に両親や兄妹に会いたくなり、忘れていた家族への想いが込み上げてきた。
(目の奥がジンときている。ホームシックってやつかな)
いろいろなことが頭の中でぐるぐる回っていたが、疲れが溜まっていたのか、知らない間に眠っていた。
ここは大河の実家、高山家。
父親が警察から戻り、母、長男、長女とともにリビングのテーブルを囲む。
父は警察で聞いてきた情報を一つ一つ家族に説明していく。
「結論から言うと全く情報が無い。警察犬を使った捜査までしてくれたみたいだが、匂いはあの場所からどこにも行っていないと言っていた。別の車に乗り込んだか、空を飛んでいったとしか思えないそうだ」
何が起こっているのか判らない苛立ちを無理やり押し込め、更に説明を続けていく。
「大河がいなくなった場所の近くにある防災用のカメラや旧道の出入口にある防犯カメラも確認したそうだが、大河の車以外、一台も出入りしていないそうだ。山狩りの結果も崖から落ちた形跡もないし、全く手掛かりは無かったそうだ」
彼は力なくそう言うと、テーブルに肘をつき、視線を落としてしまった。
妹の大空(そら)が「たい兄が失踪するなんて……。会社とか、その工場とかに手掛かりはなかったの?」と父に詰め寄る。
「特に失踪しそうなことは何もないそうだ。納品の遅れの件もその日の内に会社に入れれば問題なかったそうだし、大河もほっとしていたそうだ。工場の方も何も手掛かりはない。ただ、あの辺りは神隠しの伝説があるそうで何百年かに一回、人が消えるという話が伝わっているそうだが……」
父は神隠しという荒唐無稽の話を出すことに躊躇いを覚えていたが、聞いた話は包み隠さず話そうと、その話も皆にしたのだった。
リビングを沈黙が支配する。
重苦しい空気を払うかのように兄の大海(ひろみ)が沈黙を破った。
「神隠しか……。本当にそんな感じだよな。で、その伝説ではいなくなった人がどうなったかっていう結末はなかったのか?」
「帰ってきたという話はないそうだ。ただ……」
「ただ?」
これを話していいのか悩みながら、「ただ、何年かした後、親しいものの夢枕に立つことがあるそうだ。言い伝えでは異邦の地で亡くなり、魂が帰ってきたという話だそうだが……」と静かに告げた。
再び、沈黙がその場を支配した。だが、その後は誰も口を利かず、重苦しい空気だけが高山家を覆っていた。
翌朝、昨夜のホームシックのことを打ち払うかのように、俺はこの世界で生きるため、本格的にギルの狩りの手伝いをし始めた。
ギルには山の歩き方、獲物への近付き方、ナイフの使い方など役に立つことをたくさん教えてもらう。
狩りの帰り道など少し余裕があるときは、歩きながらこの世界の常識も教えてもらった。
まず、この村はベッカルト村といい、大陸(名前を聞いたら、大陸に名前なんかあるのかと逆に聞かれた)の西部域中央にあるドライセン王国にある。
この辺りは、王国南部に位置するゴスラー男爵領にあたるそうだ。
ベッカルト村に一番近い町はゴスラー男爵領の中心地ゴスラー市だが、人口4千人程度とあまり大きな街ではない。
ちなみにベッカルト村は人口五十人くらいで、このあたりでもかなり小さな村だそうだ。
ギル自身もゴスラーまでしか行ったことがないので、行商人から話を聞く程度の知識しかなく、地理にはあまり詳しくない。ちなみに夜空に浮かぶ月も元の世界と同じく一つで大きさや模様も似ている。
この世界の一年は三六五日で十二カ月、一日は二十四時間、一時間は六十分三千六百秒、但し、秒は大きな町には秒を計れる時計があるそうだが、普通は感覚的なもののようだ。
正午は午後〇時と元の世界と同じ。
今日の日付を聞いてみると、西方暦一二九九年、花の月(五月)、第五週の水の曜(二十四日)だそうだ。
月は一月から、雪の月、氷の月、水の月、土の月、花の月、光の月、葉の月、火の月、金の月、空の月、霜の月、風の月だそうで、曜日は日、火、風、水、土の五曜からなり、
一ヶ月は六週間三〇日になる。半端の五日間は、冬至、春分、夏至、秋分、冬至の前日が特別な日として月には入らない。
度量衡はマイル、ヤード、フィート、インチ、ポンドなどでメートルグラムなどのSI単位は使っていない。
通貨は、金貨(G)、銀貨(S)、銅貨(C)を使っており、一応各国共通で使えるそうだ。一G=百S=一万Cで聞いた感じでは一銅貨(C)が十円くらい、一銀貨(S)が千円、一金貨(G)が十万円くらい、金貨十枚分に相当する白金貨、金貨の半分の価値に相当する半金貨、銀貨の十分の一の価値に相当する小銀貨というものもあるそうだ。
ギルの月収は平均で二Gくらいに相当し、村では割と余裕がある方だそうだ。
但し、村の中では物々交換が多く、現金のやりとりは行商人とするくらいとのことだ。
この世界には、人間以外にエルフ、ドワーフ、獣人、竜人が住んでおり、ドライセン王国では竜人以外はたまに見かけるそうだ。
そして、冒険者という職業が存在する。
当然ギルドもあり、ギルドは比較的大きな町、ゴスラー程度以上の町に支部がある。
支部に行けば、お尋ね者以外は比較的簡単に登録できるそうだ。
折角、ファンタジーな世界に来たのだから、冒険者になりたいとも思う。それにいつまでもギルに厄介になるわけにも行かない。チャンスがあれば、早めに街に出ようと思っている。
(この世界で生きるなら、自分一人で生きていけるくらいの“力”が欲しい。現代人の知識を使ってもいいし、訳が判らずに獲得したスキルを使ってもいい。どんなものでもいいから、力が……)
夕食を食べ終わるとこの世界ではすることが無い。
後は寝るだけなのだが、今日は昼まで寝ていたため、横になってもなかなか寝付けない。
こういう時はいろいろなことが頭に浮かんでくる。
今日でこの世界に来て四日。昨日までは怒涛の三日間だった。
初日は見知らぬ森を彷徨った挙句、見たこともない生き物と戦い、ようやく人間に出会えたが、言葉が通じない。そして、夜には訳の判らないスキルの設定なんてものもあった。
次の日はコミュニケーションがとれたと思ったら、いきなりけが人の治療。それも元の世界ならおとぎ話にしか出てこない魔法を使ってだ。
そして、三日目はお産の手伝い。産婦人科医でもなく、自分に子供もいない俺が医療技術の低いこの世界で出産に立ち会うとは思ってもみなかった。
元の世界でもこんなにハードな日々を過ごしたことはなかった。
元の世界の俺、高山大河は、関東の地方都市の出身で両親と兄(大海:ひろみ)、妹(大空:そら)の三人兄弟の真中の次男坊だった。
父親は中堅ゼネコンの技師でほとんど家にいなかったが、家庭が荒れることもなく、ごく平凡な家庭だったと思う。
大学も地方の三流大学の工学系学部で、就活戦線を無事潜り抜け、ようやく就職したばかりのごく普通の新入社員だった。
就活では嫌なことも色々あったが、大学生活はごく普通だったし、就職後もブラック企業ほどではないが、こき使われはした。だが、こんなに波乱万丈な日々を過ごしたことはない。
考える時間ができ、元の世界のことをつい考えてしまうが、もう元の世界に帰れないとこの世界の神様らしき存在に言われた気がしていた。
(家族はさぞ心配しているんだろうな)
今頃、警察に捜索願が出ていて事件になっているかもしれない。まあ、行方不明者は全国でかなりの数がいるから、事件にはなっていないかもしれないが、事故の線で山狩りなどをやっているかもしれない。
急に両親や兄妹に会いたくなり、忘れていた家族への想いが込み上げてきた。
(目の奥がジンときている。ホームシックってやつかな)
いろいろなことが頭の中でぐるぐる回っていたが、疲れが溜まっていたのか、知らない間に眠っていた。
ここは大河の実家、高山家。
父親が警察から戻り、母、長男、長女とともにリビングのテーブルを囲む。
父は警察で聞いてきた情報を一つ一つ家族に説明していく。
「結論から言うと全く情報が無い。警察犬を使った捜査までしてくれたみたいだが、匂いはあの場所からどこにも行っていないと言っていた。別の車に乗り込んだか、空を飛んでいったとしか思えないそうだ」
何が起こっているのか判らない苛立ちを無理やり押し込め、更に説明を続けていく。
「大河がいなくなった場所の近くにある防災用のカメラや旧道の出入口にある防犯カメラも確認したそうだが、大河の車以外、一台も出入りしていないそうだ。山狩りの結果も崖から落ちた形跡もないし、全く手掛かりは無かったそうだ」
彼は力なくそう言うと、テーブルに肘をつき、視線を落としてしまった。
妹の大空(そら)が「たい兄が失踪するなんて……。会社とか、その工場とかに手掛かりはなかったの?」と父に詰め寄る。
「特に失踪しそうなことは何もないそうだ。納品の遅れの件もその日の内に会社に入れれば問題なかったそうだし、大河もほっとしていたそうだ。工場の方も何も手掛かりはない。ただ、あの辺りは神隠しの伝説があるそうで何百年かに一回、人が消えるという話が伝わっているそうだが……」
父は神隠しという荒唐無稽の話を出すことに躊躇いを覚えていたが、聞いた話は包み隠さず話そうと、その話も皆にしたのだった。
リビングを沈黙が支配する。
重苦しい空気を払うかのように兄の大海(ひろみ)が沈黙を破った。
「神隠しか……。本当にそんな感じだよな。で、その伝説ではいなくなった人がどうなったかっていう結末はなかったのか?」
「帰ってきたという話はないそうだ。ただ……」
「ただ?」
これを話していいのか悩みながら、「ただ、何年かした後、親しいものの夢枕に立つことがあるそうだ。言い伝えでは異邦の地で亡くなり、魂が帰ってきたという話だそうだが……」と静かに告げた。
再び、沈黙がその場を支配した。だが、その後は誰も口を利かず、重苦しい空気だけが高山家を覆っていた。
翌朝、昨夜のホームシックのことを打ち払うかのように、俺はこの世界で生きるため、本格的にギルの狩りの手伝いをし始めた。
ギルには山の歩き方、獲物への近付き方、ナイフの使い方など役に立つことをたくさん教えてもらう。
狩りの帰り道など少し余裕があるときは、歩きながらこの世界の常識も教えてもらった。
まず、この村はベッカルト村といい、大陸(名前を聞いたら、大陸に名前なんかあるのかと逆に聞かれた)の西部域中央にあるドライセン王国にある。
この辺りは、王国南部に位置するゴスラー男爵領にあたるそうだ。
ベッカルト村に一番近い町はゴスラー男爵領の中心地ゴスラー市だが、人口4千人程度とあまり大きな街ではない。
ちなみにベッカルト村は人口五十人くらいで、このあたりでもかなり小さな村だそうだ。
ギル自身もゴスラーまでしか行ったことがないので、行商人から話を聞く程度の知識しかなく、地理にはあまり詳しくない。ちなみに夜空に浮かぶ月も元の世界と同じく一つで大きさや模様も似ている。
この世界の一年は三六五日で十二カ月、一日は二十四時間、一時間は六十分三千六百秒、但し、秒は大きな町には秒を計れる時計があるそうだが、普通は感覚的なもののようだ。
正午は午後〇時と元の世界と同じ。
今日の日付を聞いてみると、西方暦一二九九年、花の月(五月)、第五週の水の曜(二十四日)だそうだ。
月は一月から、雪の月、氷の月、水の月、土の月、花の月、光の月、葉の月、火の月、金の月、空の月、霜の月、風の月だそうで、曜日は日、火、風、水、土の五曜からなり、
一ヶ月は六週間三〇日になる。半端の五日間は、冬至、春分、夏至、秋分、冬至の前日が特別な日として月には入らない。
度量衡はマイル、ヤード、フィート、インチ、ポンドなどでメートルグラムなどのSI単位は使っていない。
通貨は、金貨(G)、銀貨(S)、銅貨(C)を使っており、一応各国共通で使えるそうだ。一G=百S=一万Cで聞いた感じでは一銅貨(C)が十円くらい、一銀貨(S)が千円、一金貨(G)が十万円くらい、金貨十枚分に相当する白金貨、金貨の半分の価値に相当する半金貨、銀貨の十分の一の価値に相当する小銀貨というものもあるそうだ。
ギルの月収は平均で二Gくらいに相当し、村では割と余裕がある方だそうだ。
但し、村の中では物々交換が多く、現金のやりとりは行商人とするくらいとのことだ。
この世界には、人間以外にエルフ、ドワーフ、獣人、竜人が住んでおり、ドライセン王国では竜人以外はたまに見かけるそうだ。
そして、冒険者という職業が存在する。
当然ギルドもあり、ギルドは比較的大きな町、ゴスラー程度以上の町に支部がある。
支部に行けば、お尋ね者以外は比較的簡単に登録できるそうだ。
折角、ファンタジーな世界に来たのだから、冒険者になりたいとも思う。それにいつまでもギルに厄介になるわけにも行かない。チャンスがあれば、早めに街に出ようと思っている。
(この世界で生きるなら、自分一人で生きていけるくらいの“力”が欲しい。現代人の知識を使ってもいいし、訳が判らずに獲得したスキルを使ってもいい。どんなものでもいいから、力が……)
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/06 20:43 更新日:2012/12/06 20:43 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン