作品ID:1301
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(59)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(313)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二章「ゴスラー市」:第1話「ゴスラーへの道」
前の話 | 目次 | 次の話 |
第2章.第1話「ゴスラーへの道」
俺は約半月過ごしたベッカルト村を出ていく。
同行してくれる行商人のフーゴはベッカルト村を出発した後、すぐに俺に話しかけてきた。
出発の時に少し湿っぽくなっていたので気を使ってくれたようだ。
フーゴは今年で三十五歳、家族は妻と子供が三人、ゴスラーの町に家を持っている。
行商をやっているため、月の半分は家を空けることになるが、もう十五年以上続けているそうだ。
ゴスラーから近隣の村々を回って商売をしているため、この辺りの情報に詳しく、ベッカルト村のような僻地の村にとっては、商品とともに貴重な情報も運んでいる大事な存在なようだ。
俺は元の世界の常識として、一回り以上も年上の彼に対し、敬語を使っていた。
だが、フーゴから「一つ忠告と言ってはなんだけど、聞いてもらえるかな」と言われ、肯くと、
「俺みたいな行商人に敬語を使ってくれるのはうれしいんだけど、冒険者になるならあまり謙ったしゃべり方をしない方がいいよ」と忠告された。
疑問に思った俺は、「どうしてですか?冒険者は実力が大事で、態度は関係ないと思うんですが」と言うと、
「う?ん。なんて言ったらいいんだろうね」と、どう説明していいのか悩みながら、俺が理解できるように説明を始めた。
「冒険者っていうのは一番下のランクの連中でも、のし上がってやろうっていう気概の人が多いんだよね。その中で今みたいな話し方をしていると侮られるというか軽く見られるというか、あまりいいことはないと思うんだよ。イメージみたいなものが大事ってわかるかな」
何となく言わんとすることは判るが、未だ納得できない。
「そうすると冒険者は偉そうにしている奴が多いから、負けないように肩肘張っていろってことですか?」と聞くと、彼は俺が少し理解できてきたと思い、更に補足してくれた。
「冒険者になるような連中は、タイガさんみたいな人ばかりじゃないんだ」
俺が不思議そうな顔をしていると、
「普通は貧しい村か貧民窟(スラム)のような下層階級地区の出身者が多くてね、上層階級に反発している人が多いんだ」と話し、丁寧に話せる人は教育を受けた上層階級の人に見えると説明してくれた。
そして、「下手に上層階級の人間だと判ると嫌がらせを受けるかもしれないよ。無理にとは言わないけど少し練習しておいた方がいいよ」とアドバイスをくれた。
俺は彼のアドバイスを聞き、自分が別の世界にいると言うことを思い出さされる。
日本のように曲がりなりにも秩序が守られている国とは違い、ここは実力がものを言う世界だ。
俺はそうであるなら、腕一本で生きていく冒険者はしゃべり方やイメージより、実力の方が遥かに大事だと考えていた。
だが、知り合いもいないこの世界で冒険者という職業を選択するなら、冒険者に溶け込みやすいように自分を変える必要があるということを完全に失念していた。
うまく言えないがイメージ戦略の一環と思えばいいだろう。後はTPOを考えればいいだけだから、俺は彼のアドバイスを実行することにした。
最初の内はどうしても目上の人と言う感じがし、言い淀んでしまったが、彼は俺に気を使い、都度修正してくれた。ようやくしゃべり方にも慣れ、その後は彼との会話を楽しんでいた。
そんなのんびりとした雰囲気の中、何事も起こらず、フーゴの荷馬車は順調に進んでいく。
ベッカルト村からマイヤー村はおおよそ十二マイル=二十km弱。道が悪いのと一頭立ての馬車なので一時間に2マイル=約三kmが限界だそうだ。
それも一時間に一回くらいは休憩を入れるため、順調に行っても八時間は掛かるそうだ。
初めは乗っているだけだから楽なものと思っていた。
だが、それはとんでもない間違いだった。
まず、道が酷い。
村の近くはまだマシだが、森の中に入ると途端に道が酷くなる。
舗装などしていないから、路面には石や木の根などがそこら中にあり、乗り上げるたびにガタンガタンと揺れる。その衝撃の凄さに、馬車の車軸が折れないのが不思議だと思えるくらいだ。
馬車にはサスペンションや空気入りのゴムタイヤなんていう親切なものはないから、路面の荒れがそのまま振動になって乗っている人間に襲ってくる。
座面にマントや予備の服などを敷いたが、ほとんど焼け石に水で、腰から背中、果てはムチ打ちに近い状態になるんじゃないかと思えるほどだ。
一時間に一回休憩を入れるのは、馬のためより乗っている人のためじゃないかとさえ思えてしまった。
最初の方の休憩ではほとんどしゃべる元気もなかったが、人間慣れるもので、後半は世間話をすることもできた。
彼は村々を回って行商をしているためか、話がうまく、更にこちらが気になる話題をさり気なく話してくれる。特にゴスラーの町の話や近辺の治安状況など、これから先、役に立ちそうな情報が多かった。
彼との話の中で得た情報を整理すると、この国の南部は所謂”ド田舎”だそうで、農業以外に大した産業がない。そして、小さな村が点在するが、大したものが取引されるわけではないので、ここで襲ってくるような暇な盗賊は少なく、いたとしても駆け出しが多いそうだ。その代わり、討伐する守備隊の規模が小さく、魔物が多い。
このため、通常の旅人は野宿せず、日があるうちに次の村に到着できるよう計画するそうだ。
この辺りの街道で一番危険な魔物は赤熊(レッドベア)で一〇フィート=三m近い体躯と鋭い爪を持っており、守備隊でも十人がかりでようやく倒せるかどうかだそうだ。
しかし、最近は定期的な討伐のおかげで、野犬程度しか出てこず、魔物に荷馬車が襲われて行商人が死亡することはほとんど無くなったそうだ。
今回も途中で休憩中に狼っぽい獣が襲ってきたが、ファイアボール一発で退散していった。ファイアボールを見たフーゴはしきりに感心し、剣と魔法を使える魔法剣士に初めて会ったとはしゃいでいた。
俺は彼の態度に危惧を覚え、「済まないけど、俺が魔法を使えるって話は当分伏せておいてくれないかな」と口止めをしておく。
「どうしてだい? ゴスラーに行っても魔法が使えると仕事には困らないよ」と怪訝そうな顔で尋ねてきた。
「俺が記憶を失くしている話をしたよね。今の俺は誰が言っていることが正しくて誰がだましてくるのか判らないんだ」
まだよく判っていなさそうだったので、
「ゴスラーには魔法を使える冒険者がほとんどいないそうだね。と言うことは魔法が使えるっていう話が広まると俺を利用しようとする奴が出てくるかもしれない。冒険者としてうまく立ち回れるまで、目立ちたくないんだ」
彼も俺の説明に「そういうことか。わかったよ」と納得したが、まだ、なにか引っ掛かることがあるようで、「しかし、タイガさんは魔法を使うときに鉄の剣を持ったまま使うんだね」と言ってきた。
俺は彼が言っている意味が判らず、「どういうこと?」と確認すると、彼の方も魔法を使っている俺が聞き返してきたことに逆に疑問に思ったのか、少し不思議そうな顔をしている。
「いや、昔聞いた話だと魔法使い、魔術師っていうのかな、魔術師は魔法の効果が下がるから、ミスリルみたいな特殊な金属以外、できるだけ金属製の物を持たないって聞いたんでね」と言った後、「俺の聞き間違いかもしれないけど」と付け加える。
俺はこの話を聞いて、どこかで魔法について教えてもらわないと大きな失敗をするかもしれないと心にメモをする。だが、魔術師のいないゴスラーでは期待出来そうにないとも思っていた。
その後もゴスラーの街の話や近隣の村の話を話しながら、馬車を進めていった。
俺は約半月過ごしたベッカルト村を出ていく。
同行してくれる行商人のフーゴはベッカルト村を出発した後、すぐに俺に話しかけてきた。
出発の時に少し湿っぽくなっていたので気を使ってくれたようだ。
フーゴは今年で三十五歳、家族は妻と子供が三人、ゴスラーの町に家を持っている。
行商をやっているため、月の半分は家を空けることになるが、もう十五年以上続けているそうだ。
ゴスラーから近隣の村々を回って商売をしているため、この辺りの情報に詳しく、ベッカルト村のような僻地の村にとっては、商品とともに貴重な情報も運んでいる大事な存在なようだ。
俺は元の世界の常識として、一回り以上も年上の彼に対し、敬語を使っていた。
だが、フーゴから「一つ忠告と言ってはなんだけど、聞いてもらえるかな」と言われ、肯くと、
「俺みたいな行商人に敬語を使ってくれるのはうれしいんだけど、冒険者になるならあまり謙ったしゃべり方をしない方がいいよ」と忠告された。
疑問に思った俺は、「どうしてですか?冒険者は実力が大事で、態度は関係ないと思うんですが」と言うと、
「う?ん。なんて言ったらいいんだろうね」と、どう説明していいのか悩みながら、俺が理解できるように説明を始めた。
「冒険者っていうのは一番下のランクの連中でも、のし上がってやろうっていう気概の人が多いんだよね。その中で今みたいな話し方をしていると侮られるというか軽く見られるというか、あまりいいことはないと思うんだよ。イメージみたいなものが大事ってわかるかな」
何となく言わんとすることは判るが、未だ納得できない。
「そうすると冒険者は偉そうにしている奴が多いから、負けないように肩肘張っていろってことですか?」と聞くと、彼は俺が少し理解できてきたと思い、更に補足してくれた。
「冒険者になるような連中は、タイガさんみたいな人ばかりじゃないんだ」
俺が不思議そうな顔をしていると、
「普通は貧しい村か貧民窟(スラム)のような下層階級地区の出身者が多くてね、上層階級に反発している人が多いんだ」と話し、丁寧に話せる人は教育を受けた上層階級の人に見えると説明してくれた。
そして、「下手に上層階級の人間だと判ると嫌がらせを受けるかもしれないよ。無理にとは言わないけど少し練習しておいた方がいいよ」とアドバイスをくれた。
俺は彼のアドバイスを聞き、自分が別の世界にいると言うことを思い出さされる。
日本のように曲がりなりにも秩序が守られている国とは違い、ここは実力がものを言う世界だ。
俺はそうであるなら、腕一本で生きていく冒険者はしゃべり方やイメージより、実力の方が遥かに大事だと考えていた。
だが、知り合いもいないこの世界で冒険者という職業を選択するなら、冒険者に溶け込みやすいように自分を変える必要があるということを完全に失念していた。
うまく言えないがイメージ戦略の一環と思えばいいだろう。後はTPOを考えればいいだけだから、俺は彼のアドバイスを実行することにした。
最初の内はどうしても目上の人と言う感じがし、言い淀んでしまったが、彼は俺に気を使い、都度修正してくれた。ようやくしゃべり方にも慣れ、その後は彼との会話を楽しんでいた。
そんなのんびりとした雰囲気の中、何事も起こらず、フーゴの荷馬車は順調に進んでいく。
ベッカルト村からマイヤー村はおおよそ十二マイル=二十km弱。道が悪いのと一頭立ての馬車なので一時間に2マイル=約三kmが限界だそうだ。
それも一時間に一回くらいは休憩を入れるため、順調に行っても八時間は掛かるそうだ。
初めは乗っているだけだから楽なものと思っていた。
だが、それはとんでもない間違いだった。
まず、道が酷い。
村の近くはまだマシだが、森の中に入ると途端に道が酷くなる。
舗装などしていないから、路面には石や木の根などがそこら中にあり、乗り上げるたびにガタンガタンと揺れる。その衝撃の凄さに、馬車の車軸が折れないのが不思議だと思えるくらいだ。
馬車にはサスペンションや空気入りのゴムタイヤなんていう親切なものはないから、路面の荒れがそのまま振動になって乗っている人間に襲ってくる。
座面にマントや予備の服などを敷いたが、ほとんど焼け石に水で、腰から背中、果てはムチ打ちに近い状態になるんじゃないかと思えるほどだ。
一時間に一回休憩を入れるのは、馬のためより乗っている人のためじゃないかとさえ思えてしまった。
最初の方の休憩ではほとんどしゃべる元気もなかったが、人間慣れるもので、後半は世間話をすることもできた。
彼は村々を回って行商をしているためか、話がうまく、更にこちらが気になる話題をさり気なく話してくれる。特にゴスラーの町の話や近辺の治安状況など、これから先、役に立ちそうな情報が多かった。
彼との話の中で得た情報を整理すると、この国の南部は所謂”ド田舎”だそうで、農業以外に大した産業がない。そして、小さな村が点在するが、大したものが取引されるわけではないので、ここで襲ってくるような暇な盗賊は少なく、いたとしても駆け出しが多いそうだ。その代わり、討伐する守備隊の規模が小さく、魔物が多い。
このため、通常の旅人は野宿せず、日があるうちに次の村に到着できるよう計画するそうだ。
この辺りの街道で一番危険な魔物は赤熊(レッドベア)で一〇フィート=三m近い体躯と鋭い爪を持っており、守備隊でも十人がかりでようやく倒せるかどうかだそうだ。
しかし、最近は定期的な討伐のおかげで、野犬程度しか出てこず、魔物に荷馬車が襲われて行商人が死亡することはほとんど無くなったそうだ。
今回も途中で休憩中に狼っぽい獣が襲ってきたが、ファイアボール一発で退散していった。ファイアボールを見たフーゴはしきりに感心し、剣と魔法を使える魔法剣士に初めて会ったとはしゃいでいた。
俺は彼の態度に危惧を覚え、「済まないけど、俺が魔法を使えるって話は当分伏せておいてくれないかな」と口止めをしておく。
「どうしてだい? ゴスラーに行っても魔法が使えると仕事には困らないよ」と怪訝そうな顔で尋ねてきた。
「俺が記憶を失くしている話をしたよね。今の俺は誰が言っていることが正しくて誰がだましてくるのか判らないんだ」
まだよく判っていなさそうだったので、
「ゴスラーには魔法を使える冒険者がほとんどいないそうだね。と言うことは魔法が使えるっていう話が広まると俺を利用しようとする奴が出てくるかもしれない。冒険者としてうまく立ち回れるまで、目立ちたくないんだ」
彼も俺の説明に「そういうことか。わかったよ」と納得したが、まだ、なにか引っ掛かることがあるようで、「しかし、タイガさんは魔法を使うときに鉄の剣を持ったまま使うんだね」と言ってきた。
俺は彼が言っている意味が判らず、「どういうこと?」と確認すると、彼の方も魔法を使っている俺が聞き返してきたことに逆に疑問に思ったのか、少し不思議そうな顔をしている。
「いや、昔聞いた話だと魔法使い、魔術師っていうのかな、魔術師は魔法の効果が下がるから、ミスリルみたいな特殊な金属以外、できるだけ金属製の物を持たないって聞いたんでね」と言った後、「俺の聞き間違いかもしれないけど」と付け加える。
俺はこの話を聞いて、どこかで魔法について教えてもらわないと大きな失敗をするかもしれないと心にメモをする。だが、魔術師のいないゴスラーでは期待出来そうにないとも思っていた。
その後もゴスラーの街の話や近隣の村の話を話しながら、馬車を進めていった。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/07 21:31 更新日:2012/12/08 16:08 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン