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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二章「ゴスラー市」:第9話「ゴブリン、ゴブリン、そして……」
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第2章.第9話「ゴブリン、ゴブリン、そして……」
ゴスラーの街は東西南北を森に囲まれている。その森もそれぞれ特徴がある。
西の森には狼が多い。
東の森には昆虫系の魔物が多い。
北の森は東部主要都市のオステンシュタットに続くゴスラー街道が通っているが、すぐに険しい山に入り、大型の熊や虎の魔物や野獣が出る。
南の森はマイヤー村やベッカルト村に続く街道が通っており、灰色狼(グレイウルフ)や茶熊(ベア)などの危険な野獣や魔物は定期的に討伐されている。いたとしてもはぐれ狼や野犬程度でそれ程の脅威ではない。
アントンたちが仕入れてきた噂話で面白いものがあったというのは、南の森の奥にゴブリンの集落が作られつつあるというものだった。
マイヤー村との街道沿いでゴブリンらしき姿を見たとの目撃情報が多数あり、かなり信憑性が高いと噂されている。
俺は南の森にいるゴブリンの討伐クエストを受けることにした。
ゴブリン自体は常に討伐依頼が出ているので、南の森の採取クエストをいつものようにメモしておく。
この話を聞いた瞬間思い付いたことがあった。
ベッカルト村の時のように群れの分割があったのではないかと思い付いたのだった。
この冬はかなり暖かかったそうで、本来数を減らす冬季であるにも拘らず、冬季の間も数を増やした可能性がある。
そう考えたときに移動したてのゴブリンがどう行動するか考えた。
ゴブリンとしては集落を作る場所を探し、更に周りにえさを求めるのではないか。
今まで住んでいたところと違い、土地勘がないところなので広く分散して探索するのではないか。
うまくいけば各個撃破で相当数のゴブリンを討伐できる。俺には鑑定があるので、開けた場所や見通しの利く場所であれば遠距離先制攻撃も充分にあり得る。
いざとなれば、ゴブリンは足が遅い。
囲まれなければ、走って逃げることができるので、リスクは小さい。また、噂がガセネタでも採取系の依頼をこなせれば南の森の植生情報が手に入れられる。
俺はそう考えて、ゴブリン討伐のクエストを受けることにした。
南の森に八時頃到着。
初めての森なので警戒しながら、できるだけ奥に進んでいく。
薬草系はかなり豊富で何種類か採取したが、毒草や毒キノコもかなりあった。
実は毒草の買い取りはないものかと真剣に依頼票を探したこともあった。
トリカブトのように薬も毒も紙一重だと思うが、この世界ではそこまで研究が進んでいないようだ。まだ毒草を採取していないが、一撃で熊ぐらいを倒せる毒があれば、採取しておこうとも思っている。
毒使いっていうのは響きが悪いが生きていくための奥の手を持っておくことは大事だろう。
三時間くらい奥に進んだところで魔物の気配を感じた。
草叢に身を潜め気配を探っていると、噂通りゴブリンが三匹歩いていた。
手にはなにやら肉のようなものを持っているので狩りをした後のようだ。俺は風向きに注意しながら慎重に後をつけていく。
三十分くらい追跡したところでゴブリンの群れを発見した。
広い窪地にいるため、ニホンザルの群れを見るようだが、少なくとも三十匹はいる。
さて、どうやって倒そうかと考えるが、当初想定した数よりかなり多いし、これが全数だとは限らないことが気になる。
充分離れたところで十分くらい観察していると更に十匹くらい増えた。
慎重に数えていくと、全部で四十三匹いた。
これは到底一人では対処できないと思い、当初の計画通り各個撃破で行くことにする。
狩りに行くのか、三匹のグループが群れから離れていく。俺は風向きと距離に注意しながら慎重に追跡していった。
俺のファイアボールの射程はおよそ三十m。発射速度は初弾が二十秒、次弾以降が四十秒毎に一発で最大四発まで撃てる。
三匹のグループであれば奇襲さえできれば、接近されるまでに二匹は倒せるので、最後の一匹を剣で仕留めれば、ほぼ無傷で完勝できる。
だが、群れの総数四十三匹を一人で倒すのは無理がある。
ゴブリンがいる証拠を手に入れギルドに報告し、討伐隊を組織した方が固いだろうとその時は考えた。
群れから離れたゴブリンを追跡し始めて十五分ほど、群れに戦闘の音が聞こえない距離まで十分離れたところで後ろからファイアボールを放つ。
狙い通り一匹目に命中し、そのゴブリンは短い悲鳴を上げた後、倒れていく。
奴らが敵を探して周りをキョロキョロ見回している隙に二発目の準備を仕、発射。二匹目も背中から火の玉を受け、のた打ち回りながら死んでいった。
俺は気付かれないようゆっくり移動しながら、ゴブリンたちを攻撃していく。奴らはどこから撃たれているのか判らず、パニック状態になっていた。
そして、三匹に気付かれることなく、ファイアボールが完成。二匹目と同じように後ろからの奇襲で確実に仕留める。
結局、接近戦なしで三匹の討伐を完了する。
魔力的にはかなり消耗しているので、素早く討伐証明部位を剥ぎ取り、町に帰ることにした。
ゴブリンたちにとっては、死に神に見込まれたようなものだろう。
帰り道に討伐隊を組織するように言うか、それともこのままゲリラ戦法で数を減らしていくか考えていた。
ゴブリンは決して頭がいい魔物ではないが、仲間が帰ってこなければ警戒くらいするはずだ。
警戒したゴブリンに発見された時、俺一人だとかなりまずい事態だが、群れの場所が分かっている今は、こちらが奇襲されるリスクは小さいと考えていいだろう。
俺はそう考え、当面この作戦で討伐していくことにした。
ギルドでは、ゴブリン三匹分と薬草5種類分の報酬を受け取る。
最近、天才薬師と言われているようだが、今回の討伐の結果を見て、少しは俺に対する見方が変わるかもしれない。
翌日、翌々日同様にもゴブリン討伐クエストを受ける。
前日までと同じように三匹のグループを奇襲し、殲滅。
採取しておいた薬草とともにギルドに報告。
ここまであまりに順調で調子に乗りそうだが、もうそろそろパターンを変えないと痛い目にあいそうな気がしてきた。
次の日もゴブリン討伐を受け、南の森に入っていくが、調子に乗らないよう、いつもより更に慎重に身を隠しながら進んでいく。
案の定、ゴブリンたちは五匹でグループを作り、警戒しているようだ。
十分に群れから遠いことを確認した後にいつもの通り奇襲を掛ける。
今日は五匹なので接近戦は必ず起きる。
四日目ともなると慣れたもので、一匹ずつ倒しながら移動し、スナイパーのように死角からゴブリンを倒していく。
残り二匹になったところで遂に発見された。
向こうは棍棒を持ち、奇声を上げて突撃してくる。
ゴブリンの攻撃はどこでも同じらしく、ベッカルト村で経験している分、冷静に対応できる。
一匹目はいつものようにリーチを生かした突きを放ち、後続の攻撃は無理をせず、回避することに専念する。
最初の攻撃を避けきったことにより、一対一の体勢に持ち込めた。これで後は慎重に倒していくだけでいい。
闇雲に振り回される棍棒をスウェーバックでかわし、ゴブリンに横薙ぎの一撃を打ちこむ。
ゴブリンの頭に命中し、悲鳴と言うより断末魔を上げ、倒れていく。
これで二匹のゴブリンはともに行動不能になったので、あとは慎重に止めを刺していくだけだ。
今日で十四匹のゴブリンを倒した。
さっき確認したらレベルも上がっているので明日はもう少し楽になるかもしれない。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV4
STR291, VIT253, AGI280, DEX330, INT3215, MEN1052, CHA245, LUC235
HP334, MP1052, AR0, SR0, DR0, SKL177, MAG32, PL23, EXP6021
スキル:両手剣8、回避6、軽装鎧3、共通語5、隠密3、探知3、追跡3、
罠3、体術1、植物知識4、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法4(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性4(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
レベルアップによって、新しい魔法が増えている。
魔力的にまだ余裕があるので、範囲攻撃が可能なファイアストームを森の中の開けたところで発動してみる。
発動までに約一分。
中心部分は約二十m先で、直径約十mの炎の渦が一分ほど継続する。
攻撃力はわからないが、複数の敵を相手にする場合、かなり有効な魔法だと思える。
魔力に余裕があると思っていたが、今のファイアストームでかなり魔力を消費したようで、足元がふらついてしまった。
魔法は使いどころ間違うと自滅する可能性があると考えさせられた。
森を出て草原の中を歩きながら、明日からのことを考えてみた。
ゴブリンといえども、群れの三分の一が行方不明になっていることから、強力な敵がこの辺りにいると考えるだろう。
近いうちにここは危険と判断してどこかに移っていくかもしれない。
どこかに行ってしまっても俺にとってそれほど痛手ではないが、折角楽に倒せる魔物がいるのに勿体ない気がする。
残り三十匹弱、覚えた範囲攻撃魔法で混乱させた後であれば、四,五人のパーティでも殲滅できそうだ。
誰かを誘って殲滅してしまうのも一つの方法かもしれないと安易に考えていた。
ギルドに戻り、本日の報酬を受け取り、そのまま、他の冒険者が戻ってくるのを待ってみる。
三十分ほど待つと、見覚えのある連中がギルドに入ってきた。
数日前に俺をパーティに誘ったデニス達だ。
俺はデニス達を鑑定し、彼らの能力を確認した。
デニスはレベル六で俺と同じく両手剣を使い、スキルは三でバスタードソードを使っている。
バルドもレベル六、短槍スキル三でショートスピアを使っている。
エルヴィンはレベル五、片手剣三でロングソードを使っている。
レベルは俺よりも高いが、近接戦闘の戦闘力は互角、魔法がある分、俺の方が強い。
こんな感じの連中だが、前にえらそうに言ったセリフを思い出していた。
(そこそこ名前が売れ始めてきたって言っていたが、本当だろうか? どう見ても大したことがない……)
だが、この程度の腕でもゴブリンであれば十分に倒せる。それに四人いれば、囲まれたり、後ろから攻撃を受けたりするリスクはかなり減る。
そう考えた俺はデニス達に声を掛けることにした。
「よう。前言っていたパーティを組む話なんだが、俺もEランクになったんで、一回、一緒にクエストを受けてみないか」
そして、合同でクエストを受ける提案をしてみた。
「俺はまだ誰とも組んだことがないから、いきなりパーティに入ってしまうのは少し性急な気がしてしまうんだ。だからパーティじゃなく、別々にクエストを受け、やる時は一緒にという形で頼みたいんだが……」
デニスは特に何も気にせず、「ああ、俺は構わない」と言った後、残りの二人の意向を確認している。
バルド、エルヴィンも頷き、三人とも了承してくれた。
俺はやる気の三人を引き込むため、一気に畳みかける。
「それでだ、最近ゴブリンの群れを見つけたんだ。最初は四十匹以上いたんだが、毎日数匹ずつ倒して、ようやく三十匹を割るくらいになった。ところが、そろそろゴブリンたちが逃げていきそうなんで、一気に決めたいと思っているんだ。どうだ一枚噛まないか」
デニスは、少し渋い顔をしながら、「ゴブリン三十匹か」と呟く。
そして、横の二人に「俺たちでは荷が重くないか。タイガの戦力がどの程度かわからないが、俺達三人だったら、最大十匹までだと思うが」と、意外と冷静に対応してくる。
確かに俺の魔法がなければ一人三匹くらいが限界だろう。
だが、俺には魔法という切り札がある。
「その点なら大丈夫だ。俺が魔法である程度倒してしまうんで残りを叩けばいい」と言うとデニスが「魔法が使えるのか」と驚く。
俺は自信あり気に魔法で半分以上倒せると説明していく。
「十五匹くらいなら魔法で倒す自信はある。だが、残りの奴に襲われると倒しきる自信がない。そこでだ。俺が魔法で十五匹くらい倒した後、残りの十匹くらいを四人の近接攻撃で倒してしまう作戦でどうだろう」
デニスは深く考えるタイプではないようで、すぐに話に乗ってきた。
ゴスラーに魔法を使う冒険者がいないことから、「うん、おもしろいな。でも本当に魔法で十五匹も倒せるのか」と魔法の威力について確認してくる。
「ああ、それについては自信がある。毎日五匹くらいしか倒していないのは多すぎると倒しきれなかった時に袋叩きに合いそうでやめていただけだ」
今日覚えたファイアストームが既に使えているような口振りで説明していく。
彼らも俺が最近ゴブリンの討伐をやっていることを知っているのだろう。既に乗り気になってきている。
「わかった。バルド、エルヴィン、この話に乗るか?」
「俺は面白いと思うし、タイガができるというならできるんじゃないか。これだけの成果を上げているやつだ。自信がなければやらないだろう」
「俺も賛成」
二人とも賛成に回るとデニスもうなずき、
「明日はゴブリン討伐で決まりだ。集合は七時でいいか」
「問題ない。では明日の夜はいい酒を飲もう」と言って、三人と別れた。
少し騙しているような気もするが、一人でもある程度やれる自信があるので騙しているうちには入らないだろう。
翌朝、デニスたち三人もゴブリン討伐のクエストを受け、俺もソロでゴブリン討伐のクエストを受ける。
そして、いつものように南の森に向かった。
三時間ほどでゴブリンの群れのいる場所の近くに到着する。
俺が偵察に行き、ゴブリンたちがいることを確認すると数は二十九匹、ほぼ全数とみて間違いない。
デニス達のところに戻り、作戦を説明する。
風下に移動し、デニスたちは五十mくらい離れたところで待機する。
俺が静かに接近し、二十mくらいまで近づいたらファイアストームを撃つ。
ゴブリンたちがパニックになっている間にデニスたちが突撃し、一気に勝負を決める。
もし、俺がしくじった時は、デニスたちはそのまま撤退、俺は自力で脱出する。
ゴブリンの群れを見てやや怖気づいていた三人だったが、俺が成功しても失敗してもリスクが少ないことに安心し、今ではかなり落ち着いている。
俺はこれなら大丈夫だろうと思い、作戦開始を告げた。
俺は静かに木々の間を移動していく。慎重に近づくため、結局三十m進むのに十分以上掛けていた。
ようやく予定の場所に到着し、後ろのデニスたちに魔法を撃つと合図をする。
ファイアストームは、発動までに一分、一発撃ったら、ファイアボールは三発しか撃てない。十五匹くらい固まっているグループを中心に二,三匹ずつ離れて座っている。
俺は最も多く目標が攻撃範囲に入るよう攻撃点を定め、ファイアストームを発動。直径十mくらいの炎の渦が現れ、ゴブリンたちを無慈悲に焼いていく。
ゴブリンたちの断末魔が響き渡り、炎が消えたと同時に確認すると、十七匹にダメージを与えることに成功していた。俺はすぐに三人に合図を送った。
三人は茫然としていたが、俺の合図に気付き猛然と突撃を開始する。
特にデニスはかなりハイテンションになり、奇声を上げながら突撃していく。
ゴブリンたちはまだパニック状態だったが、デニスの奇声に気付いた数匹は棍棒を持って、三人に突っ込んでいった。
俺は心の中で「馬鹿野郎、静かに近づいて最後に鬨の声を上げろ」とデニスをののしるが、大勢に影響はないと思い返し、デニスたちの突撃ルートからずれる様に横に静かに移動を開始した。
三人は二十秒ほどでゴブリンたちに接近し、それぞれ思いっきり振りかぶって攻撃する。三人とも予想通り戦闘の経験はほとんどないようだ。
心の中で攻撃パターンがゴブリンと同じじゃないかと思ったが、自分の戦闘に専念しようと考えていた。
だが、デニスたちが押され始めたのが見えたので、横からファイアボールで支援していく。
(これならアントンたちでもあまり変わらないんじゃないか)
そう思ったが、ファイアボールで生き残りのゴブリン達も完全に浮き足立ち、右往左往し始めたため、デニスたちも何とか盛り返していった。
俺も剣をとり、ゴブリンの群れに向かっていく。
デニスたちと違い、いつものようにリーチ差を生かした突きを中心とした攻撃で一匹ずつ倒していく。
十分後、ゴブリンをすべて倒し、デニスたちと合流した。三人はまだ興奮しているようで、「タイガ、すごいじゃないか」とはしゃいでいる。
そして、「こんなに魔物を倒したのは初めてだ。これからも一緒に魔物を倒そうぜ!」と喜び合っている。
魔物を大量に倒して、うれしいのはわかるが、「やることをやってから喜べよ」と思いながらも、本当にうれしそうなのでしばらく放っておいた。
俺はゴブリンの討伐証明部位を一人黙々と採取していたが、いい加減鬱陶しくなり、「お前らいい加減にしろ!」と叫んだ後、「血の臭いを嗅ぎ付けて、他の魔物が来るかもしれないんだ! 早く討伐証明部位を切り取ってくれ!」
デニス達も俺が本気で怒っていると思ったのか、ようやく剥ぎ取りを開始した。
俺は七匹分を取り終え、次のゴブリンに向かおうとしていた。その時、
「グォアガァァ!」と、今まで聞いたことが無い、重く低い咆哮が辺りに響いた。
俺は咆哮が聞こえた方を咄嗟に見た。すると豚面をした魔物がこちらに向かってくるのを目に入ってきた。
噂に聞くオークの姿に似ている。
その魔物は身長百八十cmくらいで豚面の醜い人型だった。
ゴスラーの街は東西南北を森に囲まれている。その森もそれぞれ特徴がある。
西の森には狼が多い。
東の森には昆虫系の魔物が多い。
北の森は東部主要都市のオステンシュタットに続くゴスラー街道が通っているが、すぐに険しい山に入り、大型の熊や虎の魔物や野獣が出る。
南の森はマイヤー村やベッカルト村に続く街道が通っており、灰色狼(グレイウルフ)や茶熊(ベア)などの危険な野獣や魔物は定期的に討伐されている。いたとしてもはぐれ狼や野犬程度でそれ程の脅威ではない。
アントンたちが仕入れてきた噂話で面白いものがあったというのは、南の森の奥にゴブリンの集落が作られつつあるというものだった。
マイヤー村との街道沿いでゴブリンらしき姿を見たとの目撃情報が多数あり、かなり信憑性が高いと噂されている。
俺は南の森にいるゴブリンの討伐クエストを受けることにした。
ゴブリン自体は常に討伐依頼が出ているので、南の森の採取クエストをいつものようにメモしておく。
この話を聞いた瞬間思い付いたことがあった。
ベッカルト村の時のように群れの分割があったのではないかと思い付いたのだった。
この冬はかなり暖かかったそうで、本来数を減らす冬季であるにも拘らず、冬季の間も数を増やした可能性がある。
そう考えたときに移動したてのゴブリンがどう行動するか考えた。
ゴブリンとしては集落を作る場所を探し、更に周りにえさを求めるのではないか。
今まで住んでいたところと違い、土地勘がないところなので広く分散して探索するのではないか。
うまくいけば各個撃破で相当数のゴブリンを討伐できる。俺には鑑定があるので、開けた場所や見通しの利く場所であれば遠距離先制攻撃も充分にあり得る。
いざとなれば、ゴブリンは足が遅い。
囲まれなければ、走って逃げることができるので、リスクは小さい。また、噂がガセネタでも採取系の依頼をこなせれば南の森の植生情報が手に入れられる。
俺はそう考えて、ゴブリン討伐のクエストを受けることにした。
南の森に八時頃到着。
初めての森なので警戒しながら、できるだけ奥に進んでいく。
薬草系はかなり豊富で何種類か採取したが、毒草や毒キノコもかなりあった。
実は毒草の買い取りはないものかと真剣に依頼票を探したこともあった。
トリカブトのように薬も毒も紙一重だと思うが、この世界ではそこまで研究が進んでいないようだ。まだ毒草を採取していないが、一撃で熊ぐらいを倒せる毒があれば、採取しておこうとも思っている。
毒使いっていうのは響きが悪いが生きていくための奥の手を持っておくことは大事だろう。
三時間くらい奥に進んだところで魔物の気配を感じた。
草叢に身を潜め気配を探っていると、噂通りゴブリンが三匹歩いていた。
手にはなにやら肉のようなものを持っているので狩りをした後のようだ。俺は風向きに注意しながら慎重に後をつけていく。
三十分くらい追跡したところでゴブリンの群れを発見した。
広い窪地にいるため、ニホンザルの群れを見るようだが、少なくとも三十匹はいる。
さて、どうやって倒そうかと考えるが、当初想定した数よりかなり多いし、これが全数だとは限らないことが気になる。
充分離れたところで十分くらい観察していると更に十匹くらい増えた。
慎重に数えていくと、全部で四十三匹いた。
これは到底一人では対処できないと思い、当初の計画通り各個撃破で行くことにする。
狩りに行くのか、三匹のグループが群れから離れていく。俺は風向きと距離に注意しながら慎重に追跡していった。
俺のファイアボールの射程はおよそ三十m。発射速度は初弾が二十秒、次弾以降が四十秒毎に一発で最大四発まで撃てる。
三匹のグループであれば奇襲さえできれば、接近されるまでに二匹は倒せるので、最後の一匹を剣で仕留めれば、ほぼ無傷で完勝できる。
だが、群れの総数四十三匹を一人で倒すのは無理がある。
ゴブリンがいる証拠を手に入れギルドに報告し、討伐隊を組織した方が固いだろうとその時は考えた。
群れから離れたゴブリンを追跡し始めて十五分ほど、群れに戦闘の音が聞こえない距離まで十分離れたところで後ろからファイアボールを放つ。
狙い通り一匹目に命中し、そのゴブリンは短い悲鳴を上げた後、倒れていく。
奴らが敵を探して周りをキョロキョロ見回している隙に二発目の準備を仕、発射。二匹目も背中から火の玉を受け、のた打ち回りながら死んでいった。
俺は気付かれないようゆっくり移動しながら、ゴブリンたちを攻撃していく。奴らはどこから撃たれているのか判らず、パニック状態になっていた。
そして、三匹に気付かれることなく、ファイアボールが完成。二匹目と同じように後ろからの奇襲で確実に仕留める。
結局、接近戦なしで三匹の討伐を完了する。
魔力的にはかなり消耗しているので、素早く討伐証明部位を剥ぎ取り、町に帰ることにした。
ゴブリンたちにとっては、死に神に見込まれたようなものだろう。
帰り道に討伐隊を組織するように言うか、それともこのままゲリラ戦法で数を減らしていくか考えていた。
ゴブリンは決して頭がいい魔物ではないが、仲間が帰ってこなければ警戒くらいするはずだ。
警戒したゴブリンに発見された時、俺一人だとかなりまずい事態だが、群れの場所が分かっている今は、こちらが奇襲されるリスクは小さいと考えていいだろう。
俺はそう考え、当面この作戦で討伐していくことにした。
ギルドでは、ゴブリン三匹分と薬草5種類分の報酬を受け取る。
最近、天才薬師と言われているようだが、今回の討伐の結果を見て、少しは俺に対する見方が変わるかもしれない。
翌日、翌々日同様にもゴブリン討伐クエストを受ける。
前日までと同じように三匹のグループを奇襲し、殲滅。
採取しておいた薬草とともにギルドに報告。
ここまであまりに順調で調子に乗りそうだが、もうそろそろパターンを変えないと痛い目にあいそうな気がしてきた。
次の日もゴブリン討伐を受け、南の森に入っていくが、調子に乗らないよう、いつもより更に慎重に身を隠しながら進んでいく。
案の定、ゴブリンたちは五匹でグループを作り、警戒しているようだ。
十分に群れから遠いことを確認した後にいつもの通り奇襲を掛ける。
今日は五匹なので接近戦は必ず起きる。
四日目ともなると慣れたもので、一匹ずつ倒しながら移動し、スナイパーのように死角からゴブリンを倒していく。
残り二匹になったところで遂に発見された。
向こうは棍棒を持ち、奇声を上げて突撃してくる。
ゴブリンの攻撃はどこでも同じらしく、ベッカルト村で経験している分、冷静に対応できる。
一匹目はいつものようにリーチを生かした突きを放ち、後続の攻撃は無理をせず、回避することに専念する。
最初の攻撃を避けきったことにより、一対一の体勢に持ち込めた。これで後は慎重に倒していくだけでいい。
闇雲に振り回される棍棒をスウェーバックでかわし、ゴブリンに横薙ぎの一撃を打ちこむ。
ゴブリンの頭に命中し、悲鳴と言うより断末魔を上げ、倒れていく。
これで二匹のゴブリンはともに行動不能になったので、あとは慎重に止めを刺していくだけだ。
今日で十四匹のゴブリンを倒した。
さっき確認したらレベルも上がっているので明日はもう少し楽になるかもしれない。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV4
STR291, VIT253, AGI280, DEX330, INT3215, MEN1052, CHA245, LUC235
HP334, MP1052, AR0, SR0, DR0, SKL177, MAG32, PL23, EXP6021
スキル:両手剣8、回避6、軽装鎧3、共通語5、隠密3、探知3、追跡3、
罠3、体術1、植物知識4、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法4(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性4(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
レベルアップによって、新しい魔法が増えている。
魔力的にまだ余裕があるので、範囲攻撃が可能なファイアストームを森の中の開けたところで発動してみる。
発動までに約一分。
中心部分は約二十m先で、直径約十mの炎の渦が一分ほど継続する。
攻撃力はわからないが、複数の敵を相手にする場合、かなり有効な魔法だと思える。
魔力に余裕があると思っていたが、今のファイアストームでかなり魔力を消費したようで、足元がふらついてしまった。
魔法は使いどころ間違うと自滅する可能性があると考えさせられた。
森を出て草原の中を歩きながら、明日からのことを考えてみた。
ゴブリンといえども、群れの三分の一が行方不明になっていることから、強力な敵がこの辺りにいると考えるだろう。
近いうちにここは危険と判断してどこかに移っていくかもしれない。
どこかに行ってしまっても俺にとってそれほど痛手ではないが、折角楽に倒せる魔物がいるのに勿体ない気がする。
残り三十匹弱、覚えた範囲攻撃魔法で混乱させた後であれば、四,五人のパーティでも殲滅できそうだ。
誰かを誘って殲滅してしまうのも一つの方法かもしれないと安易に考えていた。
ギルドに戻り、本日の報酬を受け取り、そのまま、他の冒険者が戻ってくるのを待ってみる。
三十分ほど待つと、見覚えのある連中がギルドに入ってきた。
数日前に俺をパーティに誘ったデニス達だ。
俺はデニス達を鑑定し、彼らの能力を確認した。
デニスはレベル六で俺と同じく両手剣を使い、スキルは三でバスタードソードを使っている。
バルドもレベル六、短槍スキル三でショートスピアを使っている。
エルヴィンはレベル五、片手剣三でロングソードを使っている。
レベルは俺よりも高いが、近接戦闘の戦闘力は互角、魔法がある分、俺の方が強い。
こんな感じの連中だが、前にえらそうに言ったセリフを思い出していた。
(そこそこ名前が売れ始めてきたって言っていたが、本当だろうか? どう見ても大したことがない……)
だが、この程度の腕でもゴブリンであれば十分に倒せる。それに四人いれば、囲まれたり、後ろから攻撃を受けたりするリスクはかなり減る。
そう考えた俺はデニス達に声を掛けることにした。
「よう。前言っていたパーティを組む話なんだが、俺もEランクになったんで、一回、一緒にクエストを受けてみないか」
そして、合同でクエストを受ける提案をしてみた。
「俺はまだ誰とも組んだことがないから、いきなりパーティに入ってしまうのは少し性急な気がしてしまうんだ。だからパーティじゃなく、別々にクエストを受け、やる時は一緒にという形で頼みたいんだが……」
デニスは特に何も気にせず、「ああ、俺は構わない」と言った後、残りの二人の意向を確認している。
バルド、エルヴィンも頷き、三人とも了承してくれた。
俺はやる気の三人を引き込むため、一気に畳みかける。
「それでだ、最近ゴブリンの群れを見つけたんだ。最初は四十匹以上いたんだが、毎日数匹ずつ倒して、ようやく三十匹を割るくらいになった。ところが、そろそろゴブリンたちが逃げていきそうなんで、一気に決めたいと思っているんだ。どうだ一枚噛まないか」
デニスは、少し渋い顔をしながら、「ゴブリン三十匹か」と呟く。
そして、横の二人に「俺たちでは荷が重くないか。タイガの戦力がどの程度かわからないが、俺達三人だったら、最大十匹までだと思うが」と、意外と冷静に対応してくる。
確かに俺の魔法がなければ一人三匹くらいが限界だろう。
だが、俺には魔法という切り札がある。
「その点なら大丈夫だ。俺が魔法である程度倒してしまうんで残りを叩けばいい」と言うとデニスが「魔法が使えるのか」と驚く。
俺は自信あり気に魔法で半分以上倒せると説明していく。
「十五匹くらいなら魔法で倒す自信はある。だが、残りの奴に襲われると倒しきる自信がない。そこでだ。俺が魔法で十五匹くらい倒した後、残りの十匹くらいを四人の近接攻撃で倒してしまう作戦でどうだろう」
デニスは深く考えるタイプではないようで、すぐに話に乗ってきた。
ゴスラーに魔法を使う冒険者がいないことから、「うん、おもしろいな。でも本当に魔法で十五匹も倒せるのか」と魔法の威力について確認してくる。
「ああ、それについては自信がある。毎日五匹くらいしか倒していないのは多すぎると倒しきれなかった時に袋叩きに合いそうでやめていただけだ」
今日覚えたファイアストームが既に使えているような口振りで説明していく。
彼らも俺が最近ゴブリンの討伐をやっていることを知っているのだろう。既に乗り気になってきている。
「わかった。バルド、エルヴィン、この話に乗るか?」
「俺は面白いと思うし、タイガができるというならできるんじゃないか。これだけの成果を上げているやつだ。自信がなければやらないだろう」
「俺も賛成」
二人とも賛成に回るとデニスもうなずき、
「明日はゴブリン討伐で決まりだ。集合は七時でいいか」
「問題ない。では明日の夜はいい酒を飲もう」と言って、三人と別れた。
少し騙しているような気もするが、一人でもある程度やれる自信があるので騙しているうちには入らないだろう。
翌朝、デニスたち三人もゴブリン討伐のクエストを受け、俺もソロでゴブリン討伐のクエストを受ける。
そして、いつものように南の森に向かった。
三時間ほどでゴブリンの群れのいる場所の近くに到着する。
俺が偵察に行き、ゴブリンたちがいることを確認すると数は二十九匹、ほぼ全数とみて間違いない。
デニス達のところに戻り、作戦を説明する。
風下に移動し、デニスたちは五十mくらい離れたところで待機する。
俺が静かに接近し、二十mくらいまで近づいたらファイアストームを撃つ。
ゴブリンたちがパニックになっている間にデニスたちが突撃し、一気に勝負を決める。
もし、俺がしくじった時は、デニスたちはそのまま撤退、俺は自力で脱出する。
ゴブリンの群れを見てやや怖気づいていた三人だったが、俺が成功しても失敗してもリスクが少ないことに安心し、今ではかなり落ち着いている。
俺はこれなら大丈夫だろうと思い、作戦開始を告げた。
俺は静かに木々の間を移動していく。慎重に近づくため、結局三十m進むのに十分以上掛けていた。
ようやく予定の場所に到着し、後ろのデニスたちに魔法を撃つと合図をする。
ファイアストームは、発動までに一分、一発撃ったら、ファイアボールは三発しか撃てない。十五匹くらい固まっているグループを中心に二,三匹ずつ離れて座っている。
俺は最も多く目標が攻撃範囲に入るよう攻撃点を定め、ファイアストームを発動。直径十mくらいの炎の渦が現れ、ゴブリンたちを無慈悲に焼いていく。
ゴブリンたちの断末魔が響き渡り、炎が消えたと同時に確認すると、十七匹にダメージを与えることに成功していた。俺はすぐに三人に合図を送った。
三人は茫然としていたが、俺の合図に気付き猛然と突撃を開始する。
特にデニスはかなりハイテンションになり、奇声を上げながら突撃していく。
ゴブリンたちはまだパニック状態だったが、デニスの奇声に気付いた数匹は棍棒を持って、三人に突っ込んでいった。
俺は心の中で「馬鹿野郎、静かに近づいて最後に鬨の声を上げろ」とデニスをののしるが、大勢に影響はないと思い返し、デニスたちの突撃ルートからずれる様に横に静かに移動を開始した。
三人は二十秒ほどでゴブリンたちに接近し、それぞれ思いっきり振りかぶって攻撃する。三人とも予想通り戦闘の経験はほとんどないようだ。
心の中で攻撃パターンがゴブリンと同じじゃないかと思ったが、自分の戦闘に専念しようと考えていた。
だが、デニスたちが押され始めたのが見えたので、横からファイアボールで支援していく。
(これならアントンたちでもあまり変わらないんじゃないか)
そう思ったが、ファイアボールで生き残りのゴブリン達も完全に浮き足立ち、右往左往し始めたため、デニスたちも何とか盛り返していった。
俺も剣をとり、ゴブリンの群れに向かっていく。
デニスたちと違い、いつものようにリーチ差を生かした突きを中心とした攻撃で一匹ずつ倒していく。
十分後、ゴブリンをすべて倒し、デニスたちと合流した。三人はまだ興奮しているようで、「タイガ、すごいじゃないか」とはしゃいでいる。
そして、「こんなに魔物を倒したのは初めてだ。これからも一緒に魔物を倒そうぜ!」と喜び合っている。
魔物を大量に倒して、うれしいのはわかるが、「やることをやってから喜べよ」と思いながらも、本当にうれしそうなのでしばらく放っておいた。
俺はゴブリンの討伐証明部位を一人黙々と採取していたが、いい加減鬱陶しくなり、「お前らいい加減にしろ!」と叫んだ後、「血の臭いを嗅ぎ付けて、他の魔物が来るかもしれないんだ! 早く討伐証明部位を切り取ってくれ!」
デニス達も俺が本気で怒っていると思ったのか、ようやく剥ぎ取りを開始した。
俺は七匹分を取り終え、次のゴブリンに向かおうとしていた。その時、
「グォアガァァ!」と、今まで聞いたことが無い、重く低い咆哮が辺りに響いた。
俺は咆哮が聞こえた方を咄嗟に見た。すると豚面をした魔物がこちらに向かってくるのを目に入ってきた。
噂に聞くオークの姿に似ている。
その魔物は身長百八十cmくらいで豚面の醜い人型だった。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/10 22:14 更新日:2012/12/10 22:15 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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