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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二章「ゴスラー市」:第10話「敗北」
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第2章.第10話「敗北」
俺たちの前に現れた魔物はオークのようだが、噂に聞くオークとはどこか違う雰囲気がした。
聞いた噂では、オークは知能が低く、ただ力任せに暴れるだけの魔物だが、このオークはどこか知性というか意思を感じさせる。
それに手には棍棒ではなく、クレイモアらしき大型の両手剣を持っている。
すぐに鑑定してみると、
オークロード:
オークの指導的地位を持つ希少種。知能は高く魔法を使う個体もいる。
HP1300,AR30,SR7,DR7,防御力30,獲得経験値500
両手剣(スキル20,AR50,SR40),アーマー(スキル10,50)
ただのオークより数段強いオークロードだ。
俺は「まずい! 俺達四人に勝てる相手じゃない!」と思い、
「デニス、バルド、エルヴィン、すぐに逃げるぞ! 走れ!」と叫ぶが、三人の動きが鈍い。
逆に武器を構え、やる気になっているように見える。
「タイガ、あいつはオークだろ。四人で掛かれば倒せる。攻撃するぞ」とデニスがうっすらと笑いながらバスタードソードを構えている。
俺は、「馬鹿野郎!」と叫び、荷物を拾って逃げる準備をしながら、
「あれはオークロードだ! 俺達では傷をつけるのがやっとだぞ!」と彼らに自分たちでは歯がたたない相手であると伝える。
それでも三人は武器を構えたまま動こうとしない。
業を煮やした俺は、「幸い足が遅いはずだ。逃げきれる。早く走れ!」と催促するが、
「いやだ! ゴブリンの群れを倒した俺たちだ! オーク如きに後ろ見せるのは絶対いやだ!」とデニスが叫んでいる。
舞い上がったデニスを説得するのは時間の無駄だと思い、「バルド、エルヴィン、お前らもデニスを説得しろ! 早くしないと全滅するぞ!」と叫んでいた。
バルドはオークロードを見据えながら、「おれもデニスと同じ意見だ。俺たちなら勝てる。逃げるなら1人で勝手に逃げろ」と言い、デニスより舞い上がっているエルヴィンは、「やってやる! やってやる!」と大きな声で叫んでいる。
俺は「二人も完全に舞い上がっている。仕方が無いもう時間切れだ」と思い、
「俺は逃げる。お前らもヤバいと思ったら逃げろよ」
と言って、俺は全力疾走でその場を離れた。
俺が走り始めて十秒もしないうちに、後ろでは剣撃の音が聞こえ始めてきた。
だが、俺は後ろを振り向かず、全力疾走を続ける。
五、六十メートルほど走り、デニスたちが最初に待機していた場所に辿り着く。そして、後ろを振り向くと三人がオークロードに攻撃している姿が見えた。
だが、どれだけ撃ちこんでもオークロードにはほとんどダメージが与えられていない。
この距離ではオークロードの表情はよく見えないが、三人の攻撃を余裕を持って軽くいなしながら、力を計っているようにも見える。
三人に疲れが見え、もう駄目だと思った瞬間、オークロードが無造作に横薙ぎに振ったクレイモアがエルヴィンにヒットした。
彼は「ウガッ!」という叫び声を上げ、皮鎧ごと切り裂かれる。そして、そのまま棒のように倒れこみ、彼の体の下に赤黒い血溜まりができていく。
すぐに左にいたバルドが標的になり、右斜め上から袈裟がけに斬り付けられる。
彼は咄嗟にショートスピアで受けようとしたが、クレイモアの重い斬撃は彼のスピアを木の枝のように易々と叩き斬り、そのまま体を斬り裂かれた。
その直後、胸から血が噴水のように噴き出し、仰向けに倒れていく。
二人が斬り殺されるまで動けず、最後に残ってしまったデニスは、「うわぁー! 来るな!」とパニックになり、敵に背を向けて走り出した。
オークロードはその体格からは想像できないほどの鋭い踏み込みで、その背中に正確な突きを入れる。
デニスの胸からクレイモアの剣身(ブレード)が三十cmほど突き出る。彼は倒れることなく、その目から力が失われていった。
オークロードは無造作に剣を引き抜きながら、こちらを見てニヤリと笑っている。本当に笑っているのかは判らないが、少なくとも俺にはそうに見えた。
俺は遣りきれない思いを胸にその場を後にした。
三十分ほど走り、後ろを確認してからその場に崩れる様に座り込む。
助けられなかった自分にイラつき、「クソ、クソ、クソ!」と叫びながら、手に取った石を投げつける。
俺は「どうしてこうなった」と呟いた後、三人がなぜ戦いを選択したのか考えていた。
(どう考えてもやつには勝てないことは分かっていたはずだ)
俺は彼らに正しい情報を与えたはずだ。そして逃げられることも伝えた。
(冷静になって逃げるべきだったんだ。だが、どうして……)
リーダー格のデニスが冷静さを欠いても、バルドかエルヴィンが冷静であれば、逃げ出すチャンスは十分あった。
(バルドもエルヴィンもデニスに流された。それともデニスを見捨てられなかったのか)
わずか数時間一緒なだけの仲間だったが、初めて仲間を魔物に殺されたショックが胸に塊のように残っている。
俺はいろいろなことを考えながら、森を抜け、街に戻ってきた。
そして、ギルドでゴブリンの討伐クエスト完了とオークロードとの遭遇情報、デニスたちの死亡報告をした。
三人の死亡報告は全く重要視されなかったが、オークロードの遭遇情報は比較的重く受け取られたようで、ギルド長が直々に事情聴取を行うと言われる。
すぐにギルド長の部屋に案内され、キルヒナーギルド長にオークロードとの遭遇時の状況を説明する。
ギルド長は、特に感慨もなく淡々と事実を確認していった。
「それではゴブリンを殲滅した直後に、オークロードが現れたということで間違いないな」
「ええ、気付いたのはゴブリン殲滅から十分後くらいだったと思います。周りを気にしていなかったので、もっと前から接近していたのかもしれませんが」
「恐らく、オークロードもゴブリンを狙っていたんだろう。お前たちが先に攻撃したから、そのまま様子を見ていた可能性がある」
ギルド長はさらに続けて、
「オークロードは自らを鍛えるために単独で行動する場合と、群れの先導として行動する場合がある。オークの群れが移動しているという情報は今のところ上がってきていないから、そのオークロードは単独で行動していると考えられる。そうであるなら、お前達がゴブリンを倒したので、より強いお前達と戦うことを選んだのかもしれない」
俺は仲間を見捨てたと思われても仕方がないので、俺に対する罰について尋ねた。
「今回の件で俺に何かペナルティはありますか」
「冒険者が依頼者でもない他の冒険者に対して責任を負うことはない。同じパーティだとしても基本的には自己責任だ」
ここで言葉を切り、事実を確認するようにゆっくりと話し始める。
「まあ、同じパーティの仲間を見捨てたとなると他の冒険者から嫌味を言われるかもしれないが、デニスのパーティとは別にソロでクエストを受けているし、オークロードが相手なら軽装の冒険者なら逃げ切れることは誰でもわかる。自分の力量が把握できなかった彼らの自業自得だからお咎めなしだ。というより、よく情報を持って帰ってきたというところだ」
俺は疑問に思っていたことを冒険者の大先輩でもあるギルド長に尋ねてみた。
「一つ聞きたいんですが、なんでデニスたちは勝てない相手に突っ込んでいったんでしょうか? 俺が勝てない、逃げろと言っても聞かなかったんです」
ギルド長は「若い冒険者が掛かる病気みたいなもんだ」と答えた後、
「大規模な討伐なんかに参加した後、自分たちの実力を勘違いして、英雄譚の主人公にでもなったような気になることがある。普通は死んでしまうようなクエストは受けられないシステムになっているから、ケガをしたり、装備を壊したりといった程度の痛い目で済んでその病気も治るんだが、今回は運が悪かった」
俺は納得できず、「運が悪かったのはわかるんですが、それだけですか?」
「ああ、デニス達はEランクだったが、確か討伐関係をほとんど受けていなかったはずだ。実力的にはFランクに近いと見ていいだろう。普通はゴブリン程度相手に一対一でもかなり梃子摺るから、Cランクでも難易度の高いオークロードなんかを見ればすぐに逃げ出したはずだ」
俺が登録している冒険者の情報をよく把握していると感心していると、ギルド長は俺の顔を見ながら、更に話していく。
「だが、お前さんのおかげでゴブリンをあっさり倒してしまい、舞い上がってしまったんだろう。ゴブリンを倒した直後でなければもう少し冷静になれたかもしれないがな」
俺が「結局、俺が原因か」と考えていると、ギルド長は更に、
「普通は冷静すぎるお前さんの方がおかしいぞ。ゴブリンを三十匹も倒す実力があるのに勝てない相手を冷静に見極める。Eランクでも実力あるやつはたくさんいたが、自分は強いんだと勘違いして一回は失敗するもんだ」
俺は過大評価だなと思いながら、「俺はとにかく死にたくないんですよ。食っていくために冒険者になりましたが、無茶なことはするつもりは全くありませんよ」
「それだけではないと思うが、まあいいだろう」とギルド長は小さく呟き、この面談は終了した。
俺はギルド長の部屋から出て、一人になるとこれからのことを考え始めた。
俺が常識外れなのかもしれないが、冒険者たちともう少し付き合う必要がある。
特に俺と同じくらいのランクの連中は俺より七、八歳下の高校生くらいの連中がほとんどだ。未熟者が調子に乗って失敗するのはどこの世界も同じだが、その連中のお守りをしなければならないと考えると安易にパーティは組めない。
やはり自分の実力を上げて安心して組める連中とパーティを組みたい。
受付嬢に「ギルドに訓練場があると聞いた記憶があるんだが、そこでは指導なんかもしてくれるのか?」と尋ねる。
彼女は少し申し訳なさそうに「大きなギルド支部でしたら、武術指導員がいるところもあるそうですが、ここゴスラー支部では指導できる人がいません。場所を開放しているだけです」
俺もあまり期待していなかったので、魔法の練習ができるか聞いてみた。
「え?と、できたはずです。ここには魔術師の方がいらっしゃらないので、見たことはありませんが、タイガ様は魔術師でいらっしゃったんですか?」と驚いた顔で聞き返してきた。
「魔術師というか、少しだけ魔法が使える。炎系なので練習場所に困っていたんだ。訓練場を使わせてもらうよ」と笑いながら答え、ギルドから五百mほど離れた場所にある訓練場に向かった。
今の俺の戦闘力を支えているのは火属性魔法だ。
練習することで威力が増したり、早く撃てたりするのかはわからないが、魔力が残っている時は少しでも練習しておこうと思っている。
それに今のままではあまりに使い勝手が悪いので、魔法を改良できないかも試してみたいと考えていた。
訓練場に着くと、数人の冒険者たちが剣や槍などを振り、更には木剣で模擬戦をやっている者もいた。
俺は訓練場の端のほうにある射撃訓練用のスペースに行き、ファイアボールを撃ち込んでも大丈夫か確認する。
石造りの壁に土が盛ってあり、矢が外れても土に突き刺さるようになっている。
これなら大丈夫だろうと思い、魔法の練習をすることにした。
最初の頃は何気なく使っていたファイアボールだが、最近もう少し改善できないかと考えていた。
改善したいのは、飛翔速度、威力、射程距離の3点だ。
威力は消費魔力を調整することで増減は可能だが、同じ魔力=マナ量でより攻撃力を上げる方法はないかを実験してみたかった。
威力を上げる方法として、炎の温度を上げる、玉ではなく棒状にして貫通力を上げるが考えられる。
形を変えるとファイア”ボール”でなくなるので無理なような気がするが、炎の温度を上げる、すなわち密度を上げる方は何とかならないかと思っている。
いつもは何気なく炎の玉を作っているが、今回は圧縮するようにより小さく高温になるようイメージしながらファイアボールを発動してみる。
いつもなら直径二十cmくらいのオレンジ色の炎の玉が右手の先に現れるが、今回は十cmくらいをイメージしているため、かなり小さく白色に近い炎の玉が現れた。
そして、それを壁に向かって発射する。
スピードは少し速いかなと思える程度、命中した箇所には直径三十cmくらいの陥没ができていた。
比較のため、通常のファイアボールを撃ちこんでみた。
直径五十cmくらいの陥没だが、深さが浅い。
小さくしたことにより貫通力が上がったと考えて問題ないだろう。
魔力が無くなってきたので、今日はあと一発しか撃てない。とりあえず更に圧縮したファイアボールを作ってみることにした。
ゴルフボールくらいの三cm程度の炎の玉をイメージする。
右手に白く輝くゴルフボール大の光の塊が現れる。撃とうと思った瞬間、光の玉は徐々に大きくなり、十cmくらいの大きさになってしまう。やはり限界があるのだろうか。明日から飛翔速度や射程距離などもいろいろ試してみようと思った。
盛り土にできた穴を塞ぎ、帰ろうとすると、周りの注目を集めていることに気付く。
そう言えば受付嬢もゴスラーに魔術師の冒険者がいないと言っていた。声をかけられると面倒なのでさっさと退散することにし、訓練場を後にした。
俺たちの前に現れた魔物はオークのようだが、噂に聞くオークとはどこか違う雰囲気がした。
聞いた噂では、オークは知能が低く、ただ力任せに暴れるだけの魔物だが、このオークはどこか知性というか意思を感じさせる。
それに手には棍棒ではなく、クレイモアらしき大型の両手剣を持っている。
すぐに鑑定してみると、
オークロード:
オークの指導的地位を持つ希少種。知能は高く魔法を使う個体もいる。
HP1300,AR30,SR7,DR7,防御力30,獲得経験値500
両手剣(スキル20,AR50,SR40),アーマー(スキル10,50)
ただのオークより数段強いオークロードだ。
俺は「まずい! 俺達四人に勝てる相手じゃない!」と思い、
「デニス、バルド、エルヴィン、すぐに逃げるぞ! 走れ!」と叫ぶが、三人の動きが鈍い。
逆に武器を構え、やる気になっているように見える。
「タイガ、あいつはオークだろ。四人で掛かれば倒せる。攻撃するぞ」とデニスがうっすらと笑いながらバスタードソードを構えている。
俺は、「馬鹿野郎!」と叫び、荷物を拾って逃げる準備をしながら、
「あれはオークロードだ! 俺達では傷をつけるのがやっとだぞ!」と彼らに自分たちでは歯がたたない相手であると伝える。
それでも三人は武器を構えたまま動こうとしない。
業を煮やした俺は、「幸い足が遅いはずだ。逃げきれる。早く走れ!」と催促するが、
「いやだ! ゴブリンの群れを倒した俺たちだ! オーク如きに後ろ見せるのは絶対いやだ!」とデニスが叫んでいる。
舞い上がったデニスを説得するのは時間の無駄だと思い、「バルド、エルヴィン、お前らもデニスを説得しろ! 早くしないと全滅するぞ!」と叫んでいた。
バルドはオークロードを見据えながら、「おれもデニスと同じ意見だ。俺たちなら勝てる。逃げるなら1人で勝手に逃げろ」と言い、デニスより舞い上がっているエルヴィンは、「やってやる! やってやる!」と大きな声で叫んでいる。
俺は「二人も完全に舞い上がっている。仕方が無いもう時間切れだ」と思い、
「俺は逃げる。お前らもヤバいと思ったら逃げろよ」
と言って、俺は全力疾走でその場を離れた。
俺が走り始めて十秒もしないうちに、後ろでは剣撃の音が聞こえ始めてきた。
だが、俺は後ろを振り向かず、全力疾走を続ける。
五、六十メートルほど走り、デニスたちが最初に待機していた場所に辿り着く。そして、後ろを振り向くと三人がオークロードに攻撃している姿が見えた。
だが、どれだけ撃ちこんでもオークロードにはほとんどダメージが与えられていない。
この距離ではオークロードの表情はよく見えないが、三人の攻撃を余裕を持って軽くいなしながら、力を計っているようにも見える。
三人に疲れが見え、もう駄目だと思った瞬間、オークロードが無造作に横薙ぎに振ったクレイモアがエルヴィンにヒットした。
彼は「ウガッ!」という叫び声を上げ、皮鎧ごと切り裂かれる。そして、そのまま棒のように倒れこみ、彼の体の下に赤黒い血溜まりができていく。
すぐに左にいたバルドが標的になり、右斜め上から袈裟がけに斬り付けられる。
彼は咄嗟にショートスピアで受けようとしたが、クレイモアの重い斬撃は彼のスピアを木の枝のように易々と叩き斬り、そのまま体を斬り裂かれた。
その直後、胸から血が噴水のように噴き出し、仰向けに倒れていく。
二人が斬り殺されるまで動けず、最後に残ってしまったデニスは、「うわぁー! 来るな!」とパニックになり、敵に背を向けて走り出した。
オークロードはその体格からは想像できないほどの鋭い踏み込みで、その背中に正確な突きを入れる。
デニスの胸からクレイモアの剣身(ブレード)が三十cmほど突き出る。彼は倒れることなく、その目から力が失われていった。
オークロードは無造作に剣を引き抜きながら、こちらを見てニヤリと笑っている。本当に笑っているのかは判らないが、少なくとも俺にはそうに見えた。
俺は遣りきれない思いを胸にその場を後にした。
三十分ほど走り、後ろを確認してからその場に崩れる様に座り込む。
助けられなかった自分にイラつき、「クソ、クソ、クソ!」と叫びながら、手に取った石を投げつける。
俺は「どうしてこうなった」と呟いた後、三人がなぜ戦いを選択したのか考えていた。
(どう考えてもやつには勝てないことは分かっていたはずだ)
俺は彼らに正しい情報を与えたはずだ。そして逃げられることも伝えた。
(冷静になって逃げるべきだったんだ。だが、どうして……)
リーダー格のデニスが冷静さを欠いても、バルドかエルヴィンが冷静であれば、逃げ出すチャンスは十分あった。
(バルドもエルヴィンもデニスに流された。それともデニスを見捨てられなかったのか)
わずか数時間一緒なだけの仲間だったが、初めて仲間を魔物に殺されたショックが胸に塊のように残っている。
俺はいろいろなことを考えながら、森を抜け、街に戻ってきた。
そして、ギルドでゴブリンの討伐クエスト完了とオークロードとの遭遇情報、デニスたちの死亡報告をした。
三人の死亡報告は全く重要視されなかったが、オークロードの遭遇情報は比較的重く受け取られたようで、ギルド長が直々に事情聴取を行うと言われる。
すぐにギルド長の部屋に案内され、キルヒナーギルド長にオークロードとの遭遇時の状況を説明する。
ギルド長は、特に感慨もなく淡々と事実を確認していった。
「それではゴブリンを殲滅した直後に、オークロードが現れたということで間違いないな」
「ええ、気付いたのはゴブリン殲滅から十分後くらいだったと思います。周りを気にしていなかったので、もっと前から接近していたのかもしれませんが」
「恐らく、オークロードもゴブリンを狙っていたんだろう。お前たちが先に攻撃したから、そのまま様子を見ていた可能性がある」
ギルド長はさらに続けて、
「オークロードは自らを鍛えるために単独で行動する場合と、群れの先導として行動する場合がある。オークの群れが移動しているという情報は今のところ上がってきていないから、そのオークロードは単独で行動していると考えられる。そうであるなら、お前達がゴブリンを倒したので、より強いお前達と戦うことを選んだのかもしれない」
俺は仲間を見捨てたと思われても仕方がないので、俺に対する罰について尋ねた。
「今回の件で俺に何かペナルティはありますか」
「冒険者が依頼者でもない他の冒険者に対して責任を負うことはない。同じパーティだとしても基本的には自己責任だ」
ここで言葉を切り、事実を確認するようにゆっくりと話し始める。
「まあ、同じパーティの仲間を見捨てたとなると他の冒険者から嫌味を言われるかもしれないが、デニスのパーティとは別にソロでクエストを受けているし、オークロードが相手なら軽装の冒険者なら逃げ切れることは誰でもわかる。自分の力量が把握できなかった彼らの自業自得だからお咎めなしだ。というより、よく情報を持って帰ってきたというところだ」
俺は疑問に思っていたことを冒険者の大先輩でもあるギルド長に尋ねてみた。
「一つ聞きたいんですが、なんでデニスたちは勝てない相手に突っ込んでいったんでしょうか? 俺が勝てない、逃げろと言っても聞かなかったんです」
ギルド長は「若い冒険者が掛かる病気みたいなもんだ」と答えた後、
「大規模な討伐なんかに参加した後、自分たちの実力を勘違いして、英雄譚の主人公にでもなったような気になることがある。普通は死んでしまうようなクエストは受けられないシステムになっているから、ケガをしたり、装備を壊したりといった程度の痛い目で済んでその病気も治るんだが、今回は運が悪かった」
俺は納得できず、「運が悪かったのはわかるんですが、それだけですか?」
「ああ、デニス達はEランクだったが、確か討伐関係をほとんど受けていなかったはずだ。実力的にはFランクに近いと見ていいだろう。普通はゴブリン程度相手に一対一でもかなり梃子摺るから、Cランクでも難易度の高いオークロードなんかを見ればすぐに逃げ出したはずだ」
俺が登録している冒険者の情報をよく把握していると感心していると、ギルド長は俺の顔を見ながら、更に話していく。
「だが、お前さんのおかげでゴブリンをあっさり倒してしまい、舞い上がってしまったんだろう。ゴブリンを倒した直後でなければもう少し冷静になれたかもしれないがな」
俺が「結局、俺が原因か」と考えていると、ギルド長は更に、
「普通は冷静すぎるお前さんの方がおかしいぞ。ゴブリンを三十匹も倒す実力があるのに勝てない相手を冷静に見極める。Eランクでも実力あるやつはたくさんいたが、自分は強いんだと勘違いして一回は失敗するもんだ」
俺は過大評価だなと思いながら、「俺はとにかく死にたくないんですよ。食っていくために冒険者になりましたが、無茶なことはするつもりは全くありませんよ」
「それだけではないと思うが、まあいいだろう」とギルド長は小さく呟き、この面談は終了した。
俺はギルド長の部屋から出て、一人になるとこれからのことを考え始めた。
俺が常識外れなのかもしれないが、冒険者たちともう少し付き合う必要がある。
特に俺と同じくらいのランクの連中は俺より七、八歳下の高校生くらいの連中がほとんどだ。未熟者が調子に乗って失敗するのはどこの世界も同じだが、その連中のお守りをしなければならないと考えると安易にパーティは組めない。
やはり自分の実力を上げて安心して組める連中とパーティを組みたい。
受付嬢に「ギルドに訓練場があると聞いた記憶があるんだが、そこでは指導なんかもしてくれるのか?」と尋ねる。
彼女は少し申し訳なさそうに「大きなギルド支部でしたら、武術指導員がいるところもあるそうですが、ここゴスラー支部では指導できる人がいません。場所を開放しているだけです」
俺もあまり期待していなかったので、魔法の練習ができるか聞いてみた。
「え?と、できたはずです。ここには魔術師の方がいらっしゃらないので、見たことはありませんが、タイガ様は魔術師でいらっしゃったんですか?」と驚いた顔で聞き返してきた。
「魔術師というか、少しだけ魔法が使える。炎系なので練習場所に困っていたんだ。訓練場を使わせてもらうよ」と笑いながら答え、ギルドから五百mほど離れた場所にある訓練場に向かった。
今の俺の戦闘力を支えているのは火属性魔法だ。
練習することで威力が増したり、早く撃てたりするのかはわからないが、魔力が残っている時は少しでも練習しておこうと思っている。
それに今のままではあまりに使い勝手が悪いので、魔法を改良できないかも試してみたいと考えていた。
訓練場に着くと、数人の冒険者たちが剣や槍などを振り、更には木剣で模擬戦をやっている者もいた。
俺は訓練場の端のほうにある射撃訓練用のスペースに行き、ファイアボールを撃ち込んでも大丈夫か確認する。
石造りの壁に土が盛ってあり、矢が外れても土に突き刺さるようになっている。
これなら大丈夫だろうと思い、魔法の練習をすることにした。
最初の頃は何気なく使っていたファイアボールだが、最近もう少し改善できないかと考えていた。
改善したいのは、飛翔速度、威力、射程距離の3点だ。
威力は消費魔力を調整することで増減は可能だが、同じ魔力=マナ量でより攻撃力を上げる方法はないかを実験してみたかった。
威力を上げる方法として、炎の温度を上げる、玉ではなく棒状にして貫通力を上げるが考えられる。
形を変えるとファイア”ボール”でなくなるので無理なような気がするが、炎の温度を上げる、すなわち密度を上げる方は何とかならないかと思っている。
いつもは何気なく炎の玉を作っているが、今回は圧縮するようにより小さく高温になるようイメージしながらファイアボールを発動してみる。
いつもなら直径二十cmくらいのオレンジ色の炎の玉が右手の先に現れるが、今回は十cmくらいをイメージしているため、かなり小さく白色に近い炎の玉が現れた。
そして、それを壁に向かって発射する。
スピードは少し速いかなと思える程度、命中した箇所には直径三十cmくらいの陥没ができていた。
比較のため、通常のファイアボールを撃ちこんでみた。
直径五十cmくらいの陥没だが、深さが浅い。
小さくしたことにより貫通力が上がったと考えて問題ないだろう。
魔力が無くなってきたので、今日はあと一発しか撃てない。とりあえず更に圧縮したファイアボールを作ってみることにした。
ゴルフボールくらいの三cm程度の炎の玉をイメージする。
右手に白く輝くゴルフボール大の光の塊が現れる。撃とうと思った瞬間、光の玉は徐々に大きくなり、十cmくらいの大きさになってしまう。やはり限界があるのだろうか。明日から飛翔速度や射程距離などもいろいろ試してみようと思った。
盛り土にできた穴を塞ぎ、帰ろうとすると、周りの注目を集めていることに気付く。
そう言えば受付嬢もゴスラーに魔術師の冒険者がいないと言っていた。声をかけられると面倒なのでさっさと退散することにし、訓練場を後にした。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/10 22:16 更新日:2012/12/10 22:16 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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