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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二章「ゴスラー市」:第11話「出る杭は……」
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第2章.第11話「出る杭は……」
魔法の訓練を終えると、他にすることが無く、仕方が無いのでドラゴン亭に戻ることにした。
食堂で夕食を取っていると、俺と同じ年くらいの男が近寄ってくる。
その男の顔は少し赤く、面倒だなと思っていると、
「お前、仲間を捨てて、オークから逃げてきたそうじゃないか。さっき訓練場で魔法を使っているところを見たが、何で仲間を見捨てたんだ? そうか、仲間を盾にして一人で逃げてきたんだろう」
やっぱり絡んできやがった。とりあえず無視して夕食を食べ続ける。
だが、その男は酔っ払ってからかいに来たのに相手にされないため、突然、激高し「澄ましやがって!」と怒鳴りだす。
鬱陶しく思っているが、騒ぎが大きくなると面倒なので、あまり刺激しないように小さな声で、「周りに迷惑だ。どこかに行ってくれ」と言ってみるが、完全に酔っ払っているのか、更に絡んでくる。
「仲間を見捨てたことを否定しないんだな! 最近調子に乗っていやがったが、冒険者は甘くないんだよ。さっさと止めちまいな!」
頭に血が上ると訳が判らなくなるタイプなんだろう。
周りを見るとパーティメンバーらしきものがこっちを見ている。
「この酔っ払いのお仲間はいませんか! これ以上恥をかく前に引き取った方がいいですよ!」
いい加減鬱陶しくなったので、他の連中にも聞こえるよう周囲に向かって叫ぶ。
仲間らしきメンバーもニヤ付いているだけで近寄ってこない。
「な、なんだと...お.」と、酔っ払いが喚き始めたので、何か言う前に遮り、
「まず、俺はデニス達とパーティは組んでいなかった。嘘だと思うならギルドで確認してみろ。次にオークについて少しでも知識があれば、オークの足が遅いことは知っているはずだ。死んだ三人は軽装備だった。ケガでもしていなければ逃げ出すことは難しくない。その時点で三人ともケガはしていなかった。それであんたは俺に何が言いたいんだ!」と一気にまくし立てる。
「お、お前、魔法が使えるんだろう! 魔法で援護すればオーク如き倒せるのに怖気づいて逃げたんだろうが!」
俺の情報を仕入れているのか、魔法についても突っ込んできたので、
「ああ、魔法は使える。その前にゴブリン殲滅のために魔力を相当使ったから、ファイアボールをあと三発撃つ分の魔力しか残っていなかった」
そして、故意にか酔ってか知らないが、オークロードであった事実を言わないので、
「ただのオークだったら、俺も支援したさ。だが、やつは大型の両手剣を自在に扱えるオークロードだぞ! Eランクの俺たちが倒せるような相手じゃなかったんだ!」
俺は相手が口を動かすだけで何も言えないことをいいことに、
「なあ、あんた、あんたのような高ランクならオークロードに差しで勝てるんだろ。明日、その場所へ案内してやる。差しで倒してこいよ! それとも酔っ払った勢いだけか? ここまで言ったんだから、ちゃんと落とし前をつけるんだろうな」とぶちぎれてしまった。
言った後に後悔したが、俺も今日のことで精神的にダメージを受けていたようで売り言葉に買い言葉、相手を追い込んでしまった。
「ああ、明日俺一人で倒してきてやるよ! 明日の八時にギルドで待ってろ!」
酔っ払いは勢いに任せてそう叫ぶ。
「おいルディいい加減しろ!」
さすがに同じパーティの男が引き取りに来る。
俺はこいつら全員が気に入らなかったので、
「その酔っ払いが絡んできた時、笑ってみていただろう。こいつの言ったことはあんたたちのパーティ全員の総意か」と突っ込む。
「いや、そんなことはないが、仲間を見捨てたって聞いたからな。ここまで酷いことを言うとは思っていなかったよ」と一応否定するが、その態度は俺を見下したままだ。
「まあいい。どちらにしても一端の冒険者が公言したことだ。こいつには明日、俺と二人でオークロードのいたところに行ってもらう。こいつは人前で俺を侮辱した。謝罪しないんなら、当然だろう」
俺も完全に切れているため、引く気はなくなっている。元々、あの場所へは明日行くつもりだったから、ちょうどいいとさえ思っている。
「なあ、酔っ払いの戯言だと見逃してくれないか。こいつは罠の設置や解除なんかは得意だが、戦闘はそんなに得意じゃないんだ。俺が謝罪する。それで勘弁してくれ」
俺は少しだけ冷静になり、ここが引き時だと考え、「わかったよ」と答えるが、まだルディと呼ばれた男が睨んでいるので、
「だが、こいつが明日連れて行ってくれといったら、俺は連れて行くぜ。元々決着を付けるつもりだったんだからな」と二人を睨みつけ、部屋に引上げていった。
明朝、朝食を取り、ギルドで久しぶりに薬草採取のクエストを受け、ルディを待つ。
八時になっても現れなかったので、一人で南の森に向かうことにした。
昨日は決着を付けるつもりといったが、本当は今日決着を付けるつもりはない。
デニスたちの遺品を回収し、もし、やつが現れたら遠距離から改良したファイアボールを撃ち込んで、どの程度ダメージが与えられるか確認したかっただけだ。
森の中で採取をしながら、昨日の戦闘の現場に到着。昨日とは違う方向から慎重に接近し、奴の気配がないか確認する。
見える範囲にはいない。
だが、デニスたちの遺体は散々に荒らされ、まだ血や肉が付いた骨が散乱していた。
俺はその遺体というか残骸の中から、何とかギルドカードを見つけ回収した。
オークロードは武器や装備には興味はないらしく、保存食だけが無くなっていた。
バスタードソードとロングソード、折れたショートスピア、現金と使えそうな装備品を回収し、昨日のゴブリンの死体から討伐証明部位を剥ぎ取り、撤収しようとした。
その時、奴の気配を感じた。
(やはりいやがった)
百mくらい離れたところに、昨日のオークロードがゆっくりと現れてきた。
俺は直ぐに移動を開始し、オークロードも俺を追跡してくる。
予め決めておいた逃走ルートには簡単な罠を仕掛けておいた。
リスクがあるので、あまり接近させたくはないが、ファイアボールを撃つためには三十mまで接近させなければならない。
しかし、昨日の動きを見ると瞬発力はかなりあり、接近させすぎると逃げるに逃げられなくなる可能性がある。
うまく罠を使って時間を稼ぎ、何発かファイアボールを撃たせてもらうつもりでいるが、もちろん自分の安全が最優先だ。
デニスたちの遺体があったところから、下ってきた坂を上っていく。上りきったところで一度迎え撃つことにしていた。
射程距離に入ると、すぐに一発目のファイアボールを撃つ。
昨日訓練場で試した高密度型だ。
オークロードはファイアボールを回避しようとするが、スピードが速すぎるのか回避しきれず左の肩口に命中した。ダメージは全HPの一割程度。
この出力で俺が撃てる回数は八発。
やはり魔法だけでは倒すことが難しい。これで今日奴を倒せる見込みはなくなった。
オークロードはダメージを受けたことに怒りを覚えたようで咆哮を上げ、坂を駆け上がってくる。
俺は用意していた倒木をオークロードに向かって転がし落とし、オークロードを転倒させる作戦に出る。
倒木はオークロードに命中するが、奴は転倒せずに更に坂を上ってくる。
俺は距離を取るため、オークロードに背を向け全力で走り出した。
次の攻撃ポイントはブッシュになったところを越えた地点。
ブッシュの先三十m地点で姿勢を低くし、奴の視界から一旦逃れる。
ブッシュの中にはロープを張ってあり、気付かないと足を引っ掛ける仕掛けがしてある。
射程距離に入り、再度ファイアボールを撃つ。
今度は通常のファイアボールだ。
先ほどよりやや飛翔速度は遅いと感じたが、ブッシュに隠れていたため、オークロードの胸に命中する。ダメージは先ほどの高密度型よりやや少ない。やはり高密度型の方が貫通力があるのか、ダメージは大きいようだ。
オークロードはブッシュから突然ファイアボールが飛んできたことで驚き、更に怒りを増大させている。
ブッシュを掻き分けて突っ込んでこようとした時、俺の仕掛けたロープに足を引っ掛け転倒する。
俺は再度ファイアボールの呪文を唱え、攻撃した。
次は高密度型の最小出力のものだ。これも命中するが、高密度型とは言え、最小出力ではオークの皮膚の防御力でかなり減衰してしまうようだ。
オークロードが立ち上がる前に俺は再び逃走ルートを走り始める。
用意した罠は使い切った。
後は持久力勝負になる。俺は時々後ろを振り返ってオークロードの状況を確認しながら、持久走を続ける。
オークロードは諦めたようで後ろで「グゥォ!」と咆哮を上げ、悔しがっている。
俺は周囲に注意しながら森を出た。
森の外の街道を進みながら、今の戦闘について考えてみた。
高密度型のファイアボールは貫通力が上がるが、オークロードを倒すには十発近くいる。今の俺ではギリギリ撃てる数だが、外せば魔力=気力を失うので接近戦に持ち込まれ、奴に切り刻まれるだろう。
今の俺一人の力では奴には勝てないということが、改めて事実として突きつけられた形だ。
では、どうするか。
このまま力を付けるまで奴との対戦を待つか、誰かに力を貸してもらい複数人で挑むか。複数人で挑めば、まず倒せるだろう。
俺の力がつくまでとなると、どれだけ時間が掛かるのかわからないし、奴にも力を付ける時間を与えることになる。
もう一つの選択肢はこれ以上奴には係わらないというものもある。
今回で一泡吹かせてやったし、遺品類は回収できたので、これ以上この森に近づく必要はない。冷静に判断すればこれが最も合理的な判断だろう。
だが、それでいいのか。この世界で生きていくため、強くなる必要があるが、今後も強敵を避け続けていくやり方で俺は強くなれるのか。
町に戻るまでいろいろと考えたが、結論は出ない。
ギルドに戻り、受付嬢に薬草クエストの完了報告を行う。
その後にデニスたちのギルドカードと遺品を回収してきたと伝える。
受付嬢から、ギルドカードの回収の報酬として一枚当り二十S、計六十Sを受け取る。
遺品については十日間保管するが、相続人が現れない場合は俺のものになるとのことだった。なんか金儲けのために回収しに行ったみたいで後味が悪い。
オークロードの情報も合わせて伝え、今日も訓練場に向かう。
訓練場では、昨日の続きを行う。
まず、飛翔速度の向上を目指す。
ファイアボールの飛翔速度はバッティングセンターの速球くらいに感じたので、時速百三十kmから百四十kmくらいだろう。
三十m先から撃つ場合、約一秒で目標に到達するが、正面から撃たれれば避けることはそれほど困難ではない。
この速度を更に上げられないか。
速度を上げるためには撃ち出し速度を上げるか、空気抵抗を小さくすることしか思い浮かばない。
空気抵抗を小さくするためには、高密度型のように玉自体を小さくするか、形状を流線型に変えるかだろう。
高密度化はこれ以上厳しいようなので、形状の変更に挑戦してみる。まず高密度化した上でティアドロップ型をイメージしてみる。
形はうまくできたのだが、そのまま撃つと変な回転になり、球状より遅くなってしまった。
ライフルのように螺旋状に回転させながら飛ばさないといけないのか。
もう一度やってみる。形はうまくできるが、うまく回転が与えられない。
矢やダーツのように羽が必要なのだろうか。
だが、ファイアボールでは複雑な形状は作ることができない。空気抵抗を減らすのは高密度化が限界のようだ。
次の案の撃ち出し速度を上げる方法だが、そもそもどういう原理でファイアボールが飛んで行っているのかわかっていない。
携帯電話の動画撮影でファイアボールの飛ぶところを撮影してみる。
手元から五mくらい先まで加速して飛んで行っているように見えた。
加速のイメージをレールガンのイメージにして飛ばしてみる。
手元から爆発的に加速し、最大加速が五mの位置、速度が二割増しくらいになった感じだ。この飛翔速度上昇と高密度化で射程も一.五倍くらいの四十五mは飛ばせるようになった。
威力も、貫通力が二倍近くになったことから、とりあえずファイアボールの改良はこれで良しとしよう。また、何かアイディアが出たら試してみればいい。
訓練場を後にし、宿で夕食を取りながら、帰り道で結論が出なかった明日からの計画についてもう一度考えてみることにした。
俺はどうしたいのだろうか。
オークロードを倒したいのだろうか。
それとも強くなりたいのだろうか。
当面の目的と目標を整理してみる。
目的は一人で生きていける強さまで強くなること。
目標はオークロードを一対一で勝てる強さになること。
数値目標としてはレベル十程度になるのだろうか。
そう考えるなら、南の森でオークロードに拘ることは成長を妨げる可能性が高い。
経験値の入り方を見てみると、クエストの達成ではほとんど入らず、敵を倒した時に多く入っているようだ。
自分にとって適正なレベルの敵を数多く倒すことを当面の行動方針にするのが、最も目的に沿ったやり方だろう。
南の森にはまだゴブリンの群れがいるだろうが、かなり奥に行く必要がありそうだし、オークロードが手前側でうろうろしているので、帰り道もかなり気を使う。
今の俺には複数目標を倒せるファイアストームがあるので、火に弱い魔物であれば少々数が多く出てきても対処できる自信がある。昆虫系や植物系の魔物をターゲットにすべきだろう。
明日からは東の森にチャレンジすることにした。
考えもまとまり、すっきりした後、夕食を終えて一人でエールをチビチビ舐めていると昨日の酔っ払いのルディがやってきた。
「なんだ、あんたか。今朝ギルドで待っていたのに来なかったな。明日から南の森には行かないから、勝手に一人で行ってくれ」
「昨日は酒を飲みすぎて馬鹿なことを言ったみてぇだ。まあ、許してくれや」と、へらへら笑いながら俺に話しかけてくる。
その姿に昨日の怒りが再燃する。
「なんだそれは! いくら先輩冒険者とはいえ、公衆の面前で罵倒されたんだぞ! それで、はい、そうですかと納得できるわけないだろう! あんたも一端の冒険者なら自分の言ったことのケツくらい拭いて見せろ!」
「昨日は酔っ払っていたんだよ。なあ、笑って握手してくれよ」と、ニヤニヤしながら手を出してくる。
「自分の言ったことに責任を持てないし謝罪も出来ない。そんなやつと握手する趣味はない」と言うと、ルディを無視して一気にエールを飲み干す。
「なんとか許してやってくれないか。ルディも反省はしているんだ」
昨日引取りに来たパーティメンバーの男も笑いながらそういってくる。どう見ても反省している雰囲気はなく、こっちが新人だと思って舐めているようだ。
「これで反省しているのか? あんたら駆け出しをいびって楽しんでいるんだろ?」
「いや、昨日は仕事がひとつ終わってちょっといい気分になっていたんだ。悪ふざけが過ぎただけだろう。先輩の顔を立てて、水に流してくれや」
いい加減うんざりし、「ああ、もう好きに水にでも何でも流してくれ。今日はデニスたちの遺品を回収するために行くつもりだったから付き合ってやる言っただけだ」と言って、食堂の席を立った。
この程度のやつらが先輩面するこの町に長居する必要性は感じない。もう少し資金を貯めたら別の町に移動しよう。
ルディたちが嫌がらせをしてきた場合を想定し、鑑定で能力を確認しておく。
ルディを含め、男四人のパーティ、大体二十二、三歳でレベル十二程度。
この年齢ならキャリアは最低七、八年、長ければ十年近いはずだ。
レベル十以上は上がりにくくなるのかもしれないが、一ヶ月でレベル四になっている俺からするとレベルが低すぎる気がする。
スキルも主要武器が七?八、防御スキルも低く、ほとんど戦闘をしていないんじゃないかと思えるほどだ。街道で護衛クエストをしていれば戦闘をしなくてもいいということなのだろうか。
ステータスを見る限り、なぜこの程度のやつらがCランクなのか理解に苦しむ。
一対一なら魔法を使わなくても十分に勝てるレベルじゃないのだろうか。
魔法の訓練を終えると、他にすることが無く、仕方が無いのでドラゴン亭に戻ることにした。
食堂で夕食を取っていると、俺と同じ年くらいの男が近寄ってくる。
その男の顔は少し赤く、面倒だなと思っていると、
「お前、仲間を捨てて、オークから逃げてきたそうじゃないか。さっき訓練場で魔法を使っているところを見たが、何で仲間を見捨てたんだ? そうか、仲間を盾にして一人で逃げてきたんだろう」
やっぱり絡んできやがった。とりあえず無視して夕食を食べ続ける。
だが、その男は酔っ払ってからかいに来たのに相手にされないため、突然、激高し「澄ましやがって!」と怒鳴りだす。
鬱陶しく思っているが、騒ぎが大きくなると面倒なので、あまり刺激しないように小さな声で、「周りに迷惑だ。どこかに行ってくれ」と言ってみるが、完全に酔っ払っているのか、更に絡んでくる。
「仲間を見捨てたことを否定しないんだな! 最近調子に乗っていやがったが、冒険者は甘くないんだよ。さっさと止めちまいな!」
頭に血が上ると訳が判らなくなるタイプなんだろう。
周りを見るとパーティメンバーらしきものがこっちを見ている。
「この酔っ払いのお仲間はいませんか! これ以上恥をかく前に引き取った方がいいですよ!」
いい加減鬱陶しくなったので、他の連中にも聞こえるよう周囲に向かって叫ぶ。
仲間らしきメンバーもニヤ付いているだけで近寄ってこない。
「な、なんだと...お.」と、酔っ払いが喚き始めたので、何か言う前に遮り、
「まず、俺はデニス達とパーティは組んでいなかった。嘘だと思うならギルドで確認してみろ。次にオークについて少しでも知識があれば、オークの足が遅いことは知っているはずだ。死んだ三人は軽装備だった。ケガでもしていなければ逃げ出すことは難しくない。その時点で三人ともケガはしていなかった。それであんたは俺に何が言いたいんだ!」と一気にまくし立てる。
「お、お前、魔法が使えるんだろう! 魔法で援護すればオーク如き倒せるのに怖気づいて逃げたんだろうが!」
俺の情報を仕入れているのか、魔法についても突っ込んできたので、
「ああ、魔法は使える。その前にゴブリン殲滅のために魔力を相当使ったから、ファイアボールをあと三発撃つ分の魔力しか残っていなかった」
そして、故意にか酔ってか知らないが、オークロードであった事実を言わないので、
「ただのオークだったら、俺も支援したさ。だが、やつは大型の両手剣を自在に扱えるオークロードだぞ! Eランクの俺たちが倒せるような相手じゃなかったんだ!」
俺は相手が口を動かすだけで何も言えないことをいいことに、
「なあ、あんた、あんたのような高ランクならオークロードに差しで勝てるんだろ。明日、その場所へ案内してやる。差しで倒してこいよ! それとも酔っ払った勢いだけか? ここまで言ったんだから、ちゃんと落とし前をつけるんだろうな」とぶちぎれてしまった。
言った後に後悔したが、俺も今日のことで精神的にダメージを受けていたようで売り言葉に買い言葉、相手を追い込んでしまった。
「ああ、明日俺一人で倒してきてやるよ! 明日の八時にギルドで待ってろ!」
酔っ払いは勢いに任せてそう叫ぶ。
「おいルディいい加減しろ!」
さすがに同じパーティの男が引き取りに来る。
俺はこいつら全員が気に入らなかったので、
「その酔っ払いが絡んできた時、笑ってみていただろう。こいつの言ったことはあんたたちのパーティ全員の総意か」と突っ込む。
「いや、そんなことはないが、仲間を見捨てたって聞いたからな。ここまで酷いことを言うとは思っていなかったよ」と一応否定するが、その態度は俺を見下したままだ。
「まあいい。どちらにしても一端の冒険者が公言したことだ。こいつには明日、俺と二人でオークロードのいたところに行ってもらう。こいつは人前で俺を侮辱した。謝罪しないんなら、当然だろう」
俺も完全に切れているため、引く気はなくなっている。元々、あの場所へは明日行くつもりだったから、ちょうどいいとさえ思っている。
「なあ、酔っ払いの戯言だと見逃してくれないか。こいつは罠の設置や解除なんかは得意だが、戦闘はそんなに得意じゃないんだ。俺が謝罪する。それで勘弁してくれ」
俺は少しだけ冷静になり、ここが引き時だと考え、「わかったよ」と答えるが、まだルディと呼ばれた男が睨んでいるので、
「だが、こいつが明日連れて行ってくれといったら、俺は連れて行くぜ。元々決着を付けるつもりだったんだからな」と二人を睨みつけ、部屋に引上げていった。
明朝、朝食を取り、ギルドで久しぶりに薬草採取のクエストを受け、ルディを待つ。
八時になっても現れなかったので、一人で南の森に向かうことにした。
昨日は決着を付けるつもりといったが、本当は今日決着を付けるつもりはない。
デニスたちの遺品を回収し、もし、やつが現れたら遠距離から改良したファイアボールを撃ち込んで、どの程度ダメージが与えられるか確認したかっただけだ。
森の中で採取をしながら、昨日の戦闘の現場に到着。昨日とは違う方向から慎重に接近し、奴の気配がないか確認する。
見える範囲にはいない。
だが、デニスたちの遺体は散々に荒らされ、まだ血や肉が付いた骨が散乱していた。
俺はその遺体というか残骸の中から、何とかギルドカードを見つけ回収した。
オークロードは武器や装備には興味はないらしく、保存食だけが無くなっていた。
バスタードソードとロングソード、折れたショートスピア、現金と使えそうな装備品を回収し、昨日のゴブリンの死体から討伐証明部位を剥ぎ取り、撤収しようとした。
その時、奴の気配を感じた。
(やはりいやがった)
百mくらい離れたところに、昨日のオークロードがゆっくりと現れてきた。
俺は直ぐに移動を開始し、オークロードも俺を追跡してくる。
予め決めておいた逃走ルートには簡単な罠を仕掛けておいた。
リスクがあるので、あまり接近させたくはないが、ファイアボールを撃つためには三十mまで接近させなければならない。
しかし、昨日の動きを見ると瞬発力はかなりあり、接近させすぎると逃げるに逃げられなくなる可能性がある。
うまく罠を使って時間を稼ぎ、何発かファイアボールを撃たせてもらうつもりでいるが、もちろん自分の安全が最優先だ。
デニスたちの遺体があったところから、下ってきた坂を上っていく。上りきったところで一度迎え撃つことにしていた。
射程距離に入ると、すぐに一発目のファイアボールを撃つ。
昨日訓練場で試した高密度型だ。
オークロードはファイアボールを回避しようとするが、スピードが速すぎるのか回避しきれず左の肩口に命中した。ダメージは全HPの一割程度。
この出力で俺が撃てる回数は八発。
やはり魔法だけでは倒すことが難しい。これで今日奴を倒せる見込みはなくなった。
オークロードはダメージを受けたことに怒りを覚えたようで咆哮を上げ、坂を駆け上がってくる。
俺は用意していた倒木をオークロードに向かって転がし落とし、オークロードを転倒させる作戦に出る。
倒木はオークロードに命中するが、奴は転倒せずに更に坂を上ってくる。
俺は距離を取るため、オークロードに背を向け全力で走り出した。
次の攻撃ポイントはブッシュになったところを越えた地点。
ブッシュの先三十m地点で姿勢を低くし、奴の視界から一旦逃れる。
ブッシュの中にはロープを張ってあり、気付かないと足を引っ掛ける仕掛けがしてある。
射程距離に入り、再度ファイアボールを撃つ。
今度は通常のファイアボールだ。
先ほどよりやや飛翔速度は遅いと感じたが、ブッシュに隠れていたため、オークロードの胸に命中する。ダメージは先ほどの高密度型よりやや少ない。やはり高密度型の方が貫通力があるのか、ダメージは大きいようだ。
オークロードはブッシュから突然ファイアボールが飛んできたことで驚き、更に怒りを増大させている。
ブッシュを掻き分けて突っ込んでこようとした時、俺の仕掛けたロープに足を引っ掛け転倒する。
俺は再度ファイアボールの呪文を唱え、攻撃した。
次は高密度型の最小出力のものだ。これも命中するが、高密度型とは言え、最小出力ではオークの皮膚の防御力でかなり減衰してしまうようだ。
オークロードが立ち上がる前に俺は再び逃走ルートを走り始める。
用意した罠は使い切った。
後は持久力勝負になる。俺は時々後ろを振り返ってオークロードの状況を確認しながら、持久走を続ける。
オークロードは諦めたようで後ろで「グゥォ!」と咆哮を上げ、悔しがっている。
俺は周囲に注意しながら森を出た。
森の外の街道を進みながら、今の戦闘について考えてみた。
高密度型のファイアボールは貫通力が上がるが、オークロードを倒すには十発近くいる。今の俺ではギリギリ撃てる数だが、外せば魔力=気力を失うので接近戦に持ち込まれ、奴に切り刻まれるだろう。
今の俺一人の力では奴には勝てないということが、改めて事実として突きつけられた形だ。
では、どうするか。
このまま力を付けるまで奴との対戦を待つか、誰かに力を貸してもらい複数人で挑むか。複数人で挑めば、まず倒せるだろう。
俺の力がつくまでとなると、どれだけ時間が掛かるのかわからないし、奴にも力を付ける時間を与えることになる。
もう一つの選択肢はこれ以上奴には係わらないというものもある。
今回で一泡吹かせてやったし、遺品類は回収できたので、これ以上この森に近づく必要はない。冷静に判断すればこれが最も合理的な判断だろう。
だが、それでいいのか。この世界で生きていくため、強くなる必要があるが、今後も強敵を避け続けていくやり方で俺は強くなれるのか。
町に戻るまでいろいろと考えたが、結論は出ない。
ギルドに戻り、受付嬢に薬草クエストの完了報告を行う。
その後にデニスたちのギルドカードと遺品を回収してきたと伝える。
受付嬢から、ギルドカードの回収の報酬として一枚当り二十S、計六十Sを受け取る。
遺品については十日間保管するが、相続人が現れない場合は俺のものになるとのことだった。なんか金儲けのために回収しに行ったみたいで後味が悪い。
オークロードの情報も合わせて伝え、今日も訓練場に向かう。
訓練場では、昨日の続きを行う。
まず、飛翔速度の向上を目指す。
ファイアボールの飛翔速度はバッティングセンターの速球くらいに感じたので、時速百三十kmから百四十kmくらいだろう。
三十m先から撃つ場合、約一秒で目標に到達するが、正面から撃たれれば避けることはそれほど困難ではない。
この速度を更に上げられないか。
速度を上げるためには撃ち出し速度を上げるか、空気抵抗を小さくすることしか思い浮かばない。
空気抵抗を小さくするためには、高密度型のように玉自体を小さくするか、形状を流線型に変えるかだろう。
高密度化はこれ以上厳しいようなので、形状の変更に挑戦してみる。まず高密度化した上でティアドロップ型をイメージしてみる。
形はうまくできたのだが、そのまま撃つと変な回転になり、球状より遅くなってしまった。
ライフルのように螺旋状に回転させながら飛ばさないといけないのか。
もう一度やってみる。形はうまくできるが、うまく回転が与えられない。
矢やダーツのように羽が必要なのだろうか。
だが、ファイアボールでは複雑な形状は作ることができない。空気抵抗を減らすのは高密度化が限界のようだ。
次の案の撃ち出し速度を上げる方法だが、そもそもどういう原理でファイアボールが飛んで行っているのかわかっていない。
携帯電話の動画撮影でファイアボールの飛ぶところを撮影してみる。
手元から五mくらい先まで加速して飛んで行っているように見えた。
加速のイメージをレールガンのイメージにして飛ばしてみる。
手元から爆発的に加速し、最大加速が五mの位置、速度が二割増しくらいになった感じだ。この飛翔速度上昇と高密度化で射程も一.五倍くらいの四十五mは飛ばせるようになった。
威力も、貫通力が二倍近くになったことから、とりあえずファイアボールの改良はこれで良しとしよう。また、何かアイディアが出たら試してみればいい。
訓練場を後にし、宿で夕食を取りながら、帰り道で結論が出なかった明日からの計画についてもう一度考えてみることにした。
俺はどうしたいのだろうか。
オークロードを倒したいのだろうか。
それとも強くなりたいのだろうか。
当面の目的と目標を整理してみる。
目的は一人で生きていける強さまで強くなること。
目標はオークロードを一対一で勝てる強さになること。
数値目標としてはレベル十程度になるのだろうか。
そう考えるなら、南の森でオークロードに拘ることは成長を妨げる可能性が高い。
経験値の入り方を見てみると、クエストの達成ではほとんど入らず、敵を倒した時に多く入っているようだ。
自分にとって適正なレベルの敵を数多く倒すことを当面の行動方針にするのが、最も目的に沿ったやり方だろう。
南の森にはまだゴブリンの群れがいるだろうが、かなり奥に行く必要がありそうだし、オークロードが手前側でうろうろしているので、帰り道もかなり気を使う。
今の俺には複数目標を倒せるファイアストームがあるので、火に弱い魔物であれば少々数が多く出てきても対処できる自信がある。昆虫系や植物系の魔物をターゲットにすべきだろう。
明日からは東の森にチャレンジすることにした。
考えもまとまり、すっきりした後、夕食を終えて一人でエールをチビチビ舐めていると昨日の酔っ払いのルディがやってきた。
「なんだ、あんたか。今朝ギルドで待っていたのに来なかったな。明日から南の森には行かないから、勝手に一人で行ってくれ」
「昨日は酒を飲みすぎて馬鹿なことを言ったみてぇだ。まあ、許してくれや」と、へらへら笑いながら俺に話しかけてくる。
その姿に昨日の怒りが再燃する。
「なんだそれは! いくら先輩冒険者とはいえ、公衆の面前で罵倒されたんだぞ! それで、はい、そうですかと納得できるわけないだろう! あんたも一端の冒険者なら自分の言ったことのケツくらい拭いて見せろ!」
「昨日は酔っ払っていたんだよ。なあ、笑って握手してくれよ」と、ニヤニヤしながら手を出してくる。
「自分の言ったことに責任を持てないし謝罪も出来ない。そんなやつと握手する趣味はない」と言うと、ルディを無視して一気にエールを飲み干す。
「なんとか許してやってくれないか。ルディも反省はしているんだ」
昨日引取りに来たパーティメンバーの男も笑いながらそういってくる。どう見ても反省している雰囲気はなく、こっちが新人だと思って舐めているようだ。
「これで反省しているのか? あんたら駆け出しをいびって楽しんでいるんだろ?」
「いや、昨日は仕事がひとつ終わってちょっといい気分になっていたんだ。悪ふざけが過ぎただけだろう。先輩の顔を立てて、水に流してくれや」
いい加減うんざりし、「ああ、もう好きに水にでも何でも流してくれ。今日はデニスたちの遺品を回収するために行くつもりだったから付き合ってやる言っただけだ」と言って、食堂の席を立った。
この程度のやつらが先輩面するこの町に長居する必要性は感じない。もう少し資金を貯めたら別の町に移動しよう。
ルディたちが嫌がらせをしてきた場合を想定し、鑑定で能力を確認しておく。
ルディを含め、男四人のパーティ、大体二十二、三歳でレベル十二程度。
この年齢ならキャリアは最低七、八年、長ければ十年近いはずだ。
レベル十以上は上がりにくくなるのかもしれないが、一ヶ月でレベル四になっている俺からするとレベルが低すぎる気がする。
スキルも主要武器が七?八、防御スキルも低く、ほとんど戦闘をしていないんじゃないかと思えるほどだ。街道で護衛クエストをしていれば戦闘をしなくてもいいということなのだろうか。
ステータスを見る限り、なぜこの程度のやつらがCランクなのか理解に苦しむ。
一対一なら魔法を使わなくても十分に勝てるレベルじゃないのだろうか。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/11 21:27 更新日:2012/12/11 21:27 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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