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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二章「ゴスラー市」:第13話「夏至祭」
前の話 | 目次 | 次の話 |
第2章.第13話「夏至祭」
翌日もいつものように朝食を取ったあと、東の森で昆虫系を討伐することにする。
本日もグリーンクロウラーが対象だったが、昨日のようにおいしい集団は発見できず、ファイアボールで一匹ずつ合計八匹を狩る。
Eランクの薬草採取も順調で今日も六件クリアした。
現在のE,Dランクのクエストクリア件数も十九件になった。
この調子で行けば、後六日もあれば、Dランク昇格試験を受けられそうだ。
そして、嬉しいことにレベルも五に上がっていた。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV5
STR368, VIT319, AGI351, DEX400, INT3286, MEN1136, CHA305, LUC295
HP393, MP1136, AR0, SR0, DR0, SKL184, MAG40, PL24, EXP10233
スキル:両手剣10、回避8、軽装鎧4、共通語5、隠密4、探知4、追跡4、
罠4、体術2、植物知識5、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法5(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性5(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
順調にレベルアップし、スキルも少しずつだが、上がっている。
今のペースを守っていけば、当面の目標であるレベル一〇もそう遠くない日に到達できそうだ。
ギルドでクエスト達成手続きを行っている時にいつもと違う雰囲気を感じた。
何かそわそわした感じで落ち着きがない。緊張しているというより浮ついている感じだろうか。
気になったので受付嬢に聞いてみると、受付嬢は驚いた顔をして、「えっ? 今日は光の月の第六週水の曜ですよ。明後日は夏至祭じゃないですか」
光の月は六月、第六週水の曜は二十九日に当る。と言うことは、明後日は夏至の日。年に三回ある大きな祭のひとつで、国を挙げて行われる夏至祭がある日だった。
(なるほど、だから皆そわそわしているのか。祭の前日の楽しい時間というやつだな)
ギルやフーゴから聞いた知識では冬至、夏至、秋分の収穫祭は祝日となり、王都から小さな村まで祭を行うそうだ。ちなみに春分も祝日だが、あまり大々的な祭りはないそうだ。
祭自体は神官が神事を行う定番のもののようだが、酒を飲んで騒ぐ、デートをするなど元の世界の祭と同じ楽しみ方をするのだろう。
娯楽の少ないこの世界ではまさに一大イベントで、明日の夜から前夜祭があり、若者は夜を徹して遊ぶそうで浮ついてしまうのは仕方がない。
この町に友達がいない俺にとってはあまり関係がない。
明後日も一応ギルドの受付はやっているそうだが、クエストを受けに行くのも無粋だろう。
明日も早めに切り上げて、明後日は休日としようと思っている。
受付嬢と話していると、キルヒナーギルド長がやってきた。
そして、俺に「最近かなり討伐数が増えているようだね。何も問題はないかね」と話しかけてきた。
俺は少し警戒しながら、「特に問題はありませんよ。この分なら十日以内にDランク昇格試験を受けれそうです」と答える。
彼はにこやかに「そうか、それは良かった」と言った後、
「ところでちょっと前に先輩に絡まれたそうだが、その後は大丈夫かね」と、ルディたちに絡まれたことを気にしてくれているようだ。
俺も相手の目的が判れば、特に含むところはないので、「ええ、最近あいつらを見ていないので何とも言えませんが、今のところ平和にやっています」
そこで、すっかり忘れていたが、「そう言えば、最近ルディたちを見ないな?」と呟いた。
ギルド長は、「彼らはオークロードの討伐にいったようだ」と何事もないように口にしている。
一瞬耳を疑った俺は、ギルド長に「えっ! あいつらがオークロード討伐ですか? 大丈夫なんですか?」と聞き直した。
彼は、急に苦々しい表情になり、「しらん」と一言言った後、
「あいつらの存在がこの町のギルドにとって良くない物になりつつあったからな。だから、あいつらに最後のチャンスを与えてやったわけだ。オークロードを倒すか、冒険者をやめるか決めろと」
ギルド長は更に実力もないのに後輩には偉そうにすること、自分の派閥に入りそうにない優秀な新人には嫌がらせをすることが目に余り、この町の優秀な若手冒険者が見切りを付けてオステンシュタット辺りに行く原因の一つになっていたと話してくれた。
俺はその処置には納得したが、「そうなんですか。でも、たぶん倒せませんよ」
ここで“たぶん”と言ったが、鑑定で実力を知っている俺は絶対に無理だと思っている。
ギルド長も判っているようで、「まあ、諦めて冒険者をやめてくれれば一番いいが、死んだところでギルドにとって損失は何もない」と意外と酷いことをさらっと言って去って行った。
俺も鬱陶しいやつらがいなくなるならどっちでもいいかと思いながら宿に帰っていった。
翌日も東の森にグリーンクロウラーを狩りに行く。
今日の成果は七匹。薬草採取も五件達成した。
東の森の昆虫系は火属性魔法が使える俺にとってはおいしい場所だ。
もう少し慣れたら、奥の方にも行ってみようと思っている。
夕方、宿で食事を取ろうと食堂に行くといつもよりかなり閑散としている。
皆、前夜祭に繰り出しているようだ。後で気が向いたら行ってみようかと考えながら、夕食を頼もうとドラゴン亭の主人のマルティンに声をかける。
彼は驚いたように俺を見た後、
「今日はみんな外にいくと思ってほとんど準備していないんだ。今日の分の食事代は明日返すから外で食べてきてくれないか?」
「ああ、すまなかった。じゃあ外で食べてくるよ」と答えたが、心の中では「しくじった」と考えていた。
そして、俺はほぼ強制的に前夜祭会場に行くことになった。
俺は一旦部屋に戻り、財布を手に取り、「こういう時、装備はどうするんだ?」と思ったが、面倒なので革のジャケットだけ羽織って外に出る。
屋台をのぞきながら、時々、肉の串焼きやらクレープ包みっぽいものやらを買い食いしながら、町をうろついていた。
突然、「タイガさん」と声を掛けられた。
そこにはアントンたちが立っていた。
アントンはダニエラともう一人の少年ベリエスがキャサリンと仲良く歩いている。
いつもの冒険者スタイルだが、少女二人はちょっとしたアクセサリーをつけ、少しだけおしゃれをしている。
中学生のカップルが仲良く縁日に来ている姿が重なって見えてしまい、「十三歳の子供なんだよな」ってつくづく思ってしまった。
「楽しんでるか?」と俺は軽く手を挙げる。
「はい!楽しんでます。最近少しだけお金に余裕が出てきたので、思い切って今日と明日休みにしちゃいました。タイガさんも前夜祭を楽しんでますか?」
俺は苦笑しながら、「俺はドラゴン亭の食堂を追い出された口だ。仕方なく屋台で晩飯を食っているだけだ。もう少ししたら宿に帰るつもりだよ」
「そうなんですか……」
アントンは他の三人を見てうなずき、「実はタイガさんに折り入ってお願いがあるんですが、いいですか?」とまじめな顔で俺を見ている。
俺は何の話だと思いながら、
「ああ、俺は暇だから構わないが、お前ら前夜祭を楽しむんだろ。別に明日は休む予定だから明日でも時間はあるんだが……」
「僕達のこれからのことなんです。これからのことを心配しながら夏至祭を楽しむことなんてできません。できればすぐにでもお話したいんですが……」と深刻そうな顔をしている。
「どっかの屋台のテーブルででも話をするか」といって、近くの肉野菜炒めを出す屋台の椅子に五人で座る。
俺はエールを頼み、四人はワインの水割りを頼む。アントンが恐る恐る話を切り出してきた。
「実はタイガさんに魔物討伐の指導をお願いしたいんです。僕達、タイガさんのおかげで薬草採取はほどほどできるようになりました。Fランクにもなり、この調子なら一ヶ月くらいでEランクに上がりそうです。でも、僕たちは魔物討伐なんてやったことがないんです。武器の取り扱いも下手ですし、魔物が出てきたら、野犬やコボルトといった弱い魔物でも戦える自信はありません。できればタイガさんに戦い方を教えてもらいたいんです。もちろん、報酬はお支払いします」
俺はその言葉に驚くが、自分がまだ駆け出しだということは忘れていない。
俺は「悪いが他を当たってくれ」と言った後、
「俺の戦い方を知っているだろ。俺は魔法で弱らせて剣で止めを刺す魔法剣士のスタイルだ。お前らには魔法の素質がないし、俺には剣を教えるほどの腕もない」
アントンは諦めずに食らいついてくる。
「タイガさんの戦い方は噂を集めていますから知っています。ですから、タイガさんの戦い方そのものを教えてもらうつもりはないんです。俺達が戦っているところの後ろでタイガさんに見ていてもらいたいんです。報酬は一日銀貨三十枚で、討伐の報酬はタイガさんが何もしなくても半分渡します。これはみんなで相談して決めたことです。お願いします」とアントンが頭を下げると、他の三人も揃って頭を下げてくる。
俺は銀貨三十枚と聞き、ビックリして、「一日銀貨三十枚も払ったらすぐに資金がなくなるんじゃないか。正直そこまでする価値は俺にはないぞ」
「大丈夫です。タイガさんのおかげで一人金貨一枚分程度の貯えができました。僕達が泊まっている宿はタイガさんが泊っているドラゴン亭みたいに高いところではなくて、四人で銀貨十二枚です。だから、討伐の報酬の半分あれば泊ることはできるんです。こんなこと頼めるのはタイガさんだけなんです。お願いします」
正直、彼らの考えが理解できなかった。だが、四人の真っ直ぐな想いに了承することにした。
俺が「わかったよ」と言うと、四人は嬉しそうに顔を見合わせている。
「但し、条件がある。本格的に始めるのは、俺がDランクになるまで待つこと」と俺が付け加えると、
アントンたちは「えっ! そんなに先まで待たなきゃだめですか?」と愕然とした表情になっていく。
どうも勘違いしているようなので、「どのくらい待つと思っているか知らんが、後五、六日で昇格試験を受けられる。昇格試験を含めても十日は掛らないはずだ」
そう言うと四人はびっくりした顔で、「「そ、そうなんですか!」」と声を合わせて驚いている。
そして「だってつい何日か前にEランクに上がったとこじゃないですか!」とアントンが叫んだ後、「はあぁぁ。やっぱり俺達とは違うんですねぇ」に嘆息される。
本当のことを言えば、Dランクまでなら得意の薬草採取でポイントを稼げるのでやろうと思えば、もっと早くもできたがそのことは言わずにおいた。
そして、大事な話を始めることにした。
「報酬についてだが、まず銀貨三十枚は要らない」と言うと、四人はまた声を揃えて、「「えっ!」」と驚いている。
驚いている彼らにかなりきつい条件を付け加えた。
「その代り、採取と討伐の報酬の七割を俺がもらう」と鬼畜な条件を付け加えた。
これはアントンたちのような駆け出したちが俺に弟子入りすると言ってこないようにするためなのだが、彼らは安堵した表情で「その方が助かります」と言ってきた。
俺は助かると言った言葉に驚くが、考えがあるので、これからのことを話していく。
「まあいいだろう。それから、俺がDランクに上がるのに合わせて、お前たちにもEランクに昇格してもらう。俺がEランクの内にお前らとパーティを組み、採取クエストを一日五件以上クリアする。これならEランクに上がるだろう」
その言葉に「これって、また俺たちに有利すぎませんか? お願いしていてなんですが、なんか悪い気がしてきました」とアントンは言い、他の三人も肯いている。
まじめな話俺にもメリットが大きいので、このことをきちんと説明しようと思った。
「俺にとってもメリットがある。知っての通り、俺は基本ソロで動いていた。この間デニスたちと一緒に行動して、パーティでのクエストのやり方をもっと知っておく必要があると思ったわけだ」
具体的な話もしておいた方がいいだろうと思い、
「夜営しての長期のクエストができるメリットがある。東の森の奥に狩りに行きたいんだが、日帰りではなかなか行けないんだ。戦闘は俺がするとしても寝ているところを襲われるのは困るから、パーティを組みたいってわけだ」
アントンは自分が夜中に魔物と戦うことを考えたのか、「でも、僕達のような戦えない冒険者でもいいんですか?」
俺は安心させるように、やってほしいことを明確に話しておく。
「構わない。というより、信用のできない強い奴より、信用できるお前達の方がよっぽど安心だ。それに不寝番をするだけで何かが近付いてきたら俺を起こすだけの仕事だ。腕は要らない」
「それじゃ、明後日から一緒にやってもらえるんですね」
結局、アントンたちの要望通りになったようだが、俺のメリットもかなり大きい。
東の森の奥に行き、ゆっくりと休める環境があれば、昆虫系の討伐がやりたい放題になる。
アントンたちには悪いが、番犬代わりの不寝番になってもらうことで俺の成長が速くなるわけだ。
もちろん、アントンたちの経験も増えるのでウィン?ウィンの関係と言えるだろう。
アントンたちは戦闘の経験を積める見込みが出てきたことでかなり嬉しそうだ。
「それじゃ、お前たちは前夜祭、夏至祭をたっぷり楽しんで来い。明後日の朝八時にギルドに集合だぞ。はしゃぎすぎて遅れるなよ」と片手を軽く上げ、俺は四人と別れる。
翌日の夏至祭も食事はなかったので、屋台で物色する。
広場の方では賑やかな笛や弦楽器の音がする。いかにも祭っていう感じだ。
そう言えば、こっちに来て二ヶ月近いが、ゆっくり楽しむことがなかった。
一人なので少しさびしいが、露店で売っている雑貨やアクセサリーなんかを冷やかしで見ながら、時間を潰していった。
やはり、こういう時に一人というのは、少し悲しくなる。
早くどこかで対等の友人を作りたいものだ。
翌日もいつものように朝食を取ったあと、東の森で昆虫系を討伐することにする。
本日もグリーンクロウラーが対象だったが、昨日のようにおいしい集団は発見できず、ファイアボールで一匹ずつ合計八匹を狩る。
Eランクの薬草採取も順調で今日も六件クリアした。
現在のE,Dランクのクエストクリア件数も十九件になった。
この調子で行けば、後六日もあれば、Dランク昇格試験を受けられそうだ。
そして、嬉しいことにレベルも五に上がっていた。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV5
STR368, VIT319, AGI351, DEX400, INT3286, MEN1136, CHA305, LUC295
HP393, MP1136, AR0, SR0, DR0, SKL184, MAG40, PL24, EXP10233
スキル:両手剣10、回避8、軽装鎧4、共通語5、隠密4、探知4、追跡4、
罠4、体術2、植物知識5、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法5(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性5(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
順調にレベルアップし、スキルも少しずつだが、上がっている。
今のペースを守っていけば、当面の目標であるレベル一〇もそう遠くない日に到達できそうだ。
ギルドでクエスト達成手続きを行っている時にいつもと違う雰囲気を感じた。
何かそわそわした感じで落ち着きがない。緊張しているというより浮ついている感じだろうか。
気になったので受付嬢に聞いてみると、受付嬢は驚いた顔をして、「えっ? 今日は光の月の第六週水の曜ですよ。明後日は夏至祭じゃないですか」
光の月は六月、第六週水の曜は二十九日に当る。と言うことは、明後日は夏至の日。年に三回ある大きな祭のひとつで、国を挙げて行われる夏至祭がある日だった。
(なるほど、だから皆そわそわしているのか。祭の前日の楽しい時間というやつだな)
ギルやフーゴから聞いた知識では冬至、夏至、秋分の収穫祭は祝日となり、王都から小さな村まで祭を行うそうだ。ちなみに春分も祝日だが、あまり大々的な祭りはないそうだ。
祭自体は神官が神事を行う定番のもののようだが、酒を飲んで騒ぐ、デートをするなど元の世界の祭と同じ楽しみ方をするのだろう。
娯楽の少ないこの世界ではまさに一大イベントで、明日の夜から前夜祭があり、若者は夜を徹して遊ぶそうで浮ついてしまうのは仕方がない。
この町に友達がいない俺にとってはあまり関係がない。
明後日も一応ギルドの受付はやっているそうだが、クエストを受けに行くのも無粋だろう。
明日も早めに切り上げて、明後日は休日としようと思っている。
受付嬢と話していると、キルヒナーギルド長がやってきた。
そして、俺に「最近かなり討伐数が増えているようだね。何も問題はないかね」と話しかけてきた。
俺は少し警戒しながら、「特に問題はありませんよ。この分なら十日以内にDランク昇格試験を受けれそうです」と答える。
彼はにこやかに「そうか、それは良かった」と言った後、
「ところでちょっと前に先輩に絡まれたそうだが、その後は大丈夫かね」と、ルディたちに絡まれたことを気にしてくれているようだ。
俺も相手の目的が判れば、特に含むところはないので、「ええ、最近あいつらを見ていないので何とも言えませんが、今のところ平和にやっています」
そこで、すっかり忘れていたが、「そう言えば、最近ルディたちを見ないな?」と呟いた。
ギルド長は、「彼らはオークロードの討伐にいったようだ」と何事もないように口にしている。
一瞬耳を疑った俺は、ギルド長に「えっ! あいつらがオークロード討伐ですか? 大丈夫なんですか?」と聞き直した。
彼は、急に苦々しい表情になり、「しらん」と一言言った後、
「あいつらの存在がこの町のギルドにとって良くない物になりつつあったからな。だから、あいつらに最後のチャンスを与えてやったわけだ。オークロードを倒すか、冒険者をやめるか決めろと」
ギルド長は更に実力もないのに後輩には偉そうにすること、自分の派閥に入りそうにない優秀な新人には嫌がらせをすることが目に余り、この町の優秀な若手冒険者が見切りを付けてオステンシュタット辺りに行く原因の一つになっていたと話してくれた。
俺はその処置には納得したが、「そうなんですか。でも、たぶん倒せませんよ」
ここで“たぶん”と言ったが、鑑定で実力を知っている俺は絶対に無理だと思っている。
ギルド長も判っているようで、「まあ、諦めて冒険者をやめてくれれば一番いいが、死んだところでギルドにとって損失は何もない」と意外と酷いことをさらっと言って去って行った。
俺も鬱陶しいやつらがいなくなるならどっちでもいいかと思いながら宿に帰っていった。
翌日も東の森にグリーンクロウラーを狩りに行く。
今日の成果は七匹。薬草採取も五件達成した。
東の森の昆虫系は火属性魔法が使える俺にとってはおいしい場所だ。
もう少し慣れたら、奥の方にも行ってみようと思っている。
夕方、宿で食事を取ろうと食堂に行くといつもよりかなり閑散としている。
皆、前夜祭に繰り出しているようだ。後で気が向いたら行ってみようかと考えながら、夕食を頼もうとドラゴン亭の主人のマルティンに声をかける。
彼は驚いたように俺を見た後、
「今日はみんな外にいくと思ってほとんど準備していないんだ。今日の分の食事代は明日返すから外で食べてきてくれないか?」
「ああ、すまなかった。じゃあ外で食べてくるよ」と答えたが、心の中では「しくじった」と考えていた。
そして、俺はほぼ強制的に前夜祭会場に行くことになった。
俺は一旦部屋に戻り、財布を手に取り、「こういう時、装備はどうするんだ?」と思ったが、面倒なので革のジャケットだけ羽織って外に出る。
屋台をのぞきながら、時々、肉の串焼きやらクレープ包みっぽいものやらを買い食いしながら、町をうろついていた。
突然、「タイガさん」と声を掛けられた。
そこにはアントンたちが立っていた。
アントンはダニエラともう一人の少年ベリエスがキャサリンと仲良く歩いている。
いつもの冒険者スタイルだが、少女二人はちょっとしたアクセサリーをつけ、少しだけおしゃれをしている。
中学生のカップルが仲良く縁日に来ている姿が重なって見えてしまい、「十三歳の子供なんだよな」ってつくづく思ってしまった。
「楽しんでるか?」と俺は軽く手を挙げる。
「はい!楽しんでます。最近少しだけお金に余裕が出てきたので、思い切って今日と明日休みにしちゃいました。タイガさんも前夜祭を楽しんでますか?」
俺は苦笑しながら、「俺はドラゴン亭の食堂を追い出された口だ。仕方なく屋台で晩飯を食っているだけだ。もう少ししたら宿に帰るつもりだよ」
「そうなんですか……」
アントンは他の三人を見てうなずき、「実はタイガさんに折り入ってお願いがあるんですが、いいですか?」とまじめな顔で俺を見ている。
俺は何の話だと思いながら、
「ああ、俺は暇だから構わないが、お前ら前夜祭を楽しむんだろ。別に明日は休む予定だから明日でも時間はあるんだが……」
「僕達のこれからのことなんです。これからのことを心配しながら夏至祭を楽しむことなんてできません。できればすぐにでもお話したいんですが……」と深刻そうな顔をしている。
「どっかの屋台のテーブルででも話をするか」といって、近くの肉野菜炒めを出す屋台の椅子に五人で座る。
俺はエールを頼み、四人はワインの水割りを頼む。アントンが恐る恐る話を切り出してきた。
「実はタイガさんに魔物討伐の指導をお願いしたいんです。僕達、タイガさんのおかげで薬草採取はほどほどできるようになりました。Fランクにもなり、この調子なら一ヶ月くらいでEランクに上がりそうです。でも、僕たちは魔物討伐なんてやったことがないんです。武器の取り扱いも下手ですし、魔物が出てきたら、野犬やコボルトといった弱い魔物でも戦える自信はありません。できればタイガさんに戦い方を教えてもらいたいんです。もちろん、報酬はお支払いします」
俺はその言葉に驚くが、自分がまだ駆け出しだということは忘れていない。
俺は「悪いが他を当たってくれ」と言った後、
「俺の戦い方を知っているだろ。俺は魔法で弱らせて剣で止めを刺す魔法剣士のスタイルだ。お前らには魔法の素質がないし、俺には剣を教えるほどの腕もない」
アントンは諦めずに食らいついてくる。
「タイガさんの戦い方は噂を集めていますから知っています。ですから、タイガさんの戦い方そのものを教えてもらうつもりはないんです。俺達が戦っているところの後ろでタイガさんに見ていてもらいたいんです。報酬は一日銀貨三十枚で、討伐の報酬はタイガさんが何もしなくても半分渡します。これはみんなで相談して決めたことです。お願いします」とアントンが頭を下げると、他の三人も揃って頭を下げてくる。
俺は銀貨三十枚と聞き、ビックリして、「一日銀貨三十枚も払ったらすぐに資金がなくなるんじゃないか。正直そこまでする価値は俺にはないぞ」
「大丈夫です。タイガさんのおかげで一人金貨一枚分程度の貯えができました。僕達が泊まっている宿はタイガさんが泊っているドラゴン亭みたいに高いところではなくて、四人で銀貨十二枚です。だから、討伐の報酬の半分あれば泊ることはできるんです。こんなこと頼めるのはタイガさんだけなんです。お願いします」
正直、彼らの考えが理解できなかった。だが、四人の真っ直ぐな想いに了承することにした。
俺が「わかったよ」と言うと、四人は嬉しそうに顔を見合わせている。
「但し、条件がある。本格的に始めるのは、俺がDランクになるまで待つこと」と俺が付け加えると、
アントンたちは「えっ! そんなに先まで待たなきゃだめですか?」と愕然とした表情になっていく。
どうも勘違いしているようなので、「どのくらい待つと思っているか知らんが、後五、六日で昇格試験を受けられる。昇格試験を含めても十日は掛らないはずだ」
そう言うと四人はびっくりした顔で、「「そ、そうなんですか!」」と声を合わせて驚いている。
そして「だってつい何日か前にEランクに上がったとこじゃないですか!」とアントンが叫んだ後、「はあぁぁ。やっぱり俺達とは違うんですねぇ」に嘆息される。
本当のことを言えば、Dランクまでなら得意の薬草採取でポイントを稼げるのでやろうと思えば、もっと早くもできたがそのことは言わずにおいた。
そして、大事な話を始めることにした。
「報酬についてだが、まず銀貨三十枚は要らない」と言うと、四人はまた声を揃えて、「「えっ!」」と驚いている。
驚いている彼らにかなりきつい条件を付け加えた。
「その代り、採取と討伐の報酬の七割を俺がもらう」と鬼畜な条件を付け加えた。
これはアントンたちのような駆け出したちが俺に弟子入りすると言ってこないようにするためなのだが、彼らは安堵した表情で「その方が助かります」と言ってきた。
俺は助かると言った言葉に驚くが、考えがあるので、これからのことを話していく。
「まあいいだろう。それから、俺がDランクに上がるのに合わせて、お前たちにもEランクに昇格してもらう。俺がEランクの内にお前らとパーティを組み、採取クエストを一日五件以上クリアする。これならEランクに上がるだろう」
その言葉に「これって、また俺たちに有利すぎませんか? お願いしていてなんですが、なんか悪い気がしてきました」とアントンは言い、他の三人も肯いている。
まじめな話俺にもメリットが大きいので、このことをきちんと説明しようと思った。
「俺にとってもメリットがある。知っての通り、俺は基本ソロで動いていた。この間デニスたちと一緒に行動して、パーティでのクエストのやり方をもっと知っておく必要があると思ったわけだ」
具体的な話もしておいた方がいいだろうと思い、
「夜営しての長期のクエストができるメリットがある。東の森の奥に狩りに行きたいんだが、日帰りではなかなか行けないんだ。戦闘は俺がするとしても寝ているところを襲われるのは困るから、パーティを組みたいってわけだ」
アントンは自分が夜中に魔物と戦うことを考えたのか、「でも、僕達のような戦えない冒険者でもいいんですか?」
俺は安心させるように、やってほしいことを明確に話しておく。
「構わない。というより、信用のできない強い奴より、信用できるお前達の方がよっぽど安心だ。それに不寝番をするだけで何かが近付いてきたら俺を起こすだけの仕事だ。腕は要らない」
「それじゃ、明後日から一緒にやってもらえるんですね」
結局、アントンたちの要望通りになったようだが、俺のメリットもかなり大きい。
東の森の奥に行き、ゆっくりと休める環境があれば、昆虫系の討伐がやりたい放題になる。
アントンたちには悪いが、番犬代わりの不寝番になってもらうことで俺の成長が速くなるわけだ。
もちろん、アントンたちの経験も増えるのでウィン?ウィンの関係と言えるだろう。
アントンたちは戦闘の経験を積める見込みが出てきたことでかなり嬉しそうだ。
「それじゃ、お前たちは前夜祭、夏至祭をたっぷり楽しんで来い。明後日の朝八時にギルドに集合だぞ。はしゃぎすぎて遅れるなよ」と片手を軽く上げ、俺は四人と別れる。
翌日の夏至祭も食事はなかったので、屋台で物色する。
広場の方では賑やかな笛や弦楽器の音がする。いかにも祭っていう感じだ。
そう言えば、こっちに来て二ヶ月近いが、ゆっくり楽しむことがなかった。
一人なので少しさびしいが、露店で売っている雑貨やアクセサリーなんかを冷やかしで見ながら、時間を潰していった。
やはり、こういう時に一人というのは、少し悲しくなる。
早くどこかで対等の友人を作りたいものだ。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/11 21:30 更新日:2012/12/11 21:30 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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