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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第三章「街道」:第12話「襲撃」
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第3章.第12話「襲撃」
第二中継地点のファーレルはパルヒムから二十五マイル=約四十km先にあり、今回の行程では一番移動距離が長い。
ファーレルまでは道も治安もいいので、少し無理をしてでも先に進んでおく方がいいそうだ。ファーレルの次のウンケルバッハへの道は森の中を進むことが多く、クロイツタール街道でも比較的危険なところだそうだ。
ウンケルバッハの領主、アウグスト・ウンケルバッハ伯爵は強欲で淫蕩と良い評判は聞かない。清廉なクロイツタール公爵に嫌われ、王宮で叱責されたことを逆恨みしているそうで、クロイツタール行きの隊商に嫌がらせをすることもあるという。
今回はクロイツタール公爵への献上品を運んでいることから、このことを知られてしまうとウンケルバッハ領内の守備隊の支援が受けられない可能性が高い。
このため、ファーレルまで一気に進んでおき、ウンケルバッハまでの道中は警戒しながら進んでも大丈夫なように余裕を確保しておきたいとのことだ。
俺は面倒なことだなと考えていた。
(どこの世界でも馬鹿はいるが、自分の国を守る最前線への輸送ラインを脅かすとは全く何を考えていることやら。今の王様は名君だそうだから、そのうち粛清されるのかもしれないけど、こういう負担が輸送コストを上昇させるんだよな)
ファーレルには午後六時に無事に到着。
今日はマックスと一緒に夜の荷物番で最後の時間を担当する。マックスたちのパーティでは一人で不寝番や護衛を行う。新参者の俺は信用がないため、マックスと組まされているのだろう。
実力、信用がないと言われているようだが、俺としては初めての護衛クエストだし、助かっているのも事実なので不満はない。
食事を終え、早めに就寝。マックスに起こされて荷物番に行く。
まだ、裏庭はまだ暗闇に包まれ、荷馬車の周りだけかがり火の明かりに照らされている。
シリルに異常の有無を確認するが、特に異常はない。
マックスと荷馬車の御者台に座り、不寝番を行う。
暇を持て余したのか、マックスが俺に話しかけてきた。
「タイガ、一つ聞いていいか?」
急に話しかけられた俺は「なんだ?」と聞き返す。
「ゼップルに聞いたが、お前の剣はあのディルクの打ったものなのだろう。それにそのスローイングナイフ。それもかなりの業物だろう……お前何者なんだ?」
俺はディルクやデュオニュースとの会話を思い出しながら、少し苦笑気味に呟いた。
「はぁ、何者って言われてもなぁ。たまたま、ディルクさんにもデュオニュースさんにも気に入られたみたいなんだが、理由は俺にも判らないよ」
少し顔色が変わったマックスを無視してナイフを買った時の話をする。
「デュオニュースさんなんか、俺のスローイングナイフを持っている理由が”使えないけどブラフで持ってる。飯食う時にも便利”っていったら、おもしれぇって笑ってナイフを売ってくれたんだ。マックスの言いたいことが良く判らんが、俺はただの冒険者のつもりだぞ」
マックスはデュオニュースの名を聞き、座っていた御者台からガタンと音を立てて立ち上がり、まくし立てるようにしゃべりだした。
「何を言っているのか判ってしゃべっているか。ディルクはまだしもデュオニュースなんて伝説級の鍛冶師だぞ。龍殺しのグレゴール・ローゼンハイム男爵、王国騎士団総長のコンラート・クロイツタール公爵の愛剣の製作者。王国最強の第一騎士団の中隊長クラスでも剣を打ってもらえない人なんだ」
少し興奮が収まったのか、吐き出すようにひとこと呟いた。
「俺とゼップルはデュオニュースの工房に行ったことがあるんだ。でも手を見ただけで追い出されたんだよ」
デュオニュースの選考基準が判らない俺は思ったことを独り言のように口にした。
「そうなのか。マックスたちの腕でもか。何で俺なんだろうな。多少は使えると思っているけど、剣を持ってまだ三ヶ月くらいだからな。そもそも誰にも習ったことがないから、そんなに強くないし」
マックスはあきれたように俺の独り言を聞いていた。
「三ヶ月……それも師匠がいない……だと。ゼップルに聞いたが、体力では勝てるが、剣技では互角だといっていたぞ」
俺は言葉が出ず、「ゼップルの両手剣のスキルは十五。俺が十四だからほぼ互角か。確かにレベル差が大きすぎて体力的には全く太刀打ちできないな」と考えていた。
「それはゼップルの謙遜だ。ゼップルの剣捌きは軽く振ったところしか見ていないけど、あの巨体であの速度で打ち込まれたら、一撃で真っ二つだよ」
「まあ、そういうことにしておくよ」
二人とも少し考え事をしているのか、何となく黙ってしまった。沈黙の中、マックスの話を思い出している。
(そういえば、マックスの話にグレゴールとコンラートの名前が出てきたな。なんか物騒な称号が付いていたような気したけど……その人たちの剣よりすごいものを作るとか何とか言っていたよな。こんなことマックスたちに言うわけにはいかないな)
夜が明け、今日も早朝一番に出発する。
ファーレルからウンケルバッハまでは十五マイル=二十四km。普通にいけば、二時頃には到着できる距離だ。
ファーレルを出発し、3時間ほどでウンケルバッハ伯爵領に入る。伯爵領に入ると徐々に森が深くなり、道の見通しも悪くなってきた。
十一時頃、昼食のため、森の中の少し開けたところで休憩をとる。
シリルとニックが周囲を警戒し、他の四人は荷馬車の周りでいつでも戦える準備をしておく。
休憩が終わり出発という頃、シリルが街道とは反対側の森を指差し警告する。
「森の中に人の気配がある。十人くらいだと思うが、正確な人数はわからない。警戒してくれ」
マックスが護衛全員に指示を出していく。
「ゼップルとゲルトはシリルと交替して前に。ニックとシリルは荷馬車まで後退し弓で支援できるように準備を。タイガは俺とエンリコさんたちの護衛だ。エンリコさん、御者を集めて、俺たちの後ろに来てくれ!」
指示が終わった頃、森の中から武装した男たちが十二人現れた。
汚い髭面の男が銅鑼声で盗賊らしいセリフをわめき散らすように叫んでいる。
「荷馬車を置いていけ! とっとと失せろ! 抵抗したら殺すぞ!」
俺は素早く鑑定を使い、盗賊たちを確認する。
レベルは十五から二十。スキルはそれほど高くない。
マックスたちなら二対一でも対抗できるが、エンリコたちを庇いながらだとかなり厳しいだろう。
目でマックスに「どうする」と確認した。
「荷物を渡しても皆殺しだろう。みんな、囲まれないよう注意しながら、一人ずつ倒していくぞ!」
と予想通りの攻撃の指示。
俺は盗賊たちの側面に走り出し、マックスに単独行動を宣言する。
「マックス。俺は遊撃に出る。俺に構わず、いつも通り五人の連携でやってくれ!」
「ま、待て!」
慌てたマックスが静止するが、既に前衛の二人は戦闘に入っているため、持ち場を離れられない。
(二十日以上ぶりの戦闘だ。下手に連携しようと思っても五人に迷惑をかけるだけだろう)
俺は側面に回りこもうと横に走ったが、敵の人数の方が多く断念する。
魔法での攻撃に方針を転換した。できれば魔法は使いたくなかったが、命には変えられない。まずはファイアボールで二,三人にダメージを与えて動揺させる方向で盗賊の配置とマックスたちの状況を確認する。
(ファイアストームを使えれば、マックスたちの実力なら一気に押し切れる。後は撃つタイミングだけだ)
俺は最小出力のファイアボールを一番近くにいる盗賊に向けて撃ち込む。
盗賊はスローイングナイフを警戒し、懐に入り込むタイミングを計っていたようで、予想外の魔法に驚き、回避できない。盗賊は胸にファイアボールを受け、致命傷ではないが、戦線から脱落した。
(まずは一人。少しだけパニックになっているようだ。今のうちにもう二人くらいにはダメージを与えておきたいな)
二人目の目標を定め、ファイアボールを放つ。
盗賊は飛んでくるふ火の玉を回避しようとするが、スピードについていけず、右肩に被弾。ダメージ的にはそれほどでもないが、利き腕にダメージを負ったことから、こちらも戦闘を継続できなくなった。
(よし、二人目。盗賊たちはファイアボールを警戒し始めたな。ファイアストームがいけるか?)
だが、既に乱戦状態になっており、ファイアストームの打ち所が難しい。うまくタイミングを見て打ち出さないと前衛二人にもダメージを与えてしまう。
タイミングを見ているより、接近戦に参加した方がいいだろうと考え、ファイアボールをもう一発だけ撃ち込んでから、盗賊たちの側面から接近戦に乱入していく。
マックスたちは盗賊を既に三人倒しており、俺がダメージを与えた三人と合わせると人数は互角だ。
前衛が戦っている横合いから俺が乱入したため、盗賊側に混乱が生じている。
後衛の弓の支援が的確なため、不用意に俺の方を向くと側面から矢を撃ち込まれ、盗賊たちの混乱に輪をかけていく。
冷静になれれば、一旦少し下がった上で再度攻撃の糸口は掴めたのだろうが、盗賊の頭目はそれほどの器量もなく後ろで怒鳴っているだけだった。盗賊側は既に攻めることも逃げることも困難なジリ貧の状態に陥っていた。
しかし、シリルたちも俺の魔法で混乱してしまったのか、前衛の方にばかり目がいっているおり、だれも周囲を見ていない。やばいと思った俺は周りを見渡すため少しだけ後ろに下がる。
下がって周りを確認すると、一人の盗賊がエンリコたちの方に静かに接近していくのが見えた。
「シリル、ニック! 左手からエンリコさんたちの方に向かっていく奴がいるぞ!」と叫ぶと、その瞬間にシリルとニックの放つ矢がその盗賊に突き刺さる。
俺は「すごい腕だな」と一瞬見惚れ、ベッカルト村のギルの強弓もすごかったが、この速射は違う意味ですごいと感心していた。
俺が僅かな時間呆けている間に盗賊の行き残りが三人になっていた。盗賊の頭目は手下たちを見捨て逃げ出し始めた。
俺としては生きて返すつもりはないので、最大出力のファイアボールを無防備な背中に向けて撃ち込む。
盗賊の頭目の首の辺りに命中し、一撃で命を落としたようだ。
(いわゆるクリティカルヒットってやつだな。俺たちを狙った時点で運が無かったが、とことん運のないやつだ)
頭目を倒した後、俺は息のある盗賊に止めを刺していく。
魔法の件もあり生かしておくつもりはなく、一人で止めを刺して行く。
マックスたちも領主の息が掛かっている可能性を考えているのか、途中からゼップルが手伝ってくれた。
五分ほどですべての盗賊に止めを刺し、マックスのところに行く。
幸いゲルトたちもかすり傷程度で大したけが人はなく、治癒魔法は必要なかった。
不満気な顔をしたマックスが俺に魔法について詰め寄ってきた。
「お前、魔法が使えるのに、なんで先に言ってくれなかったんだ。パーティ内で戦力を隠されたら最善の手が打てないじゃないか」
俺は彼の言葉が正しいと思ったので謝罪の言葉を口にした後、「ちょっと事情があって、できれば使いたくなかったんだ」と言った後、「黙っていた俺が言うのもなんだが、俺が魔法を使ったって言う話は誰にも言わないでほしい」と頼む。
納得できない彼は理由を問いただしてきた。
ここまで見せておいて理由を言わないわけには行かないと思い、正直にグンドルフの話をする。
「俺はグンドルフという盗賊に追われているんだ。俺が魔法を使えることをそいつは知っている。そういうわけだ」
彼はグンドルフという名前を聞き、顔をしかめた後、「グンドルフか……また厄介な奴に追われているんだな。なら仕方がないか。さっきは熱くなって済まなかった」と逆に謝られてしまう。
更に彼は座り込んだままの立てないエンリコに口止めを頼んでいた。
「エンリコさん。タイガの話、聞かれましたよね。御者の方たちにも徹底しておいてください」
「ああ、判ったよ。しかし、助かった。もうだめかと思った」
エンリコも協力してくれるようだが、座り込んだままだ。どうやら腰が抜けて、立ち上がれないようだ。
マックスに盗賊の処置をどうするか聞くと、既にゲルトとゼップルが盗賊の首級と装備類を集め始めていた。
俺はさすがに息の合ったパーティだと感心し、俺もゲルトたちの手伝いを始めた。
二十分ほどで首級と装備類を回収し、死体は森の中に投げ込んでおく。
その間に御者たちは荷馬車を出発させる準備を完了させていた。
エンリコもどうやら復活したようで、マックスに出発を促している。
「マックス、そろそろ出発してくれないか」
戦闘と後始末で一時間ほど掛かったが、午後一時頃に出発し、午後四時にウンケルバッハの町に到着した。
そして、今回の戦闘で俺のレベルは十二に上がった。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV12
STR907, VIT781, AGI852, DEX890, INT3787, MEN1724, CHA725, LUC715
HP700, MP1724, AR3, SR2, DR2, SKL234, MAG99, PL29, EXP97806
スキル:両手剣15、回避10、軽装鎧7、共通語5、隠密9、探知6、追跡6、
罠5、体術3、乗馬8、植物知識9、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法8(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性12、水属性0、風属性0、土属性0
まだまだ、レベルは低い。両手剣のスキルと火属性魔法が順調に上がっているのが正直うれしい。
第二中継地点のファーレルはパルヒムから二十五マイル=約四十km先にあり、今回の行程では一番移動距離が長い。
ファーレルまでは道も治安もいいので、少し無理をしてでも先に進んでおく方がいいそうだ。ファーレルの次のウンケルバッハへの道は森の中を進むことが多く、クロイツタール街道でも比較的危険なところだそうだ。
ウンケルバッハの領主、アウグスト・ウンケルバッハ伯爵は強欲で淫蕩と良い評判は聞かない。清廉なクロイツタール公爵に嫌われ、王宮で叱責されたことを逆恨みしているそうで、クロイツタール行きの隊商に嫌がらせをすることもあるという。
今回はクロイツタール公爵への献上品を運んでいることから、このことを知られてしまうとウンケルバッハ領内の守備隊の支援が受けられない可能性が高い。
このため、ファーレルまで一気に進んでおき、ウンケルバッハまでの道中は警戒しながら進んでも大丈夫なように余裕を確保しておきたいとのことだ。
俺は面倒なことだなと考えていた。
(どこの世界でも馬鹿はいるが、自分の国を守る最前線への輸送ラインを脅かすとは全く何を考えていることやら。今の王様は名君だそうだから、そのうち粛清されるのかもしれないけど、こういう負担が輸送コストを上昇させるんだよな)
ファーレルには午後六時に無事に到着。
今日はマックスと一緒に夜の荷物番で最後の時間を担当する。マックスたちのパーティでは一人で不寝番や護衛を行う。新参者の俺は信用がないため、マックスと組まされているのだろう。
実力、信用がないと言われているようだが、俺としては初めての護衛クエストだし、助かっているのも事実なので不満はない。
食事を終え、早めに就寝。マックスに起こされて荷物番に行く。
まだ、裏庭はまだ暗闇に包まれ、荷馬車の周りだけかがり火の明かりに照らされている。
シリルに異常の有無を確認するが、特に異常はない。
マックスと荷馬車の御者台に座り、不寝番を行う。
暇を持て余したのか、マックスが俺に話しかけてきた。
「タイガ、一つ聞いていいか?」
急に話しかけられた俺は「なんだ?」と聞き返す。
「ゼップルに聞いたが、お前の剣はあのディルクの打ったものなのだろう。それにそのスローイングナイフ。それもかなりの業物だろう……お前何者なんだ?」
俺はディルクやデュオニュースとの会話を思い出しながら、少し苦笑気味に呟いた。
「はぁ、何者って言われてもなぁ。たまたま、ディルクさんにもデュオニュースさんにも気に入られたみたいなんだが、理由は俺にも判らないよ」
少し顔色が変わったマックスを無視してナイフを買った時の話をする。
「デュオニュースさんなんか、俺のスローイングナイフを持っている理由が”使えないけどブラフで持ってる。飯食う時にも便利”っていったら、おもしれぇって笑ってナイフを売ってくれたんだ。マックスの言いたいことが良く判らんが、俺はただの冒険者のつもりだぞ」
マックスはデュオニュースの名を聞き、座っていた御者台からガタンと音を立てて立ち上がり、まくし立てるようにしゃべりだした。
「何を言っているのか判ってしゃべっているか。ディルクはまだしもデュオニュースなんて伝説級の鍛冶師だぞ。龍殺しのグレゴール・ローゼンハイム男爵、王国騎士団総長のコンラート・クロイツタール公爵の愛剣の製作者。王国最強の第一騎士団の中隊長クラスでも剣を打ってもらえない人なんだ」
少し興奮が収まったのか、吐き出すようにひとこと呟いた。
「俺とゼップルはデュオニュースの工房に行ったことがあるんだ。でも手を見ただけで追い出されたんだよ」
デュオニュースの選考基準が判らない俺は思ったことを独り言のように口にした。
「そうなのか。マックスたちの腕でもか。何で俺なんだろうな。多少は使えると思っているけど、剣を持ってまだ三ヶ月くらいだからな。そもそも誰にも習ったことがないから、そんなに強くないし」
マックスはあきれたように俺の独り言を聞いていた。
「三ヶ月……それも師匠がいない……だと。ゼップルに聞いたが、体力では勝てるが、剣技では互角だといっていたぞ」
俺は言葉が出ず、「ゼップルの両手剣のスキルは十五。俺が十四だからほぼ互角か。確かにレベル差が大きすぎて体力的には全く太刀打ちできないな」と考えていた。
「それはゼップルの謙遜だ。ゼップルの剣捌きは軽く振ったところしか見ていないけど、あの巨体であの速度で打ち込まれたら、一撃で真っ二つだよ」
「まあ、そういうことにしておくよ」
二人とも少し考え事をしているのか、何となく黙ってしまった。沈黙の中、マックスの話を思い出している。
(そういえば、マックスの話にグレゴールとコンラートの名前が出てきたな。なんか物騒な称号が付いていたような気したけど……その人たちの剣よりすごいものを作るとか何とか言っていたよな。こんなことマックスたちに言うわけにはいかないな)
夜が明け、今日も早朝一番に出発する。
ファーレルからウンケルバッハまでは十五マイル=二十四km。普通にいけば、二時頃には到着できる距離だ。
ファーレルを出発し、3時間ほどでウンケルバッハ伯爵領に入る。伯爵領に入ると徐々に森が深くなり、道の見通しも悪くなってきた。
十一時頃、昼食のため、森の中の少し開けたところで休憩をとる。
シリルとニックが周囲を警戒し、他の四人は荷馬車の周りでいつでも戦える準備をしておく。
休憩が終わり出発という頃、シリルが街道とは反対側の森を指差し警告する。
「森の中に人の気配がある。十人くらいだと思うが、正確な人数はわからない。警戒してくれ」
マックスが護衛全員に指示を出していく。
「ゼップルとゲルトはシリルと交替して前に。ニックとシリルは荷馬車まで後退し弓で支援できるように準備を。タイガは俺とエンリコさんたちの護衛だ。エンリコさん、御者を集めて、俺たちの後ろに来てくれ!」
指示が終わった頃、森の中から武装した男たちが十二人現れた。
汚い髭面の男が銅鑼声で盗賊らしいセリフをわめき散らすように叫んでいる。
「荷馬車を置いていけ! とっとと失せろ! 抵抗したら殺すぞ!」
俺は素早く鑑定を使い、盗賊たちを確認する。
レベルは十五から二十。スキルはそれほど高くない。
マックスたちなら二対一でも対抗できるが、エンリコたちを庇いながらだとかなり厳しいだろう。
目でマックスに「どうする」と確認した。
「荷物を渡しても皆殺しだろう。みんな、囲まれないよう注意しながら、一人ずつ倒していくぞ!」
と予想通りの攻撃の指示。
俺は盗賊たちの側面に走り出し、マックスに単独行動を宣言する。
「マックス。俺は遊撃に出る。俺に構わず、いつも通り五人の連携でやってくれ!」
「ま、待て!」
慌てたマックスが静止するが、既に前衛の二人は戦闘に入っているため、持ち場を離れられない。
(二十日以上ぶりの戦闘だ。下手に連携しようと思っても五人に迷惑をかけるだけだろう)
俺は側面に回りこもうと横に走ったが、敵の人数の方が多く断念する。
魔法での攻撃に方針を転換した。できれば魔法は使いたくなかったが、命には変えられない。まずはファイアボールで二,三人にダメージを与えて動揺させる方向で盗賊の配置とマックスたちの状況を確認する。
(ファイアストームを使えれば、マックスたちの実力なら一気に押し切れる。後は撃つタイミングだけだ)
俺は最小出力のファイアボールを一番近くにいる盗賊に向けて撃ち込む。
盗賊はスローイングナイフを警戒し、懐に入り込むタイミングを計っていたようで、予想外の魔法に驚き、回避できない。盗賊は胸にファイアボールを受け、致命傷ではないが、戦線から脱落した。
(まずは一人。少しだけパニックになっているようだ。今のうちにもう二人くらいにはダメージを与えておきたいな)
二人目の目標を定め、ファイアボールを放つ。
盗賊は飛んでくるふ火の玉を回避しようとするが、スピードについていけず、右肩に被弾。ダメージ的にはそれほどでもないが、利き腕にダメージを負ったことから、こちらも戦闘を継続できなくなった。
(よし、二人目。盗賊たちはファイアボールを警戒し始めたな。ファイアストームがいけるか?)
だが、既に乱戦状態になっており、ファイアストームの打ち所が難しい。うまくタイミングを見て打ち出さないと前衛二人にもダメージを与えてしまう。
タイミングを見ているより、接近戦に参加した方がいいだろうと考え、ファイアボールをもう一発だけ撃ち込んでから、盗賊たちの側面から接近戦に乱入していく。
マックスたちは盗賊を既に三人倒しており、俺がダメージを与えた三人と合わせると人数は互角だ。
前衛が戦っている横合いから俺が乱入したため、盗賊側に混乱が生じている。
後衛の弓の支援が的確なため、不用意に俺の方を向くと側面から矢を撃ち込まれ、盗賊たちの混乱に輪をかけていく。
冷静になれれば、一旦少し下がった上で再度攻撃の糸口は掴めたのだろうが、盗賊の頭目はそれほどの器量もなく後ろで怒鳴っているだけだった。盗賊側は既に攻めることも逃げることも困難なジリ貧の状態に陥っていた。
しかし、シリルたちも俺の魔法で混乱してしまったのか、前衛の方にばかり目がいっているおり、だれも周囲を見ていない。やばいと思った俺は周りを見渡すため少しだけ後ろに下がる。
下がって周りを確認すると、一人の盗賊がエンリコたちの方に静かに接近していくのが見えた。
「シリル、ニック! 左手からエンリコさんたちの方に向かっていく奴がいるぞ!」と叫ぶと、その瞬間にシリルとニックの放つ矢がその盗賊に突き刺さる。
俺は「すごい腕だな」と一瞬見惚れ、ベッカルト村のギルの強弓もすごかったが、この速射は違う意味ですごいと感心していた。
俺が僅かな時間呆けている間に盗賊の行き残りが三人になっていた。盗賊の頭目は手下たちを見捨て逃げ出し始めた。
俺としては生きて返すつもりはないので、最大出力のファイアボールを無防備な背中に向けて撃ち込む。
盗賊の頭目の首の辺りに命中し、一撃で命を落としたようだ。
(いわゆるクリティカルヒットってやつだな。俺たちを狙った時点で運が無かったが、とことん運のないやつだ)
頭目を倒した後、俺は息のある盗賊に止めを刺していく。
魔法の件もあり生かしておくつもりはなく、一人で止めを刺して行く。
マックスたちも領主の息が掛かっている可能性を考えているのか、途中からゼップルが手伝ってくれた。
五分ほどですべての盗賊に止めを刺し、マックスのところに行く。
幸いゲルトたちもかすり傷程度で大したけが人はなく、治癒魔法は必要なかった。
不満気な顔をしたマックスが俺に魔法について詰め寄ってきた。
「お前、魔法が使えるのに、なんで先に言ってくれなかったんだ。パーティ内で戦力を隠されたら最善の手が打てないじゃないか」
俺は彼の言葉が正しいと思ったので謝罪の言葉を口にした後、「ちょっと事情があって、できれば使いたくなかったんだ」と言った後、「黙っていた俺が言うのもなんだが、俺が魔法を使ったって言う話は誰にも言わないでほしい」と頼む。
納得できない彼は理由を問いただしてきた。
ここまで見せておいて理由を言わないわけには行かないと思い、正直にグンドルフの話をする。
「俺はグンドルフという盗賊に追われているんだ。俺が魔法を使えることをそいつは知っている。そういうわけだ」
彼はグンドルフという名前を聞き、顔をしかめた後、「グンドルフか……また厄介な奴に追われているんだな。なら仕方がないか。さっきは熱くなって済まなかった」と逆に謝られてしまう。
更に彼は座り込んだままの立てないエンリコに口止めを頼んでいた。
「エンリコさん。タイガの話、聞かれましたよね。御者の方たちにも徹底しておいてください」
「ああ、判ったよ。しかし、助かった。もうだめかと思った」
エンリコも協力してくれるようだが、座り込んだままだ。どうやら腰が抜けて、立ち上がれないようだ。
マックスに盗賊の処置をどうするか聞くと、既にゲルトとゼップルが盗賊の首級と装備類を集め始めていた。
俺はさすがに息の合ったパーティだと感心し、俺もゲルトたちの手伝いを始めた。
二十分ほどで首級と装備類を回収し、死体は森の中に投げ込んでおく。
その間に御者たちは荷馬車を出発させる準備を完了させていた。
エンリコもどうやら復活したようで、マックスに出発を促している。
「マックス、そろそろ出発してくれないか」
戦闘と後始末で一時間ほど掛かったが、午後一時頃に出発し、午後四時にウンケルバッハの町に到着した。
そして、今回の戦闘で俺のレベルは十二に上がった。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV12
STR907, VIT781, AGI852, DEX890, INT3787, MEN1724, CHA725, LUC715
HP700, MP1724, AR3, SR2, DR2, SKL234, MAG99, PL29, EXP97806
スキル:両手剣15、回避10、軽装鎧7、共通語5、隠密9、探知6、追跡6、
罠5、体術3、乗馬8、植物知識9、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法8(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性12、水属性0、風属性0、土属性0
まだまだ、レベルは低い。両手剣のスキルと火属性魔法が順調に上がっているのが正直うれしい。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/20 20:50 更新日:2012/12/20 20:50 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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