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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
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第三章「街道」:第17話「裏切り、襲撃、そして死闘」
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第3章.第17話「裏切り、襲撃、そして死闘」
シュバルツェンベルクへの出発の朝、早朝にギルド前に集合し、護衛クエストが始まった。
カスパーから、パーティメンバーの、ユルゲン、アルフォンス、ベルト、ギーナを紹介される。
ユルゲンはドワーフの男で身長百三十cmくらい、がっしりとしたドワーフらしい体つきだが、髭の間から見える表情は、意外と愛嬌があり、親しみやすい雰囲気の斧使い。
アルフォンスはエルフの男で身長百八十cmくらい、すらりとした体つきの二枚目。沈着冷静な雰囲気を持つ。長弓使いであり、治癒魔法も使える。
ベルトは人間の男で、アルフォンスより少し高いくらいの身長で人間にしてはやや細身。鋭い目つきで俊敏そうな動きを時折見せる革鎧の槍使い。
ギーナは人間の男でベルトとは逆にアルフォンスより少し低い身長でがっしりとした体格。パーティでは最年少の二十二歳だそうだ。人懐っこい丸顔だが、ハーフプレートを装着し、カイトシールド、ロングソードを使う前衛だ。
カスパー曰く、ギーナを含め、このメンバーで六年間一緒にやっているそうだ。
臨時のソロメンバーはスカウトのカール、両手剣使いのルイス、弓使いのマルコ、 槍使いのライナーだそうだが、スカウトのカール以外は護衛クエストをしながら迷宮を目指しているといっているそうだ。
商人の代表はルーブレヒトという三十代前半の男性で、人当たりがよさそうな笑顔を見せるが、時折鋭い眼をしていることから、いかにもやり手の商人と言った感じがする。
午前七時に荷馬車十台とともに出発する。
カスパーのパーティと俺以外は馬を持っていないので、荷馬車に分乗している。俺は荷馬車の列の真ん中辺りを分担し、周囲を警戒しながら進んでいく。
初日はクロイツタール領内を進んだため、何事も無く第一中継地のグライスヴァイラー村に到着した。
ソロメンバーの技量に不安があることと、裏切りを心配しているのだろう、夜の荷馬車の不寝番はカスパーのパーティメンバーとソロメンバーが一人ずつの組で回していく。
二日目も早朝に出発する。
山道の厳しさは徐々に増していき、荷馬車の速度が上がらない。
夕方頃、急に雲が広がって暗くなり、にわか雨が降りそうな天気になったが、間一髪、宿泊予定のラウグナ村に入ることができた。その後、土砂降りの雨が一時間ほど降り、難を逃れられたとほっと胸を撫で下ろしていた。
ちなみにこのラウグナ村は、二十年前の黒竜討伐隊の本部が置かれた村だそうだ。
三日目になると益々山道は狭くなっていく。
曲がりくねった道、生い茂る木々のため、視界は制限されていく。時折聞こえてくる魔物の叫び声に馬たちが神経質そうに耳を動かしている。
昼過ぎに夕立が降ったが、二十分ほどで止んだため、予定通り次の宿泊場所に到着した。カスパーとルーブレヒトの話を聞く限り、順調に進んでいるようだ。
四日目は朝から黒い雲が広がり、出発して二時間ほどで強い雨に降られる。
その日の雨はなかなか止まず、二時間ほど雨宿りをして再出発することになった。昼過ぎにも強い雨が降り、更に二時間足止めを食う。
カスパーが護衛を集め、
「このままでは、今日の目的地に明るいうちに着くことは無理だ。ここから二マイル(約三・二km)ほど行った所に夜営地に向いている場所がある。今日はそこで夜営することになった。夜営地到着後に各自の分担をもう一度指示するから、集まってくれ」
俺は久しぶりの野宿だが、カスパーたち高レベルの冒険者がいることから少し油断していた。
午後五時頃、カスパーの言っていた夜営地に到着する。
夜営地は峠を下った森の中にあった。近くに湧き水があり、直径三十mくらいの広場が作ってある。緊急時に使えるよう人の手で作られた場所のようだ。
スカウトのカールとエルフのアルフォンスが周囲の警戒に向かっている間、俺たち残りの護衛で薪集め、水汲みなどをこなしていく。
峠を下ってきたので、午後六時には周囲は暗くなり、荷馬車を輪形に並べ、その内側に焚き火と寝場所を確保した。
非常食での夕食をとり、三人一組で不寝番を行っていく。俺はカスパーとスカウトのカールとともに二番目の組に入る。
午後十一時頃から、午前二時頃までが俺たちの担当だ。
カスパーが火を絶やさないよう焚き火に薪をくべ、カールが周囲を警戒している。
カールが、「ちょっとションベンしてくるわ」と言って森の中に入っていった。
魔物を警戒するでもなく、堂々と森に入っていく姿に少し違和感を覚えるが、スカウトなら気配で判るのかもとあまり深く考えなかった。
十分経ってもカールが戻ってこないことを不審に思い、カスパーに、
「カールが戻ってこない。悲鳴も物音もしない。これっておかしくないか」と言うと、彼も、「そういえば、遅いな」と言った後、
「これだけ火を焚いていれば、道に迷うことは無いはずだ。何かに襲われたのなら、悲鳴の一つ、物音の一つも聞こえるはずだな」と周囲を見回しながら、少し警戒し始めた。
俺たち二人がそんなことを話していると、遠くから森を掻き分けて歩いているような音が聞こえてきた。
俺は荷馬車の隙間から鑑定を使い、確認するが、まだ何も見えてこない。
だが、音はどんどん近付いてくるので、「何か来るぞ。カスパー、みんなを起こした方が良くないか」と声をかけた時、森の中から大勢の男たちが武器を手になだれ込んできた。
「みんな起きろ! 盗賊の襲撃だ!」とカスパーが声を枯らして叫ぶ。
俺は近くの盗賊を切りつけながら、
(まずい、完全に先手を取られた! 逆転の手を考えないとジリ貧になるぞ)
と考えているが、周りは盗賊で溢れている。
さすがにカスパーのパーティは直ぐに反応して応戦しているが、ソロの三人は反応が遅れていた。
ライナーとマルコは起き上がりかけたところを数人の盗賊に囲まれ、姿が見えた時には仰向けに倒され、彼らの周りには赤黒い血溜まりができていた。
両手剣使いのルイスは何とか荷馬車の下に逃げ込み、一旦は体勢を整えることに成功したが、左足にケガを負っているようだ。
どうやら、盗賊たちは連携の苦手なソロを最初に削り、奇襲の後は戦力差で押し切る作戦のようだ。
(魔法を使うしかないな。低出力ファイアボールの連射で混乱させるしか思いつかない)
俺は一旦、森の中に逃げ込み、追いかけてきた盗賊を切り捨ててから、静かに移動する。
そして、荷馬車の陰に隠れ、アルフォンスに切り掛かっている盗賊一人にファイアボールを撃ち込んだ。
出力を抑えているため、致命傷にはならなかったが、隙ができたため、アルフォンスのショートソードに腹を貫かれ、盗賊はその場に蹲る。
俺は荷馬車の上に立ち、ルーブレヒトら商人に向かっている盗賊に向け、ファイアボールを撃ち込んでいく。盗賊たちもようやく俺に気付いたようで何人かが俺の方に向かってくる。
俺は孤立することを避けるため、カスパーたちが戦っている場所に走りこみ、盗賊たちを商人たちから引き離すことに成功した。
「カスパー、一分だけ、時間を作ってくれ。範囲攻撃魔法を撃ち込む」と俺が叫ぶと、「判った。できるだけ早くしてくれ」とすぐに了解する。
(さすがに切替えが早いな。俺が魔法を使っていることに疑問を持ってもおかしくないんだが……)
一分後、ファイアストームの呪文を完成させ、味方に当らないように効果範囲を狭く調整する。
七?八人がファイアストームの範囲に入っており、炎の渦にのまれた盗賊たちの戦闘力を奪っていく。
その光景を見たカスパーは、「盗賊の数はもう俺たちより少ないぞ! 一気に止めを刺せ!」と叫び、その言葉に護衛全員で盗賊に逆襲していった。
冷静に見れば、まだ盗賊の方が二、三人多かったようだが、カスパーの一言で盗賊側にも動揺が走り、一気に形勢は逆転した。不利を悟った盗賊たちは森の中に撤退し始める。
俺たちのほうも無傷なのは俺とカスパーの二人のみで、他は大なり小なりケガをしており、追撃の余裕はなかった。
かスパーは「アルフォンス、けが人の治療を頼む。ユルゲン、森の中の盗賊の状況を見てくれ」と指示を出していく。
ドワーフのユルゲンは暗視能力があり、暗い森の中も見ることが出来る。
そして、ユルゲンが、「奴らはまだ森の中に潜んでいるぞ。どうする?」と報告すると、「とりあえず、治療をしてからだ」と答える。
そして、護衛を含めた全員に「もう一戦覚悟しないといけないな」と見通しを口にした。
俺はこの状況を何とかするため、策を考えていた。
少し考えた後、ユルゲンに「盗賊に弓使いが残っているか、判るか」と聞いてみる。
彼は、「見える範囲にはいないぞ」と答えてくれたが、疑問を感じている表情をしていた。
そのやりとりを聞いていたかスパーが、「何をするつもりだ」と彼のパーティを代表して聞いてきた。
俺は、説明する時間を惜しみ、「ああ、奴らの頭を潰してしまいたいと思ってね。ここは俺に任してくれないか」とだけ答える。
それに対して、彼は「いいだろう。ユルゲン手伝ってやってくれ」とあっさりと了承してくれた。
俺は荷馬車の上に立ち、
「盗賊ども! さっさと降伏しろ! こっちには治癒魔法が使えるエルフがいるんだ。直ぐにこっちは回復するぞ!」と森に向かって叫んだ。
すると、俺の思惑通り、「うるせい!」叫び返してくる盗賊がいた。
俺は挑発すれば、頭目か指導的な立場の奴が何らかのリアクションを起こすだろうと考え、降伏勧告を行った。
案の定、叫び返してきた盗賊がいたので、頭目だろうと見当をつけ、「こっちの方が人数は多いんだ。そんな脅しに……」とまだ叫んでいる間に最高出力のファイアボールを撃ち込んでやった。
一撃で殺すことはできなかったが、HPの半分以上は奪えたので、これで混乱するはずだ。
俺は二馬車から降り、剣を構えるが、
「盗賊たちが下がっていくぞ。何とか撃退できたようだな。……しかし、あんた魔法がつかえたんだな」とユルゲンが話しかけてきた。
ユルゲンはまだアルフォンスの治療を受けていないため、左腕から血を流している。
俺はユルゲンに治癒魔法を掛けるが、魔力が心配なので、
「すまない。魔力が切れそうなんで後はアルフォンスに治療してもらってくれ」
そう言って、簡単な血止めだけをしておいた。
ユルゲンは何か言いたそうだったが、俺がカスパーの方に向かうと何も言わずアルフォンスの方に向かっていった。
俺は状況を知るため、カスパーに味方の状態を確認する。
「ライナーとマルコが死んだ。ルイスは足に大怪我をしている」と残念そうに言った後、
「無傷なのは俺とお前だけ、アルフォンスとベルト、ギーナは戦闘可能だ。ユルゲンはまだ見ていないが、ドワーフは頑丈だから戦えるだろう。護衛以外では、ルーブレヒトさんたち三人はかすり傷程度だが、御者二人が重傷、三人が軽傷だ。アルフォンスの魔力も残り少ないので、完治までは無理そうだ」と状況を一気に教えてくれた。
(さすがに護衛のリーダーをするだけのことはある。あの短時間で完璧に状況を把握しているのか……)
俺はそんな彼に感心しながら、今回のことを考えていた。
ソロのライナー、マルコ、ルイスは有名なシュバルツェン迷宮に挑むため、護衛クエストこなしながら、移動していたと言っていた。
俺はたまたま裏切り者のカールと同じ組になっただけで、一歩間違えば、俺も彼らと同じく寝込みを襲われたかもしれない。
そう思うと震えが来るが、今はこの状況を何とか凌がなければならないと無理やりその震えを抑え込む。
恐怖を忘れるため、現状を更に把握しようと、盗賊の方の損害も聞いてみた。
「盗賊でこの場に残っているのは十人。死亡が六人、四人が重傷だ。そのままにしておけば、すぐに死ぬだろう。だが、逃げた奴らの数はわからんな」
「判ったよ。俺が見た感じだと、森の中に入った盗賊は十人くらいだったと思うが、正確な数はわからないな。なあ、もう一回襲ってくると思うか?」
「俺が盗賊ならもう一度仕掛ける。いくら治癒魔法で回復させてもこちらの人数の方が少ないからな。それに属性魔法の使い手に対しては魔力の回復時間を与えない方がいい」
俺はなるほどと思い、「アルフォンスは休ませないといけないな。それと悪いが俺も魔力切れになりそうなんだ」と言って魔力回復を優先させてもらおうと考えた。
「判っている。朝までは俺、ユルゲン、ベルト、ギーナで歩哨に立つから休んでくれ」と彼はすぐに理解してくれた。
俺は焚き火の近くでマントに包まり横になった。
すぐに睡魔が襲ってきて、カスパーに起こされるまで三時間の間、熟睡していたようだ。カスパーたちには「こんな状況で熟睡できるとは」と呆れられはしたが、何にせよ魔力の回復ができたことが大きい。
(思ったより、時間が稼げた。頭目にダメージを与えたのが良かったのか?)
「奴らが戻ってきた。戦えるか?」と聞いてきたので、
「ああ、大丈夫だ。大分魔力も戻ったみたいだ。もう一戦くらいならいける」と答えておく。
時刻は午前四時頃、まだ夜明けまでには大分時間がある。
盗賊側は森の中から、
「こっちは十人以上いるんだ。荷物を寄こし、武器を捨てれば命だけは助けてやる。抵抗すれば商人、御者も含めて皆殺しだ。少しだけ待ってやる。商人どもと相談しろ」
と先ほどの頭目とは違う盗賊がこちらに向かって叫んできた。
「ユルゲン、何人いるかわかるか?」
「八人は確認できた。木の陰に隠れているやつもいるだろうから、本当に十人はいるんじゃないか」
カスパーがユルゲンに盗賊の状況を確認している。
俺はカスパーに、「三人は責任を持って俺が倒す。後七、八人だが何とかなるか」
彼も覚悟を決めているのか、「何とかするしかないだろう。武器を捨てたとして命の保証は全くないのだからな」と答える。
俺は護衛だけで決めてもいいのかと思い、ルーブレヒトに確認しなくていいのかと聞くと、「あの人も判っているよ」と答えてくれた。
盗賊がここまで損害を出した場合、奴らは自分たちのメンツを守るため、商人だろうが御者だろうが皆殺しにするのが普通だそうだ。
俺は静かに荷馬車の上に伏せて森の中を覗き込み、鑑定で見える範囲の盗賊の位置を確認する。
視界が確保できている範囲で敵は九人いる。
三時間の睡眠でファイアボール四発分まで魔力は回復した。最小出力にすれば八発は撃てるから、うまく使えば五人くらいに大きなダメージを与えられる可能性がある。だが、盗賊もそこまで愚かではないだろう。
俺は最も近くにいる不用意な盗賊に向け、一発目のファイアボールを放つ。不意を撃たれた盗賊に見事命中し、HPの三分の一近くを削り取る。
荷馬車から降り、静かに場所を移動する。
違う角度から、再び盗賊の一人を狙撃する。さっきと同じように大きなダメージを与えることに成功した。
これを機に盗賊たちは交渉決裂と判断し、全員で突っ込んでくる。俺はもう一発ファイアボールを撃ち込んだあと、荷馬車から飛び降りる。
荷馬車の輪の中に突入してきた盗賊の数は八人。
内二人は後ろに回りこんでいたようだが、アルフォンスに発見されるや否や商人たちのところにたどり着く前にロングボウで射抜かれる。
これで残りは六人。人数的にはほぼ互角となった。
俺はレベル的にカスパーたちの方が上であると判っていたので、これで勝てると安心してしまった。かスパーたちも同様に敵の技量から勝てると判出していたようで、全員が少しだけ油断したようだ。
俺たちの油断を突いて、隠れていた盗賊が荷馬車に火をかけ始める。そのため馬が暴れだし、完璧な連携を保っていたかスパーのパーティに綻びが出てしまった。
馬たちの混乱に気を取られたベルトが肩を斬られ、彼を庇おうとしたカスパーも頭にフレイルの打撃を食らって倒れていく。
このため、盗賊側六人に対し、ユルゲンとギーナの二人が前衛で対抗しているが、手数の関係で防戦一方になっている。
俺は火をつけて回っている盗賊に狙いを定めて斬りかかっていく。
良く見ると、火を着けていたのはスカウトのカールで、狂ったように荷馬車に火をつけて回っているため、俺に気付いていない。
俺は彼の真後ろに静かに回りこみ、彼の首にディルクの名剣を振り下ろした。
カールの首は半分千切れ、勢いよく血が噴出し、持っている松明の火を消していく。
俺は動ける御者たちに火を消すよう指示したあと、ユルゲンたちに助勢するため、剣を構えながら突っ込んでいった。
ユルゲンたちを見ると、前衛二人はかなりダメージを負っているようで、ギーナが右手のロングソードを取り落とし、左手のラウンドシールドだけで戦っている。ユルゲンも頭から血を流し、血で顔を赤く染めている。前衛二人では押さえきれず、接近戦になったため、アルフォンスもショートソードで戦い始めたが、防御が精一杯の状態だった。
俺は手遅れかと一瞬焦り、どう対応するか走りながら考えていた。
ファイアボールはまだ撃てるが、早く三人の方に行った方がいいだろうと考え、大声で叫びながら彼らのところに突っ込んでいく。
わずか十mの距離がこれほど遠いと感じたことはなかった。横に回りこむとか奇襲を掛けるとかそんなことが考えられないほど三人は危うい。
ようやく三人のところにたどり着く。俺の声を聞いていた盗賊たちは、三人を俺に差し向けていた。
俺は一人目に盗賊に突きを入れ、そのまま二人目に袈裟懸けを打ち込む。どちらも大したダメージは与えられなかったが、疲れた盗賊たちより俺のほうが動きはいいため、盗賊たちは打ちかかるのを躊躇っている。
俺は敵に連携されないよう連続攻撃を掛けていく。
運良く一撃目が一人の盗賊の利き腕に当り、武器を取り落とさせることに成功した。
よし!と思ったその直後、俺の鎖骨辺りに盗賊のロングソードが叩きつけられる。
革鎧のおかげで鎖骨は折れなかったものの息が詰り一瞬動きを止めてしまった。それが三人目の盗賊に勇気を与えたのか、鳩尾目掛けてショートスピアで突きを入れてくる。
何とか体をひねって、致命的な突きをかわしたものの脇腹を大きく切り裂かれてしまう。
(痛ってぇ!)
俺は声にならない悲鳴を上げる。そして、その痛みの中で「そう言えばこんな大きなダメージを受けたこと無かったよな。ここで死ぬのかなぁ」と一瞬意識を持っていかれそうになる。
二人の盗賊はそれぞれ自信を持ったのか、更に畳み掛けるように攻撃を入れてくる。
しかし、ロングソードの盗賊とショートスピアの盗賊は連携がうまくないのか、それぞれの得意なレンジから攻撃を入れることができていない。
ロングソード使いが前衛、ショートスピア使いが後衛となって攻撃を掛けられたら、十秒ほどで殺されていただろうが、お互いに邪魔しあっているため、何とか立っていられる。
周りを見る余裕はなく、二人からの攻撃を捌くので精一杯なので、当然、魔法を使う余裕もない。
(ジリ貧だ……何か手はないか……ファイアによる炎の剣では射程が短い。ファイアボールを撃つには十秒掛かる……一か八かやってみるか)
俺は一か八かの策に打って出た。
持っているツーハンドソードをロングソード使いに投げつけ、スローイングナイフを取り出す。
そして、素早くそよ風(ブリーズ)の魔法の改良版:圧縮(コンプレッション)を唱え、スローイングナイフを投げ込む。
圧縮空気に乗ってスローイングナイフは俺の剣を弾いた後の隙だらけのロングソード使いの顔に向かって飛んでいく。
運良く、敵の右目に突き刺さり、そのまま右目を押さえて、のた打ち回っている。
ショートスピア使いは、その光景に驚いているが、更に突きを繰り出してくる。
俺はもう一本のスローイングナイフを手に突きをかわしていく。
一対一になれば、ショートスピアの突きを避けるのはそれほど難しくない。アドレナリンのおかげか、脇腹や鎖骨の痛みも感じず、軽快にかわせている。
ショートスピア使いも焦れてきたのか、突きが大雑把になってきている。俺はスローイングナイフを投げつけ、スピアで弾くタイミングを見て懐に入り、ファイアの魔法でショートスピア使いの顔を焼いた。
両目を焼かれたショートスピア使いは痛みに耐えかね、地面をのた打ち回っている。
俺は愛剣を探し出したあと、ユルゲンたちを助けるため、俺を攻撃してきた盗賊たちを無視しての彼らの方に向かった。
ユルゲンたちも人数が三人に減ったこともあり、既に二人の盗賊を倒していた。最後の一人も戦闘意欲を失くしているが、逃げ出すタイミングが計れずにいるようだ。
俺はユルゲンたちと戦っている盗賊の後方から攻撃を掛け、背中から突きを入れる。
その盗賊は突然後ろから攻撃されたことに驚き、振り向きながら、口から血を噴き出して倒れていく。
俺は盗賊の最後を確認もせず、俺を襲ってきた三人の盗賊の止めを刺しに行く。
利き腕に怪我を負った盗賊は既に逃げ出したようで、近くにはいない。
右目にナイフが刺さっているロングソード使いはナイフを引抜いたあと、自分の剣を探して這いまわっていた。
俺は死角になる右側から接近し、首に向けて斬撃を繰り出す。うまく頚動脈を切り裂いたようで盛大に血を噴出し、うつ伏せのまま動かなくなった。
ショートスピア使いはまだ地面でのた打ち回っているが、俺は足で体を踏みつけ、喉に突きを入れて止めを刺す。
周りを見るとユルゲンが最初にアルフォンスに射抜かれた二人に止めを刺しに行き、アルフォンスはカスパーの様子を見ている。
俺は自分の脇腹に治癒魔法を掛け、応急処置をするとともに商人、御者たちに盗賊たちの死体を集めるよう指示を出していく。
アルフォンスのところに行き、カスパー、ベルトの様子を聞くと、二人とも命には別状無いようで、治癒魔法での応急処置で何とかなっているらしい。
ギーナ、ユルゲンもケガを負っているが、まだ大丈夫なようだ。
ソロの両手剣使いのルイスは、寝ているところをカールに後ろから刺されたようで、既にこときれていた
シュバルツェンベルクへの出発の朝、早朝にギルド前に集合し、護衛クエストが始まった。
カスパーから、パーティメンバーの、ユルゲン、アルフォンス、ベルト、ギーナを紹介される。
ユルゲンはドワーフの男で身長百三十cmくらい、がっしりとしたドワーフらしい体つきだが、髭の間から見える表情は、意外と愛嬌があり、親しみやすい雰囲気の斧使い。
アルフォンスはエルフの男で身長百八十cmくらい、すらりとした体つきの二枚目。沈着冷静な雰囲気を持つ。長弓使いであり、治癒魔法も使える。
ベルトは人間の男で、アルフォンスより少し高いくらいの身長で人間にしてはやや細身。鋭い目つきで俊敏そうな動きを時折見せる革鎧の槍使い。
ギーナは人間の男でベルトとは逆にアルフォンスより少し低い身長でがっしりとした体格。パーティでは最年少の二十二歳だそうだ。人懐っこい丸顔だが、ハーフプレートを装着し、カイトシールド、ロングソードを使う前衛だ。
カスパー曰く、ギーナを含め、このメンバーで六年間一緒にやっているそうだ。
臨時のソロメンバーはスカウトのカール、両手剣使いのルイス、弓使いのマルコ、 槍使いのライナーだそうだが、スカウトのカール以外は護衛クエストをしながら迷宮を目指しているといっているそうだ。
商人の代表はルーブレヒトという三十代前半の男性で、人当たりがよさそうな笑顔を見せるが、時折鋭い眼をしていることから、いかにもやり手の商人と言った感じがする。
午前七時に荷馬車十台とともに出発する。
カスパーのパーティと俺以外は馬を持っていないので、荷馬車に分乗している。俺は荷馬車の列の真ん中辺りを分担し、周囲を警戒しながら進んでいく。
初日はクロイツタール領内を進んだため、何事も無く第一中継地のグライスヴァイラー村に到着した。
ソロメンバーの技量に不安があることと、裏切りを心配しているのだろう、夜の荷馬車の不寝番はカスパーのパーティメンバーとソロメンバーが一人ずつの組で回していく。
二日目も早朝に出発する。
山道の厳しさは徐々に増していき、荷馬車の速度が上がらない。
夕方頃、急に雲が広がって暗くなり、にわか雨が降りそうな天気になったが、間一髪、宿泊予定のラウグナ村に入ることができた。その後、土砂降りの雨が一時間ほど降り、難を逃れられたとほっと胸を撫で下ろしていた。
ちなみにこのラウグナ村は、二十年前の黒竜討伐隊の本部が置かれた村だそうだ。
三日目になると益々山道は狭くなっていく。
曲がりくねった道、生い茂る木々のため、視界は制限されていく。時折聞こえてくる魔物の叫び声に馬たちが神経質そうに耳を動かしている。
昼過ぎに夕立が降ったが、二十分ほどで止んだため、予定通り次の宿泊場所に到着した。カスパーとルーブレヒトの話を聞く限り、順調に進んでいるようだ。
四日目は朝から黒い雲が広がり、出発して二時間ほどで強い雨に降られる。
その日の雨はなかなか止まず、二時間ほど雨宿りをして再出発することになった。昼過ぎにも強い雨が降り、更に二時間足止めを食う。
カスパーが護衛を集め、
「このままでは、今日の目的地に明るいうちに着くことは無理だ。ここから二マイル(約三・二km)ほど行った所に夜営地に向いている場所がある。今日はそこで夜営することになった。夜営地到着後に各自の分担をもう一度指示するから、集まってくれ」
俺は久しぶりの野宿だが、カスパーたち高レベルの冒険者がいることから少し油断していた。
午後五時頃、カスパーの言っていた夜営地に到着する。
夜営地は峠を下った森の中にあった。近くに湧き水があり、直径三十mくらいの広場が作ってある。緊急時に使えるよう人の手で作られた場所のようだ。
スカウトのカールとエルフのアルフォンスが周囲の警戒に向かっている間、俺たち残りの護衛で薪集め、水汲みなどをこなしていく。
峠を下ってきたので、午後六時には周囲は暗くなり、荷馬車を輪形に並べ、その内側に焚き火と寝場所を確保した。
非常食での夕食をとり、三人一組で不寝番を行っていく。俺はカスパーとスカウトのカールとともに二番目の組に入る。
午後十一時頃から、午前二時頃までが俺たちの担当だ。
カスパーが火を絶やさないよう焚き火に薪をくべ、カールが周囲を警戒している。
カールが、「ちょっとションベンしてくるわ」と言って森の中に入っていった。
魔物を警戒するでもなく、堂々と森に入っていく姿に少し違和感を覚えるが、スカウトなら気配で判るのかもとあまり深く考えなかった。
十分経ってもカールが戻ってこないことを不審に思い、カスパーに、
「カールが戻ってこない。悲鳴も物音もしない。これっておかしくないか」と言うと、彼も、「そういえば、遅いな」と言った後、
「これだけ火を焚いていれば、道に迷うことは無いはずだ。何かに襲われたのなら、悲鳴の一つ、物音の一つも聞こえるはずだな」と周囲を見回しながら、少し警戒し始めた。
俺たち二人がそんなことを話していると、遠くから森を掻き分けて歩いているような音が聞こえてきた。
俺は荷馬車の隙間から鑑定を使い、確認するが、まだ何も見えてこない。
だが、音はどんどん近付いてくるので、「何か来るぞ。カスパー、みんなを起こした方が良くないか」と声をかけた時、森の中から大勢の男たちが武器を手になだれ込んできた。
「みんな起きろ! 盗賊の襲撃だ!」とカスパーが声を枯らして叫ぶ。
俺は近くの盗賊を切りつけながら、
(まずい、完全に先手を取られた! 逆転の手を考えないとジリ貧になるぞ)
と考えているが、周りは盗賊で溢れている。
さすがにカスパーのパーティは直ぐに反応して応戦しているが、ソロの三人は反応が遅れていた。
ライナーとマルコは起き上がりかけたところを数人の盗賊に囲まれ、姿が見えた時には仰向けに倒され、彼らの周りには赤黒い血溜まりができていた。
両手剣使いのルイスは何とか荷馬車の下に逃げ込み、一旦は体勢を整えることに成功したが、左足にケガを負っているようだ。
どうやら、盗賊たちは連携の苦手なソロを最初に削り、奇襲の後は戦力差で押し切る作戦のようだ。
(魔法を使うしかないな。低出力ファイアボールの連射で混乱させるしか思いつかない)
俺は一旦、森の中に逃げ込み、追いかけてきた盗賊を切り捨ててから、静かに移動する。
そして、荷馬車の陰に隠れ、アルフォンスに切り掛かっている盗賊一人にファイアボールを撃ち込んだ。
出力を抑えているため、致命傷にはならなかったが、隙ができたため、アルフォンスのショートソードに腹を貫かれ、盗賊はその場に蹲る。
俺は荷馬車の上に立ち、ルーブレヒトら商人に向かっている盗賊に向け、ファイアボールを撃ち込んでいく。盗賊たちもようやく俺に気付いたようで何人かが俺の方に向かってくる。
俺は孤立することを避けるため、カスパーたちが戦っている場所に走りこみ、盗賊たちを商人たちから引き離すことに成功した。
「カスパー、一分だけ、時間を作ってくれ。範囲攻撃魔法を撃ち込む」と俺が叫ぶと、「判った。できるだけ早くしてくれ」とすぐに了解する。
(さすがに切替えが早いな。俺が魔法を使っていることに疑問を持ってもおかしくないんだが……)
一分後、ファイアストームの呪文を完成させ、味方に当らないように効果範囲を狭く調整する。
七?八人がファイアストームの範囲に入っており、炎の渦にのまれた盗賊たちの戦闘力を奪っていく。
その光景を見たカスパーは、「盗賊の数はもう俺たちより少ないぞ! 一気に止めを刺せ!」と叫び、その言葉に護衛全員で盗賊に逆襲していった。
冷静に見れば、まだ盗賊の方が二、三人多かったようだが、カスパーの一言で盗賊側にも動揺が走り、一気に形勢は逆転した。不利を悟った盗賊たちは森の中に撤退し始める。
俺たちのほうも無傷なのは俺とカスパーの二人のみで、他は大なり小なりケガをしており、追撃の余裕はなかった。
かスパーは「アルフォンス、けが人の治療を頼む。ユルゲン、森の中の盗賊の状況を見てくれ」と指示を出していく。
ドワーフのユルゲンは暗視能力があり、暗い森の中も見ることが出来る。
そして、ユルゲンが、「奴らはまだ森の中に潜んでいるぞ。どうする?」と報告すると、「とりあえず、治療をしてからだ」と答える。
そして、護衛を含めた全員に「もう一戦覚悟しないといけないな」と見通しを口にした。
俺はこの状況を何とかするため、策を考えていた。
少し考えた後、ユルゲンに「盗賊に弓使いが残っているか、判るか」と聞いてみる。
彼は、「見える範囲にはいないぞ」と答えてくれたが、疑問を感じている表情をしていた。
そのやりとりを聞いていたかスパーが、「何をするつもりだ」と彼のパーティを代表して聞いてきた。
俺は、説明する時間を惜しみ、「ああ、奴らの頭を潰してしまいたいと思ってね。ここは俺に任してくれないか」とだけ答える。
それに対して、彼は「いいだろう。ユルゲン手伝ってやってくれ」とあっさりと了承してくれた。
俺は荷馬車の上に立ち、
「盗賊ども! さっさと降伏しろ! こっちには治癒魔法が使えるエルフがいるんだ。直ぐにこっちは回復するぞ!」と森に向かって叫んだ。
すると、俺の思惑通り、「うるせい!」叫び返してくる盗賊がいた。
俺は挑発すれば、頭目か指導的な立場の奴が何らかのリアクションを起こすだろうと考え、降伏勧告を行った。
案の定、叫び返してきた盗賊がいたので、頭目だろうと見当をつけ、「こっちの方が人数は多いんだ。そんな脅しに……」とまだ叫んでいる間に最高出力のファイアボールを撃ち込んでやった。
一撃で殺すことはできなかったが、HPの半分以上は奪えたので、これで混乱するはずだ。
俺は二馬車から降り、剣を構えるが、
「盗賊たちが下がっていくぞ。何とか撃退できたようだな。……しかし、あんた魔法がつかえたんだな」とユルゲンが話しかけてきた。
ユルゲンはまだアルフォンスの治療を受けていないため、左腕から血を流している。
俺はユルゲンに治癒魔法を掛けるが、魔力が心配なので、
「すまない。魔力が切れそうなんで後はアルフォンスに治療してもらってくれ」
そう言って、簡単な血止めだけをしておいた。
ユルゲンは何か言いたそうだったが、俺がカスパーの方に向かうと何も言わずアルフォンスの方に向かっていった。
俺は状況を知るため、カスパーに味方の状態を確認する。
「ライナーとマルコが死んだ。ルイスは足に大怪我をしている」と残念そうに言った後、
「無傷なのは俺とお前だけ、アルフォンスとベルト、ギーナは戦闘可能だ。ユルゲンはまだ見ていないが、ドワーフは頑丈だから戦えるだろう。護衛以外では、ルーブレヒトさんたち三人はかすり傷程度だが、御者二人が重傷、三人が軽傷だ。アルフォンスの魔力も残り少ないので、完治までは無理そうだ」と状況を一気に教えてくれた。
(さすがに護衛のリーダーをするだけのことはある。あの短時間で完璧に状況を把握しているのか……)
俺はそんな彼に感心しながら、今回のことを考えていた。
ソロのライナー、マルコ、ルイスは有名なシュバルツェン迷宮に挑むため、護衛クエストこなしながら、移動していたと言っていた。
俺はたまたま裏切り者のカールと同じ組になっただけで、一歩間違えば、俺も彼らと同じく寝込みを襲われたかもしれない。
そう思うと震えが来るが、今はこの状況を何とか凌がなければならないと無理やりその震えを抑え込む。
恐怖を忘れるため、現状を更に把握しようと、盗賊の方の損害も聞いてみた。
「盗賊でこの場に残っているのは十人。死亡が六人、四人が重傷だ。そのままにしておけば、すぐに死ぬだろう。だが、逃げた奴らの数はわからんな」
「判ったよ。俺が見た感じだと、森の中に入った盗賊は十人くらいだったと思うが、正確な数はわからないな。なあ、もう一回襲ってくると思うか?」
「俺が盗賊ならもう一度仕掛ける。いくら治癒魔法で回復させてもこちらの人数の方が少ないからな。それに属性魔法の使い手に対しては魔力の回復時間を与えない方がいい」
俺はなるほどと思い、「アルフォンスは休ませないといけないな。それと悪いが俺も魔力切れになりそうなんだ」と言って魔力回復を優先させてもらおうと考えた。
「判っている。朝までは俺、ユルゲン、ベルト、ギーナで歩哨に立つから休んでくれ」と彼はすぐに理解してくれた。
俺は焚き火の近くでマントに包まり横になった。
すぐに睡魔が襲ってきて、カスパーに起こされるまで三時間の間、熟睡していたようだ。カスパーたちには「こんな状況で熟睡できるとは」と呆れられはしたが、何にせよ魔力の回復ができたことが大きい。
(思ったより、時間が稼げた。頭目にダメージを与えたのが良かったのか?)
「奴らが戻ってきた。戦えるか?」と聞いてきたので、
「ああ、大丈夫だ。大分魔力も戻ったみたいだ。もう一戦くらいならいける」と答えておく。
時刻は午前四時頃、まだ夜明けまでには大分時間がある。
盗賊側は森の中から、
「こっちは十人以上いるんだ。荷物を寄こし、武器を捨てれば命だけは助けてやる。抵抗すれば商人、御者も含めて皆殺しだ。少しだけ待ってやる。商人どもと相談しろ」
と先ほどの頭目とは違う盗賊がこちらに向かって叫んできた。
「ユルゲン、何人いるかわかるか?」
「八人は確認できた。木の陰に隠れているやつもいるだろうから、本当に十人はいるんじゃないか」
カスパーがユルゲンに盗賊の状況を確認している。
俺はカスパーに、「三人は責任を持って俺が倒す。後七、八人だが何とかなるか」
彼も覚悟を決めているのか、「何とかするしかないだろう。武器を捨てたとして命の保証は全くないのだからな」と答える。
俺は護衛だけで決めてもいいのかと思い、ルーブレヒトに確認しなくていいのかと聞くと、「あの人も判っているよ」と答えてくれた。
盗賊がここまで損害を出した場合、奴らは自分たちのメンツを守るため、商人だろうが御者だろうが皆殺しにするのが普通だそうだ。
俺は静かに荷馬車の上に伏せて森の中を覗き込み、鑑定で見える範囲の盗賊の位置を確認する。
視界が確保できている範囲で敵は九人いる。
三時間の睡眠でファイアボール四発分まで魔力は回復した。最小出力にすれば八発は撃てるから、うまく使えば五人くらいに大きなダメージを与えられる可能性がある。だが、盗賊もそこまで愚かではないだろう。
俺は最も近くにいる不用意な盗賊に向け、一発目のファイアボールを放つ。不意を撃たれた盗賊に見事命中し、HPの三分の一近くを削り取る。
荷馬車から降り、静かに場所を移動する。
違う角度から、再び盗賊の一人を狙撃する。さっきと同じように大きなダメージを与えることに成功した。
これを機に盗賊たちは交渉決裂と判断し、全員で突っ込んでくる。俺はもう一発ファイアボールを撃ち込んだあと、荷馬車から飛び降りる。
荷馬車の輪の中に突入してきた盗賊の数は八人。
内二人は後ろに回りこんでいたようだが、アルフォンスに発見されるや否や商人たちのところにたどり着く前にロングボウで射抜かれる。
これで残りは六人。人数的にはほぼ互角となった。
俺はレベル的にカスパーたちの方が上であると判っていたので、これで勝てると安心してしまった。かスパーたちも同様に敵の技量から勝てると判出していたようで、全員が少しだけ油断したようだ。
俺たちの油断を突いて、隠れていた盗賊が荷馬車に火をかけ始める。そのため馬が暴れだし、完璧な連携を保っていたかスパーのパーティに綻びが出てしまった。
馬たちの混乱に気を取られたベルトが肩を斬られ、彼を庇おうとしたカスパーも頭にフレイルの打撃を食らって倒れていく。
このため、盗賊側六人に対し、ユルゲンとギーナの二人が前衛で対抗しているが、手数の関係で防戦一方になっている。
俺は火をつけて回っている盗賊に狙いを定めて斬りかかっていく。
良く見ると、火を着けていたのはスカウトのカールで、狂ったように荷馬車に火をつけて回っているため、俺に気付いていない。
俺は彼の真後ろに静かに回りこみ、彼の首にディルクの名剣を振り下ろした。
カールの首は半分千切れ、勢いよく血が噴出し、持っている松明の火を消していく。
俺は動ける御者たちに火を消すよう指示したあと、ユルゲンたちに助勢するため、剣を構えながら突っ込んでいった。
ユルゲンたちを見ると、前衛二人はかなりダメージを負っているようで、ギーナが右手のロングソードを取り落とし、左手のラウンドシールドだけで戦っている。ユルゲンも頭から血を流し、血で顔を赤く染めている。前衛二人では押さえきれず、接近戦になったため、アルフォンスもショートソードで戦い始めたが、防御が精一杯の状態だった。
俺は手遅れかと一瞬焦り、どう対応するか走りながら考えていた。
ファイアボールはまだ撃てるが、早く三人の方に行った方がいいだろうと考え、大声で叫びながら彼らのところに突っ込んでいく。
わずか十mの距離がこれほど遠いと感じたことはなかった。横に回りこむとか奇襲を掛けるとかそんなことが考えられないほど三人は危うい。
ようやく三人のところにたどり着く。俺の声を聞いていた盗賊たちは、三人を俺に差し向けていた。
俺は一人目に盗賊に突きを入れ、そのまま二人目に袈裟懸けを打ち込む。どちらも大したダメージは与えられなかったが、疲れた盗賊たちより俺のほうが動きはいいため、盗賊たちは打ちかかるのを躊躇っている。
俺は敵に連携されないよう連続攻撃を掛けていく。
運良く一撃目が一人の盗賊の利き腕に当り、武器を取り落とさせることに成功した。
よし!と思ったその直後、俺の鎖骨辺りに盗賊のロングソードが叩きつけられる。
革鎧のおかげで鎖骨は折れなかったものの息が詰り一瞬動きを止めてしまった。それが三人目の盗賊に勇気を与えたのか、鳩尾目掛けてショートスピアで突きを入れてくる。
何とか体をひねって、致命的な突きをかわしたものの脇腹を大きく切り裂かれてしまう。
(痛ってぇ!)
俺は声にならない悲鳴を上げる。そして、その痛みの中で「そう言えばこんな大きなダメージを受けたこと無かったよな。ここで死ぬのかなぁ」と一瞬意識を持っていかれそうになる。
二人の盗賊はそれぞれ自信を持ったのか、更に畳み掛けるように攻撃を入れてくる。
しかし、ロングソードの盗賊とショートスピアの盗賊は連携がうまくないのか、それぞれの得意なレンジから攻撃を入れることができていない。
ロングソード使いが前衛、ショートスピア使いが後衛となって攻撃を掛けられたら、十秒ほどで殺されていただろうが、お互いに邪魔しあっているため、何とか立っていられる。
周りを見る余裕はなく、二人からの攻撃を捌くので精一杯なので、当然、魔法を使う余裕もない。
(ジリ貧だ……何か手はないか……ファイアによる炎の剣では射程が短い。ファイアボールを撃つには十秒掛かる……一か八かやってみるか)
俺は一か八かの策に打って出た。
持っているツーハンドソードをロングソード使いに投げつけ、スローイングナイフを取り出す。
そして、素早くそよ風(ブリーズ)の魔法の改良版:圧縮(コンプレッション)を唱え、スローイングナイフを投げ込む。
圧縮空気に乗ってスローイングナイフは俺の剣を弾いた後の隙だらけのロングソード使いの顔に向かって飛んでいく。
運良く、敵の右目に突き刺さり、そのまま右目を押さえて、のた打ち回っている。
ショートスピア使いは、その光景に驚いているが、更に突きを繰り出してくる。
俺はもう一本のスローイングナイフを手に突きをかわしていく。
一対一になれば、ショートスピアの突きを避けるのはそれほど難しくない。アドレナリンのおかげか、脇腹や鎖骨の痛みも感じず、軽快にかわせている。
ショートスピア使いも焦れてきたのか、突きが大雑把になってきている。俺はスローイングナイフを投げつけ、スピアで弾くタイミングを見て懐に入り、ファイアの魔法でショートスピア使いの顔を焼いた。
両目を焼かれたショートスピア使いは痛みに耐えかね、地面をのた打ち回っている。
俺は愛剣を探し出したあと、ユルゲンたちを助けるため、俺を攻撃してきた盗賊たちを無視しての彼らの方に向かった。
ユルゲンたちも人数が三人に減ったこともあり、既に二人の盗賊を倒していた。最後の一人も戦闘意欲を失くしているが、逃げ出すタイミングが計れずにいるようだ。
俺はユルゲンたちと戦っている盗賊の後方から攻撃を掛け、背中から突きを入れる。
その盗賊は突然後ろから攻撃されたことに驚き、振り向きながら、口から血を噴き出して倒れていく。
俺は盗賊の最後を確認もせず、俺を襲ってきた三人の盗賊の止めを刺しに行く。
利き腕に怪我を負った盗賊は既に逃げ出したようで、近くにはいない。
右目にナイフが刺さっているロングソード使いはナイフを引抜いたあと、自分の剣を探して這いまわっていた。
俺は死角になる右側から接近し、首に向けて斬撃を繰り出す。うまく頚動脈を切り裂いたようで盛大に血を噴出し、うつ伏せのまま動かなくなった。
ショートスピア使いはまだ地面でのた打ち回っているが、俺は足で体を踏みつけ、喉に突きを入れて止めを刺す。
周りを見るとユルゲンが最初にアルフォンスに射抜かれた二人に止めを刺しに行き、アルフォンスはカスパーの様子を見ている。
俺は自分の脇腹に治癒魔法を掛け、応急処置をするとともに商人、御者たちに盗賊たちの死体を集めるよう指示を出していく。
アルフォンスのところに行き、カスパー、ベルトの様子を聞くと、二人とも命には別状無いようで、治癒魔法での応急処置で何とかなっているらしい。
ギーナ、ユルゲンもケガを負っているが、まだ大丈夫なようだ。
ソロの両手剣使いのルイスは、寝ているところをカールに後ろから刺されたようで、既にこときれていた
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2012/12/22 15:36 更新日:2012/12/22 15:36 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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