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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第五章「ドライセンブルク」:第2話「再びクロイツタールへ」
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第5章.第2話「再びクロイツタールへ」
年が明けて二日目、雪の月第一週火の曜の朝。
天気は冬晴れだが、朝の気温は低く水溜りには固い氷が張っている。体感的には零度をかなり下回っている感じだが、分厚く着込んだ防寒着と久しぶりの一人旅の高揚感でそれほど寒さを感じていない。
ノーラたち五人の見送りを受け、荷物を持って家を出る。
ギルドの訓練場に寄りミルコに声をかける。
「行ってくるわ。ノーラたちのこと、よろしく頼む」
「ああ、安心していって来い。おめぇならシュバルツェン街道の盗賊如きに遅れを取るとは思わんが一人旅だ、油断するなよ」
「ミルコも飲み過ぎないような」
「うるせぇ! さっさと行っちまえ!」
午前八時過ぎ、俺はクロイツタールに向けて出発した。
あらゆる物資の自給率が低いシュバルツェンベルクにさまざまな物資を供給するため、シュバルツェン街道は真冬でも往来が多い。
夏の急変ほど激しい天候の変化はないが、吹雪になると数日は街道が使えなくなる。
街道にある峠道も積雪は少ないものの、昼間でも雪や氷が解けないため、谷に滑落する恐れがある。
また、馬車のスピードが上げられないため、盗賊や魔物の被害も増える。このため、護衛クエストの需要も多いのだが、さすがに年明け早々のこの日には専属の護衛がつく隊商以外は出発せず、ソロが受けられるような大規模な隊商からの護衛クエストはなかった。
俺は一日当たりの移動距離を少なくし、クロイツタールまでの八十マイル=約百三十kmの距離を六日間掛ける行程で計画を立てている。
シュバルツェンベルクを出て、しばらく馬を進めていくと、身を切るような寒さから徐々に手足の感覚を失っていく。
だが、澄んだ青空の下、うっすらと雪が積もる美しい山々を眺めていると、不思議と寒さを忘れてしまう。
馬の疲労と自分の手足の凍傷を防ぐため、頻繁に休憩を取るゆっくりとしたペースで山道を進んでいった。
シュバルツェンベルクを出発し、一日目、二日目は天候も安定しており、計画通り順調に進んでいた。
三日目も天候は安定していたが、標高が上がったことからに寒さが厳しくなっていった。馬の吐く息も白さを増し、時折、馬も足を滑らせるようになった。
俺は安全のため、馬から降り、峠道を徒歩で登っていく。
頂上付近で休憩していると、シュバルツェンベルクに向かう隊商とすれ違う。
簡単な情報交換をしたが、特に気を付けるべき情報もなく、峠道をゆっくり下っていく。
冬至を過ぎたばかりで日が短いため、午後四時頃には薄暗くなってきたが、まだ明るいうちに次の村に到着できた。
(ようやく半分か。冬の山道は結構厳しいな。何かトラブルがあると明るいうちに宿泊予定地に着けなくなる可能性があるな。)
明日の天気について宿で聞いてみると、まだ、明日、明後日辺りまでは晴天が続くが、その後は天気が崩れるとの予想だった。
(このままだと、最後の宿泊地で吹雪に捕まるのか。取り立てて急ぐ旅でもないし、少しでもリスクは減らしていくのがいいだろうな。)
翌日も予報通り天気は良く、いつも通り夜明けとともに宿を出発する。
今日一日は標高の高い地域を移動するので、慎重に馬を進めていく。
正午頃、あと二時間くらいで到着できる距離まで進み、宿で作ってもらった弁当で昼食を取っていると数頭の狼が森の中から現れてきた。
雪狼(スノーウルフ):
寒冷地に住む大型の狼。小規模な群れで行動することが多い。
HP600, DR25,防御力20,獲得経験値50
牙(AR90,SR35)、爪(AR50,SR35)
灰色狼(グレイウルフ)よりは強いが、今の俺にとってはそれほどの脅威ではない。
狼たちは全部で五頭。距離は約三十m。ゆっくりと囲むように近づいてくる。
慎重に進んでくる狼たちを見て、水属性第3階位のスリープクラウドを試してみる。
スリープクラウドは催眠性の霧によって雲を作り、敵を眠らせる魔法で比較的範囲も広く、精神力の低い獣系には有効な魔法だ。ただし、風が強い場合や雨の中などでは効果が著しく下がること、霧状の雲の接近速度が遅いことから使いどころが難しい魔法でもある。
木々を切り倒して作った人工の休憩場所であるので、周りの木が防風林の役目を果たし、風は弱い。
魔法を完成させるのに一分ほどかかるが、狼たちが警戒しながら接近してきたため、十五mくらいの距離で魔法を発動させることができた。
俺の右手辺りから白いもやのようなものが広がり狼たちに向かっていく。狼たちは怪しい雲に警戒するものの剣を構えた俺を見据えたまま威嚇を続けている。
一頭の狼の様子が突然おかしくなり、静かに前足を折り、目を瞑っていく。他の四頭は何が起こっているのか理解できていないが、本能的に危険であることを察知し、左右に移動して雲の範囲から出ようとしている。
既に雲の範囲はかなり広がっているため、次々と狼は眠っていく。
(初めて実戦でつかったけど、結構有効だな。奇襲で使えると一気に戦局を変えられるかもしれない。第三階位だから発動までの時間が一分近いのが欠点か)
狼たちに止めを刺して行き、討伐証明部位の牙だけ取る。毛皮を剥ぎ取る時間が惜しいので、もったいないが、そのまま放置していく。
午後二時頃、予定通り次の宿泊予定地の村に到着。
村人に雪狼の死体を放置したままにしてあることを教えると、雪狼の毛皮はかなり高級品らしく、明日にでも行ってみるとのことだった。
翌日も夜明けとともに宿を出発する。
予報通り晴天が続いてくれているが、昨日より風が出てきている。
標高は昨日より低いが、風のため体感気温は昨日よりかなり低い感じがする。
三時間ほど進んだ午前十一時頃、壊された馬車と食い荒らされた馬の死体を見つける。
馬車の荷はほとんど残っておらず、近くの草むらには、裸にされ、獣に食い荒らされた人間の死体が四体あった。
死体の近くには一枚の商業ギルドのカードと三枚の冒険者ギルドのカードが捨ててあり、商人と護衛の冒険者が盗賊の犠牲になったようだ。
まだ盗賊が近くにいる可能性があるので四人の遺体に黙祷をささげた後、すぐにこの場所を離れることにした。
幸い盗賊の襲撃はなく、無事に最後の宿泊予定地グライスヴァイラー村に到着した。
グライスヴァイラー村に到着後、村長の家に行き、商人と冒険者が盗賊に襲われていたことを報告する。
六十近い村長はギルドカードを確認し、沈んだ声で、
「昨日出発した行商人のホラーツじゃな。若くて気のいい行商人じゃったがのぉ……冬場は近くの村を回る行商人でも危ないと何度もいったんじゃが…….」
「そうですか。ホラーツさんのギルドカードはどうしましょうか? クロイツタールで商業ギルドに渡したほうがいいでしょうか?」
俺も何かの縁と思い、村長に確認した。
「そうじゃの。ホラーツの家はクロイツタール近くの村のはずじゃ。クロイツタールでギルドに渡してくれんか」
盗賊たちも普段は身入りの少ない行商人を襲うことは少ないが、冬場は盗賊たちの根城も食料などの日用品が不足するので襲われることがあるそうだ。普通は大きな隊商と行動をともにし危険を避けるのだが、天候が悪くなる前に隣村に食料を届けようとして襲われたとのことだ。
(行商人まで襲われるなら、女連れはもっと危険だな。ノーラたちを置いてきたのは正解だったな。ノイレンシュタットで人を雇うなり奴隷を買うなりした場合、かなり危険だ。帰りはクロイツタールで護衛を雇うか)
翌日は予報に反し、朝から晴天になっている。
村の古老に聞くと、クロイツタールまでなら何とかなるかもしれないが、山の中は夕方には急激に冷え込み夜には吹雪くから、二,三日ここで様子を見てはどうかと言われた。
以前、アーヘンタール峠で遭難寸前までいった俺は古老の言うことを聞くことにし、ここグライスヴァイラー村に逗留することにした。
グライスヴァイラー村はクロイツタール市まで約十五マイル=二十四km東に位置し、シュバルツェン街道の第一中継点として栄えている。
人口は三百人ほど、深い森に囲まれ背後に険しい山を背負うこの村では畜産が主な産業でクロイツタールだけでなくシュバルツェンベルクにも肉類を供給している。
村自体はクロイツタール領内にあるため比較的治安は良い。しかし、クロイツタール領内の東端に位置するため、盗賊や魔物の襲撃がゼロということはない。
古老の予想通り、昼前から徐々に雲が広がり、正午を過ぎると雪がちらつき始めてきた。
この予報はクロイツタールでも同じだったのか、クロイツタール方面から来る商人はなく、シュバルツェンベルク方面からわずかに数台の荷馬車が到着したに過ぎない。
宿の主人に話を聞くと、この時期には良くあることのようだ。
「こんなに客が少ないのは珍しいんじゃないか」
「冬場は良くあることさ。クロイツタールを出発する連中はここで足止めを食らうより、クロイツタールで出発を見合わせた方がいいからな。今日、明日はいつもの五分の一くらいの客の入りだから、ゆっくりできるぞ」
「ゆっくりさせてもらうよ。なんかうまいもんがあれば、別料金を払うから夕飯の時に出してくれ」
夕方になると外は完全に吹雪になり、十m先も見えないような状態になっている。
(これが、いわゆるホワイトアウトか。無理をしなくて良かった。しかし、これで明後日に出発できるんだろうか?)
夕食には土地の料理ということで豚のすね肉の煮込みと羊のローストが出てきた。
豚のすね肉はよく煮込まれており、ドイツ料理のアイスヴァインのようだ。羊肉は子羊肉(ラム)ではなく、マトンで香辛料が少ないため、かなり匂いがきつい。だが、地元のエールと合わせて食べるとかなりいける。
翌日も吹雪が続き、宿からも出る気がしない。
仕方がないので人がいない午前中の食堂で剣の鍛錬を行い、午後からは魔導書を読んで過ごしていく。
宿の主人に明日の天気を聞くと、今日の夜中には雪は止み、明日は朝から出発できるだろうとのことだった。
俺はゆっくりと夕食を食べ、明日の移動に備えて早めに就寝した。
夜中に目を覚ますと、外の風の音は止んでおり、吹雪も収まったようだった。
翌朝は予報通り風も無く、澄み渡るような冬晴れだ。放射冷却で冷え込みがきつくなったのだろうか、夜明けにはダイアモンドダストが煌いていた。
朝食を取り、午前八時にクロイツタールに向けて出発。
粉雪に覆われた街道を慎重に進み、予定より二日遅い雪の月第二水の曜(一月九日)に無事クロイツタールに到着した。
年が明けて二日目、雪の月第一週火の曜の朝。
天気は冬晴れだが、朝の気温は低く水溜りには固い氷が張っている。体感的には零度をかなり下回っている感じだが、分厚く着込んだ防寒着と久しぶりの一人旅の高揚感でそれほど寒さを感じていない。
ノーラたち五人の見送りを受け、荷物を持って家を出る。
ギルドの訓練場に寄りミルコに声をかける。
「行ってくるわ。ノーラたちのこと、よろしく頼む」
「ああ、安心していって来い。おめぇならシュバルツェン街道の盗賊如きに遅れを取るとは思わんが一人旅だ、油断するなよ」
「ミルコも飲み過ぎないような」
「うるせぇ! さっさと行っちまえ!」
午前八時過ぎ、俺はクロイツタールに向けて出発した。
あらゆる物資の自給率が低いシュバルツェンベルクにさまざまな物資を供給するため、シュバルツェン街道は真冬でも往来が多い。
夏の急変ほど激しい天候の変化はないが、吹雪になると数日は街道が使えなくなる。
街道にある峠道も積雪は少ないものの、昼間でも雪や氷が解けないため、谷に滑落する恐れがある。
また、馬車のスピードが上げられないため、盗賊や魔物の被害も増える。このため、護衛クエストの需要も多いのだが、さすがに年明け早々のこの日には専属の護衛がつく隊商以外は出発せず、ソロが受けられるような大規模な隊商からの護衛クエストはなかった。
俺は一日当たりの移動距離を少なくし、クロイツタールまでの八十マイル=約百三十kmの距離を六日間掛ける行程で計画を立てている。
シュバルツェンベルクを出て、しばらく馬を進めていくと、身を切るような寒さから徐々に手足の感覚を失っていく。
だが、澄んだ青空の下、うっすらと雪が積もる美しい山々を眺めていると、不思議と寒さを忘れてしまう。
馬の疲労と自分の手足の凍傷を防ぐため、頻繁に休憩を取るゆっくりとしたペースで山道を進んでいった。
シュバルツェンベルクを出発し、一日目、二日目は天候も安定しており、計画通り順調に進んでいた。
三日目も天候は安定していたが、標高が上がったことからに寒さが厳しくなっていった。馬の吐く息も白さを増し、時折、馬も足を滑らせるようになった。
俺は安全のため、馬から降り、峠道を徒歩で登っていく。
頂上付近で休憩していると、シュバルツェンベルクに向かう隊商とすれ違う。
簡単な情報交換をしたが、特に気を付けるべき情報もなく、峠道をゆっくり下っていく。
冬至を過ぎたばかりで日が短いため、午後四時頃には薄暗くなってきたが、まだ明るいうちに次の村に到着できた。
(ようやく半分か。冬の山道は結構厳しいな。何かトラブルがあると明るいうちに宿泊予定地に着けなくなる可能性があるな。)
明日の天気について宿で聞いてみると、まだ、明日、明後日辺りまでは晴天が続くが、その後は天気が崩れるとの予想だった。
(このままだと、最後の宿泊地で吹雪に捕まるのか。取り立てて急ぐ旅でもないし、少しでもリスクは減らしていくのがいいだろうな。)
翌日も予報通り天気は良く、いつも通り夜明けとともに宿を出発する。
今日一日は標高の高い地域を移動するので、慎重に馬を進めていく。
正午頃、あと二時間くらいで到着できる距離まで進み、宿で作ってもらった弁当で昼食を取っていると数頭の狼が森の中から現れてきた。
雪狼(スノーウルフ):
寒冷地に住む大型の狼。小規模な群れで行動することが多い。
HP600, DR25,防御力20,獲得経験値50
牙(AR90,SR35)、爪(AR50,SR35)
灰色狼(グレイウルフ)よりは強いが、今の俺にとってはそれほどの脅威ではない。
狼たちは全部で五頭。距離は約三十m。ゆっくりと囲むように近づいてくる。
慎重に進んでくる狼たちを見て、水属性第3階位のスリープクラウドを試してみる。
スリープクラウドは催眠性の霧によって雲を作り、敵を眠らせる魔法で比較的範囲も広く、精神力の低い獣系には有効な魔法だ。ただし、風が強い場合や雨の中などでは効果が著しく下がること、霧状の雲の接近速度が遅いことから使いどころが難しい魔法でもある。
木々を切り倒して作った人工の休憩場所であるので、周りの木が防風林の役目を果たし、風は弱い。
魔法を完成させるのに一分ほどかかるが、狼たちが警戒しながら接近してきたため、十五mくらいの距離で魔法を発動させることができた。
俺の右手辺りから白いもやのようなものが広がり狼たちに向かっていく。狼たちは怪しい雲に警戒するものの剣を構えた俺を見据えたまま威嚇を続けている。
一頭の狼の様子が突然おかしくなり、静かに前足を折り、目を瞑っていく。他の四頭は何が起こっているのか理解できていないが、本能的に危険であることを察知し、左右に移動して雲の範囲から出ようとしている。
既に雲の範囲はかなり広がっているため、次々と狼は眠っていく。
(初めて実戦でつかったけど、結構有効だな。奇襲で使えると一気に戦局を変えられるかもしれない。第三階位だから発動までの時間が一分近いのが欠点か)
狼たちに止めを刺して行き、討伐証明部位の牙だけ取る。毛皮を剥ぎ取る時間が惜しいので、もったいないが、そのまま放置していく。
午後二時頃、予定通り次の宿泊予定地の村に到着。
村人に雪狼の死体を放置したままにしてあることを教えると、雪狼の毛皮はかなり高級品らしく、明日にでも行ってみるとのことだった。
翌日も夜明けとともに宿を出発する。
予報通り晴天が続いてくれているが、昨日より風が出てきている。
標高は昨日より低いが、風のため体感気温は昨日よりかなり低い感じがする。
三時間ほど進んだ午前十一時頃、壊された馬車と食い荒らされた馬の死体を見つける。
馬車の荷はほとんど残っておらず、近くの草むらには、裸にされ、獣に食い荒らされた人間の死体が四体あった。
死体の近くには一枚の商業ギルドのカードと三枚の冒険者ギルドのカードが捨ててあり、商人と護衛の冒険者が盗賊の犠牲になったようだ。
まだ盗賊が近くにいる可能性があるので四人の遺体に黙祷をささげた後、すぐにこの場所を離れることにした。
幸い盗賊の襲撃はなく、無事に最後の宿泊予定地グライスヴァイラー村に到着した。
グライスヴァイラー村に到着後、村長の家に行き、商人と冒険者が盗賊に襲われていたことを報告する。
六十近い村長はギルドカードを確認し、沈んだ声で、
「昨日出発した行商人のホラーツじゃな。若くて気のいい行商人じゃったがのぉ……冬場は近くの村を回る行商人でも危ないと何度もいったんじゃが…….」
「そうですか。ホラーツさんのギルドカードはどうしましょうか? クロイツタールで商業ギルドに渡したほうがいいでしょうか?」
俺も何かの縁と思い、村長に確認した。
「そうじゃの。ホラーツの家はクロイツタール近くの村のはずじゃ。クロイツタールでギルドに渡してくれんか」
盗賊たちも普段は身入りの少ない行商人を襲うことは少ないが、冬場は盗賊たちの根城も食料などの日用品が不足するので襲われることがあるそうだ。普通は大きな隊商と行動をともにし危険を避けるのだが、天候が悪くなる前に隣村に食料を届けようとして襲われたとのことだ。
(行商人まで襲われるなら、女連れはもっと危険だな。ノーラたちを置いてきたのは正解だったな。ノイレンシュタットで人を雇うなり奴隷を買うなりした場合、かなり危険だ。帰りはクロイツタールで護衛を雇うか)
翌日は予報に反し、朝から晴天になっている。
村の古老に聞くと、クロイツタールまでなら何とかなるかもしれないが、山の中は夕方には急激に冷え込み夜には吹雪くから、二,三日ここで様子を見てはどうかと言われた。
以前、アーヘンタール峠で遭難寸前までいった俺は古老の言うことを聞くことにし、ここグライスヴァイラー村に逗留することにした。
グライスヴァイラー村はクロイツタール市まで約十五マイル=二十四km東に位置し、シュバルツェン街道の第一中継点として栄えている。
人口は三百人ほど、深い森に囲まれ背後に険しい山を背負うこの村では畜産が主な産業でクロイツタールだけでなくシュバルツェンベルクにも肉類を供給している。
村自体はクロイツタール領内にあるため比較的治安は良い。しかし、クロイツタール領内の東端に位置するため、盗賊や魔物の襲撃がゼロということはない。
古老の予想通り、昼前から徐々に雲が広がり、正午を過ぎると雪がちらつき始めてきた。
この予報はクロイツタールでも同じだったのか、クロイツタール方面から来る商人はなく、シュバルツェンベルク方面からわずかに数台の荷馬車が到着したに過ぎない。
宿の主人に話を聞くと、この時期には良くあることのようだ。
「こんなに客が少ないのは珍しいんじゃないか」
「冬場は良くあることさ。クロイツタールを出発する連中はここで足止めを食らうより、クロイツタールで出発を見合わせた方がいいからな。今日、明日はいつもの五分の一くらいの客の入りだから、ゆっくりできるぞ」
「ゆっくりさせてもらうよ。なんかうまいもんがあれば、別料金を払うから夕飯の時に出してくれ」
夕方になると外は完全に吹雪になり、十m先も見えないような状態になっている。
(これが、いわゆるホワイトアウトか。無理をしなくて良かった。しかし、これで明後日に出発できるんだろうか?)
夕食には土地の料理ということで豚のすね肉の煮込みと羊のローストが出てきた。
豚のすね肉はよく煮込まれており、ドイツ料理のアイスヴァインのようだ。羊肉は子羊肉(ラム)ではなく、マトンで香辛料が少ないため、かなり匂いがきつい。だが、地元のエールと合わせて食べるとかなりいける。
翌日も吹雪が続き、宿からも出る気がしない。
仕方がないので人がいない午前中の食堂で剣の鍛錬を行い、午後からは魔導書を読んで過ごしていく。
宿の主人に明日の天気を聞くと、今日の夜中には雪は止み、明日は朝から出発できるだろうとのことだった。
俺はゆっくりと夕食を食べ、明日の移動に備えて早めに就寝した。
夜中に目を覚ますと、外の風の音は止んでおり、吹雪も収まったようだった。
翌朝は予報通り風も無く、澄み渡るような冬晴れだ。放射冷却で冷え込みがきつくなったのだろうか、夜明けにはダイアモンドダストが煌いていた。
朝食を取り、午前八時にクロイツタールに向けて出発。
粉雪に覆われた街道を慎重に進み、予定より二日遅い雪の月第二水の曜(一月九日)に無事クロイツタールに到着した。
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2013/01/05 17:17 更新日:2013/01/05 17:17 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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