作品ID:148
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炎に従う〈はずの〉召喚獣
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
思い出す。痛み出す、何か。
前の話 | 目次 | 次の話 |
オーティスの話が始まってどれぐらい経った? もしも俺の体内時計が合っているとしたら3時間以上は経っている。
大体、早くこの最高濃度エネルギーを打ち出して空を創り上げないとならないのに。
〈何で語りだすかな?〉
3時間あればもっと有意義に使えただろう。少なくともオーティスの昔話に耳を傾けることなどない。
「フェクト?」
思考から引きずりだされる。これ以上、オーティスの話を聞く時間はない。
思い出す。痛み出した、それはゆっくりと時間をかけて自分を困惑させる。まるで自分の中にある濃厚な何かを引きずり出すように。でもそれは分からない。視界に入らない。怖い、と思った。だって見えないから。怖くてでも立ち向かわなくてはと思ってしまった以上、立ち向かうことを決定付けられて。
それは自分という存在を現実へと引き戻してそれを見せ付けた。
足が浮いているような感覚。実際に浮いていた。正方形の透明なボックスに入れられているのだろうか? 突き出した右手が途中でその進行を拒む。だが硬いものではないようで、右手を突き返すボックスはやわらかいものだと分かる。
先ほどまで暗闇の、空の中に居たはず。そこでオーティスが語り始めて、それを聞くことを止め、空を創りだすことを再開して。
ボックスの中から下を見る。足元で展開されているのは戦闘。
一匹の召喚獣を従えた一人の少年が小さな召喚獣を抱いている。
両手に収められたそれはフェクト自身。
小さな生命体。だけど恐怖心の、炎の塊である小さな召喚獣は少年を見上げ興味を示す。
〈ネル〉
桐生ネル。自分を召喚して現在は最近、各地で勃発している対召喚獣戦において中立の立場を保っている彼。
「ネル」
ボックスに反響する自分の声は小さく。
生体コンピュータ・リルディアから出された指示……アタックという純粋な攻撃の塊を次々とオーティスが壊していく。
隣に佇む少年、ネルは絶対にオーティスから離れない。オーダーを出す距離内に居る。
きっとオーティスが望んだ。オーティスがネルに注文した。自分の行動を制限しろ、と。ボックスで見ている自分にもそれはわかる。
〈あ……〉
ネルが見上げる。どんなに攻撃を浴びせられても手放す事はなかった赤い塊を大事そうに抱えなおして。見上げた先には自分がいるボックス。透明なボックス。
ネルはオーティスにオーダーする。
口の動きからそれは、
「あの場所に向かってエネルギーを撃って」
ボックスを破壊しようというのか。それ以外思いつかない。だが、何故破壊しようとする? それ以前に何故、彼はこちらの場所を特定できる? 自分は過去にきた存在のようなものなのに。
考えている間に撃たれたエネルギー。自分がいるボックスを粉々に破壊する。
「フェクト」
振り向く。そこにはあの空の中で見たオーティス。
オーティスを見た瞬間、痛み出した記憶。それは時間が経つにつれ、痛みを増幅させる。痛みを感じる範囲も広がっていく。
立てなくなる。自力で。頭が痛む。何度も何度も硬いもので頭を打たれている感覚。自分の赤茶色の髪を両手で掴む。自分で自分の髪の毛を掴み、痛みをこらえようとする。
そんなフェクトをみてオーティスは。
「痛い? ならどうする? 痛みをこらえようとする? でも無理? それなら?」
オーティスの問いかけも分からない。言葉が痛みの間に聞こえるだけ。
髪の毛を掴む自分の両手に別の体温がかぶさる。ゆっくりを上に顔を向ける。
白く長いオーティスの髪が、薄黄色の長袖で隠されたオーティスの両手が自分の両手の上にかぶされる。
交わるオーティスの髪と自分の髪。温かいそれに縋り付きたくなる。だけどそれは許されない。
フェクトの首にあたる冷たいモノ。ウォークマン。青色の。
痛みは増す。こらえる事もできなくなる。オーティスはフェクトを抱きしめる体勢で止まったまま。
苦しくなる。痛みは呼吸すらも許さない。だけど呼吸ができなくともオーティスの存在があれば何とかなるような気がした。
「フェクト。つらいなら自分で乗り越える事も可能。だけどそれ以外のルートを辿る事も可能。お前はどっちを選ぶ?」
オーティスから発せられた今度の問いかけは、はっきりと聞こえた。
答えはわかってる。あとは答えを発する声だけ。
「欲張り、だけど、どっちも」
上手く笑えない。至近距離にあるオーティスの顔が離れていく。ゆっくりと。
同時に痛みがひいていく。呼吸もできる。オーティスの両手が離れる。交わっていた髪の毛も。
「オーティス?」
「ありがとう」
オーティスから発せられたお礼の意味はわからない。だけど分かった気がする。
オーティスは新たなものを見つけたっていうことだけは。
こうして、オーティスからの話は終わった。フェクトの原因不明の痛みだけ残して。
大体、早くこの最高濃度エネルギーを打ち出して空を創り上げないとならないのに。
〈何で語りだすかな?〉
3時間あればもっと有意義に使えただろう。少なくともオーティスの昔話に耳を傾けることなどない。
「フェクト?」
思考から引きずりだされる。これ以上、オーティスの話を聞く時間はない。
思い出す。痛み出した、それはゆっくりと時間をかけて自分を困惑させる。まるで自分の中にある濃厚な何かを引きずり出すように。でもそれは分からない。視界に入らない。怖い、と思った。だって見えないから。怖くてでも立ち向かわなくてはと思ってしまった以上、立ち向かうことを決定付けられて。
それは自分という存在を現実へと引き戻してそれを見せ付けた。
足が浮いているような感覚。実際に浮いていた。正方形の透明なボックスに入れられているのだろうか? 突き出した右手が途中でその進行を拒む。だが硬いものではないようで、右手を突き返すボックスはやわらかいものだと分かる。
先ほどまで暗闇の、空の中に居たはず。そこでオーティスが語り始めて、それを聞くことを止め、空を創りだすことを再開して。
ボックスの中から下を見る。足元で展開されているのは戦闘。
一匹の召喚獣を従えた一人の少年が小さな召喚獣を抱いている。
両手に収められたそれはフェクト自身。
小さな生命体。だけど恐怖心の、炎の塊である小さな召喚獣は少年を見上げ興味を示す。
〈ネル〉
桐生ネル。自分を召喚して現在は最近、各地で勃発している対召喚獣戦において中立の立場を保っている彼。
「ネル」
ボックスに反響する自分の声は小さく。
生体コンピュータ・リルディアから出された指示……アタックという純粋な攻撃の塊を次々とオーティスが壊していく。
隣に佇む少年、ネルは絶対にオーティスから離れない。オーダーを出す距離内に居る。
きっとオーティスが望んだ。オーティスがネルに注文した。自分の行動を制限しろ、と。ボックスで見ている自分にもそれはわかる。
〈あ……〉
ネルが見上げる。どんなに攻撃を浴びせられても手放す事はなかった赤い塊を大事そうに抱えなおして。見上げた先には自分がいるボックス。透明なボックス。
ネルはオーティスにオーダーする。
口の動きからそれは、
「あの場所に向かってエネルギーを撃って」
ボックスを破壊しようというのか。それ以外思いつかない。だが、何故破壊しようとする? それ以前に何故、彼はこちらの場所を特定できる? 自分は過去にきた存在のようなものなのに。
考えている間に撃たれたエネルギー。自分がいるボックスを粉々に破壊する。
「フェクト」
振り向く。そこにはあの空の中で見たオーティス。
オーティスを見た瞬間、痛み出した記憶。それは時間が経つにつれ、痛みを増幅させる。痛みを感じる範囲も広がっていく。
立てなくなる。自力で。頭が痛む。何度も何度も硬いもので頭を打たれている感覚。自分の赤茶色の髪を両手で掴む。自分で自分の髪の毛を掴み、痛みをこらえようとする。
そんなフェクトをみてオーティスは。
「痛い? ならどうする? 痛みをこらえようとする? でも無理? それなら?」
オーティスの問いかけも分からない。言葉が痛みの間に聞こえるだけ。
髪の毛を掴む自分の両手に別の体温がかぶさる。ゆっくりを上に顔を向ける。
白く長いオーティスの髪が、薄黄色の長袖で隠されたオーティスの両手が自分の両手の上にかぶされる。
交わるオーティスの髪と自分の髪。温かいそれに縋り付きたくなる。だけどそれは許されない。
フェクトの首にあたる冷たいモノ。ウォークマン。青色の。
痛みは増す。こらえる事もできなくなる。オーティスはフェクトを抱きしめる体勢で止まったまま。
苦しくなる。痛みは呼吸すらも許さない。だけど呼吸ができなくともオーティスの存在があれば何とかなるような気がした。
「フェクト。つらいなら自分で乗り越える事も可能。だけどそれ以外のルートを辿る事も可能。お前はどっちを選ぶ?」
オーティスから発せられた今度の問いかけは、はっきりと聞こえた。
答えはわかってる。あとは答えを発する声だけ。
「欲張り、だけど、どっちも」
上手く笑えない。至近距離にあるオーティスの顔が離れていく。ゆっくりと。
同時に痛みがひいていく。呼吸もできる。オーティスの両手が離れる。交わっていた髪の毛も。
「オーティス?」
「ありがとう」
オーティスから発せられたお礼の意味はわからない。だけど分かった気がする。
オーティスは新たなものを見つけたっていうことだけは。
こうして、オーティスからの話は終わった。フェクトの原因不明の痛みだけ残して。
後書き
作者:フェクト |
投稿日:2010/02/09 13:49 更新日:2010/02/09 13:49 『炎に従う〈はずの〉召喚獣』の著作権は、すべて作者 フェクト様に属します。 |
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