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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
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第六章「死闘」:第19話「レベル上げ」
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第6章.第19話「レベル上げ」
氷の月、第二週日の曜(二月十一日)の朝八時、俺は五十五階に足を踏み入れた。
魔力(MP)はほぼ完全な状態まで戻っているが、疲れはあまり取れていない。
(疲れが取れないと集中力が切れる。一時間に一回は休憩を入れないと本気でやばいかもしれない……)
五分ほどでオーガの重い足音が聞こえてきた。
窒息の効きをよくするため、十字路や三叉路のような開放部が出来るだけ少ない一本道の通路に誘い込む。
そして、オーガたちが見える直前、十mくらいに接近した時にファイアストームが発動するようタイミングを調整し、敵が見えた瞬間に炎の渦で取り囲む。
発動時間は一分。
オーガたちは炎に包まれ、一旦足を止めるが、炎が治まると最初は歩き出そうとする。だが、一、二歩歩いたところで動きを止め、次々と倒れていく。
(低酸素状態で脳に酸素が行かなくなるからなのかな)
俺は息を止めたまま、そよ風(ブリーズ)で空気を入替えてから、倒れているオーガに止めを刺していく。
(自分が酸欠にならないように注意しながらは精神的にきついな。測定方法があればいいんだが、鑑定でもそこまでは判らないし)
ファイアストームでの殲滅は経験値を稼ぐという点では非常に有効だが、スキルを上げるという目的とは合致しない。
レベルを上げるか、スキルを上げるか。スキルを上げた方がすぐに効果が出るが、レベルを上げて基礎能力を上げた方がいいような気もする。
罠を仕掛ける日を除くと、あと七日間しかない。
その間で最も効果的に力をつける方法が何か悩んでいた。
その後、三回の戦闘をこなし、五十五階をゆっくりと進んでいった。
五分ほど歩いたところで、前方から戦闘の音が聞こえてきた。
階段室で一緒になった六人組のパーティのようだ。
俺は休憩がてら、彼らの戦闘を見学することにした。
「トム! 左のオーガを抑えろ! トービー! エド! 中央の奴を集中的に攻撃するぞ! ヴィック、コニー右の奴の顔を狙え!」
前衛に五人が並び、真ん中にいる重装備のグレイブ使いがパーティメンバーに次々と指示を出していく。
彼のすぐ右にはハルバートを持った戦士、左には両手斧を持った戦士がおり、三人で中央のオーガに攻撃を掛けていく。
最も左にいる重装備の両手剣使いは一体のオーガを翻弄している。
そして、最も右にいる軽装の槍使いが後方の長弓使いの支援を受けながら顔に牽制の攻撃を加えている。
(うまいな。それに装備は長柄武器が多い。対オーガ用に変えているのか、元々なのか、どちらにしても魔術師がいないパーティの典型的な攻略方法なんだろうな)
一パーティ六人という人数制限の関係から、俺は手出しをすることができないので、後方に警戒しつつ、干し果実を取り出して、のんびりと見学していた。
五分ほどで中央の一体が光となって消えていく。
彼らはまだ一撃も貰わず、軽快にオーガを攻撃していく。
更に三分で二体目を葬る。彼らの息がかなり上がってきており、オーガの攻撃が掠め始めていた。
「カイ、大丈夫か。そろそろ引いた方がよくないか」
弓使いが中央のグレイブ使いに声を掛けている。
「そうだな。タイミングを計って引くぞ!」
リーダーがそう言ったものの、通路幅一杯に三体が並び、そのうちの二体は後ろにいたため無傷であり、隙が出来ない。一方、冒険者たちは肩で息をし始めており、最初に見えた余裕はすでに無い。
時々、俺のほうを見ているが、目を合わせることはしなかった。
(やばそうだが、助けることはできないし、第一助ける気も無い)
オーガが振り降ろした鎚が重装備の両手剣使いに命中し、ガギーンという音を上げる。
「トム!」
後ろにいた弓使いが駆け寄ろうとするが、リーダーの一言で攻撃を続行する。
「コニー! 援護の手を止めるな! 顔を狙え!」
トムと呼ばれた男は、重装備の鎧のおかげで、一撃で死ぬことは無かったが、後ろに吹き飛ばされ、気絶している。
前衛が一人抜けたため、均衡していた戦線は一気に崩壊していく。
両手剣使いのトムを吹き飛ばしたオーガが無造作に鎚を横薙ぎに振るうと、両手斧使いが受け止めきれず、横に吹き飛んでいく。
中央のリーダーであるグレイブ使いが何とか彼を庇っているが、真ん中と左側の二体のオーガから両面攻撃を受け、すぐにでも致命傷を負いそうな感じだ。
「一旦、引くぞ! コニー援護しろ! エド、トービーとトムは諦めろ! 引け、引くんだ! ヴィック、引いてくれ!」
四人は仲間をそのまま置き去りにし、後ろに下がっていった。オーガたちは倒れている二人の止めは刺さず、四人を追いかけていく。
その途中三体のオーガは俺に気付き、低い咆哮を上げ、攻撃の意思を見せてくる。
(二人が戦闘不能だし、四人も逃げ出したから、人数制限でペナルティを食らうことはないな)
俺はおもむろに立ち上がり、タイロンガを構える。
(三体か。剣のスキルを上げるのにちょうど良さそうだな。炎なしで行こうか)
俺は笑みを浮かべながら、オーガたちに近寄っていく。
三体のオーガは再び低く重い咆哮を上げると、鎚を振り上げて、同時に襲い掛かってきた。
一体のオーガはかなりダメージを受けているようだったので、その一体を先に倒し、あとは複撃で二体を葬れば問題ない。
一体目を連撃二発で倒し、残りの二体に取り掛かる。
乱れ斬りのような連撃を二体同時に浴びせかけ、確実にダメージを与えていく。
オーガは自らの攻撃が掠りもしないことに苛立ちの咆哮を上げるが、俺はそんなことは全く気にせず、機械のようにオーガを切り刻んでいった。
三分間剣を振り続け、二体が同時に白い光になって魔石に変わっていく。
俺は三つの魔石を拾うと倒れている二人を無視してそのまま進んでいった。
(助けてやりたいが、ここまで来ている以上、自己責任だろう。長弓(ロングボウ)使いが治癒師だったから、運がよければ助かるはずだ)
後ろから声が聞こえてくるが、それを無視して前に進んでいく。
更に三回の戦闘をこなし、五十五階のボス部屋に到着した。
中に入ると、この部屋の主が仁王立ちしている。
オーガウォーリア:
オーガの希少種。身長9フィート(2.7m)。知性を持ち、武器を使う。
HP2000,AR50,SR25,DR15,防御力70,獲得経験値2000(10G)
両手斧(スキルレベル20(防具破損1),AR120,SR30)、
アーマー(スキル5、100)
オーガウォーリアだ。
体格も通常のオーガより頭一つ分大きく、知性を持つとあるようにオーガのような荒々しさだけの存在ではない。
だが、迷宮にいる魔物のせいか、言葉を発することはないようだ。
オーガウォーリアは二m近い柄の両刃の斧を両手で構えている。
そして、ブレストプレートのような鎧を身に着け、下半身はかなりの重装甲で固めている。特に脚には重い音を立てる分厚い板金製のレッグアーマーを着けていた。
(この身長差で下半身を固められると普通は長柄武器か遠距離攻撃しか効かないだろう。さっきのパーティはこれを想定してあの装備だったんだろう)
防御力が高いといっても普通の武器で戦う冒険者にとっての話。
タイロンガを持つ俺にとっては、普通のオーガとそれほど違う気はしない。
強いて言うなら命中率と攻撃力が上がっている分、多少気を使う程度。強撃なら十発、通常攻撃なら三十発も当てれば倒せるから、それまで一撃も貰わなければいい。
オーガウォーリアがゆっくりと近づいてくる。
俺も剣を構え、ミスをしないことだけを考えながら、慎重に接近していく。
オーガウォーリアは気合のような鋭い咆哮を上げ、斧を斜めに斬り降ろしてくる。
軽いバックステップで回避すると、分厚い刃が目の前を通り過ぎ、ブォーンという風切り音が耳に残った。
斬り下ろした反動で、無防備な状態の脇腹が俺の目の前に曝け出されている。俺は鎧の繋ぎ目を狙うように突きを繰り出した。
剣の切先が鎧の繋ぎ目をすり抜け、オーガウォーリアの脇腹を傷つけていく。奴は初めてオーガらしい重い咆哮を上げた。
「ゴォルォオァ!」
俺はすぐに剣を引抜き、大きく後退する。引抜いたところから、血が噴出し、オーガウォーリアが怒りの表情で追い縋ってくる。
オーガとは思えぬ鋭く正確な斬撃が飛んでくるが、重い両手斧の軌道は読み易い。
カウンター気味の攻撃を繰り返し、脇、腕など防御の薄いところを集中的に狙っていく。
さすがに耐久力のあるオーガウォーリアだけあり、なかなか倒しきれないが、全身血まみれになり、動きも徐々に緩慢になってきた。
ここで俺はしてはいけない油断をしてしまった。
訓練のつもりで、最後の一撃を強撃と連撃のコンビネーションで決めようと大きく構えたところをオーガウォーリアに付け込まれたのだ。
奴は弱ってきていたものの、動きが緩慢になっていったのは擬態(ブラフ)だったようだ。
俺が最後の一撃を入れる瞬間、相打ち狙いで踏み込んできた。
奴の踏み込みのせいで俺の攻撃は中途半端なものになり、逆に斧の柄で肩を打ち据えられる。
(くっ! 痛ぇ!)
あと数センチ踏み込みが浅かったら、斧の刃が当たったはずだ。
下手をすると首に入った可能性もある。首に入れば、一撃で殺されていたかもしれない。
オーガウォーリアは悔しげな顔をすると、最後の力を振り絞り、斧を振り回してきた。
俺は肩の痛みを無視し、奴を倒すことに再度集中した。
大振りを止め、通常攻撃で確実にダメージを与えていくと、オーガウォーリアは白い光となって消えていった。
(しくじった。もっと慎重になるべきだった)
(俺の目的は何だ。迷宮のクリアでも魔石でもない。更に言えばレベルアップでもスキルアップでもない)
(レベルアップもスキルアップも手段であって目的じゃないんだ。目的はグンドルフを倒すこと。こんなところで死ぬわけにはいかない)
自らに治癒魔法を掛け、魔石を拾い、宝箱を確認する。
宝箱には罠が掛けられているようなので、そのまま放置していく。
俺は氷の月、第二週日の曜(二月十一日)の朝十時、迷宮の五十五階を突破した。
階段室に入り、休憩を取ることにした。
昼の中途半端な時間ということもあり、階段室には誰も入ってこない。
(休憩は転送室に近い階で取る方がいいのかもしれないな)
ボス部屋に近づけば翌日に回すパーティも出てくるだろう。
転送室に近い階なら、魔物の数も少ないから入っている冒険者たちも転送室まで戻ることは難しくない。次の日にやり直してもそれほど苦にならないから、宿で休憩を取る方が合理的だ。
そうであれば、一フロアや二フロア先の五十六階や五十七階には夜間休憩するパーティは少ないはずだ。
魔力(MP)に余裕があり、疲れが溜まっていない状態であれば、できるだけ深いフロアでファイアストームでのレベルアップに励む。魔力が低下し休憩が必要になる時間帯に向けて徐々に浅い階層に移る方針とすれば、階段室で他の冒険者に出会う可能性が低くなるはずだ。
あとは、トロルかオーガのどちらをターゲットにするかだろう。
オーガなら窒息型ファイアストームを使えば鴨だし、二体以下なら剣だけで充分対応できる。
トロルにも窒息型ファイアストームが効くなら、入ってくる経験値が大きい分、トロルにした方が得だ。
休憩を終え、五十六階への扉を開ける。
通路は五十五階までと同じ幅、高さとも約六mサイズ。
いつもと同じように五分もすると魔物が接近してくる足音が聞こえてきた。
オーガの足音より更に重い音でズシンズシンといった感じの音が近づいてきた。
そして、オーガより更に一回り以上大きい、身長三mほどの大型の魔物が現れる。
トロル:
身長10フィート(3.0m)ほどの巨大な食人鬼
HP2000,AR65,SR5,DR3,防御力100,獲得経験値700(25S)
腕(スキルレベル15,AR120,SR30),アーマーなし、
特殊:再生(物理攻撃ダメージが毎分5%自動回復する)
(再生だと! 毎分五%、HPが一〇〇も回復するのか……)
トロルの情報は以前ギルドでも確認していたが、傷が再生していき、なかなか倒せないと言っていた。
鑑定で数字を見ると確かに倒しにくい魔物だ。
一分間に通常の攻撃なら六回くらいが限界だ。そのうち、有効な攻撃が半分だとすると毎分三回。防御力が一〇〇もあるから、通常の剣士の場合、両手剣では精々一〇〇くらいしかダメージは与えられない。
そうなると、一分間で三〇〇のダメージに対し、一〇〇も回復されることになる。
疲れによる影響が無いと考えた場合でもソロなら十分近く時間が掛かることになる。
更にこいつらが複数いる場合、通常の物理攻撃ではかなり厳しいことは容易に判る。
(魔法や毒なんかだと再生されないのか。ミスリルでは再生されると聞いたが、アダマンタイトではどうなんだろう?)
俺はトロルの特性を確認するため、通常状態でタイロンガを振るう。
トロルは動きが敏捷ではなく、その長い腕を振り回すだけで、回避するのは簡単だ。
俺はトロルの攻撃を回避し、その腕に斬りタイロンガを叩きつける。
トロルの腕に深い傷が穿たれるが、傷はみるみる再生されていく。
(アダマンタイトでも再生されるんだな。炎を纏わせるしかないか)
俺はタイロンガに炎を纏わせ、再びトロルに斬りかかる。
トロルの脚の深く硬い毛が燃えるいやな臭いと共に、大きな傷が作られていった。
しばらく見ていたが、傷の再生は始まらない。
(やはり、火属性が付与されているから、再生できないんだな。しかし、炎を纏わせる必要があるなら、オーガの方がましか。念のため窒息の実験もしておくか)
傷を負ったトロルに炎を纏わせたタイロンガで攻撃を掛け、数回の強撃+連撃を繰り出し、止めを刺す。
魔石を拾い、次のトロルを探していると遠くからズシンズシンという足音が聞こえてきた。
ファイアストームの呪文を調整し、見えた瞬間、魔法を発動する。
いつものように一分間の炎の渦の中にトロルはいたが、一向に倒れる様子が無い。
近づいていくと少し頭を振っているようだが、特に動きに変化は無い。
(頭の位置がオーガより高いからかな? それとも再生が効くのか? どちらにしても窒息が効きにくいなら、ターゲットはオーガにすべきだな)
このトロルを倒し、すぐに五十五階に戻っていく。
転送室から一旦、外に出ると冬晴れの日の光が眩しい。
五十階に転送を依頼すると、ギルド職員が、「五十五階も突破したのか!」と驚きの声を上げている。
「二日間入りっぱなしだろう。無理せず休んだらどうだ?」
彼は俺を見てそう言ってきた。
俺の顔は知れ渡っているから、迷宮から出ればすぐに気付かれる。だから、一昨日から出ていないと思っているのだろう。
(変身のアミュレットのおかげだな。ばれていない。仕込みは充分に出来ている……)
「大丈夫だ。五十階に転送してくれ!」と叫び、更に我を忘れている振りをする。
「やらなきゃならないことがあるんだ! 時間がもったいない。急いでくれ!」
俺は渋る職員を脅すようにして、五十階に転送されていった。
それから三日間、迷宮にもぐり続けた。
数回戦闘を終えると、すぐに休憩するようにしたが、つまらないミスで何度もケガを負った。
冷えた保存食だけの食生活も、徐々に気力を奪っていった。
暖かい食事、のどごしのいい酒、柔らかな寝台などを思い出すたびに無理やり頭から追い出していく。
時計があるから何とか時間感覚はあるものの、何のために何をしているのか判らなくなるほど、疲れていることがあった。
二日が過ぎ、食料が乏しくなったきたため、五十一階の階段室を通る冒険者たちから余った食料を分けてもらうようにした。このおかげで食生活に多少の変化が生まれ、気分的にも少しだけ楽になった。
俺が二十S相当のゴーストやオーガの魔石と交換するため、翌日から彼らは余分に食料を持ってくるようになった。
(これで外に出る必要は無い。迷宮に専念できる)
食料の心配が無くなり、迷宮での戦闘に集中した。
一時間戦い、一時間休む。そして、夜間は五十一階の階段まで戻り、八時間の睡眠を取るというサイクルで戦闘をこなしていった。
氷の月、第三週水の曜(二月十四日)、レベルは二十七に上昇、両手剣、回避のスキルも順調に上がり、目標の両手剣五十五に到達する目途が立った。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV27
STR2062, VIT2395, AGI1924, DEX1940, INT4859, MEN2984, CHA1625, LUC1615
HP1304, MP2984, AR10, SR10, DR10, SKL340, MAG239, PL41, EXP979372
スキル:両手剣53(複撃2、狙撃1、強撃1、連撃1、コンボ1)、
回避50(見切り3、予測3)、軽装鎧39(防御力向上3)、
共通語5、隠密12、探知27、追跡8、罠5、罠解除8、体術37、
乗馬11、植物知識9、水中行動4、上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法26、火属性27、水属性19、風属性18、土属性18
氷の月、第二週日の曜(二月十一日)の朝八時、俺は五十五階に足を踏み入れた。
魔力(MP)はほぼ完全な状態まで戻っているが、疲れはあまり取れていない。
(疲れが取れないと集中力が切れる。一時間に一回は休憩を入れないと本気でやばいかもしれない……)
五分ほどでオーガの重い足音が聞こえてきた。
窒息の効きをよくするため、十字路や三叉路のような開放部が出来るだけ少ない一本道の通路に誘い込む。
そして、オーガたちが見える直前、十mくらいに接近した時にファイアストームが発動するようタイミングを調整し、敵が見えた瞬間に炎の渦で取り囲む。
発動時間は一分。
オーガたちは炎に包まれ、一旦足を止めるが、炎が治まると最初は歩き出そうとする。だが、一、二歩歩いたところで動きを止め、次々と倒れていく。
(低酸素状態で脳に酸素が行かなくなるからなのかな)
俺は息を止めたまま、そよ風(ブリーズ)で空気を入替えてから、倒れているオーガに止めを刺していく。
(自分が酸欠にならないように注意しながらは精神的にきついな。測定方法があればいいんだが、鑑定でもそこまでは判らないし)
ファイアストームでの殲滅は経験値を稼ぐという点では非常に有効だが、スキルを上げるという目的とは合致しない。
レベルを上げるか、スキルを上げるか。スキルを上げた方がすぐに効果が出るが、レベルを上げて基礎能力を上げた方がいいような気もする。
罠を仕掛ける日を除くと、あと七日間しかない。
その間で最も効果的に力をつける方法が何か悩んでいた。
その後、三回の戦闘をこなし、五十五階をゆっくりと進んでいった。
五分ほど歩いたところで、前方から戦闘の音が聞こえてきた。
階段室で一緒になった六人組のパーティのようだ。
俺は休憩がてら、彼らの戦闘を見学することにした。
「トム! 左のオーガを抑えろ! トービー! エド! 中央の奴を集中的に攻撃するぞ! ヴィック、コニー右の奴の顔を狙え!」
前衛に五人が並び、真ん中にいる重装備のグレイブ使いがパーティメンバーに次々と指示を出していく。
彼のすぐ右にはハルバートを持った戦士、左には両手斧を持った戦士がおり、三人で中央のオーガに攻撃を掛けていく。
最も左にいる重装備の両手剣使いは一体のオーガを翻弄している。
そして、最も右にいる軽装の槍使いが後方の長弓使いの支援を受けながら顔に牽制の攻撃を加えている。
(うまいな。それに装備は長柄武器が多い。対オーガ用に変えているのか、元々なのか、どちらにしても魔術師がいないパーティの典型的な攻略方法なんだろうな)
一パーティ六人という人数制限の関係から、俺は手出しをすることができないので、後方に警戒しつつ、干し果実を取り出して、のんびりと見学していた。
五分ほどで中央の一体が光となって消えていく。
彼らはまだ一撃も貰わず、軽快にオーガを攻撃していく。
更に三分で二体目を葬る。彼らの息がかなり上がってきており、オーガの攻撃が掠め始めていた。
「カイ、大丈夫か。そろそろ引いた方がよくないか」
弓使いが中央のグレイブ使いに声を掛けている。
「そうだな。タイミングを計って引くぞ!」
リーダーがそう言ったものの、通路幅一杯に三体が並び、そのうちの二体は後ろにいたため無傷であり、隙が出来ない。一方、冒険者たちは肩で息をし始めており、最初に見えた余裕はすでに無い。
時々、俺のほうを見ているが、目を合わせることはしなかった。
(やばそうだが、助けることはできないし、第一助ける気も無い)
オーガが振り降ろした鎚が重装備の両手剣使いに命中し、ガギーンという音を上げる。
「トム!」
後ろにいた弓使いが駆け寄ろうとするが、リーダーの一言で攻撃を続行する。
「コニー! 援護の手を止めるな! 顔を狙え!」
トムと呼ばれた男は、重装備の鎧のおかげで、一撃で死ぬことは無かったが、後ろに吹き飛ばされ、気絶している。
前衛が一人抜けたため、均衡していた戦線は一気に崩壊していく。
両手剣使いのトムを吹き飛ばしたオーガが無造作に鎚を横薙ぎに振るうと、両手斧使いが受け止めきれず、横に吹き飛んでいく。
中央のリーダーであるグレイブ使いが何とか彼を庇っているが、真ん中と左側の二体のオーガから両面攻撃を受け、すぐにでも致命傷を負いそうな感じだ。
「一旦、引くぞ! コニー援護しろ! エド、トービーとトムは諦めろ! 引け、引くんだ! ヴィック、引いてくれ!」
四人は仲間をそのまま置き去りにし、後ろに下がっていった。オーガたちは倒れている二人の止めは刺さず、四人を追いかけていく。
その途中三体のオーガは俺に気付き、低い咆哮を上げ、攻撃の意思を見せてくる。
(二人が戦闘不能だし、四人も逃げ出したから、人数制限でペナルティを食らうことはないな)
俺はおもむろに立ち上がり、タイロンガを構える。
(三体か。剣のスキルを上げるのにちょうど良さそうだな。炎なしで行こうか)
俺は笑みを浮かべながら、オーガたちに近寄っていく。
三体のオーガは再び低く重い咆哮を上げると、鎚を振り上げて、同時に襲い掛かってきた。
一体のオーガはかなりダメージを受けているようだったので、その一体を先に倒し、あとは複撃で二体を葬れば問題ない。
一体目を連撃二発で倒し、残りの二体に取り掛かる。
乱れ斬りのような連撃を二体同時に浴びせかけ、確実にダメージを与えていく。
オーガは自らの攻撃が掠りもしないことに苛立ちの咆哮を上げるが、俺はそんなことは全く気にせず、機械のようにオーガを切り刻んでいった。
三分間剣を振り続け、二体が同時に白い光になって魔石に変わっていく。
俺は三つの魔石を拾うと倒れている二人を無視してそのまま進んでいった。
(助けてやりたいが、ここまで来ている以上、自己責任だろう。長弓(ロングボウ)使いが治癒師だったから、運がよければ助かるはずだ)
後ろから声が聞こえてくるが、それを無視して前に進んでいく。
更に三回の戦闘をこなし、五十五階のボス部屋に到着した。
中に入ると、この部屋の主が仁王立ちしている。
オーガウォーリア:
オーガの希少種。身長9フィート(2.7m)。知性を持ち、武器を使う。
HP2000,AR50,SR25,DR15,防御力70,獲得経験値2000(10G)
両手斧(スキルレベル20(防具破損1),AR120,SR30)、
アーマー(スキル5、100)
オーガウォーリアだ。
体格も通常のオーガより頭一つ分大きく、知性を持つとあるようにオーガのような荒々しさだけの存在ではない。
だが、迷宮にいる魔物のせいか、言葉を発することはないようだ。
オーガウォーリアは二m近い柄の両刃の斧を両手で構えている。
そして、ブレストプレートのような鎧を身に着け、下半身はかなりの重装甲で固めている。特に脚には重い音を立てる分厚い板金製のレッグアーマーを着けていた。
(この身長差で下半身を固められると普通は長柄武器か遠距離攻撃しか効かないだろう。さっきのパーティはこれを想定してあの装備だったんだろう)
防御力が高いといっても普通の武器で戦う冒険者にとっての話。
タイロンガを持つ俺にとっては、普通のオーガとそれほど違う気はしない。
強いて言うなら命中率と攻撃力が上がっている分、多少気を使う程度。強撃なら十発、通常攻撃なら三十発も当てれば倒せるから、それまで一撃も貰わなければいい。
オーガウォーリアがゆっくりと近づいてくる。
俺も剣を構え、ミスをしないことだけを考えながら、慎重に接近していく。
オーガウォーリアは気合のような鋭い咆哮を上げ、斧を斜めに斬り降ろしてくる。
軽いバックステップで回避すると、分厚い刃が目の前を通り過ぎ、ブォーンという風切り音が耳に残った。
斬り下ろした反動で、無防備な状態の脇腹が俺の目の前に曝け出されている。俺は鎧の繋ぎ目を狙うように突きを繰り出した。
剣の切先が鎧の繋ぎ目をすり抜け、オーガウォーリアの脇腹を傷つけていく。奴は初めてオーガらしい重い咆哮を上げた。
「ゴォルォオァ!」
俺はすぐに剣を引抜き、大きく後退する。引抜いたところから、血が噴出し、オーガウォーリアが怒りの表情で追い縋ってくる。
オーガとは思えぬ鋭く正確な斬撃が飛んでくるが、重い両手斧の軌道は読み易い。
カウンター気味の攻撃を繰り返し、脇、腕など防御の薄いところを集中的に狙っていく。
さすがに耐久力のあるオーガウォーリアだけあり、なかなか倒しきれないが、全身血まみれになり、動きも徐々に緩慢になってきた。
ここで俺はしてはいけない油断をしてしまった。
訓練のつもりで、最後の一撃を強撃と連撃のコンビネーションで決めようと大きく構えたところをオーガウォーリアに付け込まれたのだ。
奴は弱ってきていたものの、動きが緩慢になっていったのは擬態(ブラフ)だったようだ。
俺が最後の一撃を入れる瞬間、相打ち狙いで踏み込んできた。
奴の踏み込みのせいで俺の攻撃は中途半端なものになり、逆に斧の柄で肩を打ち据えられる。
(くっ! 痛ぇ!)
あと数センチ踏み込みが浅かったら、斧の刃が当たったはずだ。
下手をすると首に入った可能性もある。首に入れば、一撃で殺されていたかもしれない。
オーガウォーリアは悔しげな顔をすると、最後の力を振り絞り、斧を振り回してきた。
俺は肩の痛みを無視し、奴を倒すことに再度集中した。
大振りを止め、通常攻撃で確実にダメージを与えていくと、オーガウォーリアは白い光となって消えていった。
(しくじった。もっと慎重になるべきだった)
(俺の目的は何だ。迷宮のクリアでも魔石でもない。更に言えばレベルアップでもスキルアップでもない)
(レベルアップもスキルアップも手段であって目的じゃないんだ。目的はグンドルフを倒すこと。こんなところで死ぬわけにはいかない)
自らに治癒魔法を掛け、魔石を拾い、宝箱を確認する。
宝箱には罠が掛けられているようなので、そのまま放置していく。
俺は氷の月、第二週日の曜(二月十一日)の朝十時、迷宮の五十五階を突破した。
階段室に入り、休憩を取ることにした。
昼の中途半端な時間ということもあり、階段室には誰も入ってこない。
(休憩は転送室に近い階で取る方がいいのかもしれないな)
ボス部屋に近づけば翌日に回すパーティも出てくるだろう。
転送室に近い階なら、魔物の数も少ないから入っている冒険者たちも転送室まで戻ることは難しくない。次の日にやり直してもそれほど苦にならないから、宿で休憩を取る方が合理的だ。
そうであれば、一フロアや二フロア先の五十六階や五十七階には夜間休憩するパーティは少ないはずだ。
魔力(MP)に余裕があり、疲れが溜まっていない状態であれば、できるだけ深いフロアでファイアストームでのレベルアップに励む。魔力が低下し休憩が必要になる時間帯に向けて徐々に浅い階層に移る方針とすれば、階段室で他の冒険者に出会う可能性が低くなるはずだ。
あとは、トロルかオーガのどちらをターゲットにするかだろう。
オーガなら窒息型ファイアストームを使えば鴨だし、二体以下なら剣だけで充分対応できる。
トロルにも窒息型ファイアストームが効くなら、入ってくる経験値が大きい分、トロルにした方が得だ。
休憩を終え、五十六階への扉を開ける。
通路は五十五階までと同じ幅、高さとも約六mサイズ。
いつもと同じように五分もすると魔物が接近してくる足音が聞こえてきた。
オーガの足音より更に重い音でズシンズシンといった感じの音が近づいてきた。
そして、オーガより更に一回り以上大きい、身長三mほどの大型の魔物が現れる。
トロル:
身長10フィート(3.0m)ほどの巨大な食人鬼
HP2000,AR65,SR5,DR3,防御力100,獲得経験値700(25S)
腕(スキルレベル15,AR120,SR30),アーマーなし、
特殊:再生(物理攻撃ダメージが毎分5%自動回復する)
(再生だと! 毎分五%、HPが一〇〇も回復するのか……)
トロルの情報は以前ギルドでも確認していたが、傷が再生していき、なかなか倒せないと言っていた。
鑑定で数字を見ると確かに倒しにくい魔物だ。
一分間に通常の攻撃なら六回くらいが限界だ。そのうち、有効な攻撃が半分だとすると毎分三回。防御力が一〇〇もあるから、通常の剣士の場合、両手剣では精々一〇〇くらいしかダメージは与えられない。
そうなると、一分間で三〇〇のダメージに対し、一〇〇も回復されることになる。
疲れによる影響が無いと考えた場合でもソロなら十分近く時間が掛かることになる。
更にこいつらが複数いる場合、通常の物理攻撃ではかなり厳しいことは容易に判る。
(魔法や毒なんかだと再生されないのか。ミスリルでは再生されると聞いたが、アダマンタイトではどうなんだろう?)
俺はトロルの特性を確認するため、通常状態でタイロンガを振るう。
トロルは動きが敏捷ではなく、その長い腕を振り回すだけで、回避するのは簡単だ。
俺はトロルの攻撃を回避し、その腕に斬りタイロンガを叩きつける。
トロルの腕に深い傷が穿たれるが、傷はみるみる再生されていく。
(アダマンタイトでも再生されるんだな。炎を纏わせるしかないか)
俺はタイロンガに炎を纏わせ、再びトロルに斬りかかる。
トロルの脚の深く硬い毛が燃えるいやな臭いと共に、大きな傷が作られていった。
しばらく見ていたが、傷の再生は始まらない。
(やはり、火属性が付与されているから、再生できないんだな。しかし、炎を纏わせる必要があるなら、オーガの方がましか。念のため窒息の実験もしておくか)
傷を負ったトロルに炎を纏わせたタイロンガで攻撃を掛け、数回の強撃+連撃を繰り出し、止めを刺す。
魔石を拾い、次のトロルを探していると遠くからズシンズシンという足音が聞こえてきた。
ファイアストームの呪文を調整し、見えた瞬間、魔法を発動する。
いつものように一分間の炎の渦の中にトロルはいたが、一向に倒れる様子が無い。
近づいていくと少し頭を振っているようだが、特に動きに変化は無い。
(頭の位置がオーガより高いからかな? それとも再生が効くのか? どちらにしても窒息が効きにくいなら、ターゲットはオーガにすべきだな)
このトロルを倒し、すぐに五十五階に戻っていく。
転送室から一旦、外に出ると冬晴れの日の光が眩しい。
五十階に転送を依頼すると、ギルド職員が、「五十五階も突破したのか!」と驚きの声を上げている。
「二日間入りっぱなしだろう。無理せず休んだらどうだ?」
彼は俺を見てそう言ってきた。
俺の顔は知れ渡っているから、迷宮から出ればすぐに気付かれる。だから、一昨日から出ていないと思っているのだろう。
(変身のアミュレットのおかげだな。ばれていない。仕込みは充分に出来ている……)
「大丈夫だ。五十階に転送してくれ!」と叫び、更に我を忘れている振りをする。
「やらなきゃならないことがあるんだ! 時間がもったいない。急いでくれ!」
俺は渋る職員を脅すようにして、五十階に転送されていった。
それから三日間、迷宮にもぐり続けた。
数回戦闘を終えると、すぐに休憩するようにしたが、つまらないミスで何度もケガを負った。
冷えた保存食だけの食生活も、徐々に気力を奪っていった。
暖かい食事、のどごしのいい酒、柔らかな寝台などを思い出すたびに無理やり頭から追い出していく。
時計があるから何とか時間感覚はあるものの、何のために何をしているのか判らなくなるほど、疲れていることがあった。
二日が過ぎ、食料が乏しくなったきたため、五十一階の階段室を通る冒険者たちから余った食料を分けてもらうようにした。このおかげで食生活に多少の変化が生まれ、気分的にも少しだけ楽になった。
俺が二十S相当のゴーストやオーガの魔石と交換するため、翌日から彼らは余分に食料を持ってくるようになった。
(これで外に出る必要は無い。迷宮に専念できる)
食料の心配が無くなり、迷宮での戦闘に集中した。
一時間戦い、一時間休む。そして、夜間は五十一階の階段まで戻り、八時間の睡眠を取るというサイクルで戦闘をこなしていった。
氷の月、第三週水の曜(二月十四日)、レベルは二十七に上昇、両手剣、回避のスキルも順調に上がり、目標の両手剣五十五に到達する目途が立った。
高山(タカヤマ) 大河(タイガ) 年齢23 LV27
STR2062, VIT2395, AGI1924, DEX1940, INT4859, MEN2984, CHA1625, LUC1615
HP1304, MP2984, AR10, SR10, DR10, SKL340, MAG239, PL41, EXP979372
スキル:両手剣53(複撃2、狙撃1、強撃1、連撃1、コンボ1)、
回避50(見切り3、予測3)、軽装鎧39(防御力向上3)、
共通語5、隠密12、探知27、追跡8、罠5、罠解除8、体術37、
乗馬11、植物知識9、水中行動4、上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法26、火属性27、水属性19、風属性18、土属性18
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2013/01/28 22:52 更新日:2013/01/28 22:52 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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