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作品ID:1502
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

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第六章「死闘」:第27話「決戦(その2)」

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第6章.第27話「決戦(その2)」



 氷の月、第四週水の曜(二月十九日)、午後五時三〇分



 グンドルフらは大河の魔法を警戒しつつ、彼の足跡を追って森の中を進んでいく。

 最初の攻撃で軽傷を負った者も応急処置をしたため、歩行には支障がなく、松明を持つ役目を与えられていた。



「前の奴の歩いたところから外れるんじゃねぇぞ! 先頭は盾を構えてゆっくり進め! 奴をゆっくり追い詰めろ」



 盗賊たちは大河が残したロープを目印に慎重に木々の間を進んでいく。

 グンドルフは大河の罠を警戒し、列の最後尾にいた。



 最初の罠の位置から五分ほど進んだところで、手下の一人が足元に枯れ草が敷いてあることに気付く。

 次の瞬間、目の前を数十個の煌く光が通過し、ガシャン、ガシャンという頭上で陶器の割れる音が辺りに響き渡った。

 そして、頭上から液体が降り注ぎ、松明の火が轟という音と共に巨大化する。



「あ、油だ! た、助けてくれ!」



 盗賊たちの頭上から油が注がれ、油塗れになると、松明の火が着火源となり、次々と引火していった。

 7,8人の盗賊に火が着き、何人かが全身を火に包まれていた。



「火が着いている奴は雪の中で転がれ! 他は周りを警戒しろ!」



 グンドルフの命令で、腕や足に火が着いた数人が雪の中に倒れこむ。

 全身に火が回っている四人は、既に火を消そうと転げまわっていた。



 周りは潅木や枯れ草に着いた火で一気に明るくなり、そして、すぐに黒い煙で視界が塞がれていく。



(クソッ! 火攻めか。念のため下がっておいて正解だったぜ。この煙が収まるまで動きが取れねぇ)



「火が消えた奴に手を貸してやれ! 火から離れるぞ!」



 火は数分経っても消えず、煙は白い煙に変わったものの、まだ辺りに立ち込めたままの状態だ。

 全身に火が着いた四人の盗賊は苦しそうなうめき声を上げている。



(奴らはもう駄目だな)



(腕や足に火傷を負った奴らはまだ戦えるな。俺を含めてまだ十五人……無傷の手下は八人いるが……しかし、ここまでやられるとは……まだ何か仕掛けてくるかも知れんな)



 グンドルフは戦力がどの程度低下したのかを冷静に計算していた。そして、次の罠にも警戒していた。

 だが、この罠はこれで終わったわけではなかった。







 午後五時二〇分

 俺は混乱が収まった盗賊たちから離れるように森の中を更に百mほど奥に進んでいく。携帯の光が漏れないようにできるだけ足元だけを照らしながら、慎重に足を進めていく。



(次は火攻めだが、奴らはロープに気付いてくれただろうか?)



 油の壷を吊るした位置から約十五mの位置にある茂みの中に身を潜める。



(アイスバレット(氷礫)の魔法は射程が短いのが痛いな)



 俺は油の壷をアイスバレットの魔法で割るつもりでいた。アイスバレットは氷の礫が数十個飛んでいく魔法で低コストの全体魔法だが、射程は十五mくらいしかない。

 ファイアボールやマジックアローと同じようにイメージで射程を延ばしたが、せいぜい二十mくらいまでしか射程を延ばせなかった。

 今回は敵にダメージを与える必要がなく、薄い陶器の壷を割るだけなので、飛ばすだけならもう少し距離は取れる。打ち上げるマイナス分を考慮しても二十mまでなら、壷を割ることはできると考えていた。



 グンドルフたちは俺が通ったルートを忠実に守って進んでくる。



(足跡を辿っているのか、ロープを見つけたのかどちらか判らないがとりあえず思惑通りに進んでいる)





 午後五時三〇分

 盗賊たちは一列縦隊で俺の通ったルートをゆっくりと進んできた。



(一列か。これだと多くても十人。七、八人にダメージが与えられたら御の字だろう)



 先頭は盾を左手に持って前に突き出し、右手に松明を持って進んでくる。

 グンドルフらしき男が罠に入ったところで発動させようと思ったが、隊列が長すぎ、俺が発見される可能性が高くなってしまう。



(先頭が罠を抜けた頃と思ったが、難しいな。“煙”の効果がどの程度か判らないが、それに期待するか)



 俺は先頭の盗賊が罠の範囲を出るぎりぎりのタイミングで、氷の礫(アイスバレット)の魔法を発動した。

 無数に飛んでいく氷の礫により、吊るされた油の壷は次々と割れていく。

 盗賊たちは松明に照らされて煌く氷の礫に気付く間もなく、上から降り注ぐ油にパニックになっていった。



 八人の盗賊に火が着くが、全身に火が着いているのは四人。腕や足に火が着いている四人はすぐに雪で火を消していく。

 弓を持った二人が全身を焼かれ、三人の弓にも火が回っていた。



(弓使いは七人無力化した。あと三人。このままここで、ファイアストームで一気に勝負を掛けるか)



 思いのほか、盗賊たちにダメージを与えられたことから、当初の作戦を変更しようか、暫し考えを巡らしていく。



(最初の作戦のままで行こう。煙の効果を見た後でも作戦の変更はできる)



 俺は燃える炎を背にゆっくりと森の奥に後退して行った。







 グンドルフは煙の向こうに人影を見たような気がしたが、この混乱を収めるほうが先だと手下たちに命令を下していた。



「火傷をした奴は状況を教えろ! 周りへの警戒を怠るなよ!」



 手下たちから火傷の状況はそれほど酷くないが、弓が三本使えなくなったことが報告された。



(弓がかなりやられたが、まあいいだろう。奴が松明を持たねぇ限り、弓で射殺すのは難しい。どうせ、俺が直接殺すんだから、問題はねぇ)



 油による火は一本の木に移るが、それ以外は徐々に収まりつつあった。

 彼は手下たちに煙を迂回して、奴を追うこと命じていく。



 彼は大河を追い詰めていくことに徐々にテンションが上がっていった。



「奴は奥に向かった。追いかけるぞ! 盾を構えて、ばらけていきゃ、罠なんざ気にする必要はねぇ! 行け!」



 その言葉に手下たちが盾を構え、更に隊列を延ばした隊形を作ろうとした。だが、数人の手下がその命令に反応しない。



「おい、奴を追え! 聞こえねぇのか!」



 手下の一人の胸倉を掴み、顔を近づけて脅すが、その手下は涎を垂らしながら、



「へへへ……お頭、さっさと殺っちまいまひょうへ。奴は……へへへ」



 その男は突然剣を振り回し始めた。



「止めろ! 何しやがる!」



「殺せ……へへ、てめぇなんざ怖かねぇぞ……やっちまへ……へへへ」



 その男は辺り構わず剣を振るい、味方の一人を斬り付けていた。

 グンドルフが周りを見ると、三人の手下が同じように剣を振り回し、味方と斬り結んでいる。



(どういうことだ? 何が起こっている?)



 隊列を組み始めた手下たちも大混乱に陥り、誰が味方か判らない状態になっていた。



 彼は大河の魔法で混乱したと判断し、剣を振り回していた三人をあっさりと斬り殺していく。

 そして、混乱している手下たちを叱咤し、事態の収拾を図っていった。



「奴の魔法で狂いやがった! 誰が怪我をしたか報告しろ!」



 手下たちが確認すると、錯乱した三人により、二人が軽傷を負い、一人が重傷を負ったことが判明した。



(クソッ! 何がどうなったっていやがるんだ! まあいい。奴さえ殺せば……くっくっくっ)



 彼は自分のテンションが上がっていることに、気付いていなかった。



「奴を追い詰めろ! 人数が減った分、取り分が増えたと思っておけ!」



 手下たちはその言葉でこれまで溜めた財宝の分け前を考え、意気が上がっていく。

 だが、わずか一時間の間に、彼の手勢は無傷の者五人、軽傷の者五人の計十人にまで半減していた。







 午後五時四〇分

 俺は火攻めの罠から離れ、グンドルフたちの状況を観察していた。



 午後五時五十分

 彼が出発の合図をしたのが聞こえ、煙の効果がなかったのかと思っていたとき、大声が聞こえ、敵が混乱し始めたのが確認できた。



(この草の効果が出てきたようだな)



 俺は昨日、落とし穴の蓋にするものを探していたとき、偶然、この「カンナビイラクサ」の枯れ草を発見した。



 カンナビイラクサ:

 一年草。葉に幻覚性の物質を含み、粘膜から吸収すると高揚感をもたらし、多用すると幻覚などを起こす。



 俺が見つけたのは麻薬の元になりそうな草だった。



(日本なら、脱法ハーブとかって言われる野草になるんだろうな)



 アルフォンスはこの草について知らないようだったから、麻薬としては使われていないようだ。

 麻酔などに使えば役に立つのだろうが、この世界では治癒魔法で治療するから麻酔はあまり必要ない。





 このカンナビイラクサの麻薬成分によって、奴の手下たちが幻覚を見始めたのか、味方同士で殺し合いを始めている。



(何人自滅してくれるかだが、グンドルフは耐性が高そうだから、精々高揚感だけだろう。これで警戒心が減ってくれればいいんだが、あまり期待し過ぎないほうがいい)



 油の壷による火攻めでは、うまく行っても数人の戦闘力を削るのが精々だと考えていた。

 この“草”の煙がうまく作用すれば、敵に混乱を与えることができる。更に奴の冷静さを失わせることが期待できる。



(どの程度、この“麻薬”の効果が続くのか判らないが、少なくとも一時間は続くだろう。その間に決着がつけてやる!)





 午後六時〇〇分

 俺がマジックアローの狙撃に適した場所を探しているうちに、グンドルフは混乱している手下をすべて斬り殺してしまった。



(もう少し躊躇すると思ったんだが、こんなに早く始末をつけてしまうとは……ここであと数人倒すつもりだったんだが……)



 グンドルフは手下十名を引き連れ、俺の追跡を再開した。







 午後六時一〇分

 グンドルフは無傷の手下五名、軽傷の手下五名に大河の追跡を命じていた。



 無傷の手下は自らと後方に位置し、軽傷の者を捨て駒にするように二十mくらい前方を進ませていく。



「逃げようと思うなよ。後ろから弓で狙っているからな」



 彼は軽傷の手下たちを脅す。



「なあに、奴もそろそろネタは尽きたはずだ。そんなに心配する必要はねぇ」



 軽傷の手下たちの表情に反抗的な色を見た彼は、なだめるような言葉を吐くが、手下たちは最初魔法と罠を恐れて渋っていた。

 その様子に切れたグンドルフが双剣を引き抜き、一人の顔に二筋の傷を付けるとしぶしぶ前を歩き始めたのだった。



(軽傷の手下=捨て駒を襲ってくれば、奴の位置が判る。そうすりゃ、あとは簡単だ。無傷のこいつらを嗾け、罠をすべて出し尽くさせれば奴に勝ち目はねぇ)



(シュバルツェンベルクからトンズラするには、この手下たちは足手纏いだからちょうどいい。奴を殺してから、森の中を通って隠れ家に帰りゃいいだけだ)



 彼は手下たちが増長し始め、扱いにくくなってきたことから、処分するつもりでいた。大河を殺しさえすれば、自分一人の方が動きやすい。



(この程度の奴らなら、どこででも見つけられる。奴を殺せば、クロイツタールの脳筋公爵が眼の色を変えるだろうから、帝国に逃げ込んでほとぼりを冷ませばいい)





 午後六時二十分

 グンドルフが前方を見ると前方を進む手下たちから悲鳴が上がっていた。



「どうした!」



「突然倒れたんで! 何、魔法! さっきの見えねぇ魔法…… グハッ!」



 報告してきた手下の背中に魔法の攻撃が当たり、手下はその場に倒れこんでいく。



 松明を持っていた二人の手下が倒れ、ようやく狙撃は収まったようだ。



「動ける奴はいるか!」



「二人やられました! どこから撃ってくるのか判んねぇです!」



(既に十発近く魔法を撃っている。手下どもが混乱したのも魔法だろうから、宮廷魔術師でも、これ以上使えねぇはずだ)



 彼は大河の魔力がほとんど尽きていると判断した。

 普段の彼なら、もっと冷静に相手の動向を確認したはずだが、薬物による高揚感が彼の冷静な判断力を奪っていた。



(あとは罠を警戒すればいい。待っていろよ、タイガ。クックックッ)



「奴の魔力はもう尽きたはずだ! ゆっくり前に進め!」



 そして、無傷の手下五人に、



「まだ、罠はあるだろうが、ビビる必要はねぇ。前を行く奴らの跡を行けばすぐに罠は尽きるだろうぜ」



 五人は仲間たちを犠牲にする頭目のやり方に、心の中で反発していた。

 だが、ここまで来て逃げ出すことも不可能なため、自分が生き残るためには大河=敵を早く殺すしかないと諦めていた。

 彼らは接近戦に持込みさえすれば、グンドルフが片をつけてくれると信じていた。







 午後六時二〇分

 二つに別れた松明の光を見て、俺は一気に片をつけるチャンスを失ったと思い、僅かながら失望を感じていた。



(炭の粉の皮袋で一気には無理か。グンドルフが通るタイミングに落とすとしても先行する手下が仕掛けに近づきすぎる)



 マジックアローの狙撃で倒すとしても、グンドルフとの対決のために魔力を残しておく必要がある。

 既に屋敷でスリープクラウドを一回、追跡してきた盗賊と最初の攻撃でマジックアローを四回、火攻めの罠でアイスバレットを一回使っているため、MPを一〇〇〇以上使っており、残量は三分の二しかない。グンドルフとの対決時に行動不能に陥らないようにするためには、ここではマジックアロー二回分しか使えない。



(狙撃で少しでも減らしておく方がいいかもしれない)



 ゆっくりと約五十m後退し、狙撃の準備をする。



 俺が作った足跡はまっすぐに進んでいるわけではない。松明を持った盗賊が盾を持った盗賊の陰から出る瞬間を狙って、魔法を発動すればいい。

 詠唱時間が十秒程度あるため、タイミングをうまく計らないと盾にぶつかるだけになるので、盗賊の歩く速度と魔力の矢の速度を頭の中で計算して、初弾の詠唱を開始した。

 魔法が完成したとき、計算どおり僅かな隙ができた。

 マジックアローを放つと、先頭から二人目にいる松明を持った盗賊の太ももに突き刺さる。



(計算通りだ。もう一発いけるな)



 すぐに場所を移動し、射線の角度を変える。

 盾を持った二人が壁を作るように並ぶが、射線を変えたため、壁が有効になっていない。



(よし! いける!)



 俺はその状況を確認し、次の詠唱を開始した、そして、倒れている男を確認している盗賊に向けて魔力の矢を撃ち出した。



 マジックアローはその盗賊の肩に突き刺さったようで、肩を押えて倒れ込んでいった。



(殺せてはいないが、無力化はできただろう)



 次の罠の場所に移動するため、這うようにして森の奥に進んでいった。







 午後六時三〇分

 グンドルフは怪我をしている三人に、松明を一本ずつ持たせた上で先行させた。

 自らと無傷の手下五人は松明を持たず、前方の明かりと後方で燃えている炎を頼りに低い姿勢で雪道を進んでいく。



(これで奴からは見えねぇはずだ。罠は前の三人が引き受けてくれる)



 前を行く三人は罠と魔法による狙撃に怯えながら、目印のロープと大河の足跡を追って、ゆっくりと森の奥に進んでいく。

 彼らは今すぐにでも松明を投げ捨てて逃げ出したかったが、後ろから弓で狙われているため、時々後ろを振り向いてもいた。





 一、二分経った頃、先行する手下たちが周りをキョロキョロと見回し、剣や松明を振り始めた。



 グンドルフは不用意に近づくことはせず、



「どうした! 何かあったのか!」



「いえ、や、奴の声がそこら中からするんで!」



「この辺りに奴はいますぜ! お頭何とかしてくだせぇ!」



「探せ! 見つけ出したら殺しにいってやる!」



 手下は怯えながら、潅木の茂みや木の後ろなどを探していく。

 一人の手下がパニックを起こし、松明を振り回しながら、泣き叫んでいる。



「気配もねぇのに不気味な声が……お頭、助けてくだせぇ! 後生だ! 助けてくれ!」



 グンドルフには大河の声は聞こえないが、彼らには確かに聞こえているようだ。



(今度は何だ? 怪しげな術ばかり使いやがる……奴は何者だ?)



 彼は大河の行動に、言い知れぬ恐怖を感じ始めていた。

 薬物の作用で感情の起伏が激しくなったことが、直接の原因だが、自分が経験したことのない”術”を使われ続けたことも、彼の心理状態を不安に陥れた要因になっている。



(魔人か何かと契約している? あり得ねぇ……だが、迷宮に潜ったのはなぜだ? このためなのか?)



 彼はシュバルツェン迷宮を含め、迷宮に入ったことが一度も無い。

 以前の仲間や手下たちの中には、迷宮に入ったものは何人もいたが、皆、ほら話や与太話を交えるため、いい加減な話も含まれていた。

 その話の中には、迷宮に潜む魔人の話や迷宮の魔物をある条件で使役できるというものもあった。

 彼自身、そんな与太話は信じていなかったが、精神攻撃――薬物による混乱を彼はそう思っていた――や幻覚などのアンデッド系が使う魔法を目の当たりにすると、魔人との契約などの与太話を信じそうになっていた。



「おい! てめぇら! あそこに奴が潜んでいるはずだ。周りから囲むように追い立てろ!」



 無傷の手下三人を勢子代わりに回り込ませ、弓使い二人にはゆっくりと前進させて、大河を狩りたてる。



(いくら奴でもこれで炙り出せるだろう。こっちは一旦、闇に紛れ込ませてもらおう)



 彼は暗闇の中、ゆっくりとその場を離れていった。







 午後六時三〇分

 俺は炭の粉の罠を仕掛けた木から、二十mくらい離れた位置に待機していた。

 横には皮袋の口を開くためのロープがあり、更に銅の筒が三本、地面から突き出している。



 グンドルフ本人と手下五人が松明を消し、怪我をした手下だけに松明を持たせたことに気付いた。



(俺が松明の光で動きを見ていると勘違いしたんだろう。普通ならそう思うはずだ)



 俺は鑑定を使って彼らの位置を確認しているが、このことに彼が気付くことはあり得ない。



 先行する三人が炭の粉の罠の範囲に入った。



(三人をやり過ごすと俺が見付かる。できればグンドルフ本人も誘い込みたいが、この動きを見る限り無理だろう)



 俺は手下を殲滅することだけを考え、銅の筒に口を当て、できるだけ低い声で、



「どこに行くつもりだ。俺はここにいるぞ」



 俺は銅の筒を伝声管に見立て、罠の周囲三箇所から声が出るようにしていた。



(少し篭ったエコーが掛かったような声になるが、この暗闇では余計に恐怖を誘うはずだ)



 手下たちは突然の声に驚き、「どこだ!」と誰何の声を上げながら、キョロキョロしている。

 手下たちの後ろに当たる別の伝声管を使い、更に混乱させる。



「どこを見ている」



 そういうと彼らは一斉に後ろを振り向き、松明をかざしてくる。



(条件反射的な動きなんだろうが、あまりに嵌りすぎると逆に不安になるな)



 そして、三つ目の伝声管で更に混乱させると、グンドルフの声が聞こえた来た。



「どうした! 何かあったのか!」



 手下は訳が判らず、当たり構わず松明や剣で茂みを探りながら、叫んでいた。



「いえ、や、奴の声がそこら中からするんで!」



「この辺りに奴はいますぜ! お頭何とかしてくだせぇ!」



「探せ! 見つけ出したら殺しにいってやる!」



 グンドルフの鋭い声が聞こえるが、近寄っていく感じは無い。



「気配もねぇのに不気味な声が……お頭、助けてくだせぇ! 後生だ! 助けてくれ!」



 一人の手下は完全にパニックに陥ったようで、泣き叫びながら、グンドルフに助けを求めていた。



(薬物の影響かな? 暗闇で狙撃の恐怖とこの声。精神的にはきついはずだ)



 グンドルフと共にいた五人の無傷の手下たちが武器を構えて回り込むように進んでいく。

 グンドルフ本人は手下たちと別れて、その場を離れ、木の陰に隠れてしまった。



(クソッ! 完全に視界から外れた。これで鑑定での確認が難しくなった)



 鑑定は視界が開けていれば暗闇でも確認できるが、木の陰に隠れ、姿勢を低くして完全に茂みに隠れられると使えなくなる。



(あの位置から移動し始めたということは、俺が炙り出されたのを確認してから出てくるつもりだろう)



(罠はこれで打ち止めだ。奴とは直接殺り合わないといけない運命か……)



 俺は手下八人を先に倒すことに決め、八人が罠の範囲に入るまで、伝声管を使って翻弄し続けた。





 午後六時四〇分

 遂に手下たち八人が罠の範囲に入りきった。



(奴らの松明が着火源になるが、炭の粉の密度がどの程度が最適かは判らないから、一気に引くべきだろうな)



 粉塵爆発の原理は詳しく知らないが、小説などではある程度空気と混じらないと爆発しないと書いてあったような気がする。

 だから、できるだけ小さい袋に分け、高い木の枝に括りつけた。

 粉が落ちる反動で枝が揺れ、適度に撒き散らされることを期待しているが、実験なしのぶっつけ本番なので、どの程度の効果があるかは想像もつかない。





(よし、風は弱い。今がチャンスだ!)



 弱く吹いていた風が止まる瞬間を見計らい、俺は四本のロープを思いっきり引いた。

 そして、大木の陰で地面に飛び込むよう伏せて、耳を押える。



 一瞬の間があり、ドォーンという爆音が森の中を響き渡っていく。

 森の空気が大きく揺れて、鳥たちが鳴き声を上げながら飛び立っていく音が聞こえ、周りでは木の枝に積もった雪が落ちていくドサッという音がいくつも聞こえていた。そのため、雪煙で周りが一瞬真っ白になった。

 俺の上にも雪が落ちてきて、半ば埋もれた状態になってしまった。



(爆発自体はうまく行ったが、結果はどうなんだろう?)



 俺は雪の下から這い出して、罠の方を見るが、爆風で松明の炎がすべて消えていた。

 数十m先の炎は見えるが、光が弱過ぎて状況は確認できない。

 鑑定を使って盗賊たちを探すが、雪に埋もれているのか、誰一人見つけることができなかった。



(少なくとも奴はどこかにいる。手下の状況を知りたかったんだが、無理そうだな)



 俺はゆっくりと雪の中を這っていく。



(松明に火を着ければ奴は反応するはずだ。ここでは近すぎる。もう少し奥に行こう)



 俺は携帯のライトを点けることもせず、手探りで這いながら森の奥に進んでいった。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/02/04 22:56
更新日:2013/02/04 22:56
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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