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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。
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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
エピローグ
前の話 | 目次 | 次の話 |
エピローグ
氷の月、第五週水の曜(二月二十四日)
コンラート・クロイツタール公爵はシュバルツェンベルクからの届いたラザファム・フォーベックの報告を見て、安堵していた。
横にいるダリウス・バルツァー副長に、
「タイガは決着を付けたそうだ。かなりの重傷を負ったが、命に別条はない」
公爵はひとしきり喜んだ後、厳しい表情になる。
「問題はグンドルフに行動の自由を与えたウンケルバッハめだ。奴はこともあろうに盗賊どもに通行証、いや、守備隊員の証を与えた。ただ、自分の恨みを晴らすためだけに……貴族としての誇り、名門としての矜持すら、奴は持ち合わせていなかったのだ!」
「閣下、如何されますか? 通常でしたら、グローセンシュタイン閣下に連絡の上……」
公爵は遮るように、
「それでは遅い! 奴は狂っている。すぐにウンケルバッハ市に向かって、アウグスト・ウンケルバッハを拘禁する。ドライセンブルクに移送するか、その場で処分するかはその時に決める。儂は陛下からお叱りを受けても奴をこの手で処分したいがな」
バルツァー副長は敬礼し、直ちにウンケルバッハ派遣部隊を編成する。
翌日の早朝、派遣部隊一個大隊を引き連れ、公爵は直ちにウンケルバッハ市に向かった。中継点であるケシャイトの街を素通りし、四十マイル=六十四kmを一気に走破した。
早朝に出発したが、ウンケルバッハ市には日が沈む頃、午後五時半頃に到着した。
門を守る第三騎士団の兵は、突然現れた騎士団総長の姿に驚き、開門するとともに、ウンケルバッハ市の代官であるペテルセンを直ちに呼び出した。
ペテルセンも突然の訪問に驚くが、道すがら聞くアウグスト・ウンケルバッハ元伯爵の罪状を知り、怒りと共に自らの失態に気付く。
「閣下、私の不手際でございます。いかような処分も甘んじてお受けいたします」
「今は良い。グローセンシュタインに一任するが、このようなことをドライセンの貴族が行うと思う方が異常だ。今は奴を捕えることに注力しろ」
アウグスト・ウンケルバッハのいる屋敷に到着すると、警護の兵が敬礼を持って公爵たちを迎える。
彼らが屋敷に入ろうとした時、二階にあるアウグストの部屋が赤く染まり始めていた。
瀟洒な屋敷は贅沢にガラスが使われており、そのガラスを通して、炎が踊る様が公爵たちの目に入る。
「ええい! 奴を捕えよ! 奴には自分の罪の重さを感じさせねばならん!」
公爵はそう叫び、屋敷に突入しようとするが、既に屋敷は乾燥した冬の風に煽られ、メラメラと燃えている。
既に突入するタイミングを逸し、歯を食いしばって悔しがる公爵に、耳障りな声が聞こえてきた。
二階を見ると、窓が開かれており、そこには醜く太った男、アウグスト・ウンケルバッハが狂ったような笑い声を上げて、公爵を罵っていた。
「遅いわ! 貴様がここに来たということは、あの冒険者は殺されたのだろう? 貴様を殺すことは叶わなんだが、手足の一部はもぎ取ってやったわ! ガハハハ……」
「たわけ! タイガは生きておるわ! 貴様の策など、かの者には通じにぬわ! 貴様は陛下より授けられた伯爵位を穢した。貴様は自らの欲望のみに……」
「そうか、殺せなんだか……あのグンドルフとかいう男も存外使えぬ男だったの……まあよい。所詮、賎民に過ぎぬもの。期待した儂が愚かであったわ……はっはっは!」
そう言った後、ウンケルバッハは再び部屋の奥に入っていった。そして、燃え盛る屋敷の中でその生涯を閉じた。
公爵は燃え盛る屋敷を見ながら、悔しい想いをするが、すぐに大切な部下、タイガと戦えることを楽しみにし始めた。
(これで終わったのか? 帝国はどう出る? まあよい。これからあの男、タイガと共に戦える……我が祖国を混乱に陥れた罪、存分に晴らさせて貰おう……)
大河が聞けば、やはり脳筋公爵だと言いそうなことを考えながら、後処理をペテルセンに命じ、屋敷前を後にした。
二月中旬のある晴れた日曜日。
ここは日本の大河の実家。
彼の両親、兄、妹の四人が集まっていた。
彼が行方不明になって、既に九ヶ月が過ぎていた。
彼の捜索願は既に出され、山狩りも行われたが、一切の手掛かりが無く、捜査は難航している。
当初は事件性があると言うことで警察も積極的に動いていたが、犯行に繋がるようなトラブルもなく、金銭的な要求もない。
会社を含め、手掛かりになる事実が無いか、いろいろ探ってみたが、全くと言っていいほど、手掛かりはなかった。
警察は車の周りを含め、血痕や争った跡が全くないため、失踪として処理され、捜査を打ち切られた。
両親は必死に手掛かりを求めていたが、彼らも半ば諦め、普段通りの生活に戻りつつあった。
大河の妹、大空(そら)は兄、大海(ひろみ)ととも大河の育った部屋にいた。
彼女たちは彼の話をしているが、二人とも彼がもう帰ってこないのではないかと諦めている。
妹が突然、窓の外を見た。外は冬の澄んだ空に白い雲が流れていた。
「ひろ兄、今……ううん、何でもない……」
「どうした、そら?」
「たい兄がどうしているかなって思っていたら……」
「今、大河がそこにいたような気がしたんだろ」
「えっ? ひろ兄も? うん。たい兄がいたような気がした……」
「なんか、お別れみたいな顔に見えたな……ちょっと違うか。楽しくやってるよって感じか……」
「うん。私もそう思った。寂しそうな顔に見えたけど……でも、楽しそうにも見えた……」
「どこかで頑張っているのかな?」
「たい兄のことだから、頑張っているよ。うん、絶対」
二人はその後、大河の話で盛り上がるが、二度と会えない寂しさ、亡くなった人を送った時のような寂しさを感じていた。
氷の月、第一週水の曜(二月四日)の昼過ぎ、ベッカルト村ではクラリッサが初めての出産に臨んでいた。
午後四時頃、手を握っていたギルベルトも追い出され、ヤネットばあさんが助手と共にクラリッサについている。
「クラリッサ、リサ! しっかりおし! もうすぐじゃ、なあに心配はいらないよ。治癒師殿の話を聞いただろ。あの治癒師のタイガが儂を認めたんじゃ、何にも心配はいらないよ」
クラリッサは初産ということもあり、かなり苦しんでいた。
時折、意識が飛びそうになるが、ヤネットの手助けと励ましを受け、一時間後、無事に元気な女の子を出産した。
午後五時頃、北の街では一人の娼婦が死に、そして、数百マイル離れた、このベッカルト村で新たな生命(いのち)が誕生した。
そう、これはただの偶然。共通しているのは、ある一人の男に縁(ゆかり)があるだけ。
リサは、産声を上げた我が子を見つめている。
ヤネットに呼ばれたギルベルトは、その部屋に駆け込み、初めての我が子と愛しい妻の無事を確認する。
ギルベルトは疲れた顔をして妻を労わり、手を握りながら、自分の子を見つめていた。
「リサ。ありがとう。お疲れさん」
「うん。思ったより大変だったけど、なぜか絶対大丈夫って思えたの。不思議ね」
「そうか……俺も誰かの声を聞いたような気がした」
二人ともなぜそう思ったのか不思議に思ったが、なぜかすんなり納得していた。
そして、リサは赤ん坊を見つめ、
「ところで名前は考えたの? 男の子だったら私が、女の子だからギルが付けるって約束でしょ」
「ああ、ティリアと名付けようと思う。いいか」
「ええ。ティリア、ティリア、いい名前ね。私も同じ名前を付けたと思うわ」
「ああ、なあ、男の子だったらどんな名前を付けるつもりだったんだ?」
「内緒って、言いたいところだけど、特別に教えてあげるわ。ティムって付けようと思っていたのよ」
「ティムか、いい名だ」
二人は生まれたばかりの我が子を見ながら、笑っている。
ギルは男たちに連れていかれ、宴会が始まる。
ヤネットが食事を取りに行ったため、部屋にはリサと、生まれたばかりのティリアが残されていた。
彼女は出産の疲れから、三時間ほど眠っていたようだ。
我が子を見ようと、ベッドから身を乗り出した。
ティリアは皺くちゃの顔で眠っている。
口が少し動いているような感じで、顔もなんだか笑っているようだ。
(なんか誰かと話しているみたい。あっ、今、笑ったわ。でも、なんだか少し寂しそうな感じもする)
ティリアの目から一筋の涙が流れた。
(どうしたの。そんなに悲しい顔をして。どこか痛いのかしら?)
彼女はヤネットを呼ぼうと声を上げようとし、もう一度娘を見てみた。
彼女の娘はもう一度悲しそうな笑顔をしたかと思うと、再び小さく口を動かした後、健やかな顔でスヤスヤと眠り始めていた。
(何があったのかしら? 妖精でもいたのかしら? それにしては悲しそうな顔……でも、今は大丈夫ね……)
彼女はこのことをギルにどう話そうか考えていた。
そして、ティリアがこれから先、誰とどう生きていくのかと考えていた。
(きっといい人たちと出会えるわ。それもたくさんの……)
ベッカルト村のような田舎の小さな村でたくさんの人と出会えるというのはおかしいのだが、リサは何の疑問も持たなかった。
大地に落ちた一滴の雨は大地に染み、やがて地より現れ、清らかな流れとなっていく。
そして、清流は集まり、川を形作り、やがて川は集まり、また、分かれながら、次第に大きな河になっていく。
大きな河は滔々と流れ、やがては海にそそぎこみ、その流れを止める。
海は雲を生み、雲は見知らぬ土地に流れていく。
雲は見知らぬ大地に再び一滴の雨となって降り立つ……
彼の物語はまだ始まったばかり。
川のように集まり、分かれながら、どのような大河に育っていくのだろう。
そして、彼はこの先……
(終)
氷の月、第五週水の曜(二月二十四日)
コンラート・クロイツタール公爵はシュバルツェンベルクからの届いたラザファム・フォーベックの報告を見て、安堵していた。
横にいるダリウス・バルツァー副長に、
「タイガは決着を付けたそうだ。かなりの重傷を負ったが、命に別条はない」
公爵はひとしきり喜んだ後、厳しい表情になる。
「問題はグンドルフに行動の自由を与えたウンケルバッハめだ。奴はこともあろうに盗賊どもに通行証、いや、守備隊員の証を与えた。ただ、自分の恨みを晴らすためだけに……貴族としての誇り、名門としての矜持すら、奴は持ち合わせていなかったのだ!」
「閣下、如何されますか? 通常でしたら、グローセンシュタイン閣下に連絡の上……」
公爵は遮るように、
「それでは遅い! 奴は狂っている。すぐにウンケルバッハ市に向かって、アウグスト・ウンケルバッハを拘禁する。ドライセンブルクに移送するか、その場で処分するかはその時に決める。儂は陛下からお叱りを受けても奴をこの手で処分したいがな」
バルツァー副長は敬礼し、直ちにウンケルバッハ派遣部隊を編成する。
翌日の早朝、派遣部隊一個大隊を引き連れ、公爵は直ちにウンケルバッハ市に向かった。中継点であるケシャイトの街を素通りし、四十マイル=六十四kmを一気に走破した。
早朝に出発したが、ウンケルバッハ市には日が沈む頃、午後五時半頃に到着した。
門を守る第三騎士団の兵は、突然現れた騎士団総長の姿に驚き、開門するとともに、ウンケルバッハ市の代官であるペテルセンを直ちに呼び出した。
ペテルセンも突然の訪問に驚くが、道すがら聞くアウグスト・ウンケルバッハ元伯爵の罪状を知り、怒りと共に自らの失態に気付く。
「閣下、私の不手際でございます。いかような処分も甘んじてお受けいたします」
「今は良い。グローセンシュタインに一任するが、このようなことをドライセンの貴族が行うと思う方が異常だ。今は奴を捕えることに注力しろ」
アウグスト・ウンケルバッハのいる屋敷に到着すると、警護の兵が敬礼を持って公爵たちを迎える。
彼らが屋敷に入ろうとした時、二階にあるアウグストの部屋が赤く染まり始めていた。
瀟洒な屋敷は贅沢にガラスが使われており、そのガラスを通して、炎が踊る様が公爵たちの目に入る。
「ええい! 奴を捕えよ! 奴には自分の罪の重さを感じさせねばならん!」
公爵はそう叫び、屋敷に突入しようとするが、既に屋敷は乾燥した冬の風に煽られ、メラメラと燃えている。
既に突入するタイミングを逸し、歯を食いしばって悔しがる公爵に、耳障りな声が聞こえてきた。
二階を見ると、窓が開かれており、そこには醜く太った男、アウグスト・ウンケルバッハが狂ったような笑い声を上げて、公爵を罵っていた。
「遅いわ! 貴様がここに来たということは、あの冒険者は殺されたのだろう? 貴様を殺すことは叶わなんだが、手足の一部はもぎ取ってやったわ! ガハハハ……」
「たわけ! タイガは生きておるわ! 貴様の策など、かの者には通じにぬわ! 貴様は陛下より授けられた伯爵位を穢した。貴様は自らの欲望のみに……」
「そうか、殺せなんだか……あのグンドルフとかいう男も存外使えぬ男だったの……まあよい。所詮、賎民に過ぎぬもの。期待した儂が愚かであったわ……はっはっは!」
そう言った後、ウンケルバッハは再び部屋の奥に入っていった。そして、燃え盛る屋敷の中でその生涯を閉じた。
公爵は燃え盛る屋敷を見ながら、悔しい想いをするが、すぐに大切な部下、タイガと戦えることを楽しみにし始めた。
(これで終わったのか? 帝国はどう出る? まあよい。これからあの男、タイガと共に戦える……我が祖国を混乱に陥れた罪、存分に晴らさせて貰おう……)
大河が聞けば、やはり脳筋公爵だと言いそうなことを考えながら、後処理をペテルセンに命じ、屋敷前を後にした。
二月中旬のある晴れた日曜日。
ここは日本の大河の実家。
彼の両親、兄、妹の四人が集まっていた。
彼が行方不明になって、既に九ヶ月が過ぎていた。
彼の捜索願は既に出され、山狩りも行われたが、一切の手掛かりが無く、捜査は難航している。
当初は事件性があると言うことで警察も積極的に動いていたが、犯行に繋がるようなトラブルもなく、金銭的な要求もない。
会社を含め、手掛かりになる事実が無いか、いろいろ探ってみたが、全くと言っていいほど、手掛かりはなかった。
警察は車の周りを含め、血痕や争った跡が全くないため、失踪として処理され、捜査を打ち切られた。
両親は必死に手掛かりを求めていたが、彼らも半ば諦め、普段通りの生活に戻りつつあった。
大河の妹、大空(そら)は兄、大海(ひろみ)ととも大河の育った部屋にいた。
彼女たちは彼の話をしているが、二人とも彼がもう帰ってこないのではないかと諦めている。
妹が突然、窓の外を見た。外は冬の澄んだ空に白い雲が流れていた。
「ひろ兄、今……ううん、何でもない……」
「どうした、そら?」
「たい兄がどうしているかなって思っていたら……」
「今、大河がそこにいたような気がしたんだろ」
「えっ? ひろ兄も? うん。たい兄がいたような気がした……」
「なんか、お別れみたいな顔に見えたな……ちょっと違うか。楽しくやってるよって感じか……」
「うん。私もそう思った。寂しそうな顔に見えたけど……でも、楽しそうにも見えた……」
「どこかで頑張っているのかな?」
「たい兄のことだから、頑張っているよ。うん、絶対」
二人はその後、大河の話で盛り上がるが、二度と会えない寂しさ、亡くなった人を送った時のような寂しさを感じていた。
氷の月、第一週水の曜(二月四日)の昼過ぎ、ベッカルト村ではクラリッサが初めての出産に臨んでいた。
午後四時頃、手を握っていたギルベルトも追い出され、ヤネットばあさんが助手と共にクラリッサについている。
「クラリッサ、リサ! しっかりおし! もうすぐじゃ、なあに心配はいらないよ。治癒師殿の話を聞いただろ。あの治癒師のタイガが儂を認めたんじゃ、何にも心配はいらないよ」
クラリッサは初産ということもあり、かなり苦しんでいた。
時折、意識が飛びそうになるが、ヤネットの手助けと励ましを受け、一時間後、無事に元気な女の子を出産した。
午後五時頃、北の街では一人の娼婦が死に、そして、数百マイル離れた、このベッカルト村で新たな生命(いのち)が誕生した。
そう、これはただの偶然。共通しているのは、ある一人の男に縁(ゆかり)があるだけ。
リサは、産声を上げた我が子を見つめている。
ヤネットに呼ばれたギルベルトは、その部屋に駆け込み、初めての我が子と愛しい妻の無事を確認する。
ギルベルトは疲れた顔をして妻を労わり、手を握りながら、自分の子を見つめていた。
「リサ。ありがとう。お疲れさん」
「うん。思ったより大変だったけど、なぜか絶対大丈夫って思えたの。不思議ね」
「そうか……俺も誰かの声を聞いたような気がした」
二人ともなぜそう思ったのか不思議に思ったが、なぜかすんなり納得していた。
そして、リサは赤ん坊を見つめ、
「ところで名前は考えたの? 男の子だったら私が、女の子だからギルが付けるって約束でしょ」
「ああ、ティリアと名付けようと思う。いいか」
「ええ。ティリア、ティリア、いい名前ね。私も同じ名前を付けたと思うわ」
「ああ、なあ、男の子だったらどんな名前を付けるつもりだったんだ?」
「内緒って、言いたいところだけど、特別に教えてあげるわ。ティムって付けようと思っていたのよ」
「ティムか、いい名だ」
二人は生まれたばかりの我が子を見ながら、笑っている。
ギルは男たちに連れていかれ、宴会が始まる。
ヤネットが食事を取りに行ったため、部屋にはリサと、生まれたばかりのティリアが残されていた。
彼女は出産の疲れから、三時間ほど眠っていたようだ。
我が子を見ようと、ベッドから身を乗り出した。
ティリアは皺くちゃの顔で眠っている。
口が少し動いているような感じで、顔もなんだか笑っているようだ。
(なんか誰かと話しているみたい。あっ、今、笑ったわ。でも、なんだか少し寂しそうな感じもする)
ティリアの目から一筋の涙が流れた。
(どうしたの。そんなに悲しい顔をして。どこか痛いのかしら?)
彼女はヤネットを呼ぼうと声を上げようとし、もう一度娘を見てみた。
彼女の娘はもう一度悲しそうな笑顔をしたかと思うと、再び小さく口を動かした後、健やかな顔でスヤスヤと眠り始めていた。
(何があったのかしら? 妖精でもいたのかしら? それにしては悲しそうな顔……でも、今は大丈夫ね……)
彼女はこのことをギルにどう話そうか考えていた。
そして、ティリアがこれから先、誰とどう生きていくのかと考えていた。
(きっといい人たちと出会えるわ。それもたくさんの……)
ベッカルト村のような田舎の小さな村でたくさんの人と出会えるというのはおかしいのだが、リサは何の疑問も持たなかった。
大地に落ちた一滴の雨は大地に染み、やがて地より現れ、清らかな流れとなっていく。
そして、清流は集まり、川を形作り、やがて川は集まり、また、分かれながら、次第に大きな河になっていく。
大きな河は滔々と流れ、やがては海にそそぎこみ、その流れを止める。
海は雲を生み、雲は見知らぬ土地に流れていく。
雲は見知らぬ大地に再び一滴の雨となって降り立つ……
彼の物語はまだ始まったばかり。
川のように集まり、分かれながら、どのような大河に育っていくのだろう。
そして、彼はこの先……
(終)
後書き
作者:狩坂 東風 |
投稿日:2013/02/06 22:50 更新日:2013/02/06 22:50 『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。 |
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