作品ID:194
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視線
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
視線
目次 |
目の前に死体が転がっていた。
「なんというか、わかりやすい事故だな」
警部は、呟きながら辺りを見回した。
おそらく、物置にでもするつもりだったのだろう、作りかけの小屋には屋根がなく、頭上には青空が見えていた。壁も四面のうち一面は未完成で、足元にはコンクリートのもとが入った袋や、それと水を混ぜ合わせるためのパッド等、左官道具が散らばっている。
被害者の河出が頭を血で染め倒れているのは、途中までしか積み上げられていない壁の傍。近くには倒れた脚立と血のついたコンクリートブロック。どうみても、接着の甘かったブロックが、被害者の頭に落ちたとしか思えなかった。一応、事故に見せかけた殺人の可能性もあるという事で、鑑識が作業をしているが、どうせ無駄に終るだろう。そもそも、こんなイナカでは殺人どころかこうした事故もめずらしい。
現場を確認した警部は、まだドアのついていない出入り口から外に出た。どうも、あの小屋の中は好きになれない。死体があるから、というのとは何か別の嫌悪感がある。そう、まるで誰かにじっと見つめられているような、生き物の中に閉じ込められたような。
外では、被害者の友人、須崎が地面にうずくまっていた。その顔は冷たい水にでもつかっていたように蒼ざめ、唇は白くなっている。
調べによると、河出と須崎は都会でセメント会社の仕事をしていたらしい。
「今回は、不幸な事故でしたな」
ありきたりな言葉を述べ、警部は須崎を事故現場から遠ざけようとした。
だが彼はそうとうひどいショックを受けているようで、支えてあげなければ立って歩く事もできないようだった。カチカチと噛合う歯の間から、「あいつが…… まさかあいつが……」という呟きが聞こえてくる。
「まさか、まさか、確率的にありえない……」
「ええ、たまたま落ちたブロックの下に、たまたま頭があるなんて、意地の悪い偶然です」
そのとき、警部は若い刑事がこちらにむかって手招きをしているのに気がつき、須藤をいったんその場に座らせそちらへむかった。
「警部! 少し気になる事が」
傍に行くと、若い刑事は小声で語りだした。
「念のために調べてみたら、あの二人が働いていたコンクリート工場でおかしな事があったんですよ。二人と同僚だった男が一人、行方不明になっていて……」
「うわあああ!」
作りかけの小屋から悲鳴があがり、警部は中へと飛び込んだ。
鑑識が、落としたブロックを指差していた。
刑事は、転がったままのブロックを覗き込む。隅が欠けたブロックから、黒い糸の束がのぞいている。いや、それは糸にしては艶やすぎる。そう、それは人の髪の毛の色で……
いつの間にか傍に来ていた須崎が、悲鳴をあげた。
「やっぱり、アイツだ…… 刑事さん、助けてください!」
男は、警部の肩をつかむと、力一杯揺さぶった。
「アイツは、行方不明になったんじゃない! 俺と河出でアイツを殺したんだ! そしてバレないように、死体を工場の岩石粉砕機に入れて……!」
「なっ……」
一滴の汗が、警部の背中とシャツの間をつたった。また、不気味な視線と閉塞感を覚える。
まるでブロック一つ一つにこちらを見つめる目があるような、生き物の中に閉じ込められたような。
「まさか、まさか、アイツの混ざったセメントが、俺らが買ったブロックに使われていたなん」
須崎の言葉が、不自然に途切れた。ブロックの一つが滑り落ち、須崎の頭を直撃したのだ。
まるでコントのような滑稽ささえ思わせて。
「なんというか、わかりやすい事故だな」
警部は、呟きながら辺りを見回した。
おそらく、物置にでもするつもりだったのだろう、作りかけの小屋には屋根がなく、頭上には青空が見えていた。壁も四面のうち一面は未完成で、足元にはコンクリートのもとが入った袋や、それと水を混ぜ合わせるためのパッド等、左官道具が散らばっている。
被害者の河出が頭を血で染め倒れているのは、途中までしか積み上げられていない壁の傍。近くには倒れた脚立と血のついたコンクリートブロック。どうみても、接着の甘かったブロックが、被害者の頭に落ちたとしか思えなかった。一応、事故に見せかけた殺人の可能性もあるという事で、鑑識が作業をしているが、どうせ無駄に終るだろう。そもそも、こんなイナカでは殺人どころかこうした事故もめずらしい。
現場を確認した警部は、まだドアのついていない出入り口から外に出た。どうも、あの小屋の中は好きになれない。死体があるから、というのとは何か別の嫌悪感がある。そう、まるで誰かにじっと見つめられているような、生き物の中に閉じ込められたような。
外では、被害者の友人、須崎が地面にうずくまっていた。その顔は冷たい水にでもつかっていたように蒼ざめ、唇は白くなっている。
調べによると、河出と須崎は都会でセメント会社の仕事をしていたらしい。
「今回は、不幸な事故でしたな」
ありきたりな言葉を述べ、警部は須崎を事故現場から遠ざけようとした。
だが彼はそうとうひどいショックを受けているようで、支えてあげなければ立って歩く事もできないようだった。カチカチと噛合う歯の間から、「あいつが…… まさかあいつが……」という呟きが聞こえてくる。
「まさか、まさか、確率的にありえない……」
「ええ、たまたま落ちたブロックの下に、たまたま頭があるなんて、意地の悪い偶然です」
そのとき、警部は若い刑事がこちらにむかって手招きをしているのに気がつき、須藤をいったんその場に座らせそちらへむかった。
「警部! 少し気になる事が」
傍に行くと、若い刑事は小声で語りだした。
「念のために調べてみたら、あの二人が働いていたコンクリート工場でおかしな事があったんですよ。二人と同僚だった男が一人、行方不明になっていて……」
「うわあああ!」
作りかけの小屋から悲鳴があがり、警部は中へと飛び込んだ。
鑑識が、落としたブロックを指差していた。
刑事は、転がったままのブロックを覗き込む。隅が欠けたブロックから、黒い糸の束がのぞいている。いや、それは糸にしては艶やすぎる。そう、それは人の髪の毛の色で……
いつの間にか傍に来ていた須崎が、悲鳴をあげた。
「やっぱり、アイツだ…… 刑事さん、助けてください!」
男は、警部の肩をつかむと、力一杯揺さぶった。
「アイツは、行方不明になったんじゃない! 俺と河出でアイツを殺したんだ! そしてバレないように、死体を工場の岩石粉砕機に入れて……!」
「なっ……」
一滴の汗が、警部の背中とシャツの間をつたった。また、不気味な視線と閉塞感を覚える。
まるでブロック一つ一つにこちらを見つめる目があるような、生き物の中に閉じ込められたような。
「まさか、まさか、アイツの混ざったセメントが、俺らが買ったブロックに使われていたなん」
須崎の言葉が、不自然に途切れた。ブロックの一つが滑り落ち、須崎の頭を直撃したのだ。
まるでコントのような滑稽ささえ思わせて。
後書き
作者:三塚章 |
投稿日:2010/05/01 21:58 更新日:2010/05/01 22:01 『視線』の著作権は、すべて作者 三塚章様に属します。 |
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