作品ID:287
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「Devil+Angel=Reo」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(241)・読中(1)・読止(2)・一般PV数(756)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
Devil+Angel=Reo
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
第二部・第18話。
前の話 | 目次 | 次の話 |
桐生ナツメの願いを聞き入れた後、今日13時に行われるレオ争奪戦への会場まで車移動。
通り過ぎていく木々を見ながら、紅來璃維は黒い髪を開いた窓から流れる風に靡かせながら、思考にふける。
〈ナツメからの願いもあるし、鈴也の願いもある。
勿論、刹那を護らなくてはいけないし、鈴也のためにもアッラーフへと復職させなければならない……。
そして翼の行方も〉
現在、レオ争奪戦に関する問題は現ラファエルの朝日奈翼という少女が失踪していること。
しかし、璃維としての問題は三つ。
翼の失踪と、鈴也の願い。ナツメの願い。
だが、翼の失踪は二つの願いとは関係ないとしても、その二つの願いは正直、叶えるのに苦労することだった。
ナツメの願いは刹那を護り続けてほしいということ。しかしだ。
鈴也の願いはナツメのとは違い、アッラーフの再生を願うものだ。
これは、刹那をアッラーフ復職させるということに直結する。
〈アッラーフはそれ相応のエネルギーが必要。
エネルギーの貸し借りは不可能。エネルギーの貸し借りによってエネルギーの本当の力が使えない。最大限に利用できない。ゆえに、アッラーフになるためには、アッラーフになるためのエネルギーが、膨大なエネルギーが必要となる。
天使の一族として生を受けた刹那には十分すぎるエネルギーがあった。
だからこそ、アッラーフになる事もできた〉
隣で眠る刹那を横目で見ながら、なぜ刹那がアッラーフになったか、というナツメの質問への答えを考える。
〈まあ……。ナツメの願いは鈴也の願いを打ち消す事になるし、鈴也の願いはナツメの願いを打ち消す事になる。ただそれだけ〉
車が停止し、風もなくなったところで璃維の心中での呟きは終わった。
レオ争奪戦とは、レオつまり獅子の魂を分裂させ、それを奪いあうことを示す。
それまでは。
「トーナメント方式ぃ!?」
「はい。NEV機関員戦闘部長、鋭意早紀様からの意向とフェリアンヴェスピュリア大公国王からの命令で」
フェリアンヴェスピュリア大公国、中心部に位置するシュヴェルトヘリア私立高等学校にレオ争奪戦会場はある。
というのも、プレナフォース家というのは旧くから国王の血族に関わりがあったらしく、先日急死したミルネ・プレナフォースの孫、シュヴェルト・プレナフォースが学校長になった今でも相変らず、レオ争奪戦の会場をシュヴェルトヘリア私立高等学校に構えている。
因みに、会場維持費は学校持ち。会場といっても、学校の総合訓練場だからだ。
「……トーナメント方式なんて聞いてないぞ……?」
いや、でも前に早紀が「トーナメント表つくるから?」とかって言ってたような気がする。
「予選も本戦もトーナメントなんですか?」
総合訓練場入り口に設置された、受付にいる大公国軍の軍人女性に声をかける刹那。
それに首を振り、予選のみトーナメント、と答える女性に刹那は頷く。
「本戦はトーナメントじゃないなら、まだ策の練りようもあるよね?」
「多分……。でも予選中や本戦中は何があるか分からないよ。私が出たときだって、いきなりクーデターとか起きたし」
「く、クーデター?」
「うん。レオ争奪戦は国主催でしょ? だから王族系に快く思ってない人たちがクーデターとか起こしちゃうわけ。そして私たちNEV機関員は、その収拾にあたれーみたいな?」
レオ争奪戦に参加経験のある春袈、鋼夜春袈に問いかける刹那。
最後のほうになると刹那の顔が引きつっているが、璃維はそれを目にする暇もない。
「とにかく、予選は受ける。相手は?」
「えーと、チーム名は……」
「ラファエロ・サンティ」
「分かりました。……対戦チームは、アズラエル、ですね」
「アズラエルっ!?」
アズラエル。イスラム教にて死を司る天使として知られる。
「でも、アズラエル、前回の優勝チームだからってシード権あるはずだよ?」
「あ、はい。なので、不戦勝でラファエロ・サンティはメルベルトが相手になります」
受付の女性が、バインダーに目をやりアズラエルのシード権を確認すると電話を取り、
「ラファエロ・サンティ、不戦勝で勝ちあがりということなので、13時半まで戦闘なしです」
そう、宣言したものだ。
「ちょ、それって……あり?」
「ありじゃない? ま、それまで時間がもらえたし、各々で準備を……って!」
春袈の呆然とした声にライナは気楽そうに答え、後ろを見ると他のメンバーが既に会場に入っていた。
「ほら、ライナー! 早くしないと予選始まる!」
桐生媛が手招きをしながら跳ねているのを見て、苦笑しながらも駆け足で媛のほうに走り寄っていく。
しかし、春袈はそれに溜息をついて。
「なんか、皆、緊張感ないと思うんだけど」
もう一度、溜息をついて、それはもう嫌気がさすぐらいに晴れ渡った空を見上げ笑みをこぼす。
「あの人誰?」
「シェリアード・オーディ。NEV機関員で技術部長じゃなかったかな?」
「じゃあ、そのシェリアードさんが持ってるあの武器は?」
「シェリアード・オーディ専用で彼女が自ら作り出した、シャルフォレック。
この大公国でしか採れない貴重なルビーフェイトを贅沢に使ってるライフル。
だから、ほら。シャルフォレックの銃身は赤いでしょう?
あれは、ルビー特有の赤さからきてるんだよ」
NEV機関員の春袈が、予選最初のチームのリーダーを紹介する。
それはあの、シェリアードだった。
シェリアード率いるメンバーの中には、ライナの兄でもあるフェンシュ・メロディスなどが居る。
完全なるNEV機関員だけで構成されたチーム。
勿論、彼女らは戦闘部員としての肩書きも持っているため、レオ争奪戦に参加できる。
そして、NEV機関員は同じNEV機関員にしか干渉できない。
ゆえに。
相手もNEV機関員のみで構成されたチームである。
因みに、春袈やライナもNEV機関員だが、ラファエロ・サンティに居るのは国王の意思である。
そのため、特例で認められている、というわけだ。
「ねえ、じゃああのライナ似の、ちょっと可愛い少年は!?」
今度、春袈に質問したのは媛。先ほど、刹那の質問を聞いて春袈がNEV機関員として長いことと知ったのだろう。
ライナに似た少年〈勿論フェンシュ・メロディス〉は誰か、と問う。
「あれはフェンシュ・メロディス。ライナの実兄。
彼は戦闘部員だよ。ライナも確か戦闘部員だよね?」
「……嫌い。あんな兄。いっつも比べられたから。
お前は兄と違いパワーもない、正確さもない、素質すらないって」
ふてくされ、そっぽを向くライナ。よほど嫌いなのだろう。
「はぁ。んでフェンシュは接近型の戦法をとるんだ。
ルックスいいから、結構ファン多いよ。
因みに趣味は、読書」
「へー」
春袈の説明に媛は両目を輝かせ、身を乗り出しフェンシュを見る。
それに余計ふてくされるライナ。
〈……なんで兄さんに食いつくのさ〉
溜息をついて、仕方なく自分の兄を見る。
久しぶりに見た兄は、今、短剣を握り、シェリアードの前に立っている。
シェリアードは遠距離型のため、どうしてもこういった形になるのだそうだ。
「へぇ、ミフィルも参加してるんだ」
「ミフィル?」
「ミフィル・ラーリスピア。つい最近、シュヴェルトヘリアに転入した女子生徒。
彼女もNEV機関員で、主にデータ採取とかが彼女の任務かな。
一日機械に閉じ込められてることもあるっていうから。
で、愛用ブランドはフォクトノヴァ。フォクトノヴァグループって知ってるよね?
大公国の、大型ブランド。あのゴーグルも茶色のブーツも全部フォクトノヴァなんだよ」
春袈の口から出た「ミフィル」という女子生徒。
最近、シュヴェルトヘリアに転入してきた生徒で、身長が高く腰まである銀髪の毛先がクルリと巻かれている。
ゴーグルで隠された瞳の色はわからないが、ゴーグル越しでも分かるのはその鋭さ。
相手チームや、春袈でさえ怯む眼差しは確かに幾度となく死線をくぐり越えてきた証でもあった。
「あれ。ミフィルの額。抉り取られた傷があるでしょ?
あの傷ね。軍総司令官と戦りあった傷なんだって。噂程度で聞いたんだけどね」
春袈がミフィルのオールバックで露わになった額についた傷を指差し、説明する。
それに驚いたのは媛だった。
「ちょ、軍総司令官って言えばさ、そのまんま軍を率いる人でしょ?
しかも現在の軍総司令官はただの総司令官じゃないって聞いたけど……」
「せーかい。今の総司令官、デスヴェン・フォールヴェン・シュリアンは元々軍人の出。
璃維でも苦戦するほどの、強さだって聞いたけど?
ねえ? NEV機関員の中でも冷酷だなんて言われてた紅來璃維君?」
後ろ座席に座る、風に黒髪を靡かせている璃維を見て、首を傾げる。
「……ヴェンは強い。正直、死ぬかと思ったぐらいだ。
だけど、弱点がある。しかもそれにヴェンは気づいていない」
目を閉じたままの璃維が言葉を紡ぎ、春袈は「へぇー」と感嘆の息を漏らす。
「さっすが、NEV機関創設時、初代機関長以来の人材とまで言われちゃった璃維君。
しかも、あの総司令官の名前を略称で呼ぶなんて、あのフェンシュに次いで2人目だね」
「ヴェンに言われただけだ。そう呼べって」
「ふーん。おっ。レルーフェだ! おーいレルーフェー!」
身を乗り出し、春袈が訓練場に立つ明るい茶髪の少女に声をかける。
知り合いなのだろうか。
「春袈、あの人は?」
「あ、御免御免。レルーフェ・シャフォールっていって、このシュヴェルトヘリアの学園長、シュヴェルト・プレナフォースの親戚」
笑みを浮かべながら、スタジアム形式に建てられたこの訓練場に響き渡る歓声の中で声を発する。
楕円型に設置された観客席は、普段の静けさとは違った表情を見せていた。
歓声は、耳を劈き、脳と頭自体が揺れているような感覚を誘う。
「レルーフェはシュヴェルトヘリア一番の情報屋。
レルーフェにかかれば、分からない事なんて何もないよ」
「ふーん……」
感心と感嘆と、驚きが混ざった声。主は刹那だった。
「ほら、始まった」
春袈の宣言と共に、実況役がアナウンスを流す。
『さぁ、トーナメント予選第一回戦からのNEV同士の戦闘!
普段は拝めないNEVの戦闘を、とくと拝むチャンスだ!
歓声の中で戦場を駆け抜けるNEV機関員の姿が見れるとあってか、
今回のレオ争奪戦は例年よりも観客が多いわけだが、
相変らず、シェリアード・オーディはシャルフォレック標準装備で初戦から容赦ない射撃を止めようともしない! 技術部員だからって甘くみたら駄目っていうことを彼女は表現してるね!』
「例年より?」
アナウンスの言葉に首を傾げる刹那。戦闘に見入っている春袈の代わりに刹那の左隣に座るライナが、説明する。
「あぁ、今回は例年よりもNEV機関員の参加が多くって。
勿論、シェリアードや僕の兄でもあるフェンシュといった有名なNEV機関員もでてることも関係してるんだけどね。
それよりも観客の目を惹くのは……」
ライナの言葉が終わるとき、今までの風とは違う突風と呼ぶべき風が刹那たちを襲った。
その発信は……。
『しゃ、シャルフォレックが射撃ではなく大砲攻撃ぃ!?』
アナウンス越しに聞こえる女性の声は、先ほどと同じ声。
だが、驚きが多分に含まれていた。
「そう。従来のシャルフォレックはライフルとしてしか使えなかった。
だが、実験や再開発を繰り返し大砲として、そして盾としての機能も備えた、
あいつは既にライフルと呼べない代物になっている」
ライナが頬杖をつきながら、つまらなさそうに呟く。
「シャルフォレックってそんなに凄いの?」
「勿論。あのNEVきっての技術部員シェリアードの武器であり、シェリアードの技術とNEVの技術を結集した、科学兵器みたいなものだからね」
「……よくわからないけど、他の人たちも凄いよね」
刹那が訓練場に目を向けるとそこでは、シェリアードたちの戦闘が繰り広げられていた。
相手との差はそんなにない。五分五分といったところで、自分と相手らとの力が拮抗している。
いつ、バランスを崩すかわからないそんなところで。
自身のシャルフォレックと名づけたライフルが、また火を噴く。
といってもそんなに火を出さずに設計してあるので、そんな派手ではないが。
だが、攻撃力と殺傷能力は比例しないのだ。
「オーディ卿?」
「どうしました? ミス・ラーリスピア」
シャルフォレックに弾をこめながら、話しかけてきたミフィルに問い直す。
「アッラーフが居る」
「何ですって!?」
小声で、だが衝撃は高い言葉が上からかけられた。
通り過ぎていく木々を見ながら、紅來璃維は黒い髪を開いた窓から流れる風に靡かせながら、思考にふける。
〈ナツメからの願いもあるし、鈴也の願いもある。
勿論、刹那を護らなくてはいけないし、鈴也のためにもアッラーフへと復職させなければならない……。
そして翼の行方も〉
現在、レオ争奪戦に関する問題は現ラファエルの朝日奈翼という少女が失踪していること。
しかし、璃維としての問題は三つ。
翼の失踪と、鈴也の願い。ナツメの願い。
だが、翼の失踪は二つの願いとは関係ないとしても、その二つの願いは正直、叶えるのに苦労することだった。
ナツメの願いは刹那を護り続けてほしいということ。しかしだ。
鈴也の願いはナツメのとは違い、アッラーフの再生を願うものだ。
これは、刹那をアッラーフ復職させるということに直結する。
〈アッラーフはそれ相応のエネルギーが必要。
エネルギーの貸し借りは不可能。エネルギーの貸し借りによってエネルギーの本当の力が使えない。最大限に利用できない。ゆえに、アッラーフになるためには、アッラーフになるためのエネルギーが、膨大なエネルギーが必要となる。
天使の一族として生を受けた刹那には十分すぎるエネルギーがあった。
だからこそ、アッラーフになる事もできた〉
隣で眠る刹那を横目で見ながら、なぜ刹那がアッラーフになったか、というナツメの質問への答えを考える。
〈まあ……。ナツメの願いは鈴也の願いを打ち消す事になるし、鈴也の願いはナツメの願いを打ち消す事になる。ただそれだけ〉
車が停止し、風もなくなったところで璃維の心中での呟きは終わった。
レオ争奪戦とは、レオつまり獅子の魂を分裂させ、それを奪いあうことを示す。
それまでは。
「トーナメント方式ぃ!?」
「はい。NEV機関員戦闘部長、鋭意早紀様からの意向とフェリアンヴェスピュリア大公国王からの命令で」
フェリアンヴェスピュリア大公国、中心部に位置するシュヴェルトヘリア私立高等学校にレオ争奪戦会場はある。
というのも、プレナフォース家というのは旧くから国王の血族に関わりがあったらしく、先日急死したミルネ・プレナフォースの孫、シュヴェルト・プレナフォースが学校長になった今でも相変らず、レオ争奪戦の会場をシュヴェルトヘリア私立高等学校に構えている。
因みに、会場維持費は学校持ち。会場といっても、学校の総合訓練場だからだ。
「……トーナメント方式なんて聞いてないぞ……?」
いや、でも前に早紀が「トーナメント表つくるから?」とかって言ってたような気がする。
「予選も本戦もトーナメントなんですか?」
総合訓練場入り口に設置された、受付にいる大公国軍の軍人女性に声をかける刹那。
それに首を振り、予選のみトーナメント、と答える女性に刹那は頷く。
「本戦はトーナメントじゃないなら、まだ策の練りようもあるよね?」
「多分……。でも予選中や本戦中は何があるか分からないよ。私が出たときだって、いきなりクーデターとか起きたし」
「く、クーデター?」
「うん。レオ争奪戦は国主催でしょ? だから王族系に快く思ってない人たちがクーデターとか起こしちゃうわけ。そして私たちNEV機関員は、その収拾にあたれーみたいな?」
レオ争奪戦に参加経験のある春袈、鋼夜春袈に問いかける刹那。
最後のほうになると刹那の顔が引きつっているが、璃維はそれを目にする暇もない。
「とにかく、予選は受ける。相手は?」
「えーと、チーム名は……」
「ラファエロ・サンティ」
「分かりました。……対戦チームは、アズラエル、ですね」
「アズラエルっ!?」
アズラエル。イスラム教にて死を司る天使として知られる。
「でも、アズラエル、前回の優勝チームだからってシード権あるはずだよ?」
「あ、はい。なので、不戦勝でラファエロ・サンティはメルベルトが相手になります」
受付の女性が、バインダーに目をやりアズラエルのシード権を確認すると電話を取り、
「ラファエロ・サンティ、不戦勝で勝ちあがりということなので、13時半まで戦闘なしです」
そう、宣言したものだ。
「ちょ、それって……あり?」
「ありじゃない? ま、それまで時間がもらえたし、各々で準備を……って!」
春袈の呆然とした声にライナは気楽そうに答え、後ろを見ると他のメンバーが既に会場に入っていた。
「ほら、ライナー! 早くしないと予選始まる!」
桐生媛が手招きをしながら跳ねているのを見て、苦笑しながらも駆け足で媛のほうに走り寄っていく。
しかし、春袈はそれに溜息をついて。
「なんか、皆、緊張感ないと思うんだけど」
もう一度、溜息をついて、それはもう嫌気がさすぐらいに晴れ渡った空を見上げ笑みをこぼす。
「あの人誰?」
「シェリアード・オーディ。NEV機関員で技術部長じゃなかったかな?」
「じゃあ、そのシェリアードさんが持ってるあの武器は?」
「シェリアード・オーディ専用で彼女が自ら作り出した、シャルフォレック。
この大公国でしか採れない貴重なルビーフェイトを贅沢に使ってるライフル。
だから、ほら。シャルフォレックの銃身は赤いでしょう?
あれは、ルビー特有の赤さからきてるんだよ」
NEV機関員の春袈が、予選最初のチームのリーダーを紹介する。
それはあの、シェリアードだった。
シェリアード率いるメンバーの中には、ライナの兄でもあるフェンシュ・メロディスなどが居る。
完全なるNEV機関員だけで構成されたチーム。
勿論、彼女らは戦闘部員としての肩書きも持っているため、レオ争奪戦に参加できる。
そして、NEV機関員は同じNEV機関員にしか干渉できない。
ゆえに。
相手もNEV機関員のみで構成されたチームである。
因みに、春袈やライナもNEV機関員だが、ラファエロ・サンティに居るのは国王の意思である。
そのため、特例で認められている、というわけだ。
「ねえ、じゃああのライナ似の、ちょっと可愛い少年は!?」
今度、春袈に質問したのは媛。先ほど、刹那の質問を聞いて春袈がNEV機関員として長いことと知ったのだろう。
ライナに似た少年〈勿論フェンシュ・メロディス〉は誰か、と問う。
「あれはフェンシュ・メロディス。ライナの実兄。
彼は戦闘部員だよ。ライナも確か戦闘部員だよね?」
「……嫌い。あんな兄。いっつも比べられたから。
お前は兄と違いパワーもない、正確さもない、素質すらないって」
ふてくされ、そっぽを向くライナ。よほど嫌いなのだろう。
「はぁ。んでフェンシュは接近型の戦法をとるんだ。
ルックスいいから、結構ファン多いよ。
因みに趣味は、読書」
「へー」
春袈の説明に媛は両目を輝かせ、身を乗り出しフェンシュを見る。
それに余計ふてくされるライナ。
〈……なんで兄さんに食いつくのさ〉
溜息をついて、仕方なく自分の兄を見る。
久しぶりに見た兄は、今、短剣を握り、シェリアードの前に立っている。
シェリアードは遠距離型のため、どうしてもこういった形になるのだそうだ。
「へぇ、ミフィルも参加してるんだ」
「ミフィル?」
「ミフィル・ラーリスピア。つい最近、シュヴェルトヘリアに転入した女子生徒。
彼女もNEV機関員で、主にデータ採取とかが彼女の任務かな。
一日機械に閉じ込められてることもあるっていうから。
で、愛用ブランドはフォクトノヴァ。フォクトノヴァグループって知ってるよね?
大公国の、大型ブランド。あのゴーグルも茶色のブーツも全部フォクトノヴァなんだよ」
春袈の口から出た「ミフィル」という女子生徒。
最近、シュヴェルトヘリアに転入してきた生徒で、身長が高く腰まである銀髪の毛先がクルリと巻かれている。
ゴーグルで隠された瞳の色はわからないが、ゴーグル越しでも分かるのはその鋭さ。
相手チームや、春袈でさえ怯む眼差しは確かに幾度となく死線をくぐり越えてきた証でもあった。
「あれ。ミフィルの額。抉り取られた傷があるでしょ?
あの傷ね。軍総司令官と戦りあった傷なんだって。噂程度で聞いたんだけどね」
春袈がミフィルのオールバックで露わになった額についた傷を指差し、説明する。
それに驚いたのは媛だった。
「ちょ、軍総司令官って言えばさ、そのまんま軍を率いる人でしょ?
しかも現在の軍総司令官はただの総司令官じゃないって聞いたけど……」
「せーかい。今の総司令官、デスヴェン・フォールヴェン・シュリアンは元々軍人の出。
璃維でも苦戦するほどの、強さだって聞いたけど?
ねえ? NEV機関員の中でも冷酷だなんて言われてた紅來璃維君?」
後ろ座席に座る、風に黒髪を靡かせている璃維を見て、首を傾げる。
「……ヴェンは強い。正直、死ぬかと思ったぐらいだ。
だけど、弱点がある。しかもそれにヴェンは気づいていない」
目を閉じたままの璃維が言葉を紡ぎ、春袈は「へぇー」と感嘆の息を漏らす。
「さっすが、NEV機関創設時、初代機関長以来の人材とまで言われちゃった璃維君。
しかも、あの総司令官の名前を略称で呼ぶなんて、あのフェンシュに次いで2人目だね」
「ヴェンに言われただけだ。そう呼べって」
「ふーん。おっ。レルーフェだ! おーいレルーフェー!」
身を乗り出し、春袈が訓練場に立つ明るい茶髪の少女に声をかける。
知り合いなのだろうか。
「春袈、あの人は?」
「あ、御免御免。レルーフェ・シャフォールっていって、このシュヴェルトヘリアの学園長、シュヴェルト・プレナフォースの親戚」
笑みを浮かべながら、スタジアム形式に建てられたこの訓練場に響き渡る歓声の中で声を発する。
楕円型に設置された観客席は、普段の静けさとは違った表情を見せていた。
歓声は、耳を劈き、脳と頭自体が揺れているような感覚を誘う。
「レルーフェはシュヴェルトヘリア一番の情報屋。
レルーフェにかかれば、分からない事なんて何もないよ」
「ふーん……」
感心と感嘆と、驚きが混ざった声。主は刹那だった。
「ほら、始まった」
春袈の宣言と共に、実況役がアナウンスを流す。
『さぁ、トーナメント予選第一回戦からのNEV同士の戦闘!
普段は拝めないNEVの戦闘を、とくと拝むチャンスだ!
歓声の中で戦場を駆け抜けるNEV機関員の姿が見れるとあってか、
今回のレオ争奪戦は例年よりも観客が多いわけだが、
相変らず、シェリアード・オーディはシャルフォレック標準装備で初戦から容赦ない射撃を止めようともしない! 技術部員だからって甘くみたら駄目っていうことを彼女は表現してるね!』
「例年より?」
アナウンスの言葉に首を傾げる刹那。戦闘に見入っている春袈の代わりに刹那の左隣に座るライナが、説明する。
「あぁ、今回は例年よりもNEV機関員の参加が多くって。
勿論、シェリアードや僕の兄でもあるフェンシュといった有名なNEV機関員もでてることも関係してるんだけどね。
それよりも観客の目を惹くのは……」
ライナの言葉が終わるとき、今までの風とは違う突風と呼ぶべき風が刹那たちを襲った。
その発信は……。
『しゃ、シャルフォレックが射撃ではなく大砲攻撃ぃ!?』
アナウンス越しに聞こえる女性の声は、先ほどと同じ声。
だが、驚きが多分に含まれていた。
「そう。従来のシャルフォレックはライフルとしてしか使えなかった。
だが、実験や再開発を繰り返し大砲として、そして盾としての機能も備えた、
あいつは既にライフルと呼べない代物になっている」
ライナが頬杖をつきながら、つまらなさそうに呟く。
「シャルフォレックってそんなに凄いの?」
「勿論。あのNEVきっての技術部員シェリアードの武器であり、シェリアードの技術とNEVの技術を結集した、科学兵器みたいなものだからね」
「……よくわからないけど、他の人たちも凄いよね」
刹那が訓練場に目を向けるとそこでは、シェリアードたちの戦闘が繰り広げられていた。
相手との差はそんなにない。五分五分といったところで、自分と相手らとの力が拮抗している。
いつ、バランスを崩すかわからないそんなところで。
自身のシャルフォレックと名づけたライフルが、また火を噴く。
といってもそんなに火を出さずに設計してあるので、そんな派手ではないが。
だが、攻撃力と殺傷能力は比例しないのだ。
「オーディ卿?」
「どうしました? ミス・ラーリスピア」
シャルフォレックに弾をこめながら、話しかけてきたミフィルに問い直す。
「アッラーフが居る」
「何ですって!?」
小声で、だが衝撃は高い言葉が上からかけられた。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2010/08/17 13:32 更新日:2010/08/17 13:32 『Devil+Angel=Reo』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン