作品ID:871
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双魂の焔龍
小説の属性:ライトノベル / 異世界ファンタジー / 感想希望 / 中級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
エピローグ
前の話 | 目次 |
食堂のカウンター席には三人の青年が座っていた。
一人は、青みがかった灰色の長髪を持つ長身の男だ。精悍な顔立ちに、細いサングラスをかけている。彼の脇には一振りの刀が立てかけられていた。もう一人は、無駄なく引き締まった身体を持つ銀髪の青年だ。鋭い双眸を持つ顔には、少し影がある。残りの一人は、やや長めの黒髪の青年だった。最も線の細い、柔和な瞳を持つ青年だ。
カウンターの中では、一人の女性が三人に向き合って談笑している。
「やっぱりねぇ。イルゼらしいや」
亜麻色の髪を揺らして、女性、フィオラが笑った。
「もっとも、そのお陰で報酬は上乗せされたんだがな」
溜め息混じりに、サングラスをかけた男、ヴィルノアが呟いた。
「あのままだったら皆殺さなきゃならなくなってたんだから、いいじゃないか」
苦笑しながら、黒髪の青年、イルゼは言った。
「一人で仕事をこなすなと言ってるんだ」
銀髪の青年、レイヴァートがイルゼの頭を軽く小突く。
「でも、イルゼも結構頑固だからね」
フィオラが笑みを深める。
あれから、一年の歳月が流れていた。
秘術書の強奪という大罪を働いたレイヴァートには死刑が下された。秘術書を、公の許可無く扱う事は禁じられている。もしその法を破れば、問答無用で死刑とされていた。だが、レイヴァートは死刑を免れている。
理由はイルゼにある。
フェニックスとドラグーンという、二つの最高位種族の魂が混ざり合った力を持つイルゼに、大陸の政府は目を着けた。政府は、イルゼを特殊機関『グングニール』に勧誘していた。かつて、イクシオ達が三人で構成していた機関に。
イルゼは、『グングニール』に所属する代わりにレイヴァートを自分の片腕として引き取るという条件を出した。そして、もしレイヴァートを死刑にした場合、政府を燃やすと威しもした。
リクシアとの約束を、イルゼは守りたかった。レイヴァートを、彼女の分まで生かしてやりたいと思えたから。
政府は、底知れぬ力を持つイルゼに従う他なかった。
死刑を免れたレイヴァートは、イルゼの申し出を受けた。彼もまた、リクシアから伝えられた言葉で生きる意思を取り戻していた。もう道を踏み外さないと、レイヴァートはイルゼに誓った。
イルゼはガルムからヴィルノアも勧誘し、三人で『グングニール』を再結成したのだ。
一年間、色々あった。だが、今ではレイヴァートも昔のように、笑うようになっている。兄妹の関係もほとんど元通りだ。
「っと、注文取って来るね」
店内に視線を向けたフィオラが、手を挙げる客がいるのを見つけてカウンターから出て行った。
イクシオがいなくなってから、フィオラに戦う力はなくなった。今まではフィオラの中にいたイクシオが『ドライバー』だったために戦えただけだ。イクシオの力がイルゼに移った事で、イルゼは力を増した。だが、代わりにフィオラは力を失った。
彼女は今、食堂の従業員として働いている。
「お客さん困りますよ」
不意に聞こえたフィオラの声に、イルゼは視線を向けた。
数人の客がフィオラの腕を掴んで何事か囁いている。
「ちょっと言ってくる」
イルゼは席を立ち、フィオラの下へ歩いて行った。
「どうかした、フィオラ?」
笑みを浮かべて、イルゼは問う。
「あ、イルゼ……」
フィオラがその名を呟いた瞬間、客が固まった。
顔から血の気が失せ、恐る恐るといった表情でイルゼを見上げる。
「俺の『妻』に何か用ですか?」
イルゼが微笑む。
一年の間に、『グングニール』の三人の名は知れ渡っていた。今や、恐怖や尊敬の対象として挙げられる回数も少なくない。
だから、本人がいる場所で名を出せばほとんどの人は縮み上がる。
「す、すみませんでしたぁ!」
慌てふためく人たちはあっという間に静かになり、フィオラに注文を告げた。
イルゼはあまりこういう方法は好きではなかったが、殴り合いになるよりは幾分かマシだとも思っている。力の使用に対する躊躇いはなくなったが、やはり、イルゼは暴力を好まない。
「もう少し経てば声をかける奴も減るだろう」
カウンターに戻ったフィオラとイルゼに、レイヴァートが呟いた。
「早く子供も見てみたいものだな」
「まるで父親みたいだな」
ヴィルノアの言葉に、レイヴァートが苦笑する。
失礼な、とヴィルノアも笑った。
「食事中、失礼します。イルゼ・トラシナ様」
突然、食堂に一人の男が駆け込んできた。
「何かあったんですか?」
問い質すイルゼに、男が耳打ちする。
内容を聞いて、イルゼは溜め息をついた。
「解りました。準備が済み次第直ぐに行きます」
それだけ告げると、男は大きく一礼して出て行った。
「……仕事?」
「うん、悪いね」
フィオラの問いに、イルゼはどこか申し訳なさそうに笑った。
「俺一人で行って来ようか?」
席を立ったイルゼが尋ねた。
「馬鹿野郎。何のために俺達を引き込んだ」
その言葉を聞いたレイヴァートが席を立ち、イルゼの頭を掌で押さえ付ける。
「俺達も現場に行かないと給料が貰えんからな」
ヴィルノアも立ち上がり、刀を手に呟いた。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
直ぐに帰るよ、そう告げて、イルゼは食堂の出口へと歩き出す。
「行ってらっしゃい」
笑顔で見送るフィオラに、イルゼも笑みを返した。
――終――
一人は、青みがかった灰色の長髪を持つ長身の男だ。精悍な顔立ちに、細いサングラスをかけている。彼の脇には一振りの刀が立てかけられていた。もう一人は、無駄なく引き締まった身体を持つ銀髪の青年だ。鋭い双眸を持つ顔には、少し影がある。残りの一人は、やや長めの黒髪の青年だった。最も線の細い、柔和な瞳を持つ青年だ。
カウンターの中では、一人の女性が三人に向き合って談笑している。
「やっぱりねぇ。イルゼらしいや」
亜麻色の髪を揺らして、女性、フィオラが笑った。
「もっとも、そのお陰で報酬は上乗せされたんだがな」
溜め息混じりに、サングラスをかけた男、ヴィルノアが呟いた。
「あのままだったら皆殺さなきゃならなくなってたんだから、いいじゃないか」
苦笑しながら、黒髪の青年、イルゼは言った。
「一人で仕事をこなすなと言ってるんだ」
銀髪の青年、レイヴァートがイルゼの頭を軽く小突く。
「でも、イルゼも結構頑固だからね」
フィオラが笑みを深める。
あれから、一年の歳月が流れていた。
秘術書の強奪という大罪を働いたレイヴァートには死刑が下された。秘術書を、公の許可無く扱う事は禁じられている。もしその法を破れば、問答無用で死刑とされていた。だが、レイヴァートは死刑を免れている。
理由はイルゼにある。
フェニックスとドラグーンという、二つの最高位種族の魂が混ざり合った力を持つイルゼに、大陸の政府は目を着けた。政府は、イルゼを特殊機関『グングニール』に勧誘していた。かつて、イクシオ達が三人で構成していた機関に。
イルゼは、『グングニール』に所属する代わりにレイヴァートを自分の片腕として引き取るという条件を出した。そして、もしレイヴァートを死刑にした場合、政府を燃やすと威しもした。
リクシアとの約束を、イルゼは守りたかった。レイヴァートを、彼女の分まで生かしてやりたいと思えたから。
政府は、底知れぬ力を持つイルゼに従う他なかった。
死刑を免れたレイヴァートは、イルゼの申し出を受けた。彼もまた、リクシアから伝えられた言葉で生きる意思を取り戻していた。もう道を踏み外さないと、レイヴァートはイルゼに誓った。
イルゼはガルムからヴィルノアも勧誘し、三人で『グングニール』を再結成したのだ。
一年間、色々あった。だが、今ではレイヴァートも昔のように、笑うようになっている。兄妹の関係もほとんど元通りだ。
「っと、注文取って来るね」
店内に視線を向けたフィオラが、手を挙げる客がいるのを見つけてカウンターから出て行った。
イクシオがいなくなってから、フィオラに戦う力はなくなった。今まではフィオラの中にいたイクシオが『ドライバー』だったために戦えただけだ。イクシオの力がイルゼに移った事で、イルゼは力を増した。だが、代わりにフィオラは力を失った。
彼女は今、食堂の従業員として働いている。
「お客さん困りますよ」
不意に聞こえたフィオラの声に、イルゼは視線を向けた。
数人の客がフィオラの腕を掴んで何事か囁いている。
「ちょっと言ってくる」
イルゼは席を立ち、フィオラの下へ歩いて行った。
「どうかした、フィオラ?」
笑みを浮かべて、イルゼは問う。
「あ、イルゼ……」
フィオラがその名を呟いた瞬間、客が固まった。
顔から血の気が失せ、恐る恐るといった表情でイルゼを見上げる。
「俺の『妻』に何か用ですか?」
イルゼが微笑む。
一年の間に、『グングニール』の三人の名は知れ渡っていた。今や、恐怖や尊敬の対象として挙げられる回数も少なくない。
だから、本人がいる場所で名を出せばほとんどの人は縮み上がる。
「す、すみませんでしたぁ!」
慌てふためく人たちはあっという間に静かになり、フィオラに注文を告げた。
イルゼはあまりこういう方法は好きではなかったが、殴り合いになるよりは幾分かマシだとも思っている。力の使用に対する躊躇いはなくなったが、やはり、イルゼは暴力を好まない。
「もう少し経てば声をかける奴も減るだろう」
カウンターに戻ったフィオラとイルゼに、レイヴァートが呟いた。
「早く子供も見てみたいものだな」
「まるで父親みたいだな」
ヴィルノアの言葉に、レイヴァートが苦笑する。
失礼な、とヴィルノアも笑った。
「食事中、失礼します。イルゼ・トラシナ様」
突然、食堂に一人の男が駆け込んできた。
「何かあったんですか?」
問い質すイルゼに、男が耳打ちする。
内容を聞いて、イルゼは溜め息をついた。
「解りました。準備が済み次第直ぐに行きます」
それだけ告げると、男は大きく一礼して出て行った。
「……仕事?」
「うん、悪いね」
フィオラの問いに、イルゼはどこか申し訳なさそうに笑った。
「俺一人で行って来ようか?」
席を立ったイルゼが尋ねた。
「馬鹿野郎。何のために俺達を引き込んだ」
その言葉を聞いたレイヴァートが席を立ち、イルゼの頭を掌で押さえ付ける。
「俺達も現場に行かないと給料が貰えんからな」
ヴィルノアも立ち上がり、刀を手に呟いた。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
直ぐに帰るよ、そう告げて、イルゼは食堂の出口へと歩き出す。
「行ってらっしゃい」
笑顔で見送るフィオラに、イルゼも笑みを返した。
――終――
後書き
作者:白銀 |
投稿日:2011/09/08 01:52 更新日:2011/09/08 01:52 『双魂の焔龍』の著作権は、すべて作者 白銀様に属します。 |
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