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桜の鬼
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
紅の邂逅 後編
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だいぶ暗くなってきた頃、ようやく桜火は戻ってきた。
「遅かったな」
「すまない。ちょっとこれを取ってたら遅くなった」
と言って担いでいた鹿を下ろす。そしてもう片方の手に抱えていた木の枝を器用に積み上げて火をつける。咲にはどうやってつけたのか見当がつかなかったのが聞くのも躊躇われたので聞かなかった。
鹿もざかざかと皮を剥いで切り分けると、一部を除いてさらに細かくして大きな桜の葉の上においておく。
火の周りに支えを作り、平らな石を乗せる。
「何をするんだ?」
木の枝から降りてきた咲が聞くと、「直火だと焦げるかもしれないから」といって黙々と作業を続ける桜火。
十分に石が熱せられた頃、そこに脂身の多い部分から先に肉を乗せて焼いていく。焼けたらどんどん葉の上に移していき、咲に手渡す。
「塩は一応振ってあるけど足りなかったら自分で振って食べてくれ」
「わかった」
先は一つ頷くと肉を一切れつまみ上げて口に放り込む。噛み砕きながら桜火を見ると鹿の臓物をさっと火で炙ると――驚きな事に素手で――咲と同じように口に放り込む。まだ血の滴る様な状態なのに、だ。
「だ、大丈夫なのか?」
「何が?」
「そんなの生で食べて……腹壊さないか?」
「別に。火を通さなくても十分すぎるくらいうまいぞ」
「えー」
「嘘だと思うなら試してみろ」
「嫌だ」
即答で返され桜火は苦笑する。
「まぁ普通の人間はそれで良いんじゃないか? 別に困らないしな」
「そ、そうだな。一部の肉を除いてめったに生では食べないしな……」
「ま、たくさん食べろ。まだまだある」
「葉っぱが食べたいな」
「葉っぱ?」
「香草かなんかを乗せるともっとうまいと思わないか? 胡桃で餡を作ってかけてもうまそうだし」
「その辺に生えてると思うが……そんなの食べなくても平気だから気にしたことなかったな」
「何食べてたんだお前」
「特に何も」
「はぁ? それでどうやって生きてたんだ」
「いや普通に」
「だからどうやって」
「……あまり食べることを必要としないから……特に困らなかった」
暫く考え込んだ咲は、最後の一切れを飲み込むと桜火に問いかける。
「じゃあ霞を食べるとかいうあれか」
「違う」
「むぅ。違うのか」
その後は他愛のない雑談をしながら夜は更け、桜火は桜の木に飛び乗った。
「桜火?」
「もう遅い。俺は別に良いがお前は寝ない訳にはいかないだろう?」
「……そうだな」
桜火は咲を一つの枝の上に引き上げる。
「ここが一番寝やすい筈だ」
「ん……良いかも」
寝るまで桜火に話しかけていた咲はうつらうつらとし始め、もう殆ど眠ってしまっていた。
ぼんやりと目を開けると桜火が月を見上げていた。折しも今日は満月の夜。月明かりに照らされて先の予想通りとても美しかった。
――綺麗だな……
そんなことを考えているうちに、眠りの淵へと落ちていった。
桜火は、ただ月を見上げ、夜をたゆたう。
「遅かったな」
「すまない。ちょっとこれを取ってたら遅くなった」
と言って担いでいた鹿を下ろす。そしてもう片方の手に抱えていた木の枝を器用に積み上げて火をつける。咲にはどうやってつけたのか見当がつかなかったのが聞くのも躊躇われたので聞かなかった。
鹿もざかざかと皮を剥いで切り分けると、一部を除いてさらに細かくして大きな桜の葉の上においておく。
火の周りに支えを作り、平らな石を乗せる。
「何をするんだ?」
木の枝から降りてきた咲が聞くと、「直火だと焦げるかもしれないから」といって黙々と作業を続ける桜火。
十分に石が熱せられた頃、そこに脂身の多い部分から先に肉を乗せて焼いていく。焼けたらどんどん葉の上に移していき、咲に手渡す。
「塩は一応振ってあるけど足りなかったら自分で振って食べてくれ」
「わかった」
先は一つ頷くと肉を一切れつまみ上げて口に放り込む。噛み砕きながら桜火を見ると鹿の臓物をさっと火で炙ると――驚きな事に素手で――咲と同じように口に放り込む。まだ血の滴る様な状態なのに、だ。
「だ、大丈夫なのか?」
「何が?」
「そんなの生で食べて……腹壊さないか?」
「別に。火を通さなくても十分すぎるくらいうまいぞ」
「えー」
「嘘だと思うなら試してみろ」
「嫌だ」
即答で返され桜火は苦笑する。
「まぁ普通の人間はそれで良いんじゃないか? 別に困らないしな」
「そ、そうだな。一部の肉を除いてめったに生では食べないしな……」
「ま、たくさん食べろ。まだまだある」
「葉っぱが食べたいな」
「葉っぱ?」
「香草かなんかを乗せるともっとうまいと思わないか? 胡桃で餡を作ってかけてもうまそうだし」
「その辺に生えてると思うが……そんなの食べなくても平気だから気にしたことなかったな」
「何食べてたんだお前」
「特に何も」
「はぁ? それでどうやって生きてたんだ」
「いや普通に」
「だからどうやって」
「……あまり食べることを必要としないから……特に困らなかった」
暫く考え込んだ咲は、最後の一切れを飲み込むと桜火に問いかける。
「じゃあ霞を食べるとかいうあれか」
「違う」
「むぅ。違うのか」
その後は他愛のない雑談をしながら夜は更け、桜火は桜の木に飛び乗った。
「桜火?」
「もう遅い。俺は別に良いがお前は寝ない訳にはいかないだろう?」
「……そうだな」
桜火は咲を一つの枝の上に引き上げる。
「ここが一番寝やすい筈だ」
「ん……良いかも」
寝るまで桜火に話しかけていた咲はうつらうつらとし始め、もう殆ど眠ってしまっていた。
ぼんやりと目を開けると桜火が月を見上げていた。折しも今日は満月の夜。月明かりに照らされて先の予想通りとても美しかった。
――綺麗だな……
そんなことを考えているうちに、眠りの淵へと落ちていった。
桜火は、ただ月を見上げ、夜をたゆたう。
後書き
作者:久遠 |
投稿日:2009/12/12 21:13 更新日:2010/01/21 17:03 『桜の鬼』の著作権は、すべて作者 久遠様に属します。 |
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