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Verdecken Reich
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
第1章 第4節 亡霊の正体
前の話 | 目次 | 次の話 |
1
下の階に下りてきた理佳たちは、片っ端から部屋をまわっていった。一度探索した階なので道に迷うことはなかったが、どうも様子がおかしい。先ほどまわった時よりも空かない部屋が多い・・・というより、まだ一つも扉が空く部屋に遭遇していない。
「・・・ここも開かないようですね」
「うん、最初に来たときには開いてたはずだけど・・・」
鍵のかかった扉のノブを回しながら二人は首を捻っていた。しかし一方で、この事実ともう一つの事実が理佳の疑念を強くしていた。
(下の階に下りてからまたお姉ちゃんたちの気配が遠ざかった。これはやっぱり・・・)
その疑念を持ちつつも、理佳は進むのをやめなかった。はぐれてしまった姉たちの方は、必ずとはいえないがこれ以上危害が加えられることはもうないだろう。ならば、この先に進み残った謎を解くことを優先しよう。そして、ようやく鍵の開いた部屋を見つけた。
「ここは確か、大きな鏡が飾ってあった部屋ですね」
「お姉ちゃんが『贅沢な鏡だ』って言ってたよね」
そのときの姉の言葉を思い出し、小さく笑いながら理佳は扉を開けた。部屋の中は、最初に入った時と変わり映えはしないように見えた。しかし、唯一空いていた部屋なので一応中に入って確認をする。すると、すぐに先ほどとは違う、奇妙な異変があった。
「おや、私たちの姿が鏡に映っていませんね・・・?」
「あれ、でも最初に来たときは普通に映ってたよね?」
鏡は部屋の風景は正確に映しているのに、どういうわけか理佳たちの姿だけが映し出されていなかった。
「通常、特定のものだけが映らない鏡などないはずですが・・・」
「普通の鏡じゃないってこと?」
識海は、自分の中にある膨大な知識から条件に合うようなものがないか検索をかけていた。
「・・・マジックミラーというものがありますが、あれの特性は今回のケースには合致しませんね」
「じゃあそれ以外のもの・・・?」
「鏡に何か特殊な細工がしてあるという可能性もありますが、そうでなければ鏡以外のものということになりますね」
理佳も識海の口にした知識を材料にいろいろと考えをめぐらせる。実は、理佳にはもう一つ思案の材料となることがあった。それは、鏡の向こうから感じる正体不明の気配。最初に感じたのは手前の部屋を通った時だが、鍵が開かなかったので無理にその部屋を確認することはなかった。だが、その気配の正体は以外にも向こうから姿を現した。
「・・・あれ、鏡の向こうで何か・・・?」
「えっ?
思案の最中、理佳は鏡に映った家具の影になにか蠢くものを見つけた。そしてそれは、すぐに明らかとなった。
「・・えっ!? ああっ!!」
「これは・・・!」
それは、1人の少女だった。金髪蒼眼で、髪の一部をリボンでくくりサイドテールにした10歳くらいの小さな女の子が、鏡の中の家具の影からあちらの扉へと一目散に飛び出した。そして、鍵を開けそのまま扉の向こうへと消えていった。その後、なぜか廊下の方から何かが走るような物音がしたかと思うと、どんどん遠ざかっていった。
「そうか、そういうことだったんだ・・・!」
あまりにも奇怪な出来事だったが、逆にそれが理佳を真実へといざなった。
「識海さん、行こう!」
「・・・はい!」
識海にはまだその全貌を一望することができていなかったが、何の迷いもなくこの部屋から急ぎ出ようとする理佳の言葉に従った。
2
二人が部屋から出ると、その目に飛び込んできたのは開いたままになっている1つ手前の部屋の扉だった。そして、さらに先ほど鏡の中にいた少女が廊下の先へと消えていくのが見えた。
「これは・・・!」
これらの光景から、ようやく識海にもあの鏡の謎が解けたようだった。あの部屋の家具は奥の部屋から見て鏡映しになるように配置されていて、その家具の影からに潜んでいた彼女は、そのまま自分のいた部屋から外へと飛び出したのだ。つまり、奥の部屋の『鏡』は実際にはただの『ガラス』だったのだ。
(なるほど・・・、・・・しかし)
識海にはまだ分からないことがあった。だが、今それを理佳に聞いていては、走り去る謎の少女を見失ってしまうかもしれない。なので今は黙って理佳の後ろをついて走ることにした。そして、少女を追ううちに理佳たちはエントランスホールに出た。
「ここまで戻ってきてしまいましたか。あの少女はどこへ・・・?」
「・・・! あそこ!」
理佳がホールの1階の中央を指す。そこには、奥へと続く廊下へと消えていく少女の姿があった。
「それにしても、こんなところまで同じようにしてあるなんて・・・」
「どういうことですか?」
識海は、少女を追いながら理佳がポツリと漏らした言葉の意味を尋ねた。すると、理佳が走り行く少女を見失いように注意を向けながら語りだした。
「実は今、お姉ちゃんたちの気配はここよりもずっと上から感じるんだ」
理佳の言わんとすることはこうだ。3階の最後の部屋で落ちてきたシャンデリアを避け、部屋に飛び出した後に屋敷がずしんと揺れた際、瑛真たちの気配が上へと移動した。いや、実際には瑛真たちが移動したのではなく自分たちが下に移動した。その証拠に、その後の3階の光景が少し薄暗くなって見えている。これは、自分たちが3階から地下へと移動したせいではないか。おまけに、そこから下の階へと降りると同時に瑛真たちの気配が上へ遠ざかった。屋敷が揺れた後、再び扉を開いた時に瑛真たちの姿がなかったのは当然だった。なぜならそこは、実際にはさっきまで自分たちが探索してた部屋とは違う場所だったのだから。
「・・・それなら、先ほど私が抱いた疑問も解消されます」
「えっ?」
識海が抱いた疑問、それは『なぜ最初にあの大鏡のある部屋を探索した時は、鏡に自分たちの姿が移ったのか』だった。しかし、理佳の言うことが真実なら、その謎は簡単に解ける。最初に訪れた2階の奥の部屋に飾ってあったのは本物の鏡だが、のちに『同じ2階の奥の部屋』と思って入った部屋ではただのガラスが張ってあるだけであり、手前の部屋の家具の配置によって『鏡に映ってるように見えただけ』だった。どちらの階でも手前の部屋の鍵はかかっていたので、同じように作ってある二つの階の同じ位置に当る部屋の様相が違うとは誰も夢には思わないだろう。
「! あそこの部屋!」
「はいっ」
理佳たちは、少女が入った時に開きっぱなしになっている扉の部屋に飛び込んだ。その部屋の奥には、さらに下の階へと繋がる下り階段が口を開いていた。
「どうやら少女はこの先へと入っていったようですね」
「うん、あの子の気配もこの下へ続いてるよ。・・・行こう!」
こうして、理佳たちは意を決してさらに下へと続く階段を下っていった。
3
階段を降りきると広いホールへと出た。上にあるエントランスホールとは少し形式が違っているようで、奥行きがあるそのホールからはいくつかの部屋に繋がる扉が見られた。
「またホールへと出ましたね。・・・それにしても、あの少女はどこへ」
ホールには少女の姿はなかった。ひょっとすると、どこかの部屋に入ったのかもしれない。二人はあたりに気をつけながらゆっくりと進んでいく。
「「っ!!」」
「!?」
それは、一瞬の出来事だった。少女は二人の背後の柱の影、しかも上部の方から飛び出してきた。右手にはしっかりとナイフが構えられており、識海をめがけて勢いよく突っ込んでくる。しかし、理佳が瞬時に割って入り、手に握られたナイフを蹴りはじいた。それでも少女は受身を取りつつ二人とすれ違い、反対側で二人と相対した。識海のみ状況の把握がわずかに遅れた。
「・・・っ」
少女はしばらく悔しそうに表情をゆがめて警戒態勢をとっていたが、やがて息を大きく吐き、警戒を解いた。
「私は、ここの番人。・・・本当は、貴方だけに用があったんだけど」
番人を名乗る少女は、そう言って理佳の方を見た。
「・・・だから識海さんを殺そうとしたの?」
「邪魔だからといって気軽に殺そうとされては困りますが」
「私は番人だから。それに、余計な人間は殺せと言い聞かされてるから」
危なく殺されるところだった識海は、殺害未遂の理由に文句を言う。しかし、彼女は悪びれる様子もなく、両手を軽く挙げてそう言った。
「誰に?」
「私は先代から、先代は先々代、先々代はそのまた先代から。そして、元をたどれば、私たちの一族はこの国からそうしろと命じられているから」
「この国から・・・ですか?」
識海の質問に「そう」と被りを振って答える少女。そしてさらに続ける。
「私たちの一族は、約1世紀も前にこの国からこの屋敷の警護を任された。その時、『この屋敷に入ったものは全て消すように』と言われたようだ。だから、私たちの一族はこの約1世紀の間、この屋敷に入り込んだものを、この屋敷の仕掛けを駆使し、一人残らず排除してきた」
『レイヒ・ヒルムフィヒテの亡霊屋敷』に踏み込んだものは誰一人帰ってこなかったと言う逸話は、彼女の一族の暗躍によって発生したものだったようだ。彼女の言うことが本当なら、この屋敷での行方不明者は全て彼女たちに殺されていたと言うことになる。
「しかし、私たちにはもう一つの使命があった。私たちが侵入者を殺せと命じられていたのは、この屋敷に隠されたあるものを守るためだった。そして、いつか『ある人間』がここを訪れた時は、その者にここで守ってきたものを託せと言い伝えられている」
そこまで説明すると、少女は再び大きく息を吐き、そして理佳にこう尋ねた。
「あなたの、名前は」
「・・・鉤成・・・理佳」
「鉤成・・・。・・・そうか、やっぱり貴方がそうだったか」
理佳の名前を聞いた少女は、目をつぶり感慨深げにそう言った。その顔にはどこか達成感がにじみ出てるような感じがした。
「それで、彼と一緒にいる貴女は?」
「名前を聞くのなら、まずそっちが名乗ってください」
「・・・『番人』、私の名前はそれで十分。先代も先代も先々代もそのまた先代も、ずっとそう名乗ってきたから」
「・・・。私は、満上識海といいます」
「満上家・・・というと、貴女は『満上家の超人』なの?」
「ええ、そう呼ばれることもありますね」
満上家の女性は、生まれつき並外れた才能を持って生まれるとされている。識海も『満上家の超人』と呼ばれる者で、自室の書物をはじめとした幾多の書物の知識を全てその頭に蓄積させている。
「それで、『満上家の超人』がどうして彼と行動を?」
「素敵な巡り会わせがありまして、それ以来こうして彼と仲良くさせていただいているのです」
「そう・・・」
識海の返答を聞いた少女は、短くそう呟くと、ホールの奥へと進んでいく。
「それなら、貴方たち二人にあれを託すわ。使命からすれば、貴方にだけ託すべきなんでしょうけど、どうやらその方がよりいい結果を招く気がする」
そう言い終わると、少女はホールの一番奥の部屋の扉を開けた。その先には大仰な部屋の仕掛けで厳重に守られている、一冊の本があった。少女は、部屋の防御装置を時間をかけて解除した後、台に置かれた一冊の本を理佳に手渡した。
「これで、約1世紀も続いた私の使命は果たされた。それが貴方たちにとっていいものを招く結果となることを・・・」
「うん、ありがとう。・・・それと、僕が今日来ることで君の一族・・・しいては君を約1世紀も縛り続けてきた使命から解放できたことを、嬉しく思う」
「理佳・・・」
理佳が穏やかな声で言ったその一言が、何の救いもない使命に縛られた彼女を本当の意味で解放するに至ったようだ。少女は、初めて全てから解放されたような面持ちで、理佳の名を呼んだ。
こうして『番人』から本を託された理佳たちは、ここを立ち去ろうとする。だが、理佳は階段を上る前に一度止まり、怪訝そうな顔で辺りをきょろきょろと見回すが、やがて得心の行かないように首をかしげつつも、階段を上っていった。
下の階に下りてきた理佳たちは、片っ端から部屋をまわっていった。一度探索した階なので道に迷うことはなかったが、どうも様子がおかしい。先ほどまわった時よりも空かない部屋が多い・・・というより、まだ一つも扉が空く部屋に遭遇していない。
「・・・ここも開かないようですね」
「うん、最初に来たときには開いてたはずだけど・・・」
鍵のかかった扉のノブを回しながら二人は首を捻っていた。しかし一方で、この事実ともう一つの事実が理佳の疑念を強くしていた。
(下の階に下りてからまたお姉ちゃんたちの気配が遠ざかった。これはやっぱり・・・)
その疑念を持ちつつも、理佳は進むのをやめなかった。はぐれてしまった姉たちの方は、必ずとはいえないがこれ以上危害が加えられることはもうないだろう。ならば、この先に進み残った謎を解くことを優先しよう。そして、ようやく鍵の開いた部屋を見つけた。
「ここは確か、大きな鏡が飾ってあった部屋ですね」
「お姉ちゃんが『贅沢な鏡だ』って言ってたよね」
そのときの姉の言葉を思い出し、小さく笑いながら理佳は扉を開けた。部屋の中は、最初に入った時と変わり映えはしないように見えた。しかし、唯一空いていた部屋なので一応中に入って確認をする。すると、すぐに先ほどとは違う、奇妙な異変があった。
「おや、私たちの姿が鏡に映っていませんね・・・?」
「あれ、でも最初に来たときは普通に映ってたよね?」
鏡は部屋の風景は正確に映しているのに、どういうわけか理佳たちの姿だけが映し出されていなかった。
「通常、特定のものだけが映らない鏡などないはずですが・・・」
「普通の鏡じゃないってこと?」
識海は、自分の中にある膨大な知識から条件に合うようなものがないか検索をかけていた。
「・・・マジックミラーというものがありますが、あれの特性は今回のケースには合致しませんね」
「じゃあそれ以外のもの・・・?」
「鏡に何か特殊な細工がしてあるという可能性もありますが、そうでなければ鏡以外のものということになりますね」
理佳も識海の口にした知識を材料にいろいろと考えをめぐらせる。実は、理佳にはもう一つ思案の材料となることがあった。それは、鏡の向こうから感じる正体不明の気配。最初に感じたのは手前の部屋を通った時だが、鍵が開かなかったので無理にその部屋を確認することはなかった。だが、その気配の正体は以外にも向こうから姿を現した。
「・・・あれ、鏡の向こうで何か・・・?」
「えっ?
思案の最中、理佳は鏡に映った家具の影になにか蠢くものを見つけた。そしてそれは、すぐに明らかとなった。
「・・えっ!? ああっ!!」
「これは・・・!」
それは、1人の少女だった。金髪蒼眼で、髪の一部をリボンでくくりサイドテールにした10歳くらいの小さな女の子が、鏡の中の家具の影からあちらの扉へと一目散に飛び出した。そして、鍵を開けそのまま扉の向こうへと消えていった。その後、なぜか廊下の方から何かが走るような物音がしたかと思うと、どんどん遠ざかっていった。
「そうか、そういうことだったんだ・・・!」
あまりにも奇怪な出来事だったが、逆にそれが理佳を真実へといざなった。
「識海さん、行こう!」
「・・・はい!」
識海にはまだその全貌を一望することができていなかったが、何の迷いもなくこの部屋から急ぎ出ようとする理佳の言葉に従った。
2
二人が部屋から出ると、その目に飛び込んできたのは開いたままになっている1つ手前の部屋の扉だった。そして、さらに先ほど鏡の中にいた少女が廊下の先へと消えていくのが見えた。
「これは・・・!」
これらの光景から、ようやく識海にもあの鏡の謎が解けたようだった。あの部屋の家具は奥の部屋から見て鏡映しになるように配置されていて、その家具の影からに潜んでいた彼女は、そのまま自分のいた部屋から外へと飛び出したのだ。つまり、奥の部屋の『鏡』は実際にはただの『ガラス』だったのだ。
(なるほど・・・、・・・しかし)
識海にはまだ分からないことがあった。だが、今それを理佳に聞いていては、走り去る謎の少女を見失ってしまうかもしれない。なので今は黙って理佳の後ろをついて走ることにした。そして、少女を追ううちに理佳たちはエントランスホールに出た。
「ここまで戻ってきてしまいましたか。あの少女はどこへ・・・?」
「・・・! あそこ!」
理佳がホールの1階の中央を指す。そこには、奥へと続く廊下へと消えていく少女の姿があった。
「それにしても、こんなところまで同じようにしてあるなんて・・・」
「どういうことですか?」
識海は、少女を追いながら理佳がポツリと漏らした言葉の意味を尋ねた。すると、理佳が走り行く少女を見失いように注意を向けながら語りだした。
「実は今、お姉ちゃんたちの気配はここよりもずっと上から感じるんだ」
理佳の言わんとすることはこうだ。3階の最後の部屋で落ちてきたシャンデリアを避け、部屋に飛び出した後に屋敷がずしんと揺れた際、瑛真たちの気配が上へと移動した。いや、実際には瑛真たちが移動したのではなく自分たちが下に移動した。その証拠に、その後の3階の光景が少し薄暗くなって見えている。これは、自分たちが3階から地下へと移動したせいではないか。おまけに、そこから下の階へと降りると同時に瑛真たちの気配が上へ遠ざかった。屋敷が揺れた後、再び扉を開いた時に瑛真たちの姿がなかったのは当然だった。なぜならそこは、実際にはさっきまで自分たちが探索してた部屋とは違う場所だったのだから。
「・・・それなら、先ほど私が抱いた疑問も解消されます」
「えっ?」
識海が抱いた疑問、それは『なぜ最初にあの大鏡のある部屋を探索した時は、鏡に自分たちの姿が移ったのか』だった。しかし、理佳の言うことが真実なら、その謎は簡単に解ける。最初に訪れた2階の奥の部屋に飾ってあったのは本物の鏡だが、のちに『同じ2階の奥の部屋』と思って入った部屋ではただのガラスが張ってあるだけであり、手前の部屋の家具の配置によって『鏡に映ってるように見えただけ』だった。どちらの階でも手前の部屋の鍵はかかっていたので、同じように作ってある二つの階の同じ位置に当る部屋の様相が違うとは誰も夢には思わないだろう。
「! あそこの部屋!」
「はいっ」
理佳たちは、少女が入った時に開きっぱなしになっている扉の部屋に飛び込んだ。その部屋の奥には、さらに下の階へと繋がる下り階段が口を開いていた。
「どうやら少女はこの先へと入っていったようですね」
「うん、あの子の気配もこの下へ続いてるよ。・・・行こう!」
こうして、理佳たちは意を決してさらに下へと続く階段を下っていった。
3
階段を降りきると広いホールへと出た。上にあるエントランスホールとは少し形式が違っているようで、奥行きがあるそのホールからはいくつかの部屋に繋がる扉が見られた。
「またホールへと出ましたね。・・・それにしても、あの少女はどこへ」
ホールには少女の姿はなかった。ひょっとすると、どこかの部屋に入ったのかもしれない。二人はあたりに気をつけながらゆっくりと進んでいく。
「「っ!!」」
「!?」
それは、一瞬の出来事だった。少女は二人の背後の柱の影、しかも上部の方から飛び出してきた。右手にはしっかりとナイフが構えられており、識海をめがけて勢いよく突っ込んでくる。しかし、理佳が瞬時に割って入り、手に握られたナイフを蹴りはじいた。それでも少女は受身を取りつつ二人とすれ違い、反対側で二人と相対した。識海のみ状況の把握がわずかに遅れた。
「・・・っ」
少女はしばらく悔しそうに表情をゆがめて警戒態勢をとっていたが、やがて息を大きく吐き、警戒を解いた。
「私は、ここの番人。・・・本当は、貴方だけに用があったんだけど」
番人を名乗る少女は、そう言って理佳の方を見た。
「・・・だから識海さんを殺そうとしたの?」
「邪魔だからといって気軽に殺そうとされては困りますが」
「私は番人だから。それに、余計な人間は殺せと言い聞かされてるから」
危なく殺されるところだった識海は、殺害未遂の理由に文句を言う。しかし、彼女は悪びれる様子もなく、両手を軽く挙げてそう言った。
「誰に?」
「私は先代から、先代は先々代、先々代はそのまた先代から。そして、元をたどれば、私たちの一族はこの国からそうしろと命じられているから」
「この国から・・・ですか?」
識海の質問に「そう」と被りを振って答える少女。そしてさらに続ける。
「私たちの一族は、約1世紀も前にこの国からこの屋敷の警護を任された。その時、『この屋敷に入ったものは全て消すように』と言われたようだ。だから、私たちの一族はこの約1世紀の間、この屋敷に入り込んだものを、この屋敷の仕掛けを駆使し、一人残らず排除してきた」
『レイヒ・ヒルムフィヒテの亡霊屋敷』に踏み込んだものは誰一人帰ってこなかったと言う逸話は、彼女の一族の暗躍によって発生したものだったようだ。彼女の言うことが本当なら、この屋敷での行方不明者は全て彼女たちに殺されていたと言うことになる。
「しかし、私たちにはもう一つの使命があった。私たちが侵入者を殺せと命じられていたのは、この屋敷に隠されたあるものを守るためだった。そして、いつか『ある人間』がここを訪れた時は、その者にここで守ってきたものを託せと言い伝えられている」
そこまで説明すると、少女は再び大きく息を吐き、そして理佳にこう尋ねた。
「あなたの、名前は」
「・・・鉤成・・・理佳」
「鉤成・・・。・・・そうか、やっぱり貴方がそうだったか」
理佳の名前を聞いた少女は、目をつぶり感慨深げにそう言った。その顔にはどこか達成感がにじみ出てるような感じがした。
「それで、彼と一緒にいる貴女は?」
「名前を聞くのなら、まずそっちが名乗ってください」
「・・・『番人』、私の名前はそれで十分。先代も先代も先々代もそのまた先代も、ずっとそう名乗ってきたから」
「・・・。私は、満上識海といいます」
「満上家・・・というと、貴女は『満上家の超人』なの?」
「ええ、そう呼ばれることもありますね」
満上家の女性は、生まれつき並外れた才能を持って生まれるとされている。識海も『満上家の超人』と呼ばれる者で、自室の書物をはじめとした幾多の書物の知識を全てその頭に蓄積させている。
「それで、『満上家の超人』がどうして彼と行動を?」
「素敵な巡り会わせがありまして、それ以来こうして彼と仲良くさせていただいているのです」
「そう・・・」
識海の返答を聞いた少女は、短くそう呟くと、ホールの奥へと進んでいく。
「それなら、貴方たち二人にあれを託すわ。使命からすれば、貴方にだけ託すべきなんでしょうけど、どうやらその方がよりいい結果を招く気がする」
そう言い終わると、少女はホールの一番奥の部屋の扉を開けた。その先には大仰な部屋の仕掛けで厳重に守られている、一冊の本があった。少女は、部屋の防御装置を時間をかけて解除した後、台に置かれた一冊の本を理佳に手渡した。
「これで、約1世紀も続いた私の使命は果たされた。それが貴方たちにとっていいものを招く結果となることを・・・」
「うん、ありがとう。・・・それと、僕が今日来ることで君の一族・・・しいては君を約1世紀も縛り続けてきた使命から解放できたことを、嬉しく思う」
「理佳・・・」
理佳が穏やかな声で言ったその一言が、何の救いもない使命に縛られた彼女を本当の意味で解放するに至ったようだ。少女は、初めて全てから解放されたような面持ちで、理佳の名を呼んだ。
こうして『番人』から本を託された理佳たちは、ここを立ち去ろうとする。だが、理佳は階段を上る前に一度止まり、怪訝そうな顔で辺りをきょろきょろと見回すが、やがて得心の行かないように首をかしげつつも、階段を上っていった。
後書き
作者:風太 |
投稿日:2012/07/19 15:07 更新日:2012/07/19 15:07 『Verdecken Reich』の著作権は、すべて作者 風太様に属します。 |
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