作品ID:1215
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公園
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
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目次 |
西日はいつもよりぎらついて僕と公園を照らし、僕らは影を伸ばす。それは実際の自分よりとても長くて、いつかテレビで聞いた、背が高い方がもてるという芸能人の話を思い出して、なんだかかっこよくなった気分だった。でもそれは公園も同じで、いつも僕と同じくらいの高さの鉄棒も、僕と同じくらいかっこよくなっていた。
「おぉい。帰るぞぉ。」
遠くでおじいちゃんが、がらがら声で呼ぶ声が聞こえる。その声に公園の中心にある時計台を見た。四時五十四分。もう少しで家に帰らなきゃいけない時間になる。もうみんなも家に帰ってしまった。『門限五時』というのは、五時まで遊んでて良いよということではないことを、最近知った。
僕はもう少し遊びたい気持ちを抑え、出口に向かって歩き出した。
その時、視界の端に人影をとらえた。
少し驚いてその方向を見ると、その人はいくつもの木の陰に隠れてしまっている、目立たない木の横に立ってずっとこっちを見ていた。横には『ミカン』と書かれた小さな木箱が逆さにおかれている。会社帰りだろうか。いつもお父さんが来ているようなぴっしりとしたスーツを身につけている。たぶん男の人だ。少し不気味で、それでいて僕はそれを少しおもしろく思った。
「・・・。」
しばらく見つめあっていても、その人影は動かない。ずっと、微笑んでいるのか無表情なのか分からない、端的に言うと奇妙な表情で僕のことを見つめている。幽霊みたいだ。よし、心の中で幽霊と呼ぶことにしよう。
「こんにちは。」
知らない人に話しかけられても、相手をしてはいけないと言うけれど、挨拶はしろという。結局どっちなのだろうという疑問が最近頭に浮かんでいるが、とりあえず良い小学生の模範的存在として、挨拶をしてみた。
「・・・。」
それでも、幽霊は挨拶を返さず、ずっと僕を見ている。
それならばと、僕は幽霊に近づいてみることにした。少し不気味だったけれど、それ以上に興味があった。僕には、『好奇心』というやつがあると思う。
一歩、また一歩と近づく。そのうち周りの木の陰が、僕の影を隠す。木は僕よりイケメンらしい。そのまま一番奥の、幽霊が立っている木から一メートルくらいの所までたどり着いた。
しかし僕は、そこから先に行けなかった。別に怖かったわけではない。足は震えていたけど、怖かったわけではない。
そこで犬がおしっこをした形跡があった。ここ一週間雨など降っていないのに、地面と木の根っこが濡れていたし、何より、独特のにおいがした。おまけに、公園の裏の下田さんの庭の柿が腐っていて、酸っぱいようなにおいが混ざっている。
明日もこの靴を履いて学校に行くのだ。学校で『おしっこマン』とか平明なあだ名を付けられたくない。
そういえば、最近この周辺で野良犬が増えている。近所の人が言うには、誰かが飼い犬を捨てているらしい。それがこの公園に住み着いているという話も聞いた。
そこで僕は、横の木箱を見る。そして、幽霊を見る。
もしかしてと思って木箱を逆さにし、中をのぞいてみるが、そこには茶色い封筒が一枚入っているだけだった。それも気になったけれど、やっぱり人の手紙を見るのはいけないと思った。僕は好奇心旺盛であり、小学生の模範でもあるのだ。もう幽霊だから人じゃないけど。
「おぉい。ケンちゃぁん。」
そこで、再びがらがら声が聞こえた。しまった。すっかり時間のことを忘れてしまっていた。ここからは時計台は見えないが、絶対に五時を過ぎているだろう。
急いで駆けようとして、振り返った。帰るときも挨拶をしないと。
「あの。さようなら。幽霊。」
頭を下げて挨拶をする。完璧だ。そう思って頭を上げた。
初めて、男の人が笑った。
気のせいかもしれない。幽霊だし、そのすぐ後には、またあの奇妙な表情に戻っていたから。でも、確かに笑ったようなきがした。
人に挨拶をすることって、自分も嬉しくなるんだ。こうやって、笑い返してくれる。だから僕は、挨拶が大好きだ。他人と自分が近くなる。少しの間でも、言葉でつながることが出来る。それは友達とのわだかまりを消して、近所の人との沈黙を蹴破って、家族の中の冷えた感情を暖める。何より、自分の言葉に、応えてくれる・・・。
僕は幽霊に手を振って、出口に向かった。晴れやかな気分だった。また、あの幽霊に会えたらいいなと思った。その時は、挨拶を返してくれると良いな。
途中、後ろで縄の軋むような変な音が聞こえたけど、ブランコの揺れる音だと思った。
「おぉい。帰るぞぉ。」
遠くでおじいちゃんが、がらがら声で呼ぶ声が聞こえる。その声に公園の中心にある時計台を見た。四時五十四分。もう少しで家に帰らなきゃいけない時間になる。もうみんなも家に帰ってしまった。『門限五時』というのは、五時まで遊んでて良いよということではないことを、最近知った。
僕はもう少し遊びたい気持ちを抑え、出口に向かって歩き出した。
その時、視界の端に人影をとらえた。
少し驚いてその方向を見ると、その人はいくつもの木の陰に隠れてしまっている、目立たない木の横に立ってずっとこっちを見ていた。横には『ミカン』と書かれた小さな木箱が逆さにおかれている。会社帰りだろうか。いつもお父さんが来ているようなぴっしりとしたスーツを身につけている。たぶん男の人だ。少し不気味で、それでいて僕はそれを少しおもしろく思った。
「・・・。」
しばらく見つめあっていても、その人影は動かない。ずっと、微笑んでいるのか無表情なのか分からない、端的に言うと奇妙な表情で僕のことを見つめている。幽霊みたいだ。よし、心の中で幽霊と呼ぶことにしよう。
「こんにちは。」
知らない人に話しかけられても、相手をしてはいけないと言うけれど、挨拶はしろという。結局どっちなのだろうという疑問が最近頭に浮かんでいるが、とりあえず良い小学生の模範的存在として、挨拶をしてみた。
「・・・。」
それでも、幽霊は挨拶を返さず、ずっと僕を見ている。
それならばと、僕は幽霊に近づいてみることにした。少し不気味だったけれど、それ以上に興味があった。僕には、『好奇心』というやつがあると思う。
一歩、また一歩と近づく。そのうち周りの木の陰が、僕の影を隠す。木は僕よりイケメンらしい。そのまま一番奥の、幽霊が立っている木から一メートルくらいの所までたどり着いた。
しかし僕は、そこから先に行けなかった。別に怖かったわけではない。足は震えていたけど、怖かったわけではない。
そこで犬がおしっこをした形跡があった。ここ一週間雨など降っていないのに、地面と木の根っこが濡れていたし、何より、独特のにおいがした。おまけに、公園の裏の下田さんの庭の柿が腐っていて、酸っぱいようなにおいが混ざっている。
明日もこの靴を履いて学校に行くのだ。学校で『おしっこマン』とか平明なあだ名を付けられたくない。
そういえば、最近この周辺で野良犬が増えている。近所の人が言うには、誰かが飼い犬を捨てているらしい。それがこの公園に住み着いているという話も聞いた。
そこで僕は、横の木箱を見る。そして、幽霊を見る。
もしかしてと思って木箱を逆さにし、中をのぞいてみるが、そこには茶色い封筒が一枚入っているだけだった。それも気になったけれど、やっぱり人の手紙を見るのはいけないと思った。僕は好奇心旺盛であり、小学生の模範でもあるのだ。もう幽霊だから人じゃないけど。
「おぉい。ケンちゃぁん。」
そこで、再びがらがら声が聞こえた。しまった。すっかり時間のことを忘れてしまっていた。ここからは時計台は見えないが、絶対に五時を過ぎているだろう。
急いで駆けようとして、振り返った。帰るときも挨拶をしないと。
「あの。さようなら。幽霊。」
頭を下げて挨拶をする。完璧だ。そう思って頭を上げた。
初めて、男の人が笑った。
気のせいかもしれない。幽霊だし、そのすぐ後には、またあの奇妙な表情に戻っていたから。でも、確かに笑ったようなきがした。
人に挨拶をすることって、自分も嬉しくなるんだ。こうやって、笑い返してくれる。だから僕は、挨拶が大好きだ。他人と自分が近くなる。少しの間でも、言葉でつながることが出来る。それは友達とのわだかまりを消して、近所の人との沈黙を蹴破って、家族の中の冷えた感情を暖める。何より、自分の言葉に、応えてくれる・・・。
僕は幽霊に手を振って、出口に向かった。晴れやかな気分だった。また、あの幽霊に会えたらいいなと思った。その時は、挨拶を返してくれると良いな。
途中、後ろで縄の軋むような変な音が聞こえたけど、ブランコの揺れる音だと思った。
後書き
作者:ロシェン |
投稿日:2012/10/20 22:32 更新日:2012/10/20 23:31 『公園』の著作権は、すべて作者 ロシェン様に属します。 |
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