作品ID:1256
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さよならメモリー
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
2 ○月×日 午後
前の話 | 目次 | 次の話 |
僕には、人間と比較して、特に秀でた能力があるわけではない。
そもそも”人のように”が大前提なので、空中飛行やレーザー光線発射のような目立つ機能なんてないし、運動神経も10代後半の男子の平均的なものしか与えられていない。
ロボットだとしても、僕はほんとうに人ととても近くつくられた存在だった。
現在通っている学校に到着した。教室の前に立つと、僕を感知して自動でドアが開く。
すでに教室内にいた何人かのクラスメートが僕に気づいて挨拶をした。僕も挨拶を返しながら、自分の席に歩を進める。
鞄を机に置いた途端、隣の席にいた男子生徒に声をかけられた。瞬時に記憶と照らし合わせて、彼が田中くんだと判断する。
田中くんは両手を顔の前で合わせて、僕に宿題を見せて欲しいと頼んだ。ウインクをして舌を出しながらというそのボディランゲージはよく分からない。
断る理由もないので空中にウィンドウを出して昨日の宿題のデータの部分を彼のウィンドウに転送する。
「ありがとー」と明るいが間延びした口調で田中くんが言ったところで、担任の教師が入ってきて、会話は終了した。
教師の声と前方の巨大スクリーンを見ながら、個々のウィンドウに指でタッチして内容を書き留めるだけの授業。
退屈だと思うわけではないが、面白いとも感じなかった。
僕はこの高校では2ヶ月前にきた転入生である。前はもっと遠くのマンションに住み遠くの高校に通っていたが、1年が過ぎた頃研究者たちにここに越すように指示された。体つきの変化が全くない僕と何年も過ごさせると、ロボットだとばれやすいからかもしれない。
しかし「さぁ次だ」とくるくると居場所をかえられると、「さぁ次だ」「じゃぁ次だ」と繰り返されて、オワリがないんじゃないかと思わせられる。
実際無いのかもしれない。僕はこのテストのオワリを知らない。何をすれば、または何年続ければ合格なのかも知らなかった。
けれどそれも特にどうでもいいような気がした。続こうと終わろうと、どちらの方がいいのかよく分からないし、今にも未来にも僕は自分にたいした執着はなかった。
流れていくだけ、だ。
放課後に地下研究所に寄った。今日の報告をするためだ。ひたすら真っ白な天井と床と壁が続く廊下をぬけて、同じような扉のなかのひとつを開けると、中には研究者が4人。
僕が起動したときからずっと報告を続けている4人だが、名前はひとりもしらない。研究対象と馴れ合う気はない、とだけ言われたことがある。
4人のなかの1人と向かい合って、いつも通りの質問に答えた。
生活に不祥事はないか、親しく話したか、どんなことを話したか、正体をばらしていないか……。
ほぼすべて「はい」と答えて報告は簡潔に短くまとめた。
僕には嘘をつくということができるのでこの問答にどれほどの意味があるのかは疑問だが、それでもこれが彼らの仕事らしい。
彼らも別に熱心に聞くわけではなく、事務的にきいて、聞き終わればもう用はないという態度をとっていた。いつも忙しそうに振舞っていて、多分僕以外の何体ものロボットにこの意味のなさそうな質問を訊ね続けているんだろうと推測している。
今日も彼らは僕に興味はなさそうで、1度も目の合わないまま僕は部屋から退室した。
研究所を出たあとまっすぐマンションに帰った。空が真っ暗になったとしても、人工の光がいつでも街には溢れかえっているから、この世界は暗くならない。部屋に電気を点ける必要性も感じなくて、そのまま部屋を進んだ。
これからわざわざ食事をとって風呂に入らなければならないと思うと面倒だったが、仕方が無いと割り切った。
僕には、人間と比較して、特に秀でた能力があるわけではない。
ロボットだとしても、僕はほんとうに人ととても近くつくられた存在だった。
ただ、人のようにはできないこともある。
入浴後、背中に収納されたコードをのばして、コンセントに差し込んだ。
目をとじると、今日の記憶と文字が頭の中にあらわれる。
2択の短い文にかかれているのは、「保存」と「消去」。
僕は人のように、自然に忘れるということはできない。なので、僕は自分で忘れるものを選ばなければいけない。
僕が起動して1年ほどが経過したとき、僕のなかのデータが満タンになった。入れられるデータ量には限りがある。
1日をひとまとまりのデータとみなして、1日が終わる夜に、僕は取捨選択をする。
新しい記憶を入れるため、いらないと判断した記憶を消去する。その空きに、新しいデータが入るのだ。
僕は今日もマニュアル通り、消しても日常生活に支障がないとみられる前の学校でのなるべく古い記憶から消去した。今日のデータの、「保存」を選択する。
また新しい記憶がはいった。
昔の記憶が消えた。
だけどやっぱりどうでもいい気がした。
執着は、ない。
そのまま僕は体を仮停止状態にする。
今日が終わる。僕は意識を手放した。
そもそも”人のように”が大前提なので、空中飛行やレーザー光線発射のような目立つ機能なんてないし、運動神経も10代後半の男子の平均的なものしか与えられていない。
ロボットだとしても、僕はほんとうに人ととても近くつくられた存在だった。
現在通っている学校に到着した。教室の前に立つと、僕を感知して自動でドアが開く。
すでに教室内にいた何人かのクラスメートが僕に気づいて挨拶をした。僕も挨拶を返しながら、自分の席に歩を進める。
鞄を机に置いた途端、隣の席にいた男子生徒に声をかけられた。瞬時に記憶と照らし合わせて、彼が田中くんだと判断する。
田中くんは両手を顔の前で合わせて、僕に宿題を見せて欲しいと頼んだ。ウインクをして舌を出しながらというそのボディランゲージはよく分からない。
断る理由もないので空中にウィンドウを出して昨日の宿題のデータの部分を彼のウィンドウに転送する。
「ありがとー」と明るいが間延びした口調で田中くんが言ったところで、担任の教師が入ってきて、会話は終了した。
教師の声と前方の巨大スクリーンを見ながら、個々のウィンドウに指でタッチして内容を書き留めるだけの授業。
退屈だと思うわけではないが、面白いとも感じなかった。
僕はこの高校では2ヶ月前にきた転入生である。前はもっと遠くのマンションに住み遠くの高校に通っていたが、1年が過ぎた頃研究者たちにここに越すように指示された。体つきの変化が全くない僕と何年も過ごさせると、ロボットだとばれやすいからかもしれない。
しかし「さぁ次だ」とくるくると居場所をかえられると、「さぁ次だ」「じゃぁ次だ」と繰り返されて、オワリがないんじゃないかと思わせられる。
実際無いのかもしれない。僕はこのテストのオワリを知らない。何をすれば、または何年続ければ合格なのかも知らなかった。
けれどそれも特にどうでもいいような気がした。続こうと終わろうと、どちらの方がいいのかよく分からないし、今にも未来にも僕は自分にたいした執着はなかった。
流れていくだけ、だ。
放課後に地下研究所に寄った。今日の報告をするためだ。ひたすら真っ白な天井と床と壁が続く廊下をぬけて、同じような扉のなかのひとつを開けると、中には研究者が4人。
僕が起動したときからずっと報告を続けている4人だが、名前はひとりもしらない。研究対象と馴れ合う気はない、とだけ言われたことがある。
4人のなかの1人と向かい合って、いつも通りの質問に答えた。
生活に不祥事はないか、親しく話したか、どんなことを話したか、正体をばらしていないか……。
ほぼすべて「はい」と答えて報告は簡潔に短くまとめた。
僕には嘘をつくということができるのでこの問答にどれほどの意味があるのかは疑問だが、それでもこれが彼らの仕事らしい。
彼らも別に熱心に聞くわけではなく、事務的にきいて、聞き終わればもう用はないという態度をとっていた。いつも忙しそうに振舞っていて、多分僕以外の何体ものロボットにこの意味のなさそうな質問を訊ね続けているんだろうと推測している。
今日も彼らは僕に興味はなさそうで、1度も目の合わないまま僕は部屋から退室した。
研究所を出たあとまっすぐマンションに帰った。空が真っ暗になったとしても、人工の光がいつでも街には溢れかえっているから、この世界は暗くならない。部屋に電気を点ける必要性も感じなくて、そのまま部屋を進んだ。
これからわざわざ食事をとって風呂に入らなければならないと思うと面倒だったが、仕方が無いと割り切った。
僕には、人間と比較して、特に秀でた能力があるわけではない。
ロボットだとしても、僕はほんとうに人ととても近くつくられた存在だった。
ただ、人のようにはできないこともある。
入浴後、背中に収納されたコードをのばして、コンセントに差し込んだ。
目をとじると、今日の記憶と文字が頭の中にあらわれる。
2択の短い文にかかれているのは、「保存」と「消去」。
僕は人のように、自然に忘れるということはできない。なので、僕は自分で忘れるものを選ばなければいけない。
僕が起動して1年ほどが経過したとき、僕のなかのデータが満タンになった。入れられるデータ量には限りがある。
1日をひとまとまりのデータとみなして、1日が終わる夜に、僕は取捨選択をする。
新しい記憶を入れるため、いらないと判断した記憶を消去する。その空きに、新しいデータが入るのだ。
僕は今日もマニュアル通り、消しても日常生活に支障がないとみられる前の学校でのなるべく古い記憶から消去した。今日のデータの、「保存」を選択する。
また新しい記憶がはいった。
昔の記憶が消えた。
だけどやっぱりどうでもいい気がした。
執着は、ない。
そのまま僕は体を仮停止状態にする。
今日が終わる。僕は意識を手放した。
後書き
作者:柑子 |
投稿日:2012/11/13 17:15 更新日:2012/11/13 17:15 『さよならメモリー』の著作権は、すべて作者 柑子様に属します。 |
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