作品ID:1788
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異界の口
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
一章 セイ 十一
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「いやー、危なかった。」
「乗れてよかったね。」
「本当によかったですわ。」
しばらく、この言葉しか、三人の口からは出てこなかった。
ボックス席で向かい合った三人は、周りにはばからずにしゃべっていた。ほとんど乗客はいない。数人いる乗客たちは、こんな時間に子供だけで乗っていることをいぶかしんでいる人もいるらしいが、気がつかないふりをした。
「ところで、君は?」
笑いつくしたあたりで、ホタルが少女を見た。
少女は笑いすぎたのか、目じりの雫をぬぐって、まっすぐにホタルを見た。
二人は、窓側に向かい合って座っている。自分は、荷物と向かい合うように、廊下側。
「はい。居城小夜子と申します。あの学園の生徒ですの。」
「なるほど、同類か。」
ひかえめにおどろいた声をあげる小夜子嬢に、また二人で笑った。
「申し訳ございません。知らなかったので。」
小夜子嬢ははずかしくて顔を隠すように、口元に手を当てた。
上品なお嬢様。
そんなイメージの合う子だった。
「お二人はどこまで?」
「海までです。」
「あら、どこの海ですの?」
彼女に聞かれて、自分とホタルは顔を見合わせた。
はて、どこの海だろうか。
ホタルは小夜子嬢に事のてんまつを語った。彼女はうなずきながら聞いて、ホタルに手紙を見せてくれとせがんだ。ホタルはポケットから手紙を取り出すと、小夜子嬢に渡す。
「……これは、困ってしまいますわね。」
彼女の言葉に、二人でうなずいた。
夜も更けて、話し声はいつの間にか消えていた。ちらりと横を見れば、ホタルが窓枠によりかかり、目をつぶっている。
小夜子嬢は荷物を枕に眠っていた。
朝には、このあたりで一番大きな駅に着く。それだけ時間がかかるということが、学園が山奥にあることを深く実感させてくれる。
自分の実家までは、もう二本、汽車を乗り継いでいく。海に出るには一本乗り換えだけでいい。
そこから先のことは、きっと朝になってからでないとわからない。
「だってこれは、ホタルの旅なんだからな。」
その言葉に答えるように、ホタルの頭が大きく傾いだ。そういえば、ろくにホタルの事を聞かずじまいだった。
朝の光に目を細め、三人で駅に降り立ったときには、駅舎はもう人ごみであふれかえっていた。
ホタルが目をぱちくりとしている。
「はぐれないでくださいね、綾瀬さん。」
「ホタルでいいよ、小夜子さん。」
ホタルの服の袖をつかみ、小夜子嬢は心配そうにホタルを見上げている。学年は同じらしいのだが、自分とほぼ同じ身長のホタルの横に立つと、小夜子嬢はとても小さく見えた。せいぜい我々の肩くらいのところに頭がある。
自分は、周りを見回した。
人しか見えない。立ち止まっている自分たちをいぶかしむように見ていく人もいる。こんな時間に駅に来ることはなかなかないので、自分はまず時刻表を探すことにした。
「ホタル、時間がわかるか?」
「――九時十分だね。」
すばやく懐中時計を出したホタルが言って、心配そうにこちらを見た。
「どうする、セイ。」
「とりあえず動こう。」
自分は、ホタルとの間に小夜子嬢をはさむように歩き始めた。
待合室まで行って、とりあえず二人の位置を確定させてしまおう。
しかし、数歩歩いただけで、自分たちは人の波に飲まれてしまった。
ホームの柱を越えただけでこれだ。果たして、待合室にはいつ着くだろう。
そのとき下のほうから、小夜子嬢の声が聞こえた気がして自分はふっと横を見た。
一瞬、ホタルを見失ったような気がした。
「乗れてよかったね。」
「本当によかったですわ。」
しばらく、この言葉しか、三人の口からは出てこなかった。
ボックス席で向かい合った三人は、周りにはばからずにしゃべっていた。ほとんど乗客はいない。数人いる乗客たちは、こんな時間に子供だけで乗っていることをいぶかしんでいる人もいるらしいが、気がつかないふりをした。
「ところで、君は?」
笑いつくしたあたりで、ホタルが少女を見た。
少女は笑いすぎたのか、目じりの雫をぬぐって、まっすぐにホタルを見た。
二人は、窓側に向かい合って座っている。自分は、荷物と向かい合うように、廊下側。
「はい。居城小夜子と申します。あの学園の生徒ですの。」
「なるほど、同類か。」
ひかえめにおどろいた声をあげる小夜子嬢に、また二人で笑った。
「申し訳ございません。知らなかったので。」
小夜子嬢ははずかしくて顔を隠すように、口元に手を当てた。
上品なお嬢様。
そんなイメージの合う子だった。
「お二人はどこまで?」
「海までです。」
「あら、どこの海ですの?」
彼女に聞かれて、自分とホタルは顔を見合わせた。
はて、どこの海だろうか。
ホタルは小夜子嬢に事のてんまつを語った。彼女はうなずきながら聞いて、ホタルに手紙を見せてくれとせがんだ。ホタルはポケットから手紙を取り出すと、小夜子嬢に渡す。
「……これは、困ってしまいますわね。」
彼女の言葉に、二人でうなずいた。
夜も更けて、話し声はいつの間にか消えていた。ちらりと横を見れば、ホタルが窓枠によりかかり、目をつぶっている。
小夜子嬢は荷物を枕に眠っていた。
朝には、このあたりで一番大きな駅に着く。それだけ時間がかかるということが、学園が山奥にあることを深く実感させてくれる。
自分の実家までは、もう二本、汽車を乗り継いでいく。海に出るには一本乗り換えだけでいい。
そこから先のことは、きっと朝になってからでないとわからない。
「だってこれは、ホタルの旅なんだからな。」
その言葉に答えるように、ホタルの頭が大きく傾いだ。そういえば、ろくにホタルの事を聞かずじまいだった。
朝の光に目を細め、三人で駅に降り立ったときには、駅舎はもう人ごみであふれかえっていた。
ホタルが目をぱちくりとしている。
「はぐれないでくださいね、綾瀬さん。」
「ホタルでいいよ、小夜子さん。」
ホタルの服の袖をつかみ、小夜子嬢は心配そうにホタルを見上げている。学年は同じらしいのだが、自分とほぼ同じ身長のホタルの横に立つと、小夜子嬢はとても小さく見えた。せいぜい我々の肩くらいのところに頭がある。
自分は、周りを見回した。
人しか見えない。立ち止まっている自分たちをいぶかしむように見ていく人もいる。こんな時間に駅に来ることはなかなかないので、自分はまず時刻表を探すことにした。
「ホタル、時間がわかるか?」
「――九時十分だね。」
すばやく懐中時計を出したホタルが言って、心配そうにこちらを見た。
「どうする、セイ。」
「とりあえず動こう。」
自分は、ホタルとの間に小夜子嬢をはさむように歩き始めた。
待合室まで行って、とりあえず二人の位置を確定させてしまおう。
しかし、数歩歩いただけで、自分たちは人の波に飲まれてしまった。
ホームの柱を越えただけでこれだ。果たして、待合室にはいつ着くだろう。
そのとき下のほうから、小夜子嬢の声が聞こえた気がして自分はふっと横を見た。
一瞬、ホタルを見失ったような気がした。
後書き
作者:水沢妃 |
投稿日:2016/08/13 22:07 更新日:2016/08/13 22:07 『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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