作品ID:1799
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異界の口
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結
前書き・紹介
三章 小夜子 一
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私には、隣にいたはずのホタル様がいなくなったように見えました。けれど、それはかん違いだったようです。ホタル様はすぐに姿を見せると、私の肩に少しぶつかりました。
「……びっくりした。」
どこか満足そうな顔は、先ほどの不安に満ちた顔とは違って見えます。ホタル様はすぐに、ポケットから懐中時計を取り出しました。
どうしてでしょう。時間なら、今さっき確認したばかりなのに。
「どうされたのですか。」
見上げると、ホタル様はこちらを見下ろして言いました。
「いいものを見たんだ。一瞬だったけれど。」
「そうなのですか?」
ポケットに懐中時計を戻して、ホタル様は前を見ます。
「セイは?」
「あら?」
いつの間にか、セイ様の姿がありません。不安に思った矢先、ひょっこりと短髪の頭が見えました。
「汽車、向かいのホームにそろそろ来るって。ホームの隅で待っていよう。」
そう言うと、セイ様は私の荷物を持ってくださって、私に手を差し出しました。
「はぐれないように。」
私はおそるおそるそれを握り返して、ホタル様とも手をつなぎました。まるでひよこの行進のように、連なって歩きます。
不思議な心地がいたしました。
私達は、昨晩出会ったばかりなのに、昔からのお友達のように仲良く歩けているのです。
二人は、必ず私を間に置いていました。
「どうして私は真ん中なのでしょう。」
首をかしげてセイ様を見ると、苦笑いを浮かべます。
「こんなお嬢様を端っこに置いておくだなんておそれ多いよ。」
ホタル様もうなずかれていましたが、私はバカにされた気分になりました。
「私、お嬢様などではありませんわ。そりゃあ、お家は立派ですけれども。」
「ほうら、やっぱりお嬢様だ。」
けらけらとセイ様が笑います。なにがそんなにおかしいのでしょう。
「男にとって、女の子は守ってあげたいと思うものなんだよ。」
ホタル様がそんなことを言われて、私はなんだか恥ずかしくなり、そんな私よりも赤くなったセイ様が、ホタル様を小突きます。
それはうまい芸のように見えて、ホタル様が得意そうに私たちをひっぱりました。
三人の笑い声が響きます。
そのとき、ふと、ホタル様が言いました。
「そういえば、小夜子嬢はどこまで行くの?」
私は、ホタル様の涼しげな顔を見上げて、きゅっとスカートをにぎってしまいました。
「私……。」
ホタル様は、困った顔をしません。むしろ花が静かに咲くように、ゆっくりと笑います。
「行くあてがないの?」
「はい。」
小さな声で答えれば、セイ様が「なんだあ」と、呆れたように、大げさに頭の後ろで手を組みながら言いました。
「じゃあ、俺と同じだな。」
その言葉は、まるで行き先の分からない切符のようでした。
私はどうしようもなくわくわくして、ホタル様を見上げます。
「一緒に行こう、小夜子嬢。」
瞳をかがやかせたホタル様は、いたずらが成功して、ひっそりよろこんでいるかのようです。
ほどなくやってきた汽車に、私たちはいの一番で乗りこみます。
「……びっくりした。」
どこか満足そうな顔は、先ほどの不安に満ちた顔とは違って見えます。ホタル様はすぐに、ポケットから懐中時計を取り出しました。
どうしてでしょう。時間なら、今さっき確認したばかりなのに。
「どうされたのですか。」
見上げると、ホタル様はこちらを見下ろして言いました。
「いいものを見たんだ。一瞬だったけれど。」
「そうなのですか?」
ポケットに懐中時計を戻して、ホタル様は前を見ます。
「セイは?」
「あら?」
いつの間にか、セイ様の姿がありません。不安に思った矢先、ひょっこりと短髪の頭が見えました。
「汽車、向かいのホームにそろそろ来るって。ホームの隅で待っていよう。」
そう言うと、セイ様は私の荷物を持ってくださって、私に手を差し出しました。
「はぐれないように。」
私はおそるおそるそれを握り返して、ホタル様とも手をつなぎました。まるでひよこの行進のように、連なって歩きます。
不思議な心地がいたしました。
私達は、昨晩出会ったばかりなのに、昔からのお友達のように仲良く歩けているのです。
二人は、必ず私を間に置いていました。
「どうして私は真ん中なのでしょう。」
首をかしげてセイ様を見ると、苦笑いを浮かべます。
「こんなお嬢様を端っこに置いておくだなんておそれ多いよ。」
ホタル様もうなずかれていましたが、私はバカにされた気分になりました。
「私、お嬢様などではありませんわ。そりゃあ、お家は立派ですけれども。」
「ほうら、やっぱりお嬢様だ。」
けらけらとセイ様が笑います。なにがそんなにおかしいのでしょう。
「男にとって、女の子は守ってあげたいと思うものなんだよ。」
ホタル様がそんなことを言われて、私はなんだか恥ずかしくなり、そんな私よりも赤くなったセイ様が、ホタル様を小突きます。
それはうまい芸のように見えて、ホタル様が得意そうに私たちをひっぱりました。
三人の笑い声が響きます。
そのとき、ふと、ホタル様が言いました。
「そういえば、小夜子嬢はどこまで行くの?」
私は、ホタル様の涼しげな顔を見上げて、きゅっとスカートをにぎってしまいました。
「私……。」
ホタル様は、困った顔をしません。むしろ花が静かに咲くように、ゆっくりと笑います。
「行くあてがないの?」
「はい。」
小さな声で答えれば、セイ様が「なんだあ」と、呆れたように、大げさに頭の後ろで手を組みながら言いました。
「じゃあ、俺と同じだな。」
その言葉は、まるで行き先の分からない切符のようでした。
私はどうしようもなくわくわくして、ホタル様を見上げます。
「一緒に行こう、小夜子嬢。」
瞳をかがやかせたホタル様は、いたずらが成功して、ひっそりよろこんでいるかのようです。
ほどなくやってきた汽車に、私たちはいの一番で乗りこみます。
後書き
作者:水沢妃 |
投稿日:2016/08/15 08:04 更新日:2016/08/15 08:04 『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。 |
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