作品ID:254
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てがみ屋と水を運ぶ村
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 休載中
前書き・紹介
第二話(再編集版)
前の話 | 目次 | 次の話 |
そうこうしているうちに二人が手紙を渡す相手の村が見えてきた。砂漠の真ん中にぽつりとある小さな集落はなんだかとても寂しげである。しかし集落といっても、ほとんど崩れた家などの瓦礫の塊であった。まともな家はどこにあるのだろうか。
この村に何があったのか、そんなことは二人とも疑問に思わない。
これが、普通、だからだ。
一昔前までは瓦礫だらけになっている村は異常だった。政府の検査官がやってきて大騒ぎし、村人たちを悼むためにたくさんの花束が村の周りに手向けられていた。
しかし今は、検査官も来ないし、花も手向けられない。
政府は崩壊した。そして花もこの世界にはほとんどない。
崩壊しっぱなしの政府のせいでどんどん減ってくる資源を求めて、村と村同士が紛争を起こしたりして一時期大変だったのだが、今は落ち着いている。
もう、近くに村がなくなった。たいてい、村を囲んでいるのは砂漠だ。
村の周りを一周してから、二人は辛うじて壊れた家屋につぶされていない道を見つけた。
「ここに、スナたちにいてもらおう」
鐙《あぶみ》に足を掛けて地面に降り立つと、近くにあった瓦礫に手綱をくくりつける。そして彼女は鳥の背中の明るいオレンジ色の羽を、愛おしそうになでた。
「お前な、そのファミリアバードに名前付けんの、いい加減やめろよ」
鳥たちはファミリアバードというらしい。言葉が分かるのか、真行の言葉にむっとしたように後ろ足で彼に砂をかけた。
さらさらとした砂が宙を雪のように舞い、真行はそれを手で払おうとするも、吸ってしまったらしくゲホゲホと咳き込んだ。砂が目に入ってしまわないように目をつぶったまま、
「わ、分かったっ、分かったから」
両手でファミリアバードを制してなだめた。それを見てソラは忍び笑いを漏らす。
「ほうらぴったりでしょ。サナに砂をかけるから『スナ』って命名したんだ」
「それでか……」
真行は体にかかった砂を振り払いながらファミリアバードを降り、もう一度咳き込んだ。
「て! 今の納得するとこじゃねえだろっ! ……うえっ」
口を開いたとたん、肺に砂が流れ込んできて彼の咳はよりいっそうひどくなった。
砂を手で仰いでソラの方へ流そうと努力してみるも、失敗に終わった。
「どう? 砂の味は」
「まずいに決まってんだろ、馬鹿かお前」
ソラは腕組みして、真行を見下ろす。
「おいしいって言いなさい」
「言うかよ」
「言いなさい」
「まずかったっ」
真行は一人ですたすたと歩いていく。ソラはあわててその後姿を追いかけた。
「ちょ、待ってよっ。ごめん、謝るから」
真行の肩に手をかけた瞬間だった。手の下のものがふいに消滅した。
「へ?」
何が起きたか一瞬分からなかった。体は重力に従って下へ。手を地面に着き損ねたソラはあごを強打。時すでに遅しであるにもかかわらず、今頃出てきた手が地面を叩いた。そのとたんソラの体は反対側である後ろへ倒れるというか吹っ飛んだ。こういうときの馬鹿力はいらないと思う。目を開けると視界に大量の砂が舞っていた。腰を打ったみたいだ。腰の辺りがじんじんと痛い。
「何すんのよっ」
「何も?」
ソラは服に付いた砂を、座り込んだままはたきながら真行をにらみつける。彼は「勝った」とばかりに笑っていた。
「女の子に対してそんなことするなんて最低っ。男として恥ずかしくないの?」
「別に」とでも言うように、真行は少し肩を上げてみせる。その仕草が妙に癪に障る。
「俺はお前の手から体を少し抜いただけだぞ。それだけでぶっ倒れるお前が悪い。体重乗せすぎだろ?」
ソラは何もいえなくなってしまう。
どうやら、ソラが手をかけようとした瞬間に真行は空の手の下から体を抜き、それに反応し切れず、前に重心を乗せていたソラは前に転倒してしまった……というわけらしい。
「まあお前だからしたんであって、ほかの奴にはこんなことしねえけど」
「あたしにもしないでよっ」
真行は、飛んできた小さな拳をぱしんぱしんと軽くはたき、排除すると、ソラのファミリアバードを恨めしげに見て、嘆息交じりにつぶやく。
「んでも……よくファミリアバードが人間になついてくれたもんだ」
食料や水がなくなって、住むところが砂漠に埋めつくされて動物たちは生活が苦しくなった。それも、人間たちのせいで。
そして、追い詰められた彼らがとった行動は『進化』。
彼らはそうすることにより、凶暴なモンスターと化し、人間たちから食料を奪い取るようになった。村や町が襲われ、旅人たちが襲われることも少なくない。
生き残るために進化した動物たちは強く、丈夫で、そして……
飢えている。
まず彼らに出会えば、何人でかかっていっても勝ち目はない。
手紙を配るためにあちこち旅する二人が彼らに出会わないのは神様がもたらしてくれた、数少ない幸運の中のひとつなのだろう。
「そう思ってるならファミリアバードにちょっとは感謝したら? 自分たちの住むところを奪った人間を恨まなかったんだからさ」
「感謝なんてしねえよ。偶然だろ?」
「そうかもしれないけど……」
ソラはファミリアバードの毛をなでる。まぶたを優しげに少しだけ伏せた。
そして急に振り返ると、大きく息を吸って、
「行こうっ」
そう言って真行の手を引っ張って走り出す。真行がわざとらしく大きなため息をついたので、ソラは仕方なく止まった。
「ほら早くっ、時間がもったいないじゃない」
彼女は腕を二、三度引っ張ってせかしたが、真行は一向に急ぐ気配を見せない。
ソラは急ぐことを不承不承あきらめ、人通りのまったくない砂だらけの道を二人並んでゆっくり歩いた。
「ここは、一段とひでえな」
生き物の気配が感じられない、かわいた集落だった。やがてところどころに、黄ばんだ布で作られたテントが見えはじめた。
この村に何があったのか、そんなことは二人とも疑問に思わない。
これが、普通、だからだ。
一昔前までは瓦礫だらけになっている村は異常だった。政府の検査官がやってきて大騒ぎし、村人たちを悼むためにたくさんの花束が村の周りに手向けられていた。
しかし今は、検査官も来ないし、花も手向けられない。
政府は崩壊した。そして花もこの世界にはほとんどない。
崩壊しっぱなしの政府のせいでどんどん減ってくる資源を求めて、村と村同士が紛争を起こしたりして一時期大変だったのだが、今は落ち着いている。
もう、近くに村がなくなった。たいてい、村を囲んでいるのは砂漠だ。
村の周りを一周してから、二人は辛うじて壊れた家屋につぶされていない道を見つけた。
「ここに、スナたちにいてもらおう」
鐙《あぶみ》に足を掛けて地面に降り立つと、近くにあった瓦礫に手綱をくくりつける。そして彼女は鳥の背中の明るいオレンジ色の羽を、愛おしそうになでた。
「お前な、そのファミリアバードに名前付けんの、いい加減やめろよ」
鳥たちはファミリアバードというらしい。言葉が分かるのか、真行の言葉にむっとしたように後ろ足で彼に砂をかけた。
さらさらとした砂が宙を雪のように舞い、真行はそれを手で払おうとするも、吸ってしまったらしくゲホゲホと咳き込んだ。砂が目に入ってしまわないように目をつぶったまま、
「わ、分かったっ、分かったから」
両手でファミリアバードを制してなだめた。それを見てソラは忍び笑いを漏らす。
「ほうらぴったりでしょ。サナに砂をかけるから『スナ』って命名したんだ」
「それでか……」
真行は体にかかった砂を振り払いながらファミリアバードを降り、もう一度咳き込んだ。
「て! 今の納得するとこじゃねえだろっ! ……うえっ」
口を開いたとたん、肺に砂が流れ込んできて彼の咳はよりいっそうひどくなった。
砂を手で仰いでソラの方へ流そうと努力してみるも、失敗に終わった。
「どう? 砂の味は」
「まずいに決まってんだろ、馬鹿かお前」
ソラは腕組みして、真行を見下ろす。
「おいしいって言いなさい」
「言うかよ」
「言いなさい」
「まずかったっ」
真行は一人ですたすたと歩いていく。ソラはあわててその後姿を追いかけた。
「ちょ、待ってよっ。ごめん、謝るから」
真行の肩に手をかけた瞬間だった。手の下のものがふいに消滅した。
「へ?」
何が起きたか一瞬分からなかった。体は重力に従って下へ。手を地面に着き損ねたソラはあごを強打。時すでに遅しであるにもかかわらず、今頃出てきた手が地面を叩いた。そのとたんソラの体は反対側である後ろへ倒れるというか吹っ飛んだ。こういうときの馬鹿力はいらないと思う。目を開けると視界に大量の砂が舞っていた。腰を打ったみたいだ。腰の辺りがじんじんと痛い。
「何すんのよっ」
「何も?」
ソラは服に付いた砂を、座り込んだままはたきながら真行をにらみつける。彼は「勝った」とばかりに笑っていた。
「女の子に対してそんなことするなんて最低っ。男として恥ずかしくないの?」
「別に」とでも言うように、真行は少し肩を上げてみせる。その仕草が妙に癪に障る。
「俺はお前の手から体を少し抜いただけだぞ。それだけでぶっ倒れるお前が悪い。体重乗せすぎだろ?」
ソラは何もいえなくなってしまう。
どうやら、ソラが手をかけようとした瞬間に真行は空の手の下から体を抜き、それに反応し切れず、前に重心を乗せていたソラは前に転倒してしまった……というわけらしい。
「まあお前だからしたんであって、ほかの奴にはこんなことしねえけど」
「あたしにもしないでよっ」
真行は、飛んできた小さな拳をぱしんぱしんと軽くはたき、排除すると、ソラのファミリアバードを恨めしげに見て、嘆息交じりにつぶやく。
「んでも……よくファミリアバードが人間になついてくれたもんだ」
食料や水がなくなって、住むところが砂漠に埋めつくされて動物たちは生活が苦しくなった。それも、人間たちのせいで。
そして、追い詰められた彼らがとった行動は『進化』。
彼らはそうすることにより、凶暴なモンスターと化し、人間たちから食料を奪い取るようになった。村や町が襲われ、旅人たちが襲われることも少なくない。
生き残るために進化した動物たちは強く、丈夫で、そして……
飢えている。
まず彼らに出会えば、何人でかかっていっても勝ち目はない。
手紙を配るためにあちこち旅する二人が彼らに出会わないのは神様がもたらしてくれた、数少ない幸運の中のひとつなのだろう。
「そう思ってるならファミリアバードにちょっとは感謝したら? 自分たちの住むところを奪った人間を恨まなかったんだからさ」
「感謝なんてしねえよ。偶然だろ?」
「そうかもしれないけど……」
ソラはファミリアバードの毛をなでる。まぶたを優しげに少しだけ伏せた。
そして急に振り返ると、大きく息を吸って、
「行こうっ」
そう言って真行の手を引っ張って走り出す。真行がわざとらしく大きなため息をついたので、ソラは仕方なく止まった。
「ほら早くっ、時間がもったいないじゃない」
彼女は腕を二、三度引っ張ってせかしたが、真行は一向に急ぐ気配を見せない。
ソラは急ぐことを不承不承あきらめ、人通りのまったくない砂だらけの道を二人並んでゆっくり歩いた。
「ここは、一段とひでえな」
生き物の気配が感じられない、かわいた集落だった。やがてところどころに、黄ばんだ布で作られたテントが見えはじめた。
後書き
作者:赤坂南 |
投稿日:2010/07/28 22:14 更新日:2010/11/07 21:46 『てがみ屋と水を運ぶ村』の著作権は、すべて作者 赤坂南様に属します。 |
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