作品ID:622
あなたの読了ステータス
(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「White×Black=Glay?」を読み始めました。
読了ステータス(人数)
読了(11)・読中(0)・読止(0)・一般PV数(142)
読了した住民(一般ユーザは含まれません)
White×Black=Glay?
小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中
前書き・紹介
White×Black=Glay? ?8.3色目?
前の話 | 目次 | 次の話 |
意識が反転し、自分と同じ人物が暗闇に浮かび上がる。
(……? 誰だ……?)
最初に浮かんだ疑問は、それだった。
『貴女は、私。だけれど、私は、貴女じゃないの』
「何を言っている……?」
自分が、あの鏡のように同じ自分なら、同じ自分も、自分だろう?
『そうね。今は分からなくてもいい。だから、今は、片鱗を見せるだけにとどめてあげる――』
その言葉を最後に、同じ自分の背後から、強烈な光がなだれ込んできた。
視界を覆う、その光に目を眩ませながらも、そこで自分の意識は、元に戻るはずだった。
「ふぅ。やっぱり、意識支配は大変ねぇ。結構時間かかっちゃったわ」
数秒、動きが停止した鋼夜春袈が、再び口を開いたときには、そんな口調になっていた。
「……誰?」
その口調に疑問を抱いたのが、夏原美佳だ。
片手剣とシールドを構え、首を傾げることこそしないものの、鋼夜春袈に問う。
「あらあら。この子は、NEVと戦ってたの?? 嫌ね、今、表に出なきゃよかったかしら?」
鋼夜春袈は、問いに答えない。ただ、首をかしげただけだ。
「誰、と聞いているの」
「あら。貴女……。そう。NEVの獅子召喚術が確実に行われようとしているのね。それは、大変だわ。阻止しなくっちゃ」
またも問いに答えない。いい加減、苛立ってきた夏原美佳は、その疑問を口にした。
「貴女も、獅子召喚術を知っている?」
「ふふ。知らないかしら? 私、これでも結構な有名人よ」
口に手をあてる鋼夜春袈。
「貴女とは、初めましてね。私、元NEV所属隊員、朱坂ハルカと言うの」
「ハルカ……? 鋼夜春袈と同じ名前……!?」
「えぇ。でも、私たちは無関係な間柄よ? ただ……」
クスリと朱坂(あかさか)ハルカは笑い、
「私の提案した、精神確立案がすんなりと通っちゃって。それを、当時、まだ乳飲み子だった、この鋼夜春袈っていう女の子で実験したの。そしたら、この子、反抗するする。案自体は、楽々だったんだけど、実行までが大変でねぇ……。ま、結局は、この通り、受け入れてくれたんだけど」
笑いながら、ハルカは説明する。
「私は、25歳の時に、あのガス爆発事故により、死んだわ。けれど、意識体は、こうして存在するの。鋼夜春袈という少女の中にね」
「朱坂ハルカの案、精神確立案は、当時、素晴らしいと絶賛されたとか」
「ええ。だけど、肝心の提案者が事故による死を遂げた。これにより、私は、そしてNEVはこれ以上、精神確立案を進化させることはできなくなってしまったの。……でもチャンスが訪れたわ」
朱坂ハルカは、天才だ。
人が到達できない領域にまで、到達した。
それが、精神確立案だ。
「この、鋼夜春袈ちゃん。NEVに入隊してくれたのよ。おかげで、私は、鋼夜春袈ちゃんを通じて、現在のNEVの状況を知り、そして、私の中で新たな、精神確立案ができたの」
両手を広げ、空を仰ぎ見る、ハルカの表情は満面の笑み。
「それが、獅子召喚術。獅子という天使が生み出した最初の召喚獣を召喚し、その力を得る事で、現在の固まったままの世界を強引に動かす……。私の精神確立案からして、その基本が、他者の精神に入り込むことだったから、この精神確立案を獅子召喚術として、使用、生み出すことは簡単だったわ」
精神確立案の基本、他者の精神に入り込むことを獅子召喚術の基本、獅子を召喚するということに当てはめれば、後は簡単だった。
「だって、そうでしょう? 他のシステムなんて関係ないもの。ただ、単純に獅子を召喚する際、その獅子の精神に入り込めば、召喚した際の暴走も防げるかもしれないもの!!」
朱坂ハルカは天才だった。
だが、その才能ゆえ、親しい友もおらず、常に孤独。
そんな孤独が、彼女をブチ壊した。
「私の精神確立案と獅子召喚術は、最高のコンビよ。だからこそ、NEVには獅子召喚術を成功させて、私の力も認めさせてもらいたいのだけれど……」
壊れた彼女は、まず、言葉を構築するという能力を失った。
「でも、今の獅子召喚術は危険ね。消えてちょうだい?」
次に、戦闘という残酷な“遊び”を覚えた。
「……そう簡単に消えるほど、私たちは、弱くありませんよ」
「あはは。そうね。それに、貴女には鋼夜春袈ちゃんを殺す、という目的があるものね。別に私に遠慮することなどないんだわ。だって。この体は私のものではなく、鋼夜春袈ちゃんのものなんですもの。私を殺すわけじゃないわ」
そうして、朱坂ハルカは、自分の才能と戦いながら、恨みながら死んだ。
「でもね。NEVの夏原美佳さん?」
今の意識体となった朱坂ハルカの意思は、分からない。もしかしたら、その行動こそが朱坂ハルカの意思なのかもしれない。今の彼女は、意識体なのだから。
「今、話しているのは鋼夜春袈ちゃんじゃなくって、朱坂ハルカなの。鋼夜春袈ちゃんを殺すのはいいわ。それが貴女の意思というならば、それを阻止する権利など私にはないもの」
壊れた彼女は、それでも、目的を見失うことなどなかった。
いつも、1つの結論に向かって歩いていった。
「けれど、鋼夜春袈ちゃんを殺したところで……貴女は、それで満足するのかしら? 私には、疑問に思うわ。いいえ、思ってしまうのよ。無意識にもね」
「満足するかしないかじゃない。私は、任務として鋼夜春袈を殺すの」
「そう。ならいいわ。貴女が迷わないってことを知ったから」
笑みを浮かべながら頷くハルカは、どこか余裕を感じているようだ。
「でも」
閉じていた瞼。
開く瞼。
そこにあったのは。
「それで、貴女は、人間として生きられるのかしら……?」
微笑でもなく、冷笑でもなく、ただただ、見下す光。
「人間というのはね、迷う生き物よ。迷わないだなんて、ありえないわ。だけど、貴女は迷わないという意思を持っている。その意思を持ち続けたまま、貴女は人間としていられる? 今此処で、鋼夜春袈ちゃんを任務として殺すと断言したみたいに、言える?」
朱坂ハルカの専門は、精神学という、いわゆる、精神科だ。
時に、才能の一部分にすぎない、その他者の微妙な反応の変化を判断する能力を使い、人を貶めたりすることもあった。
だが、今、ハルカがやっているのは、貶める事じゃない。夏原美佳を死なせることじゃない。
「ねぇ、貴女の答えを、貴女のその口で聞かせて?」
夏原美佳を助ける事。それが、ハルカが行う精神医療だ。
言葉1つで相手を死に急がせる事も、逆に元気付けることもできるハルカは、今、夏原美佳を助けようとしている。
「それにね、私、この子気に入っちゃったのよ。死なせるにはもったいないわ。活用できるものは、最大限に活かしたいわ」
任務だ、と自分を抑制し、自分の感情を入れずに。邪魔だと判断された、教え子を殺す、と言った夏原美佳を助けようとしている。
「桐生刹那のウォークマンには、獅子召喚術に反抗できる唯一の手がかりが残されているの」
鋼夜春袈は、まだ死なせることはできない。
「鋼夜春袈ちゃんには、それを見つけてもらわなきゃ。今の私は、獅子召喚術にも反対よ。というか、固まったままの世界を強引に動かすのは、暴力や、権力、それから獅子のような荒れ狂う化け物じゃないでしょう?」
鋼夜春袈には、桐生刹那のウォークマンを見つけだしてもらう。
「4年前、桐生刹那ちゃんが、ウォークマンをなくしてさえ、いなければねぇ……。鋼夜春袈ちゃんも、わざわざ魔法使いだなんて化け物の住んでいる街にこなくてもよかったのに……」
ウォークマンには、確かに秘密がある。だからこそ、ウォークマンなのだ。
「姿形を変えても、ウォークマンは、大切な物なの」
……ねぇ、貴方に、聞こえているのかしら。
私に似合わない、人助けをしているわ。今、現在形で。
ねぇ、貴方、言ったわよね。私は、冷酷だと。
ねぇ、貴方、見てくれているの?
今の、私を。
「夏原美佳ちゃん」
朱坂ハルカが微笑む。
「私、この子を応援したいの。まだ乳飲み子の段階で、私の精神の1欠片を埋め込んでしまったから。私は、見届けたいの」
片手剣とシールドを下ろす夏原美佳を見て、朱坂ハルカは、目を閉じる。
「そうね。貴女は、もしかしたら、NEVに殺されちゃうかもしれないわね。任務放棄か、任務失敗で。でも、貴女は、貴女の意思を示す権利があるわ」
人には人の権利がある。そして、人には人の意思がある――そう言ったのは、自分の初恋の相手。
「言ってやりなさいよ。貴女の意思を。貴女を邪魔することが、私にできないように、NEVにも、貴女の邪魔はできないわ」
悪戯っ子のように微笑み、心で思う。
いや、意識体の自分には、心で思う、という表現はおかしいかもしれない。
……ねぇ、貴方、見てくれている?
私、変わったのよ? 意識体の存在になって、もしかしたら素直になったのかもしれないわ。
貴方、言ってくれたわよね。
私のこの言葉は、これからは人と人を繋ぐために使えって。
私、言われたときはわからなかったわ。
でも、今なら分かるわ。
私、本当の最期まで、この子を見守るわ。
そっちに逝くのは、もう少し先になりそうだけれど……。
待ってくれているのかしらね。貴方は。
「朱坂ハルカさん」
武器を下ろした、夏原美佳は微笑んでいた。
「なぁに?」
「貴女……変わりましたか?」
今、もう、この世には居ない彼に向かって言っていた言葉と同じ言葉が出てくる。
「あら、分かってくれたの? でも、私としては複雑だわ」
自分が変わったことは、彼に1番に気づいてほしかったから。
「私、貴女に対して、勘違いしていました」
「勘違い?」
「はい。私、朱坂ハルカは、怖い人だと思っていたんです」
「あら。失礼ね」
「すいません。でも、今は違います」
夏原美佳の後ろに、ヘリコプターが近づいてきた。
「貴女は、優しい人だったんですね」
ヘリコプターに乗り込む際、夏原美佳は、自分を振り返って、そう、言った。
確かに、聞こえた。
夏原美佳と、戦闘員を乗せたヘリコプターが飛び去るのを見て、呟く。
「……優しいですって」
貴方も聞いたら、びっくりして、からかうでしょうね。
でも、すごく嬉しいの。
私、こんな感情、初めてよ。
「……ダー!! リーダー!!」
その声に驚き、起き上がる。……ん? 起き上がる?
「え、は、羽夜華……?」
「大丈夫ですか、鋼夜さん」
「舞葉まで……どうしたの、皆」
桃風羽夜華と、草花舞葉、それから黒刃といった、チームメンバーが居た。
「私の予知夢で、今日、この場でNEVの獅子召喚術の第1段階が始まっているのを見てしまったものですから……」
舞葉が説明する。
「それで、来てみたら、すでにNEVは撤退後!! でも、リーダーが倒れているのを発見!! リーダー……こんな道端で倒れないでくださいよ。私、蹴っちゃうところでしたよ」
羽夜華がぷくぅと頬を膨らませる。
「ご、ごめん……」
なぜか、謝ってしまった。
「別にいいですよ。こうしてリーダーを発見できたことだけでオーケーです」
「あ、ねぇ」
「はい? どうしました、リーダー」
「NEVの、夏原美佳さん、帰ったの?」
「え、はい、多分……。私たちが到着したころには、リーダーだけでしたから」
「どうかしましたか、鋼夜さん」
「あ、ううん。気づいたら居なくなってた状態だから、びっくりしてさ」
「……気づいたら居なくなっていた? 夏原美佳と会ったんじゃないんですか?」
「いや、会ったんだけど……」
「……とりあえず、鋼夜さん、保護。作戦、立てましょう」
舞葉の言葉を聞きながら、思考する。
(夏原美佳は、確かに居た。攻撃だって加えた。……いつの間に居なくなった? ……そういえば、途中で意識が……)
考えても、答えは出ない。
(……? 誰だ……?)
最初に浮かんだ疑問は、それだった。
『貴女は、私。だけれど、私は、貴女じゃないの』
「何を言っている……?」
自分が、あの鏡のように同じ自分なら、同じ自分も、自分だろう?
『そうね。今は分からなくてもいい。だから、今は、片鱗を見せるだけにとどめてあげる――』
その言葉を最後に、同じ自分の背後から、強烈な光がなだれ込んできた。
視界を覆う、その光に目を眩ませながらも、そこで自分の意識は、元に戻るはずだった。
「ふぅ。やっぱり、意識支配は大変ねぇ。結構時間かかっちゃったわ」
数秒、動きが停止した鋼夜春袈が、再び口を開いたときには、そんな口調になっていた。
「……誰?」
その口調に疑問を抱いたのが、夏原美佳だ。
片手剣とシールドを構え、首を傾げることこそしないものの、鋼夜春袈に問う。
「あらあら。この子は、NEVと戦ってたの?? 嫌ね、今、表に出なきゃよかったかしら?」
鋼夜春袈は、問いに答えない。ただ、首をかしげただけだ。
「誰、と聞いているの」
「あら。貴女……。そう。NEVの獅子召喚術が確実に行われようとしているのね。それは、大変だわ。阻止しなくっちゃ」
またも問いに答えない。いい加減、苛立ってきた夏原美佳は、その疑問を口にした。
「貴女も、獅子召喚術を知っている?」
「ふふ。知らないかしら? 私、これでも結構な有名人よ」
口に手をあてる鋼夜春袈。
「貴女とは、初めましてね。私、元NEV所属隊員、朱坂ハルカと言うの」
「ハルカ……? 鋼夜春袈と同じ名前……!?」
「えぇ。でも、私たちは無関係な間柄よ? ただ……」
クスリと朱坂(あかさか)ハルカは笑い、
「私の提案した、精神確立案がすんなりと通っちゃって。それを、当時、まだ乳飲み子だった、この鋼夜春袈っていう女の子で実験したの。そしたら、この子、反抗するする。案自体は、楽々だったんだけど、実行までが大変でねぇ……。ま、結局は、この通り、受け入れてくれたんだけど」
笑いながら、ハルカは説明する。
「私は、25歳の時に、あのガス爆発事故により、死んだわ。けれど、意識体は、こうして存在するの。鋼夜春袈という少女の中にね」
「朱坂ハルカの案、精神確立案は、当時、素晴らしいと絶賛されたとか」
「ええ。だけど、肝心の提案者が事故による死を遂げた。これにより、私は、そしてNEVはこれ以上、精神確立案を進化させることはできなくなってしまったの。……でもチャンスが訪れたわ」
朱坂ハルカは、天才だ。
人が到達できない領域にまで、到達した。
それが、精神確立案だ。
「この、鋼夜春袈ちゃん。NEVに入隊してくれたのよ。おかげで、私は、鋼夜春袈ちゃんを通じて、現在のNEVの状況を知り、そして、私の中で新たな、精神確立案ができたの」
両手を広げ、空を仰ぎ見る、ハルカの表情は満面の笑み。
「それが、獅子召喚術。獅子という天使が生み出した最初の召喚獣を召喚し、その力を得る事で、現在の固まったままの世界を強引に動かす……。私の精神確立案からして、その基本が、他者の精神に入り込むことだったから、この精神確立案を獅子召喚術として、使用、生み出すことは簡単だったわ」
精神確立案の基本、他者の精神に入り込むことを獅子召喚術の基本、獅子を召喚するということに当てはめれば、後は簡単だった。
「だって、そうでしょう? 他のシステムなんて関係ないもの。ただ、単純に獅子を召喚する際、その獅子の精神に入り込めば、召喚した際の暴走も防げるかもしれないもの!!」
朱坂ハルカは天才だった。
だが、その才能ゆえ、親しい友もおらず、常に孤独。
そんな孤独が、彼女をブチ壊した。
「私の精神確立案と獅子召喚術は、最高のコンビよ。だからこそ、NEVには獅子召喚術を成功させて、私の力も認めさせてもらいたいのだけれど……」
壊れた彼女は、まず、言葉を構築するという能力を失った。
「でも、今の獅子召喚術は危険ね。消えてちょうだい?」
次に、戦闘という残酷な“遊び”を覚えた。
「……そう簡単に消えるほど、私たちは、弱くありませんよ」
「あはは。そうね。それに、貴女には鋼夜春袈ちゃんを殺す、という目的があるものね。別に私に遠慮することなどないんだわ。だって。この体は私のものではなく、鋼夜春袈ちゃんのものなんですもの。私を殺すわけじゃないわ」
そうして、朱坂ハルカは、自分の才能と戦いながら、恨みながら死んだ。
「でもね。NEVの夏原美佳さん?」
今の意識体となった朱坂ハルカの意思は、分からない。もしかしたら、その行動こそが朱坂ハルカの意思なのかもしれない。今の彼女は、意識体なのだから。
「今、話しているのは鋼夜春袈ちゃんじゃなくって、朱坂ハルカなの。鋼夜春袈ちゃんを殺すのはいいわ。それが貴女の意思というならば、それを阻止する権利など私にはないもの」
壊れた彼女は、それでも、目的を見失うことなどなかった。
いつも、1つの結論に向かって歩いていった。
「けれど、鋼夜春袈ちゃんを殺したところで……貴女は、それで満足するのかしら? 私には、疑問に思うわ。いいえ、思ってしまうのよ。無意識にもね」
「満足するかしないかじゃない。私は、任務として鋼夜春袈を殺すの」
「そう。ならいいわ。貴女が迷わないってことを知ったから」
笑みを浮かべながら頷くハルカは、どこか余裕を感じているようだ。
「でも」
閉じていた瞼。
開く瞼。
そこにあったのは。
「それで、貴女は、人間として生きられるのかしら……?」
微笑でもなく、冷笑でもなく、ただただ、見下す光。
「人間というのはね、迷う生き物よ。迷わないだなんて、ありえないわ。だけど、貴女は迷わないという意思を持っている。その意思を持ち続けたまま、貴女は人間としていられる? 今此処で、鋼夜春袈ちゃんを任務として殺すと断言したみたいに、言える?」
朱坂ハルカの専門は、精神学という、いわゆる、精神科だ。
時に、才能の一部分にすぎない、その他者の微妙な反応の変化を判断する能力を使い、人を貶めたりすることもあった。
だが、今、ハルカがやっているのは、貶める事じゃない。夏原美佳を死なせることじゃない。
「ねぇ、貴女の答えを、貴女のその口で聞かせて?」
夏原美佳を助ける事。それが、ハルカが行う精神医療だ。
言葉1つで相手を死に急がせる事も、逆に元気付けることもできるハルカは、今、夏原美佳を助けようとしている。
「それにね、私、この子気に入っちゃったのよ。死なせるにはもったいないわ。活用できるものは、最大限に活かしたいわ」
任務だ、と自分を抑制し、自分の感情を入れずに。邪魔だと判断された、教え子を殺す、と言った夏原美佳を助けようとしている。
「桐生刹那のウォークマンには、獅子召喚術に反抗できる唯一の手がかりが残されているの」
鋼夜春袈は、まだ死なせることはできない。
「鋼夜春袈ちゃんには、それを見つけてもらわなきゃ。今の私は、獅子召喚術にも反対よ。というか、固まったままの世界を強引に動かすのは、暴力や、権力、それから獅子のような荒れ狂う化け物じゃないでしょう?」
鋼夜春袈には、桐生刹那のウォークマンを見つけだしてもらう。
「4年前、桐生刹那ちゃんが、ウォークマンをなくしてさえ、いなければねぇ……。鋼夜春袈ちゃんも、わざわざ魔法使いだなんて化け物の住んでいる街にこなくてもよかったのに……」
ウォークマンには、確かに秘密がある。だからこそ、ウォークマンなのだ。
「姿形を変えても、ウォークマンは、大切な物なの」
……ねぇ、貴方に、聞こえているのかしら。
私に似合わない、人助けをしているわ。今、現在形で。
ねぇ、貴方、言ったわよね。私は、冷酷だと。
ねぇ、貴方、見てくれているの?
今の、私を。
「夏原美佳ちゃん」
朱坂ハルカが微笑む。
「私、この子を応援したいの。まだ乳飲み子の段階で、私の精神の1欠片を埋め込んでしまったから。私は、見届けたいの」
片手剣とシールドを下ろす夏原美佳を見て、朱坂ハルカは、目を閉じる。
「そうね。貴女は、もしかしたら、NEVに殺されちゃうかもしれないわね。任務放棄か、任務失敗で。でも、貴女は、貴女の意思を示す権利があるわ」
人には人の権利がある。そして、人には人の意思がある――そう言ったのは、自分の初恋の相手。
「言ってやりなさいよ。貴女の意思を。貴女を邪魔することが、私にできないように、NEVにも、貴女の邪魔はできないわ」
悪戯っ子のように微笑み、心で思う。
いや、意識体の自分には、心で思う、という表現はおかしいかもしれない。
……ねぇ、貴方、見てくれている?
私、変わったのよ? 意識体の存在になって、もしかしたら素直になったのかもしれないわ。
貴方、言ってくれたわよね。
私のこの言葉は、これからは人と人を繋ぐために使えって。
私、言われたときはわからなかったわ。
でも、今なら分かるわ。
私、本当の最期まで、この子を見守るわ。
そっちに逝くのは、もう少し先になりそうだけれど……。
待ってくれているのかしらね。貴方は。
「朱坂ハルカさん」
武器を下ろした、夏原美佳は微笑んでいた。
「なぁに?」
「貴女……変わりましたか?」
今、もう、この世には居ない彼に向かって言っていた言葉と同じ言葉が出てくる。
「あら、分かってくれたの? でも、私としては複雑だわ」
自分が変わったことは、彼に1番に気づいてほしかったから。
「私、貴女に対して、勘違いしていました」
「勘違い?」
「はい。私、朱坂ハルカは、怖い人だと思っていたんです」
「あら。失礼ね」
「すいません。でも、今は違います」
夏原美佳の後ろに、ヘリコプターが近づいてきた。
「貴女は、優しい人だったんですね」
ヘリコプターに乗り込む際、夏原美佳は、自分を振り返って、そう、言った。
確かに、聞こえた。
夏原美佳と、戦闘員を乗せたヘリコプターが飛び去るのを見て、呟く。
「……優しいですって」
貴方も聞いたら、びっくりして、からかうでしょうね。
でも、すごく嬉しいの。
私、こんな感情、初めてよ。
「……ダー!! リーダー!!」
その声に驚き、起き上がる。……ん? 起き上がる?
「え、は、羽夜華……?」
「大丈夫ですか、鋼夜さん」
「舞葉まで……どうしたの、皆」
桃風羽夜華と、草花舞葉、それから黒刃といった、チームメンバーが居た。
「私の予知夢で、今日、この場でNEVの獅子召喚術の第1段階が始まっているのを見てしまったものですから……」
舞葉が説明する。
「それで、来てみたら、すでにNEVは撤退後!! でも、リーダーが倒れているのを発見!! リーダー……こんな道端で倒れないでくださいよ。私、蹴っちゃうところでしたよ」
羽夜華がぷくぅと頬を膨らませる。
「ご、ごめん……」
なぜか、謝ってしまった。
「別にいいですよ。こうしてリーダーを発見できたことだけでオーケーです」
「あ、ねぇ」
「はい? どうしました、リーダー」
「NEVの、夏原美佳さん、帰ったの?」
「え、はい、多分……。私たちが到着したころには、リーダーだけでしたから」
「どうかしましたか、鋼夜さん」
「あ、ううん。気づいたら居なくなってた状態だから、びっくりしてさ」
「……気づいたら居なくなっていた? 夏原美佳と会ったんじゃないんですか?」
「いや、会ったんだけど……」
「……とりあえず、鋼夜さん、保護。作戦、立てましょう」
舞葉の言葉を聞きながら、思考する。
(夏原美佳は、確かに居た。攻撃だって加えた。……いつの間に居なくなった? ……そういえば、途中で意識が……)
考えても、答えは出ない。
後書き
作者:斎藤七南 |
投稿日:2011/03/03 19:12 更新日:2011/03/03 19:12 『White×Black=Glay?』の著作権は、すべて作者 斎藤七南様に属します。 |
前の話 | 目次 | 次の話 |
読了ボタン